続・蕾A

スクリーンホールが暗転し、色んなCMが流れ出す。
それを見終わればいよいよ本編が始まる。
内容は帽子の少年がVマークの生き物と出会い交流を深めていく。
物語はどんどん進んで、先程貰っていた白い竜や黒い竜が出て来た。
映画を見ながら真横のカガリを伺えば小学生のカガリと変わらぬまま純粋な目でスクリーンを見ていた。
笑って驚いて感動して涙して、カガリはいつでも表情豊かだ。
姿形がどれほど成長しても中身は出会った頃から殆ど変わっていない。
純粋培養の世界で大切に扱われてきた小さな蕾。
そして、時間をかけて蕾のカガリは綻び始めている。
後、1年もすれば完全に開花し美しい大輪となる。
レイはずっと待っていたのだ。
今更、他の誰かに手折られるなど有り得ない。
カガリをずっと見ていれば自ら同じような青い瞳と重なる。
レイは意識し目を細めてアウルを睨みつける。
渡すつもりはないと。
そうこうしてる内に映画は終わった。
周りが明るくなって、見ていたお客達は各々動き出す。カガリ達も同様だ。
軽く伸びをして席から立ち上がる。
スクリーンホールからチケットホールへと足を進めていく3人。
そこで、カガリの足が止まる。

「…ちょっと、トイレに行ってくる」

特に恥ずかしがる事なく、サクッと言って走り去るカガリ。
そして、残されたのは今日会ったばかりの男2人。

「…いい年して、この映画見にくるかな〜、ふつう?」
「高校生も大概だと思うけどな」
「……じゃあ、カガリも大概なんだ?」
「カガリは見た目は高校生だが中身は小学生の頃と何ら変わってないから問題ない」
「……」

綺麗な青年と愛らしい少年の壮絶な睨み合いは、周りに緊張感を与えていく。

「どういう関係か知らないし知るつもりもないけど、僕、絶対アンタに負けないから」
「フッ、負けない?勝負するつもりなのか。この俺と?」
「当たり前っ!!」
「負け戦をしにくるとはな。根性は勝ってやる。でも、カガリは渡さない。お前とは、思ってる年数が違う。害虫は早めに駆除するつもりだ」

真夏なのに2人の間にあるのは、草木も凍らす絶対零度の空気だった。
誰もが近付けない雰囲気の2人に容易く歩み寄る人物がいる。
勿論、カガリである。

「お待たせ!」

険悪な2人に全く気づいていないカガリはいつもの笑顔を振りまく。
声をかけられレイとアウルは互いに睨みあった顔を捨てて、爽やかな笑みで振り返る。

「大して、待ってない」
「カガリ、それより次はやっぱりセンター?」

アウルの言葉にレイはハッとする。
センターとはこのアニメのグッズを専門に取り揃えているお店の事だ。
小学生のカガリはアレ欲しいコレ欲しいと駄々をこねて、キサカが両手に抱えきれない程の買い物をしたのはやっぱり懐かしい思い出だ。

「うん、早速行くぞ、センターに。何と言ってもアイツを貰わないとな。その為の前売り券だしな♪」

ニカッと音がする筈のないのにカガリの笑顔はそう聞こえた。

「じゃあ、早速行こうカガリ!」

カガリの手をアウルはグィッと握った。
アウルにとって初めての事だったので、頬は分かり易く染まっている。
慣れとは恐ろしいものでレイとの手を繋ぐ感覚でカガリも繋ぎ返す。
それを空気で読み取ったレイは腸が煮えくりかえる程のムカつきを覚えた。
全身から殺気めいたオーラを出し、“死んでしまえ”と重苦しい呪詛を眼力で激しく飛ばす。
そんな事しているレイの眼前でお似合いなカップルとして歩き出す2人に慌てる。
小走りに歩いて開いてるカガリの片手をとりギュッと握って引っ張る。
どちらか言えば三十路に近いレイの行動は大人気ないと言わざるえないが、そんな事を気にするタイプではない。
しかも、売られた喧嘩は倍返しするタイプである。

「カガリはぬいぐるみが好きだったな。俺が買ってやる」
「ホントッ!?」
「ああ」
「実はさ、中学生になってからぬいぐるみ買ってくれなくなったんだ、ヒドいだろ。キサカもマーナも、もう中学生なんだからの一点張りでさ…年なんて関係ないと思わないか?私はぬいぐるみが大好きなんだ!!」
「そういう事があったのか…どうして俺に言ってくれなかったんだ?」
「だってキサカとマーナがレイに言ったら、子供だと思われて嫌われるって…」

シュンと項垂れるカガリ。
レイの名を出せば子供っぽい所を直せると企んだキサカとマーナの計略を素直に聞いているカガリに、やはりまだまだ子供だなと思うレイ。
下を向いて旋毛を見せているカガリの髪を優しく梳いてやる。

「ぬいぐるみぐらいで嫌いになる訳ないだろ。いくらでも買ってやる」
「わぁ〜い♪レイ、だ〜い好き!!」

両手が塞がっているカガリは嬉しさをレイの腕に擦り寄る事で表していた。
その光景とカガリからの大好きを聞いてしまったアウルの心は急激に荒む。
“くたばれ”とレイとは違う碧眼で悪意をガンガンと飛ばす。

「やっぱりVマークのぬいぐるみが欲しいのか?」
「アイツもいいけど、白い竜と黒い竜の大きなヤツが欲しい…ダメかな?」
「ああ、構わない…偶にしか会えないからな。それを俺だと思ってくれ」
「うん!」
「ぼっ、僕だってカガリにぬいぐるみ買ってあげるよ」
「えっ?」
「…大きいのはムリだけど…」

大きいサイズのぬいぐるみはそれなりの値段がする。
それは高校生のアウルではおいそれと出せる値段ではない。
レイは世界規模で働く大人なのでその程度は余裕である。
金銭面では絶対勝てない相手だけに、アウルは何とか自分なりのアピールをした。

「…いいのか?」
「うん、僕だってカガリの欲しいモノを買ってあげたい」
「でも…」
「大丈夫、僕が買える範囲のモノにしとくから」
「誕生日でもないのに…」
「ソッチの人はよくて僕が買うのはダメなの?」
「うーん…それは…」
「カガリは君のお金の事を心配しているんだ。ムリして買って貰うのは悪いと思っての言葉だ」

余計な心配かけさせるなという鋭い視線に乗せて送ってくるレイに、アウルも負けずに眼力を強める。

「ムリはしてないって!それに映画を一緒に見た記念みたいな?」
「…去年も一緒に見に行ったけど、そんな事しなかったじゃないか?」
「そうなんだけど…」

カガリから至極まともな返しにどうしたものかと、アウルは考える。

「とにかく、僕がVマークのちっちゃいドール買ってあげる。つーか、買ってあげたいの!」

悩んだ結果、勢いで意見を押し通す事にした。
欲しいと駄々こねるならありそうだが、買ってあげる駄々なんて聞いた事がない。
矛盾だらけだがアウルは必死なので解っていない。

「そういう事だから早くセンターに行こう」

今度はアウルがカガリを引っ張り先頭を歩き出す。
カガリは不思議そうな顔で後をついて行く。
レイは不機嫌極まりない顔だ。

「アウル」

不意に声をかけられアウルはドキリとする。

「なっ…何?」
「ありがとな」

フワリと笑われてアウル頬が淡く染まる。
すると、厳しい視線を察知した。
アウルが顔を上げると凄まじい殺気に当てられる。
そして、口パクで“クソ青毛、死に晒せ”と宣うレイにアウルも同様に口を動かす。
“ハゲ滅びろ、金髪ロン毛”と分かり易くカガリの頭上で火花を散らし合うレイとアウル。
カガリはその事全く気にする事なく止まっている2人の手を引っ張って、意気揚々とセンターを目指した。




長かったです(笑)
あれもこれもと欲張った結果
1ページに収まりませんでした

テーマは
レイの大人気なさです
大人気なくしたつもりです
アウルは頑張った方です

裏テーマは
2011のポケ映画です★

2011.8.25










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