Shinn's2011

9月1日。
夏休み明けの登校日。
所謂始業式の日。
それがシン・アスカの誕生日。
朝からバタバタとして家を出る際に、妹マユと両親から軽く祝われる。
この祝い方に特段不満はない。
夕飯時には盛大に祝ってくれるから。
登校途中、親友レイと合流し一緒に学校へ向かう。
いつもの風景。
ただ、違うのは会ってそうそう祝いの言葉をくれたこと。
とはいえ、小学校からの付き合いなので、こんな会話は今年で10年目。
けれど、シンの頭は違う事で一杯だった。
なぜなら、高校に入ってからシンは一目惚れした。
相手は一学年上の先輩。
クラスメートの姉で偶然知り合えた。
彼女の誕生日は入学して1ヶ月後ぐらいに訪れたので、シンは初めて家族以外の異性にプレゼントを渡した。
その時、彼女に自分の誕生日を聞かれ誕生日プレゼントを渡すと言われてシンはずっと心持ちにしていた。
そして、今日が当日。
顔は平静を保っていたが、心臓は激しく脈打っていた。

「おはよう、シン」

声を掛けられてシンの体が小さく飛び跳ねる。
振り返れば彼女がいた。

「おっ、おはようございます。アスハ先輩」

シンが挨拶を返せば、隣にいたレイも軽く挨拶する。
カガリ・アスハ。
中性的な魅力の美少女。

「カガ姉、シンと喋ったら、バカ移る」

同じ金髪を持ちながら、赤紫色の瞳で鋭く睨み冷たい視線を送ってくるのはカガリの妹。
クラスメートのステラ・アスハ。

「バカが移るって、どういう事だよ!」
「そのままの意味、シンバカ、だから移る」
「てめぇ、ふざけんなよ!!」

ステラはシンを嫌っている。
入学当初は普通に接しくれていたが、シンがカガリに誕生日プレゼントを渡した後から、露骨に嫌な態度を取り始めた。
シンはこの時ステラが極度のシスコンだと知った。
それからというもの、ことある毎に邪魔されている。

「あはは、ステラとシンは仲いいな〜」
「どこが、カガ姉、間違ってる」
「冗談じゃないッスよ。仲悪いんですって」
「またまたぁ〜、私は応援してるからな」

シンとしてはステラと仲良くしているつもりはないのに、カガリは2人がいい感じだと勘違いしている。

「あ、そうそう。シン誕生日おめでとう。これ、大したモノじゃないけど」

綺麗にラッピングされたモノをカガリから渡された。
たったそれだけでシンの心は嬉しさで一杯になる。

「ありがとうございます。アスハ先輩、嬉しいッス!」

本当に嬉しくてシンは今まで生きてきた中で最高の笑顔になっていた。
それをカガリの横から見ていたステラがボソッと呟く。

「シン、キモイ…」
「ステラ…素直じゃないな、もう」
「カガ姉、コレ、本音…」
「ほら、ステラもプレゼント渡すんだろ」

カガリに促されて仕方なくステラも鞄からあるモノを取り出しシンに渡す。
それは本。
タイトルは“バカの壁”
明らかな嫌がらせにシンの顔が引きつる。

「いつも、シン赤点、ピッタリ」
「そりゃどうも…」

火花散る睨み合いを繰り広げるシンとステラを、カガリは仲良いだろとレイに話しかける。
レイはそうですねと適当な相槌を打って流していた。



教室でカガリからのプレゼントをニマニマした顔で眺めているシン。
プレゼント品はシンが欲しがっているバイクのミニチュア模型。
自分の趣味を理解してくれていた事にシンの顔はドンドンと崩れていく。

「シン、超キモイ…」
「フン、何って言われようと、今の俺は何も通用しないぜ!」
「見ての通りだ。浮かれているシンはある意味無敵だ」
「ムカつく…シン、死ねばいいのに」

悪態を吐くステラと冷静な分析をしているレイと完全に浮かれきっているシン。
授業が始まる前の1コマであった。



授業を受けていればシンの浮かれていた脳は沈静していく。
今、一番の問題はカガリがステラとの関係を誤解している事。
思い人に勘違いされている事は甚だ苦しい。
何とかいい方法がないのかと思案する。
やはり、突っ掛かってくるステラをどうにかするしかないという考えに至った。

「ステラ…」
「話しかけるな、アホ毛」
「てめぇ…」

蔑んだ目で見てくるステラにカチンとくるが、ここはぐっと堪える。
いつもなら、ここで言い返して不毛な諍いをしていた。

「ステラに用がなくても俺にはある」
「……何」
「ステラがシスコンだって事はよく解っている」
「……」
「俺がアスハ先輩に近付くのが気に入らないんだろうけど…何で気に入らないんだよ!」
「……」
「なぁ、俺、何かしたか?」
「…シンが…」
「俺が?」
「バカだから」
「はぁっ!?」
「やっぱり、バカ、1回で理解出来ない」
「んだとぉっ!!」
「カガ姉に、バカ、相応しくない。ステラ、レイがいいと思う」
「な、何でレイなんだよ!」
「レイ、首席、バカと大違い」

レイは首席で入学した優等生でシンはギリギリで受かった平凡以下の劣等生。
比べられると勝ち目がない相手にシンは青くなる。

「そりゃ…頭悪りぃけど…俺はアスハ先輩の事で本気で…」
「……名前、呼べない、ヘタレバカ」
「ッ!!」

指摘された事にハッとしたシンはそのまま教室を飛び出した。

「意外だな。シンを応援するなんて」

不思議な顔したレイがステラに声を掛ける。

「応援なんかしない」
「?…わざわざ発破をかけたのに?」
「フフッ、シン、ギッタギタにされる」
「?」

ステラは赤紫色の瞳を細めて妖しく笑った。



辿り着いたのは一学年上のクラス。
既に下校時間で帰路につく上級生をすり抜けて、目当ての人物の元へ。
彼女は3人でいた。
真ん中にカガリ。
両横に赤い髪の少女と桃色の髪の少女。

「アスハ先輩!」
「お、シン。どうした」
「あっ…お願いがあるんですけど…」
「まあ、カガリさんにお願い事?どの面下げていらっしゃったのかしら。貴方みたいなアホ面は喋りかける事すら烏滸がましいですわ。ね、フレイさん」
「ホントよね〜。見るに耐えない面晒して生きてる意味があるのかしら〜、ねぇ〜、ラクス」
「フレイさんの言う通りですわね。生きてても意味ないなら死んで欲しいですわ」
「あら駄目よ、ラクス。アホに願望めいた言い方じゃ。アホには分かり易くハッキリ言わないと」
「まあ、なんて?」
「死ねってネ♪」

語尾が可愛くとも凄絶な口撃に耐えられず、シンの魂はどこかへと飛んでしまっていた。
ステラの口撃など、なんと生温かった事だろう。
思春期の少年の心は、2人の少女によってズタボロにされた。
放心状態で白眼を向いているシンを我に返らせたのは他ならぬカガリだった。

「シン、大丈夫か?」
「……はい」
「ゴメンな。ラクスとフレイは私に近付く男に容赦ないんだ」
「そ…そッスか…」

意識は取り戻したものの、未だ心はボロボロである。
応対するのがやっとだ。

「それで、願い事ってなんだ?」

まさか、その話をカガリの方から振ってくれると思わなかったので、シンの心は急激に回復する。

「あっ、あの//」

言おうと瞬間、カガリの背後から物凄い殺気が飛ばされてくる。
見ればラクスとフレイの背後に真っ黒なオーラで死ねと書かれておりシンは全身をか細く震わして怯む。
言いかけて半開きの口のまま固まってしまう。
助けを乞おうとカガリに視線を合わすと、笑顔で話の続きを促される。
前方天使に後方悪魔2人。
極端な光景にシンは眩暈がした。
で、結局…

「今日から…アスハ先輩の事。名前で呼ばさせて下さい!」

愛すべき天使をとった。

「何だ、そんな事か。別に構わないぞ」

カガリの承諾にシンの心は天に登る程、幸せに溢れる。
初めて名を呼ぼうとした時、容赦なく邪魔される。
悪魔達によって。

「カガリさんが許したので名を呼ぶ事と存在する事を許可致しますわ」
「よかったわね〜、アンタ、生きてて良いって〜」

カガリが許さなかったら、名を呼ぶ所か生きてる事すら認められない、つまり、安易に死ねって事かと心で叫びながらも目の前の2人に怯えるシン。
悪魔達はシンの両耳に1人づつ近付く。

「調子づくんじゃありませんことよ」
「万が一カガリに手を出したら…」

2人の言葉にシンは大きく息を飲む。



「あなたの事、殺しますわよ」
「アンタの事、殺しちゃうから」



綺麗にハモって言われたシンは恐怖に震え上がっていた。
動けないシンにカガリは笑顔で声を掛ける。

「じゃあ、帰るな、シン!」
「では御機嫌よう」
「それじゃあね」

カガリはラクスとフレイを伴って軽やかに帰っていった。
残されたシンは大きく項垂れる。
シスコンの敵がいたと思えば、まさか、親友の悪魔がいた。
それも2人。
これ以上先に進む事は地獄絵図しか思い描けない。
けれど、その先にいる天使を諦められない。
だって、それが恋だから。


Happy birthday Shinn!!



誕生日おめでとう、シン!

殆ど祝ってませんね
シンが哀れ過ぎるかも(笑)
管理人の中で女子は最強ですから

2011.9.1










人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -