跡取り

大奥、そこは女の園。
と言われているが、ここオーブの国では少し違う。
頂点に立つのは女将軍。
その名をカガリ・ユラ・アスハという。
そして大奥には、彼女の為に全国から集められた美しい少年や青年達が住まわされている。
正しく、男の園。



「ちょっと邪魔なんだけど退いてくんない?」

不遜な態度で大奥の廊下を歩くのはアウル。
小間使いの小姓達は慌てて道を譲る。
我物顔のアウルの後ろには父であるキラが笑顔で後をついていく。
将軍のお手付きとなったキラはアウルという子をもうけて正式に側室となった。
小姓だった時に比べて待遇の違いにキラは満足気にアウルの姿を眺めていた。
そこへ、前から大勢の小姓を連れ立った一団がやってきた。
アウルは道を塞がれて、不貞腐れた感じで仁王立ちする。

「退いて下さいませんか。僕、あちらに行きたいんですけど」

愛らしい笑みで言うのはニコル。
ニコルもまた将軍の子で父は後ろに控えているディアッカだ。

「何で僕が退かなきゃいけない訳?」
「それは僕が通るからです」
「だったら、君が退けばぁ!?」
「どうして年上の僕が退くんです?年下の貴方が道を譲るべきでしょう」
「なんだって!!」

将軍はニコルを生んだ後にアウルを生んだ。
つまり、2人は異父兄弟である。

「全く躾がなってねぇな。親の顔を見てみたいもんだ」

ニヤリと笑ってディアッカはアウルを見下す。
その態度は明らかに軽蔑してる。

「父上の言う通りです。家柄が出ますね」

ディアッカに続いてニコルもアウルを小馬鹿にした。
怒りの余りアウルのこめかみにはピキピキと青筋が立っている。

「…聞きずてならないんだけど…家柄がなんだって!」

全身から真っ黒オーラを出して、キラは目の前の2人を睨みつける。
アウルも同様だ。
ディアッカの家柄はそれなりに良いが、キラは町人の出である。
しかも裕福な家の出でもない。
将軍の側室になった際も、散々嫌味を言われた。
身分の事を言われるのがキラは一番嫌う。
廊下で火花を散らし合うキラとディアッカ、そして子供達のアウルとニコルも同様だ。
すると、後方から怒鳴り散らす声が響く。
小姓達は滝が割れるように道を開ける。

「そこの下衆共!道を開けろ!!」

高圧的な物言いをして現れたのはイザーク。
彼もまたキラとディアッカと同じ側室である。
ただ、旗本の出身ゆえ気位が異常に高い。

「「誰が下衆だっ!!」」
「フッ、下衆だから言葉が被るんだな。アハハッ!!」
「煩いよ、この河童!」
「胡瓜でも齧ってな!!」

キラとディアッカは各々言いたいように罵る。
だが、その程度でイザークは怒り狂う事はない。
完全無視して後ろにいる我が子に話し掛ける。

「レイ!」
「はい、父上何でしょうか?」
「解っていると思うが、あのような下衆みたいな言葉遣いはするなよ」
「勿論、心得ております。俺は将軍家の跡取りとして清廉潔白に生きていく所存でございます」
「流石、俺の子だ」

イザークは楽しげにレイの頭を撫でる。
聞き捨てならない台詞にキラとディアッカは目を瞠る。

「何言ってんの!?跡取りは僕のアウルに決まってるじゃない!!」
「はぁ!?寝言は寝て言えよ!俺のニコルが跡取りにもう決まってんだって!!」
「これだから下衆共は困るな。下々の子供が跡取りになれる訳ないだろ。しかもレイの方が年上だ。下衆の子などに出番はない」

得意気に笑うとイザークにキラとディアッカは歯をギリギリと鳴らす。
子であるレイも澄まして2人を見下し、アウルとニコルは強い視線で睨み付けていた。

「長子が家督を継ぐというなら、それは俺の子だな」

又しても、後方から人が現れた。
皆と同じ側室のアスランだ。
側には将軍との子であるシンが控えている。

「何ぃ!?」

怒り気味に振り返ってイザークは発言者を睨み付ける。
しかし、アスランは至って平然としていた。
シン、レイ、ニコル、アウルの4人は皆、将軍の子である。
この中で一番最初に生まれたのはシンでアスランはその事を言っている。

「フン!長子が絶対とは限らん!!最終的には家柄が物を言うのだ!」
「俺の家はイザークより劣るかもしれないが…普通は長子が跡取りだ。それが一般的な総意だろ」
「グッ!」

言い返せず黙り込むイザーク。
他の5人もアスラン達を睨んでいる。

「という訳で俺が将軍の跡取りだ。さっさと退けよ。俺が通れないだろ!」

長子の割にシンは口が悪かった。
しかし、誰も道を譲ろうとしない。
それにキレたシンは怒鳴り上げる。

「退けって言ってんだろ!この俺は次期将軍だぞ!!」
「シンの言う通りだ。早く道を開けろ!」

けれども現状は変わらなかった。
一触即発の空気が漂う。
間近にいる小姓達はあわあわしてるが、解決する方法が全く解らない。
最早、乱闘寸前である。

「騒がしいな。何してる」

こんな状況に現れた人物。
姿を目にとめた小姓達は正に救世主だと思った。
そこにいたのは、オーブ国将軍カガリ・ユラ・アスハその人。

「「「「上様っ!!」」」」

絶対権力者の登場に睨みあっていた全員が平伏す。

「何してると聞いてるんだが」

皆が黙り込み互いに相手の出方を窺いあう。
カガリは少しの間その光景を眺めていたが、いつまで待っても埒が明かない。

「誰か、この状況を説明出来るものはいないのか!?」

痺れを切らしてカガリは声を荒げる。
沈黙の中、思い切って喋り出したのは…

「上様!お聞きしたい事がございます」
「なんだ。アスラン」
「上様の跡取りは俺との子であるシンですよね」
「ちょっと待てっ!跡取りは俺の子レイだっ!貴様の子はがさつで品位がない!!」
「んだとぉ!河童は引っ込んでろよ!!」
「黙れっ!!このクソ黒毛玉っ!!」
「父上…言葉遣いに品位がかけてます」
「ちょっ、待てよ。次期将軍はニコルって言ってんじゃん」
「僕ならば上様の善政を引き継げると思ってます」
「はぁ?緑天パのくせに何言ってんの、ピアノしか弾けないじゃん。僕の方が世渡り上手だよね、父上♪」
「アウルの言う通りだね。ピアノ弾けても役に立たないよ。それに将軍の夫が色黒なんて格好つかないでしょ」
「色黒関係ねぇだろ!」
「容姿は重要だよ。僕みたいに可愛くないとね♪」

一度喋りだしたら、8人は止まらずギャーギャーと喚き罵り合いだす。
収拾のつけ方が解らないカガリは呆然とし顔を引きつらせる。
完全に混沌と化した現場に逃げ出したくなった。
そっと、後ろに下がって来た道を戻ろうとする。

「「「「何処へ行くんですか!上様っ!!」」」」

綺麗に8人の声が重なった。
視線集中にカガリはしどろもどろになる。

「えーっと…」
「お前ら、嬢ちゃんを困らせてんじゃねーよ」

大きな手がカガリを後から抱き締める。
そこに現れたのは、大奥の万事を取り仕切る最高権力者上臈御年寄のフラガだった。

「「「「おっさんっ!!」」」」

又しても、声が綺麗にハモった。

「おっさん言うな」
「おっさんはおっさんでしょ。ねぇ?」

キラがズバッと言い切る。
皆が頷く。
フラガは最高権力者であるゆえ、年齢もそれなりだ。
気さくな性格が災いして“おっさん”と皆から呼ばれている。

「まぁ、百歩譲っておっさんでいいけど…でも、お前らの子が将軍になる事はないよ。絶対!」
「「「「どうして!?」」」」」

また綺麗に揃う声。

「お前ら全員、側室とその子供だろ。上には上がいるんだよ。知らなかった?」

言っている意味が解らない8人はそれぞれ首を傾げている。

「だから、将軍には御台所っていう正室がいるんだわ。それ、誰だか知ってる?」

フラガは意味ありげに笑う。
実は御台所の存在は何故か8人とも知らされてはいない。
大奥にいる殆どの人間が知らない状態である。

「御台所はこの俺、ムウ・ラ・フラガ。そして、既に跡取り、つまり世子はもういる訳。お前らみたいなクソガキと違って俺と嬢ちゃんの子はすんげぇ可愛いよ。ステラっていうの。オーブは女系中心で女子優先だから、男のクソガキ共は只の保険なんだよ」

まさかの展開に8人はついていけない。

「こんな風にさ、跡取り問題でゴタゴタするから、俺は御台所ではなく上臈御年寄って事にして第1子で世子のステラの存在は隠してた訳。なっ、嬢ちゃん?」
「…ああ」
「今の大奥は嬢ちゃんの気晴しの為にあるんだよ」

知りたくなかった真実に8人は愕然とする。
特に側室である4人のショックは隠しきれず真っ青になっていた。

「さぁて、たまには夫婦で仲良くすっか?」
「えっ…あっ…いや、仕事が…」
「何言ってんの。こっちに来た時点で仕事終えてきたんだろ。違う?」
「……」
「ステラも妹が欲しいって言ってるしさ…頑張ってみよっか!」

軽やかにカガリを姫抱きに抱えるとフラガは去っていく。
残された8人は…真っ白になり灰と化した。




話アンケより
性別逆転大奥パロのお話です
長編は無理だったので
短編に落ち着きました
しかもまさかのムウ落ちでした★

父と子の組み合わせが
一番苦労しましたね
アス&シンは
簡単に決まったんですが
他がなかなかでした

一人称僕コンビの組み合わせで
キラ&アウル

目の色一緒という理由だけで
イザ&レイ

SEEDのザフト組という理由で
ディア&ニコ

で落ち着きました
ムウ&ステラも簡単に
決まりました★

2011.6.20










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