距離

それはSEED中学2―Aの名物。
銀髪の美少年イザークと金髪の美少女カガリの痴話喧嘩である。

「この男女!!」
「煩い!!この河童頭!!」

二人は綺麗な顔を歪ませて睨み合う。
その光景を面倒臭そうに眺めているのは互いの親友ディアッカとフレイ。

「ねぇ、何とかしなさいよ。そこの色黒」
「やだね。かかわったら俺に火の粉が飛んでくるじゃん」

ディアッカとフレイは互いに見詰め合うと大きな溜息を吐いた。
これも2―Aの名物だったりする。



二人が痴話喧嘩をするきっかけは共に一年生の時。
同じクラスになったイザークとカガリ。
この時、カガリはつい思った事を口走っていた。

「おまえの頭、河童みたいだな」

イザークを初めて見た時、誰もが思った事だが、本人目の前にして言葉にしたつわものはいなかった。
それをカガリは言ってのけた。
無論、カガリとしては特に他意はなかった。
だが、イザークにとって琴線に触れる言葉だった。

「なっ!なんだとっ――!!きっ、貴様だって、男みたいな女のくせに!!」
「なんだって!!」

売り言葉に買い言葉とは正にこの事。
こうして、名物の痴話喧嘩が始まり、それは2年になった今も続いている。



そしてある帰り道。
いつもならイザークはディアッカと、カガリはフレイと帰っている。
体育祭が近付く今、体育委員を務めているイザークとカガリは委員会があり互いに独りで帰る事になっていた。
因みに犬猿の中であるイザークとカガリが体育委員になったのは、体育が得意なのもあるがディアッカとフレイに推薦されたからだ。
根が真面目な二人は断れず、そのまま体育委員となった。
勿論、イザークとカガリが一緒に帰る訳もなく、二人は自然に距離を取って帰り道を歩く。
イザークが先に歩き、カガリが少し離れて歩く。
夕暮れ時もあり、人通りは少なく二人の足音だけがはっきりと響く。
一定に繋がれる音。
二人の帰り道が別れるまでその音が続くと思われていた。
突如、鈍い音が響き渡る。
イザークが振り返るとそこには派手に転んだカガリがいた。
突っ伏して動かないカガリ。
いくら目の敵にしている存在とはいえ、倒れているカガリをイザークは放っておく事など出来ない。
慌てて駆け寄る。

「おい!大丈夫か?」

しゃがんでカガリを心配する。
手をかけようとした瞬間、カガリは起き上がりイザークの手をパシッと払い除ける。

「別に、これぐらい大した事ない。心配なんかするなよ。気持ち悪い…」

全く可愛げのないカガリの物言いに、本当に心配していたイザークも流石にカチンとくる。

「ああ、そう……心配して損した」

怒りに身を任せて言い放つと、くるりと背を向けて帰り道を歩き出すイザーク。
丁度、少し歩けば曲がり角。
イザークが角を曲がったのを確認したカガリは、我慢していた痛みに耐え切れず泣き出した。

「うぅっ……痛いょぅ……ふぇ〜ん……」

カガリは地べたに座り込んで泣きじゃくった。
膝は痛々しく捲れて、鮮紅色の血が滴る。
転んだ時、カガリは痛くて泣きたかったが、泣いている姿を他の誰よりもイザークに見られたくなかった。
だから、イザークに対してあんな冷たい態度を取ったのだ。

「ふぇん…ひっく……ひく」

ただただ、俯いて泣きじゃくるカガリ。
そんな状態のカガリに影が射し込む。
顔を上げたカガリの視界に入ってきたのは不機嫌に見下ろすイザークだった。

「!!……なっ、なんで!?」

道を曲がった筈のイザークが目の前にいる事が信じられないカガリ。
何度も目を瞬かせる。
しかし、泣き顔を見られた事を自覚したカガリは、この上なく恥ずかしくて顔を隠すように下を向く。

「ったく!痩せ我慢しやがって!!」

怒鳴りつけられたカガリは縮こまってしまう。
体を震わせおどおどとするカガリの姿に、イザークは不思議な感覚に囚われる。
いつも強気で悪態を吐いているカガリしか知らない。
弱々しく女の子っぽい姿など想像した事などなかった。
いつの間にか速くなっている胸の鼓動を隠しながら、イザークはカガリの手首を強引に握って無理矢理立ち上がらせる。

「ッ!!……」

痛さの余り顔を歪まし、まともに立てないカガリはふらつく。
イザークは倒れかけたカガリをしっかりと抱きとめる。
カガリも足元の不安から自然とイザークにしがみついた。普段の二人からは考えられない姿。
今の姿は小さな恋人同士そのもの。
暫くの間、抱き合っていたが、急に羞恥心を覚えたイザークはカガリからそっと離れる。

「おい!これを持て!!」

イザークは紅くなっている顔を見られたくなくて、外方向いたままカガリに自身の鞄とカガリの鞄を手渡す。
訳が解らないまま、カガリは二つの鞄を抱える。
イザークは軽く咳払いをした後、カガリを横抱きして持ち上げた。
所謂、お姫様抱っこというもの。

「きゃあ!何するんだよ!!」
「煩い!どうせ、歩けないだろ!!」

至極正面な事を言われたカガリに反論の余地はない。
大人しくなったカガリを抱えてイザークは近くの公園に向かった。



公園に到着したイザークはカガリを抱いたまま手洗い場へと進む。
そこで漸くカガリを降ろす。
水を出してカガリの怪我した足を綺麗にイザークは洗っていく。

「ウッ!……」
「痛くても、これぐらい我慢しろ!!」

イザークに怒鳴られ、仕方なく歯を食いしばって必死に我慢するカガリ。
全く反論しないカガリはイザークにとって新鮮だった。
目が合えば睨み合う。
口を開けば罵りあう。
そんな事を一年も続けてきた。
イザークの中でカガリは男のような存在だった。
けれど、今のカガリはどうだろう。
目を腫らして涙を流す顔、ビクビクと怯えた態度。
男では有り得ない。
実際、抱き上げた体は軽く柔らかい。
血を洗い流す為に触れている白い足は魅力的だった。
そんな邪な感情が一瞬よぎるが、頭を振って冷静さを取り戻す。
イザークが顔を上げると、その行動を怪訝な顔で見ていたカガリがいた。

「//……もう、洗い終わったから……行くぞ……」

イザークは再びカガリを抱き上げると、公園内にあるベンチに連れていく。
ベンチにカガリを降ろし座らせると、イザークは鞄から小さな救急キットを使って手当てをする。
痛々しかったカガリの膝はイザークの手によって綺麗に絆創膏が貼られた。
処置が終わって一息吐くイザークにカガリはじっと見詰める。

「……なんだ?」

強い眼差しで見詰めてくるカガリにイザークは訝しく聞く。

「……礼なんて……言わないからな」

ボソッと呟いた後、カガリはあからさまに顔を逸した。
いつもの可愛げの全くないカガリの態度に、イザークは再び頭にくる。
けれど、先程見せたカガリの女らしいところに心がときめいた事実をなかった事には出来ない。

「フン!貴様の礼など気持ち悪くていらん!!」

結局、出たのは憎まれ口だった。
イザークはベンチに置いていた鞄を持つと、カガリをおいて帰ろうとする。
しかし、イザークは急に引っ張られる感覚に襲われた。
振り返るとカガリが立ち上がって、自らの制服の裾を掴んでいた。
カガリは俯いていて表情は窺えない。
もごもごと口を動かしているが、声が小さすぎて何を言って解らない。
イザークは堪らず怒鳴ろうとした時、無理して立ち上がったせいかカガリはバランスを崩してイザークの方へ倒れこむ。
慌てて抱きとめて支える。

「おっ、おい!大丈夫なのか!?」

イザークは心配して声をかけるが、カガリはイザークの胸に顔を埋めたまま固まっている。

「おい!聞こえているのか!!」

再び呼び掛けるが、カガリの返答はない。
だが、カガリの手はイザークの背に回されてぎゅっとだきついた形になる。
驚くイザーク。
そして、漸くカガリが言葉を発した。



「……ありがとう」



聞こえるか聞こえないぐらいの本当に弱々しく呟いた。
密着しているので、はっきりとイザークの耳に入って来た。
カガリの態度に吃驚して何も出来ないイザーク。
すると、イザークの胸はどんと押される。
動けないカガリはイザークの体を押す事によって離れた。
真っ赤になった顔を見られたくないカガリは俯いたまま、すぐさま、イザークに背を向ける。
ベンチに置いてある鞄を取ると、足を引き摺りながら帰って行く。
呆然とその姿をイザークは見送る。
先程感じた互いの温もりは、二人の中に何かを芽生えさせていた。



「貴様はどうして、女物の制服着ているんだ?男物で充分だろ」
「なんだと!!おまえこそ帽子じゃなくて、皿を被ってこいよ!!」

朝からハイテンションで罵り合うイザークとカガリ。
2―Aいつもの名物である。

「ちょっと、カガリ。次は化学教室よ。早く行かなきゃ」
「イザークも早くしろよ。授業に遅れちまうぞ」

既に廊下へ出ているフレイとディアッカは互いの友達を呼ぶ。
因みに、教室内にはもうイザークとカガリしか残っていない。
その声に慌てて席に戻って教科書等を取りに行くイザークとカガリ。
それを見たフレイとディアッカは一足先に化学教室へ向かった。
イザークもカガリも追いかける様に教室を飛び出す。
走るイザーク。
しかし、昨日転んだカガリは走れない。
イザークはその事を気にしながら階段を下りる。
カガリも階段の所まで何とか早足でやってきた。
踊り場でカガリを見上げるイザーク。

「おい!気をつけろよ!!」

心配して一応声を掛けた。
昨日までのイザークなら有り得なかっただろう。

「煩い!おまえなんかに心配される筋合いはない!!」

カガリはいつものように強がる。
相変わらずの態度にイザークは呆れながらも、カガリが階段を下りるのを見守る。
手摺を持って階段を早足で下っていく。
足が痛いせいで普段とは違う下り方のカガリは、足を滑らしてしまう。

「きゃあぁぁ!!」

高い悲鳴をあげて階段を落ちるカガリ。
衝撃を覚悟していたが、小さな体に痛みを感じる事はなかった。
寧ろ、暖かく心地良い感触が全身を支配する。
見上げるとカガリはイザークに抱きかかえられていた。
その状態が恥ずかしいカガリはイザークの体を押して離れる。

「……助けてくれて……ありがとう」

背を向けたままボソリと呟くように言った。
昨日と全く同じ様な態度のカガリにイザークは自然と笑みを浮かべる。
「フン!これぐらい大した事じゃない。ほら、行くぞ!」

さも当然のようにイザークはカガリの手を握って階段へ進む。
驚くカガリだが、強く握られた手を離す事はなかった。
二人の距離は、たった一日で凄く近付いた。




10000hit記念
リクエストアンケート2位の
イザカガです♪

リクエストでツンデレ
との事だったので
管理人なりのツンデレに
してみました
ただ
ほぼツンツンしていただけの
ような気もしますが……(汗)
まぁ、イザカガが中学生なら
こんな喧嘩をしそうだなと
思って書きました
毎回、イザークが河童ネタに
なるのはご愛嬌です★

2009.2.28
2010.12.1移転










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