ツリー

「一年後に完成するんだって」

見上げるのは建設中の電波塔。
国一番の高さを誇り、未完成にも拘らず新名所となっている。
日々、塔は成長していた。

「ふぅ〜ん」

カガリと同じように空を突き刺す塔を見上げながら、アウルは大して興味なさげに返答をする。

「興味ないのか?」

目を丸くしてカガリが聞いてくる。
塔から視線を向けられ、アウルも視線を合わせる。

「ない…だって……完成する姿…見れないもん」

空より少し深い青の瞳には悲観さはない。
けれど、輝く光もなかった。
カガリが小さく息を飲むのが、アウルにはよく見えた。
解ってはいた。
こんな事を言えばどうなるかなんて。
それでも言わずにはいられない。
完成した塔をカガリが自分ではない誰かと見ていると思えば、我慢が出来なくなっていた。



アウルの余命が半年と言われたのは少し前。
目の前が真っ黒になるとか、我を忘れて発狂するとか、そんな風になる事は一切なくアウルは至って冷静に現実を受け入れていた。
体調の異変に気付いたのはいつだったか、アウル自身よく覚えてはいない。
日に日に体調は悪化していき、白い世界がアウルの視界を覆っていった。
悲しい、悔しい、一般的に思う感情は浮かばなかった。
諦め。
それがアウルの中でしっくりきた。
検査と薬の投与。
そんな同じ毎日の繰り返し。
塞ぎ込む事もなく、唯漠然と時を過ごしていた。
そこにカガリが外出許可をとったからと言われたのが昨日の事。
朝一番にカガリは車椅子を押してやってきた。
けれど歩けると言い張り、カガリの方は渋々という感じで納得した。
勿論、体調を気遣っての事なんて解っている。
久々に外へ行くのに、白の世界を引摺りたくなかった。
アウルの意地と言っていい。
そうして、出掛けた外の世界は楽しかった。
ずっといた筈なのにとても。
もっと楽しみたいと思う反面、体はついていかず何度も休憩を挟む。
その度、カガリに気を遣わせている事に途中で気付いて、アウルは自分自身が心底嫌になった。
だから、疲れた、帰りたいと思ってもいない事を不貞腐れたように言う。
呆れたような顔をされるかとアウルは思ったが、カガリは笑っていた。
最後に行きたい所があるから付き合ってくれと言われて、断る理由もなくアウルは頷いた。
そして、目の前に現れたのが塔だった。



自立式電波塔では世界一とかツリーと呼ばれるとか、カガリが説明してくれてアウルは黙って聞いていた。
一年後完成すると聞くまでは。
特段と思っていなかったのに、沸き上がる自分のいない未来への嫉妬にアウルの心は潰された。
それが先程出た言葉。
カガリの顔を直視出来ず、つい俯く。
すると、ギュッと手を握られた。
アウルは反射的に顔を上げる。
真剣な眼差しでカガリは見ていた。
哀れや悲観なんてそこにはなく、強く何にも揺るがない瞳。

「私は…諦めないからな」

言葉の意味が解らなかった。
てっきり、怒られると思っていたから。
アウルは呆けた顔で見詰めていれば、急に全身が仄かな暖かさと程よい圧迫に支配される。

「世界中の皆が諦めても、神様が見放しても、私は絶対に諦めないし、見放したりしないからな!!」

改めてアウルはカガリが好きなんだと自覚させられた。
望んでいるモノをカガリは容易く与えてくれる。
時には想像以上のモノも。
今、正にそれだ。
白々しい言葉は数え切れないぐらい貰った。
カガリの言葉も一つ間違えれば癪に触るものだ。
でも、そうは思わない。
アウルも手を背に回して温もりに縋り付く。
少し疲れていたのもあって、凭れるように。
すると、フワフワの水色の髪を優しく梳かれる。

「完成したツリー…一緒に見に行くぞ!!」

力強く言われて、アウルは何も言えずコクコクと頷く。
暫く黙って抱き合っていれば、少しづつ余裕が出てきた。

「カガリって……男前」
「はぁ?」
「あっ、ゴメン。女前か」
「なんだよ、それっ!?」

カガリの拗ねた顔とは逆にアウルの顔は笑みで溢れている。
もう一度、聳え立つ塔を見上げる。
見晴らしはどれ程のものだろう。
きっと2人で見に行ける。
だって カガリがそういうのだから。




あのツリーを題材にしてます★
最後の部分だけ
最初に考えた通りにしたくて
若干無理に変えました

2011.6.10










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