完全無欠の王子様

色素の薄い太陽に煌めく金の髪。
蒼穹のように透き通った青の瞳。
陶磁器のような白くきめ細やかな肌。
洗練された立ち振る舞い。
無表情でクール。
完全無欠の王子様と呼ばれる男。
その名をレイ・ザ・バレル。



Destiny高校の1年1組カガリ・ユラ・アスハはその王子と同じクラスである。
とはいえ、会話らしい会話などした事はない。

「レイって本当にカッコいいよね〜」

教室で王子を見ながら改めて言うのはカガリの親友メイリン・ホーク。

「うん、そうだな。絵本で見る王子様ってあんな感じだよな。」
「うわぁ…」

親友が凄く驚いた感じでカガリで見ていた。

「何だよ。変な顔して」
「だって、余りにもロマンチックな発言だったから」
「私がそんな言い方したら可笑しいのかよ」
「ううん…でも、カガリの言う通りだよね。正に王子様って感じ!」

そんな会話をしながら時間は過ぎていった。
空は赤く染まりだし学校にいる人物も限られてきた。
カガリとメイリンは部活を終えて下校の帰路に着く。
他愛もない話をしながら歩いていく。
その途中でカガリはある事に気がついた。

「ああっ!!」
「どうしたの?」

カガリは慌てて鞄の中をチェックする。
が、目当ての物は見付からない。

「ヤバい!!」
「何が?」
「数学のプリント、学校に忘れた」
「ええっ!!」

家とは逆方向に進路をとって来た道を戻ろうとするカガリ。

「ねぇ、明日朝一番に学校ですれば?」
「無理だ。バジルール先生の宿題は甘くない。しかも一限目だし、挙げ句に写してバレたら…」
「ああ…そうだったよね…」
「じゃあ、また明日な、メイリン」

メイリンに別れの言葉を告げるとカガリは急いで学校へと戻る。
帰路に着く生徒達を横目に校内へと入っていく。
大急ぎで自らの教室を目指す。
重いドアを開けて、普段使っている机に一目散に向かう。
目的の物は机の中にあった。
それを取り出してカガリはホッと息を吐く。

「何してるんだ?」

急に声を掛けられて、カガリは飛び跳ねる様にそちらへ振り返った。
夕日を浴びて淡く全身を染めている王子がそこにいた。

「バレル…」

名字を呟く。
親友のメイリンはレイと幼なじみだが、カガリとは只のクラスメート止まりなので名を呼ぶ事はない。
呆然と見つめていればいつの間にか距離を縮められて手届く場所に立っている。

「何してるんだって、聞いたんだが?」

低く平坦な声でもう一度と同じ事を聞かれて、カガリは漸く我を取り戻す。
持っていたモノを目の前に持ち上げる。

「えっと…プリントを取りに…」
「…ああ、バジルール先生の宿題か」
「うん…してこなかったらとんでもない事に…」

カガリは言いながらそのとんでもない事を思い出していた。
バジルール先生は学校一厳しい先生として有名だった。
それを知っていたにも拘わらずカガリは宿題を忘れてしまい、メイリンの答えを丸写しした。
宿題をきっちりチェックしたバジルール先生にすぐさまバレて、2人揃って新しい宿題をどっさり出されて辟易したものだった。
だから、何があってもこの宿題をやらなければならないのだ。
嫌な過去と宿題をやらなきゃとそんな事ばかり考えていて、目の前の人物に気をまるで配っていなかった。
カサッという音と共に自らの手からプリントが消えて驚くカガリ。
取り上げたのは間違いなく真正面に佇むレイ。
顔はいつも通り無表情で全く状況にカガリはついていけない。
間の抜けた顔で王子と呼ばれるレイの顔を凝視する。
少し笑みを浮かべた綺麗な顔は徐々に近づいてきて、視界一杯に広がった。
唇から別の体温が伝わって触れ合っていると感じた後に、キスされていると理解した。
慌てて逃れようとしたカガリの動きよりも、一足早くレイが動く。
片手がカガリの後頭部を掴むと、プリントを持っている手は器用に腰を掴んだ。
完全に逃げられなくなってカガリはパニックを起こす。
追い討ちをかけるように薄く開いていた口内へ未知の物体が忍び込んでくる。
訳が解らぬカガリは全身を強ばらせたまま受け入れさせられた。
自分のではない舌が縦横無尽に動いている。
丁寧や優しさなど微塵もなく、貪るという表現が一番合う。
更に縮こまっている舌を捕まえられると、絡められて激しく擦り付けられる。
初めてのキスでしかもディープキス。
息も出来ず、勿論ついていける訳もない。
酸素は取れない、パニックで思考は回らない、力はどんどんと抜けていくと三重苦だ。
突如、背中に硬いモノが当たった。
瞑っていた目を開けば、王子の顔と余り見る事がない天井。
危機感を感じたカガリは足を使ってレイを弾き飛ばすと、色気のない悲鳴を喚き散らして逃げ出した。



起こった事、全て忘れて寝ようとしたカガリだが、何度も無駄に思い出されて結局一睡も出来なかった。
それでも、登校して眠気と戦いながら机に突っ伏している。

「そんなに宿題大変だった?」
「うへ?」

顔を上げればメイリンがいた。

「宿題?」
「バジルール先生の宿題、頑張ったんでしょ」
「……あーーっ!!」

すっかり失念していた宿題の事を言われて、大声を上げた。
周りの視線を浴びるが気にしてどころではない。

「どうしたの?」
「忘れてた…」
「ええっ!だってわざわざ取りに戻ったのに!?」
「うん…」

否が応でも昨日の出来事を思い出すし、そして宿題を忘れてしまった事実にカガリは真っ青になった。
見る見る顔色の悪くなる親友にメイリンは心配する。

「数学は一限目だけど、今からやれば白紙よりましじゃない?」

メイリンの意見は尤もだと思うのだが、肝心のプリントが手元にない。
何せ取り上げられたままの状態で逃げ出したのだから。
完全に八方塞がりで落ち込んでいるカガリの元に影が差し込む。

「はい、これ。昨日、慌てて帰った時に落としただろ」

王子様的ルックスで微かな笑みを浮かべているのは、とんでもない事をしてくれた張本人。
完全無欠の王子でありながら、内面に獣を飼うレイ。

「ええっ!?取りに戻って落としちゃったのカガリってばドジー」

メイリンの言葉に反論したいのは山々なのだが、昨日の出来事を口にする勇気はカガリにない。
取り敢えず、礼を言ってプリントを受け取り、何とか出来る所までしようと、シャープペンを持つ。
そこへもう一枚プリントが出される。
不思議そうに見上げるカガリと見ているメイリン。

「これ、俺の宿題。写した方が早い」

相変わらず王子のようにレイは微笑んでいる。
カガリは物凄く迷った。
書き掛けの宿題と丸写しの宿題。
どっちもバジルール先生的にはアウトだなと思いつつも、レイからプリントと受け取り早書きで写していった。



そして、放課後。
見事、バジルール先生に呼び止められた。

「アスハ、私の言いたい事、解るな」
「はい…」
「しかし、何故バレルのを丸写しした?」
「えっと…それは…」

何と言おうか迷っているカガリの後ろから声が掛かる。

「俺とカガリが付き合っているからです」

現れた王子はサラリと言ってのけた。
開いた口が塞がらないカガリを無視してレイは続ける。

「昨日、一緒に宿題をしたんで答えがまるっきり同じなのは仕方ない事です。バジルール先生」
「しかしだな、それではバレルの答えの丸写しと何ら変わらん。アスハの為にならない」
「大丈夫です。数学の実力はちゃんとつけさせます。カガリの彼氏として」

言い切ったレイに熱視線を送られて、カガリは漸く理解した。
完全無欠の王子から逃げる術がないと。




珍しく強引なレイです
告白より先に手を出しちゃう
王子様なんです★

2011.8.4










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