Athrun's2008@

在るのは不安。
そして、一握りの欲。
それこそが全ての意思を動かす絶対。
今のアスランを駆り立てた原動力。
目の前には聳え立つ白い建物。
鬼気迫る勢いでその中へと入って行く。
そんなアスランを迎えたのは、かつて共に戦いながら道を分かった少年だった。
彼の存在に毒気が抜かれる。

「レイ!?君、生きていたのか!!」

彼は戦場で散ったと聞いていたアスランは驚きを隠せない。

「はい、確かにレイですが、どちら様でしょうか?」

レイは至って真面目に応えた。

「いや、どちら様って、俺の事、覚えてないのか」
「残念ながら、存知あげません」

眉一つ動かさず言った。
どう見ても、レイ・ザ・バレルの筈なのだが、目の前にいる人間は違うと言う。
アスランは疑問に思うが、これ以上深く突っ込む事も出来ないのでその話をするのを止めた。
そして、本題に入る事にする。

「あっ…その…所長はおられますか」

アスランは本来の目的である所長を尋ねる。

「所長ですね、所長なら奥におられますよ」

レイは受付らしく整った顔で美しく笑う。

「会えますか」
「ええ、此方へどうぞ」

光る金色の髪を靡かせて、建物内を進んで行く。
アスランが訪れたのは研究所。
場所が表すが如く所内は何処までも真っ白だった。
白い廊下を進んだ突き当たりに案内される。

「此方に所長がおられます。交渉に関して、私は一切手伝えませんのでご了承下さい」

レイは礼儀正しくお辞儀をすると来た道を戻って言った。
その態度も、かつての仲間を彷彿させるが本人が違うと言う以上何も言えない。
微かな疑問を持ちつつも目の前のドアをノックした。

「開いているから、どうぞ」

中から低い声色が返ってくる。

「失礼します」

一言声をかけて、アスランはドアを開けた。
室内は真っ白で薬品等が置かれた棚が多数ある。
奥には机があり、白衣の人物が座っている。
後ろ姿で顔は解らない。

「あの、初めまして。アスラン・ザラと申します…SEED研究所の所長ですか」

アスランは恐る恐る白衣の人物に声をかけた。

「如何にも、私がSEED研究所の所長。ラウ・ル・クルーゼだ」

金色の髪をフワリと浮かせて振り返ったのは、かつてアスランの上司で2年前の戦いの元凶でもあった彼だった。

「クルーゼ隊長!!」

アスランは叫んでいた。
驚きの余りそれしか出なかった。

「確かに、クルーゼだが…君に隊長と呼ばれる筋合いはない」

仮面をつけており顔色は全く解らないが、声色一つ変える事なく応える。

「ええっ!?でも、姿形に声、その仮面もクルーゼ隊長そのものじゃないですか!!」

否定されてもアスランは信じられずにいた。
しかし、クルーゼはやはり冷静だった。

「君は私とよく似た人物を知っているかもしれないが、残念な事に私は君の事を全くもって知らない」

キッパリと言い切られ、返す言葉がないアスラン。
とはいえ、信じがたいのだ。
姿形が一緒で同じ仮面をつけた人物がもう一人いるなんて。

「でっ、でも…」

アスランは食い下がる。

「知っているかね」
「何がですか?」
「この世にはよく似た人間が3人いると、聞いた事はないか?」

不敵に笑いながら言った。
どこまでも冷静なクルーゼ。
考えを読み取る事が一切出来ない。
アスランは理解も納得も出来ないという不満を顔中に出す。
けれど、クルーゼは気にする素振りを見せる事はない。

「君が納得しようがしまいが、私には関係ない。用がないならお引き取り願えないかね。こう見えても忙しいのだよ」

突き放す様に言うと、背を向けて机の方へ向き直る。
置かれた資料に目を通し、完全に話を終わらせる。
冷淡なクルーゼの態度に慌てたのはアスラン。

「まっ、待って下さい…用があって此所に来ました」

その言葉にクルーゼは顔だけ振り返る。

「で、何かね」
「えと…その…」

アスランははっきり言えなかった。
相手が余りにもかつての隊長そっくりだから、自分を晒け出す事に戸惑っていた。
用があると言っておきながら、一向に目的を語らないアスランにクルーゼは痺れを切らす。

「何の用かはっきり言いたまえ。私は暇ではないのだよ」

完全に振り向いて冷たく言い放った。
表情は窺えないがクルーゼから漂うオーラは苛立っているのを感じ取れる。
完全に畏縮してしまい何も紡げないアスラン。
沈黙が空間を支配する。
ただただ、無駄に時が過ぎていく。
正に、蛇に睨まれた蛙状態。
それでも、アスランはクルーゼの様子を窺いながら、何とか言葉を紡ぐ。

「あの…その…くっ、薬を作ってくれると聞いて来たんです…しかも、どんな薬でも」
「如何にも。此所は新薬の研究所でもある。故に、どんな薬でも用意出来る」

クルーゼは机に肘をついて得意気に言う。
全体的に様子は相変わらず解らないが、視線はアスランを捕えている。

「それで、君は何の薬がご所望なのかね」

単刀直入に聞いてきた。

「その…………こっ」
「こっ?」

クルーゼが聞き返すと、再び、沈黙が支配する。
言い澱んでいては埒があかないと漸く悟ったアスランは思い切って言葉にした。

「興奮剤が欲しいんです!!」

とうとう言ってしまった事にアスランは顔を真っ赤にして俯く。
女の子なら可愛いかもしれないが、20歳間近の青年では可愛らしさは全くもってない。
もじもじとしているアスランをクルーゼは視界から外したくて、あからさまに顔を逸らし自らの机に向き直る。

「成る程、そういう事か…確かに言い澱むのは仕方ないかも知れんな。若いなら尚更だ」

一人納得して手に持っていた資料に目を落とす。

「あっ、あの…」
「皆まで言う必要はない。此方とて、その手の話はよく聞く。難しいものではない、すぐに調合しよう」

クルーゼは手を掲げてアスランの話を静止する。
徐に立ち上がり、資料を机に置いて自らは奥の扉に進む。

「しかし、興奮剤より、病気を直す薬の方が良いと思うのだが。君はどうする?」

薬品庫と思われる扉の前で立ち止まり、アスランに問うクルーゼ。

「ちょっ、ちょっと待って下さい。何の話ですか?」

アスランは急に納得して動きだしたクルーゼを疑問の目で見ていた。

「何って…君はあれなのだろう?」
「あれって何ですか?」
「性的不能…つまり、性交不全が君の悩みなのだろう?」

サラッととんでもない発言をするクルーゼにアスランは瞳が零れ落ちそうなぐらい目を見開いた。

「ちっ、ちっ、違います!!」

慌てて全力で否定するアスラン。

「おや、違うのか。私はてっきりそうだと思ったのだが…」

クルーゼは少し驚いた素振りを見せたが冷静に受け答えをする。

「では、興奮剤を何に使うつもりなのかね」
「あ〜、え〜と…」

改めて問われて、アスランはどぎまぎする。

「まさかとは思うが、犯罪行為に使うつもりではないだろうね」
「そんな事しません!」

再び、全力で否定する。

「使用理由を言いたまえ。そうでなければ、薬を渡す訳にはいかない」

はっきりと言いきられ、アスランは腹を括った。

「…恋人に使いたいんです」
「という事は、倦怠期という所かね」
「倦怠期とかじゃないんです。その、なんて言うか…いつも、俺ばかりが彼女を求めているので、たまには求められたいかなと思って…」

顔を真っ赤にしながら、アスランはとうとう白状した。
羞恥のあまり相手の目も見れず俯くが、藍色の髪から覗く耳も真っ赤だ。

「ふむ。理解した。それで身長と体重は?」
「身長と体重ですか?」
「そうだ」
「あ〜、え〜と、174cmで60kgです」
「…それは君の身長と体重だろ。君のなど聞いてはおらん」
「へっ?」

アスランは間の抜けた声を出す。

「君の恋人の身長と体重を聞いているのだ」
「……」

クルーゼが改めて聞くと何故かアスランは押し黙った。
またしても、沈黙が訪れる。
急に黙ってしまったアスランにクルーゼは苛立ちを覚える。

「私の言った事が聞こえなかったのかね」

苛々した感じで聞く。

「かっ、彼女の身長や体重を聞いてどうするんですか!!まさかとは思いますが変な事、考えてませんよね!」

露骨に嫉妬心を剥き出しにするアスランに、クルーゼは呆れ果てる。

「ちょっと、此方が聞いてるんです。どうするつもりなんですか」
「…どうもする事はない。君は薬とはどういう物か理解しているのか?」
「薬は薬でしょう」

さも当然という顔でアスランは答える。

「薬とは治療薬でもあり、毒でもあるのだよ。つまり、少量なら治療効果を発揮するが、多く飲めばそれだけ副作用が出る。君が求める薬は特にそういう傾向がある。だからこそ、体型にあった調合をしなければならない」

クルーゼの言葉にアスランは神妙な顔になる。
漸く落ち着きを取り戻したアスランにクルーゼは一息を吐く。

「解ったかね」
「はい、すいません」

アスランは頭を下げて素直に謝った。

「理解して頂けたらのならそれでいい。それで君の愛しい彼女の身長と体重は?」
「164cm48kgです」

クルーゼは白衣の胸元から髪を取り出しサイズを書き込む。

「それでスリーサイズは?」
「えっ、スリーサイズですか。確か…」

アスランは手で体のラインを表しながら思い出す。
そして、ハッと気付く。

「待って下さい!スリーサイズは関係ないでしょう」
「ふむ、脳は正常のようだな。これなら大丈夫そうだ」

クルーゼは不敵に笑って返し、奥の部屋へと消えた。



Aへ続く










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