St.Valentine's Day2011

ピンクの包装紙に包まれ綺麗にラッピングされたモノ。

「もしかして、手作り?」
「えっ…あっ…ゴメン。買ったモノなんだ…」

カガリは情け無いのか所在なさげに俯く。

「そんなに気にしないで。手作りじゃなきゃダメって事じゃないんだ」
「でも…」
「君がプレッシャーを感じる事はないよ。手作りなら、今、食べて感想言わなきゃって思っただけだから。後で美味しく頂くよ」

アスランがニッコリと微笑むのでカガリはホッと息を吐く。
今、社長室のソファに座っているカガリ。
少し離れた場所に座って仕事をしているのは、この部屋の所有者で新興企業“ザフト”の若き社長アスラン・ザラ。
女子高生のカガリと年齢的に一回りも違うがこれでも2人は婚約している。
婚約と言っても恋愛からくるものではなく、家庭の事情からのもの。
カガリの父は世界的に有名な企業アスハグループの社長。
アスランがアスハとのコネクションの為に婚約したというのが世間一般の見方であり真実でもある。
それでも、アスランを狙っていた女性達からは多くの悲鳴があがった。
一方のカガリは幼少から大人のドロドロとした世界を見すぎて冷めた性格になっていた。
父から婚約話を聞かされても何とも思わなかった。
いずれ、よく知りもしない相手と婚約すると予想していたから。
カガリの感想は、まあまあ綺麗な男でよかったな程度だった。



本日は2月14日でカガリは一応名ばかりとはいえ婚約者にチョコを渡す為に来た。
本来ならその夜に2人でディナーの予定だったのだが、アスランに急遽仕事が入りキャンセルになった。
だから、ディナーの時に渡す筈だったバレンタインチョコを渡す為、学校帰りにアスランのいる会社に寄ったのだ。
そろそろ帰ろうとした時、カガリの携帯が鳴る。
相手は親友ラクスからだった。
用件だけ簡潔に伝えるとあっさり切れた。

「誰から?」

アスランが聞いてくる。

「ん、ラクスから。家で私様の友チョコ作ってるからおいでって」

カガリは屈託なく笑って答えた。
携帯を鞄にしまって立ち上がる。

「じゃあ、これで…」
「ああ、この埋め合わせはホワイトデーにするから」
「そんなに気にしないでくれ。あっでも、楽しみにしとく」

手を振ってカガリは社長室を後にする。
部屋外には護衛兼運転手のキサカが控えていた。

「もういいのか?」
「うん…あっ、ラクスの家によるから」
「了解した」

2人はエレベーターに向かう。
ボタンを押して待ってる途中に何となく携帯を取り出した。
その時、先程まで付いていたストラップが無くなっている事に気付く。

「あれ…ない…」
「どうした?」
「さっき電話に出た時、ストラップ落としたみたい…」

エレベーターが到着するがカガリは乗らない。
踵を返して社長室へと走る。

「カガリ?」
「あれ、大事なモノなんだ。キサカ、先に行ってくれ」

キサカ1人を乗せてエレベーターは閉まった。



社長室まであっという間に到着するとカガリはノックをしようとした刹那、室内から声が聞こえてきた。

「おかえりになられたのですね」
「ああ…」

声はアスランと秘書のようだ。

「わざわざ、チョコを届けに来られたんですよね」
「そうだ」

アスランの答えは素っ気無い。
カサッと包装紙の音がした。

「これって、凄い高いチョコですよ」
「そうなのか?甘いモノは苦手だからよくは知らない」
「普通の高校生じゃ買えませんよ〜」

女の笑い声が聞こえて何故かカガリはイラッとした。

「さすが、アスハのご令嬢ですよね」
「…何が言いたい…」
「そのままの意味です。社長も大変ですよね。あんな好きでもない子供を相手にしなきゃならないなんて不憫ですわ」
「……」
「私、大人の付き合いは心得ているつもりです。社長を必ず満足させてみせますわ。今日はバレンタインですもの」

明らかに変わった声色にカガリはムカつきを覚える。
アスランにいいよる女達の存在は知っていた。
自分の知らぬ所であれば、何があっても気にするつもりも詮索するつもりもなかった。
ただ運悪くその現場にいてしまった自らに一番腹が立った。
そっと扉から離れ帰ろうした瞬間、悲痛な叫びと凄い物音が聞こえてきた。
それは何かが倒れた音。
物騒な感じがしてカガリは堪らずドアを開ける。
そこには秘書の女が倒れ込んでいて、その様子をアスランが冷ややかに見下ろしていた。
どういう状況かよく解らないが、こけている女の元にカガリは近寄って助ける。

「大丈夫か?」
「カガリ、彼女の心配する必要はない」
「えっ…でも…」
「解っていると思うが君は今日限りでクビだ。手続きは此方でする。この会社に二度と来なくていい」

事務的に淡々と言い放つアスラン。
言われた女の秘書は逃げるように社長室を飛び出した。
カガリは開いた扉を見ながら遠ざかっていく足音を聞いていた。

「いいのか?」
「何が?」
「秘書を辞めさせて?」
「秘書の替りなら幾らでもいる」

秘書がいなくなった為、今から仕事を自らで行なわないといけないのでアスランはその準備をしている。

「…でも、辞めさせなくても…」
「秘書の仕事を勘違いしている人間はいらない」
「そっ、そう…」

これ以上の会話は意味がないと思ってカガリは止めた。

「それよりカガリはどうして戻ってきたんだ?」
「えっ…あっ…落し物を探しに」
「落し物?」
「うん、ストラップ。さっき携帯を使った時に落とした筈なんだ」

カガリは自らが座っていたソファの辺りに屈んで探し出す。

「ストラップなら俺が新しいモノを買ってあげるよ」
「ありがとう、アスラン。でも、あのストラップは特別なんだ」
「特別?」
「うん。大事な貰い物だから……あっ、あった!!」

ソファの下に潜り込んでいた銀色のストラップ。
天使のオーナメントがあしらわれている。
紐が切れていた為、カガリは大切そうに鞄へしまう。

「じゃあ、またな…」

用事を済ましたカガリは、開けっ放しになっている扉から出て行こうとした瞬間に扉が閉められた。
勿論、閉めたのはカガリではない。
驚いて振り返るとすぐそばにアスランの顔があって、光のない目で見下ろされている。
女の秘書の時に送っていた視線より遥かに冷たい。
驚き過ぎて声も出ない。
カガリに対してアスランの態度は紳士そのもので冷徹な雰囲気を感じた事はない。
恐怖に戦慄き押し黙っていると腕を力強く掴まれアスランの声が響く。

「誰に貰ったの?」
「えっ…」

言葉の意味が上手く脳に入ってこなくてカガリは困惑する。

「だから、その大事なストラップ。誰に貰ったの?」
「えっ?ストラップ?」
「そう、誰?男?」
「違うよ。あれは誕生日プレゼントにラクスから貰ったんだ。お揃いで…だから特別なんだ」

恐る恐る顔色を伺いながらカガリは言った。
その答えにアスランの表情が一変する。

「…そう、それは特別だね」

苦笑しつつ、いつもの紳士的な顔に戻る。
やや照れくさげに髪を掻いている。
不審な態度に前々からカガリが感じていた事が確信に近付く。

「アスラン…」
「何かな?」
「おまえ…もしかしてかなり嫉妬深いのか?」
「なっ//」

どうやら図星だったらしくアスランの顔は見る見る赤くなる。
意外ではあったがその兆候はよくあった。
それは携帯の相手を誰か必ず確認してくるというもの。
カガリは疚しさなどないので普通に答えていた。
逆にアスランへの詮索は全くしなかった。
婚約者といえども、そこに愛がないから嫉妬心など湧かない。
何故、嫉妬するか理解出来ないカガリの姿にアスランは苦笑いを浮かべる。

「……君にとって政略結婚かもしれないけど…俺にとっては違うんだ…」
「違う?」
「君はお見合いの席が初めての出会いだと思ってるかもしれないけど、俺は何度かレセプションパーティで君を見掛けているんだ」
「見掛けた……それだけで?」
「……その時、君に惹かれたんだ……でも、そんな事言えないだろ。三十路間近の俺が一回り下の君に一目惚れなんて…さ。それにロリコンなんて思われるのも嫌だし、気持ち悪がられるのも嫌だし……」

耳まで真っ赤にして年齢に似合わない純粋な反応に淡泊な心のカガリでも好感を持った。

「安心しろよ。浮気なんてしないから」
「……そういう意味じゃなくて……」

会話を遮るようにカガリの携帯が鳴る。

「はい……ゴメン、待たせてるな。ストラップ、見つかったからすぐ行く。じゃ」

携帯をしまってアスランが問うより先にカガリが答える。

「今のはキサカだよ。待たせてるから、もう行くな」
「…ああ、引き止めて…すまない…」
「いいよ。アスランの事、少しは理解出来たから」
「…そう?」
「うん、おまえの事、好きになれそうな気がする」
「えっ!?」
「今度こそ、じゃあな…それから、ホワイトデー楽しみにしてる。これは社交辞令じゃないから!」

最後に物凄い爆弾を落としてカガリは走っていった。

「//……はぁ、ホワイトデーのハードル、上がったな……」

困りながらもアスランの顔は笑みで溢れていた。




バレンタインっぽくない話ですが
一応バレンタイン記念話です

余りラブラブしてないのが
新鮮ですね
ここからラブが始まる
みたいな感じです★

2011.2.14










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