Monster

金髪の少女は走る。
辺りは真っ暗で月しか明かりはない。
鬱蒼とした暗い森を脇目も振らず走り抜けて行く。
息を切らして走る少女の視界に森の奥に佇む大樹を捉える。
自然と笑みが漏れた。
その下に意中の人がいたから。
夜の闇に溶けそうな髪色と鮮やかな翠の目をした全身黒尽くめの青年。
少女は走ってきた勢いのまま青年に飛びつく。
青年は力強く抱き留めた。
恋人同士の2人。
けれど、特殊な関係。
何故なら、青年は人ではないから。
ヴァンパイアと呼ばれ、夜しか生きられぬ異形の者。
だからこそ、夜の闇に紛れて逢瀬を繰り返す。
出会いは偶然。
出会ったのは運命。
今宵も月だけが2人を祝福していた。



少女は青年に会えるだけでよかった。
青年もまた、会いに来てくれるだけでよかった。
しかし、それをよく思わぬ者もいた。
抱き合って2人の前に見知らぬ影が現れる。
そこには少女の兄がいた。
兄は村の人を引き連れてヴァンパイアを退治しに来たのだ。
離れるように説得する兄に少女は頑なに首を振る。
村人達は周りを固め青年の逃げ場を無くすように威嚇していく。
少女は悲痛な声を上げて兄に懇願する。
けれど、兄は少女の言葉を受け入れられないと手に持っている武器を構える。
それが合図の如く村人達も武器を取り出す。
殺気に込められた決意の顕れに青年は少女を後ろから抱き締めると、自らが羽織っている漆黒のマントに隠す。
そして、そのまま地を蹴り大樹に登って行く。
人ではない異形の者ならではの所行。
驚きと恐怖が村人達の足を掬わせる。
ただ1人攫われた少女の兄の瞳だけぎらつく殺気を灯らせたままだった。



少女はただしがみつく。
気付けば見晴らしのいい場所にいた。
遮るモノは何もなく太陽が昇れば地平線まで見える程。
ここは大樹の森を抜けた所にある小高い山々の頂上。
2人は適当な岩場に腰掛けて、一緒に居られる事を喜ぶ。
安堵から少女は青年に体を預けて眠ってしまう。
暖かさに包まれ少女は穏やかに瞳を閉じていた。
どれくらいかは解らない。
暫くして目を開けた時、飛び込んできたのは誰よりも愛しい青年がいて少女はこの上ない幸福感に包まれる。
徐々に覚醒していく意識の中で少女の顔は青くなっていった。
既に辺りは夜の帳はなく白々と空が明け始めていたから。
それは太陽が昇ってくる兆候。
ヴァンパイアの青年は陽の光を浴びると灰になってしまう。
少女は青年から離れようとしたが、それを青年自身が許さない。
そして、今までの事を語り出す。
出会いから何度も愛を語り合った事、丸で別れの言葉に聞こえて少女は聞きたくないと耳を塞ぐ。
青年は少女の両手を持って最後の言葉を繋いだ。
あの時、少女の兄が見せた憎しみ。
あれは大切な者を奪われた瞳。
青年にとって少女が最愛のように兄にとっても少女は最愛。
そしてそれは少女にとっても家族である兄は最愛のはず。
この中で異質なのは間違いなくヴァンパイアである青年の存在。
この先も異形の者と人間との差は埋まらない。
共に生きる事を青年は諦め、自ら死を選んで少女を解放する事にした。
眩しい光が辺りを包む。
青年の体は淡く光りだす。
少女は必死に青年を繋ぎ止めようとするが、そこにあった肉体はドンドンと存在しなくなっていく。
名を呼んで消えないでと懇願する少女の前で、青年の形を成していた実体は光る灰となって美しい夜明けと共に宙へ舞う。
少女の元に残ったのは、青年が着ていた黒一色の服達と最後に微笑んだ顔だけだった。





「このお話って悲しいよな」

カガリは持っている本を見ながら言った。

「カガリってハッピーエンド主義なんだ?」

丁度目の前にいるキラが言葉を返す。
望んだ言葉じゃないせいかカガリは唇を尖らす。

「悪いかよ」
「悪くはないけど…」
「けどなんだよ」
「物語はハッピーエンドより、悲しい終わりの方が印象に残ったりするんだよ」
「でも…」
「世の中ハッピーエンド話ばかりだったら文学が成り立たなくなるって」
「ぶぅー」

やや高尚な展開についていけないカガリは解り易くむくれる。
だから、カガリは話相手を代えた。

「アスランはどう思う?」

真横に座っているアスランに話を振る。
キラも興味が湧いたのかじっと親友を見る。

「この話の終わり方はこれが正解だと思う」
「えーっ!!」
「でしょ。物悲しいのがいいんだよ」

カガリは不満を言いキラは大いに納得する。

「ヴァンパイアの青年が最後に放った言葉がこの物語の全てだ」
「まぁね、有りがちではあるけど、それがこの物語の真理だよね」

2人の言葉にカガリは慌てて本を捲る。
青年の台詞を見るがカガリとしてやはり納得出来る答えではななかった。
これが真理というなら、この先の物語が欲しいと思うから。
“うー”と唸っているカガリを見ながらアスランは今、この瞬間が何という幸せなのかと思考を巡らす。
先程の物語はかつてあった実話。
金髪の少女はカガリ。
少女の兄はキラ。
そして、ヴァンパイアの青年はアスラン自身。
時を重ねるだけ重ねて、今、普通の高校生として3人で同じ学校に通っている。
物語に続きがないのは、今現在、続きの話が進んでいるから。



「俺は消えてしまうけど…俺達はまた巡り会える。そして、また君を愛する。何度でも」




某アイドルグループの曲を
題材にしました
タイトルも頂ました

管理人が書ききれない事は
全て曲にあるので
是非聞いてみて下さい★

2011.9.10










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