Kira's2011

「お見合い!?」
「うん」
「でっ、でも!キラ兄様。まだ、高校生じゃないか!?」
「そうだけど…今日で18になるからね。結婚出来る年齢になったから…かな」
「でも!!高校卒業もしてないのに!!」
「カガリ…まだ結婚すると決まった訳じゃないよ」
「…そうだけど…」
「けど…婚約ぐらいは…するかも…ね」
「!!」
「何を騒いでおる」

低い声がカガリとキラの会話を遮断する。
2人の前に現れたのはウズミ・ナラ・アスハ。
カガリの父にしてアスハ家の当主。
そして、キラに見合いの席を用意した人物。

「お父様…」
「カガリ…そなた、儂が決めた事に反対するつもりか」
「だって…キラ兄様は…まだ、高校生なのに…」
「年齢は関係ない。それにこの見合いはキラも納得の上だ。そうであろう」
「はい…おじ様…」

キラはウズミの実子ではない。
両親であるヤマト夫妻は不慮の事故で亡くなり、独り残された亡き親友の子であるキラを不憫に思ったカガリの母ヴィアが引き取った。
その時、キラは3才、カガリは1才だった。
それから15年経過する間にカガリの母ヴィアが病死するなどあったが、2人は兄妹として仲良く育った。

「キラ兄様は…それでいいのか?」
「……おじ様は僕を引き取って下さったヴィアおば様が亡くなった後も、僕を育ててくれました。少しでも、おじ様に役に立てるなら僕は何も言いません」

キラの笑顔にカガリは何も言えなくなる。
そこへ、ウズミの秘書キサカがやって来た。

「ウズミ様、準備が整いました」
「うむ。そうか…では、ゆくぞ。キラ」
「はい…」

既にスーツに着替えていたキラはウズミとキサカに連れられてアスハ邸を後にする。
カガリは呆然とその後ろ姿を見送った。

「キラ兄様……」

ポツリと呟いてカガリはヘナヘナとその場に座り込む。
大きな瞳には涙が溜まっていた。

「お嬢様…」

心配気に声をかけてきたのは侍女のマーナ。

「マーナ…」
「このような処で泣くなんてお嬢様らしくありません」
「…………」
「何もしないで諦めるおつもりですか?」

カガリの思いを誰よりも知るマーナは弱気な背中を押す。
けれど、カガリは俯いたまま。

「…お嬢様も、今日で16才になられたではありませんか。16才と言えば結婚出来る年齢でございますよ」

結婚という言葉にカガリは顔を上げた。
数年前、誰よりも愛しい母が亡くなった時、泣き崩れていたカガリを優しく慰めてくれたのは父ではなく兄同然のキラだった。
キラがかけてくれた言葉にカガリは、初めてキラを兄ではなく一人の異性として意識しだした。
淡く色付き出した恋心は年数を重ねる毎な大きく育っていた。
そこへ、青天の霹靂のように訪れたキラの見合い話。
それまで、キラと自身の誕生日に浮かれていたカガリは天国から地獄に落とされたようだった。
キラが見合いを素直に受け入れた姿にカガリは何も言えなくなってしまう。
が、先程マーナが発した言葉がカガリの心に深く突き刺さる。
カガリとキラは同じ5月18日生まれ。
それは366分の1の確率。
これを偶然で片付けるのはまだ早すぎる。

「……そうだな、マーナ。諦めるのは思いをぶつけてからでいいよな…」
「それでこそお嬢様でございますよ」
「行って来る、マーナ!!」
「その意気でございます。頑張って下さいませ、お嬢様!!」

マーナに背を押してもらいカガリは学校帰りのセーラー服のままキラ達が入るアスハ邸の離れへと全速力で向かう。
走って走って、カガリの今持てる全ての力を出して目的地へ急ぐ。
走った距離はそれほどでもないのだが、カガリはとても遠くに感じていた。
離れに着き戸を開けると、玄関にはキサカがいた。

「カガリ…どうしてここに!?」
「悪いけど話は後だ!」

靴を脱ぎ捨て、大股開きでキサカの横を通り抜けて行く。
はしたないとか今のカガリにはない。

「待てカガリ!誰も入れるなと言われている」
「キサカ、おまえが悪い訳じゃない。私が勝手に入っただけだ。おまえは悪くない!!」

そう言い残して、カガリは離れの中へ入っていった。

「…全く……相変わらず、猪突猛進だな」

キサカの呟きは誰にも聞かれる事はない。



離れは和風建築でカガリは縁側の廊下を大きな音を立てて走って行く。
そして、キラがいるであろう障子を思いっ切り開けた。
障子全開にして息を切らすカガリの姿に和室にいた一同は注目する。

「カガリ!そなた、何しておる!!」

声をかけたのは父のウズミ。
けれど、カガリは父の言葉を無視してただ1人大好きな人の元へ。

「…キラ兄様」
「カガリ…」

畳に座っていたキラは立ち上がって見詰める。
感極まってカガリはキラの胸元へ飛び込む。

「キラ兄様!お見合いなんてしちゃ嫌だ!!」
「カガリ…それは…」
「兄様は言ってくれたじゃないか!?お母様が死んだ時、これからは兄様がずっと私の側にいてくれるって!!」
「…………」

目を伏せるキラにカガリは全ての思いをぶつける。

「だから…ずっと側にいて……私は…キラ兄様が好きなんだ…離れたくないんだ!!」

ギュウッと抱き付いて、離されないようにカガリはキラの体にしがみつく。
すると、キラの手がカガリの体を優しく包み込む。
暖かさに包まれたカガリは恐る恐る顔を上げる。
そこには優しく微笑むキラの顔があった。
見詰めてられてる事にカガリは堪らず目の前の胸に擦り寄る。
キラはカガリの髪を撫でながら、視線をウズミに向けた。

「勝負は……僕の勝ちですね、おじ様」

纏っていた優しげな空気を一変させると普段と違う声色で話し掛けるキラ。
カガリは不思議な顔でキラと父のウズミを見やる。

「…………」

ウズミは難しい顔してキラを見る。

「あれ…もしかして、勝負を無しにするつもりですか?おじ様、男らしくないですよ」

黒く勝ち誇った笑みを浮かべているキラ。

「負けは負けだ。約束を違えるような事はせぬ」
「では、これ。認めてもらえるのですね」

キラは胸ポケットから、折り畳まれた紙を取り出し、ウズミの眼光に怯む事なく見返す。

「…構わん。そういう約束だ」
「そうですか。じゃあ、カガリ。これにサインして」

キラから差し出された紙をカガリは受け取り開いていく。
そこに書かれていた文字にビックリする。

「えっ、これって!?」
「婚姻届だよ」

キラは驚く素振りもなく笑顔のまま。
婚姻届の空欄は殆ど埋められていた。

「後はカガリの名前を書くだけなんだ」

いとも容易く言うキラにカガリは呆然とする。
婚姻届と持ったまま固まっているカガリにキラは不思議がる。

「あれ、僕の事、好きって言ってくれたよね。さっきの言葉は嘘なの?」
「そっ、そんな事ない…」
「じゃあ、僕と結婚してくれるよね」
「ええっ、結婚っ!?」
「僕と離れたくないって言ったでしょ」
「それは…そうだけど」
「確かに僕とカガリは未成年同士だけど…親の承諾はきちんととってあるし何の問題もないよ」

と言われても話がついていけないカガリはやっぱり呆然としている。

「キラ、一つだけ忘れてますわ」

横から口出してたのはキラのお見合い相手。
クライングループの令嬢ラクス。

「えっ、何か忘れてる?僕としては万全の用意をした筈なんだけど…」
「フフ、キラったら、女心が解ってませんわ。一番大事なプロポーズが抜けてますわ」
「あっ…そうだね。言われるまで気付かなかった。つい、気が急いじゃって…」

テヘッと可愛く笑ったと思えば真剣な顔でカガリを見詰める。
誠実な眼差しにカガリの胸はドキドキと脈を打つ。

「カガリ…君と出会った事は運命だと思っている。僕の全ては君の為にある。これからもずっと共に生きて行こう。僕と結婚して下さい」

キラの言葉にカガリは嬉しさの余り泣き出した。

「泣かないで…カガリ」
「だって…嬉しいんだ」
「僕も、嬉しいよ。カガリに好きって言ってもらえて」

暫く抱き合っていた2人だが、キラは思い出したかのようにカガリの体を離す。

「いけない余りに嬉し過ぎて、大切な事忘れるとこだった。それ…書いて」

キラが指差すのはカガリが持っている婚姻届。
言われてカガリは畳に座り込んで記入し始める。
しかし、その周りには父のウズミやお見合い相手のラクス、そしてラクスの父がいる状況で婚姻届を書いているのがどうにもおかしいと思うカガリ。
つい指が止まる。

「遠慮なさらなくても宜しいですわ。どうぞお書きになって下さい」
「えっ…でも…」
「私は仮のお見合い相手ですから」
「かり?」
「後で説明するから、早く書いてカガリ」

笑顔で催促するキラにカガリは決心して名を記す。
書き終えた婚姻届をキラは受け取ると嬉しそうにする。

「これで僕達は夫婦になったんだね」
「う…うん//」

改めて言われて赤くなるカガリ。
満足気に婚姻届を見ていたキラはそれをウズミに渡す。

「これ、市役所に提出してきてもらえませんか?」
「なぜ儂が!?」
「だって、これから事の顛末をカガリに話さないといけないしそれに…おじ様…暇でしょ」
「誰が暇だ!貴重な時間を割いてこの茶番に付き合ってやったのだぞ」
「あっ、違ったお父様だった♪」

ウズミの言葉に諸共せずキラは不敵な笑みを浮かべている。
今までカガリの知っているキラは父に従順で逆らう事などした事がない。
ましてからかう姿など見た記憶がない。

「…キサカ!」
「はい、こちらに」
「これを出しておけ」
「はい、畏まりました」
「儂は仕事に戻る。後は好きにすればよい!」

立腹したままウズミはキサカと共にその場を後にした。

「では、私共も失礼しよう。ラクス」
「そうですわね。それでは失礼致します。今日の茶番、とても楽しかったですわ。御機嫌よう」
「楽しんでもらえてよかった。協力してくれて有り難う。ラクス」

立ち上がって出て行くラクス親子。
キラの言葉にラクスは会釈で返した。
和室には、先程結婚したばかりのキラとカガリのみ。

「さて、何から話そうか?」
「…お見合いって…嘘なのか?」
「うん、そうだよ」
「…………」

サラッと言われて何もいい返せないカガリ。

「実は今から一ヵ月前にね、誕生日にカガリを下さいって言ったら、おじ様に猛反対されちゃってね。で、勝負を持ち掛けたんだ」
「勝負?」
「うん。僕とカガリの誕生日の日にカガリから好きって言われたら僕の勝ちで、言われたなかったらおじ様の勝ちってルール。でも、普通の状態じゃカガリから好きって言ってもらえないからね。お見合いをセッティングしてもらったんだ。けど、なかなかのハイリスクだったんだよ。もし、カガリが来てくれなかったら、あのままラクスと婚約しなきゃいけなかったんだから」
「えっ……さっき、仮だって…」
「カガリが来てくれたからだよ。だから、お見合いに行く僕を止めてくれなかった時はもうダメだと思ったよ……もしかして、マーナさんに何か言われた?」
「えっ、どうして解るんだ?」
「そりゃ、マーナさんにも勝負の事を伝えておいたから。当然、キサカさんにもね」
「キサカも知ってたのか!?」
「そりゃそうでしょ。じゃなきゃカガリ、この離れに入れないよ」

知らなかったのは自分自身だけという状況にカガリは恥ずかしくなる。

「勝負に勝ててよかったよ。お陰でハイリターンを手に入れれたからね」
「ハイリターン?」
「そう、カガリとの結婚。今日からは一緒に寝ようね。その為にキングサイズのベッド買って貰ったんだから。今まで独りで寝てて寂しかったよ。あっ、大丈夫、カガリが高校卒業するまできちんと避妊するから、心配しないでね♪」

最上の笑みで楽しそう喋るキラにカガリは掛ける言葉が全く見つからなかった。


Happy birthday Kira!!



誕生日おめでとう、キラ!

全ては
キラ兄様の策略通りです★

2011.5.19










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