Yzak's2008

人工世界を造られた夕陽が照らす。
本物とは違う。
けれど今はその太陽すら恋しい。

「はぁ……」
「なぁに、黄昏ちゃってんの」

振り返ればいつもの顔があった。

「ディアッカ!」

ディアッカは歩いてイザークの横に並ぶ。

「おまえらしくないじゃん」
「黄昏てなんぞおらん!!」
「どうせ、姫さんの事、考えていたんだろ」
「なっ//!?」

見る見ると顔は紅くなり、夕陽よりきっと紅い。

「照れんなよ。姫さんと婚約してるのは世界中の人間が知ってんだぜ」
「//……」
「会いたいなら、会いたいって言っちゃえば?」

ディアッカはおどけて言う。
その軽い言葉にイザークは睨み付ける。

「なっ!そんな事言えるか!!」
「どうして?」
「…アイツは、オーブの…いや、今や地球の代表でもある。世界平和の為に尽力をしているんだ。邪魔になど…なりたくない…」

目を伏せて俯く。
整えられた銀の髪がさらりと揺れる。

「姫さんも会いたがってるかもよ」
「……アイツにそんな暇はない」
「相変わらずお堅い事で〜」
「フン!」

辺りを静寂が包み込む。
暫しの沈黙を高い声が切り裂く。

「イザァァ〜クゥ〜!!」

それはイザークにとって何よりも聞きたくて堪らない声だった。
イザークとディアッカが振り返ると、金の髪を揺らして満面の笑みでカガリが走ってくる。

「なっ!?どっ、どうして貴様がここに!!」

カガリは嬉しさのあまり思いっきりイザークに飛び付いた。
勢い余ってそのまま倒れそうになるが、そこは白服。
カガリをしっかり抱き留める。
ディアッカは茶化すように口笛を鳴らした。

「えへ、会いに来ちゃった//」

頬を染めて嬉しそうに見詰めるカガリ。
さらにぎゅっと抱き締める。
カガリはとても嬉しそうだ。
抱き締められ呆然としていたイザークだったが、数秒で我を取り戻し顔は見る見る内に険しくなる。

「会いに来ちゃっただと!ふざけるな!!貴様はオーブの代表だぞ!!国家元首とあろう者が簡単に国を空けるなんてあってはならん事だっ!!」

イザークの怒鳴り声にカガリは驚いて瞬きしながら目を丸くする。

「聞いてるのか!貴様っ!!」

再び、カガリを怒鳴る。
最初、驚いていたカガリだったが、眉が徐々に下がり目には薄く涙の膜が張り出す。

「聞いてるよ!このバカ!!」
「だっ誰が、バカだ!!」
「うるさい!…何だよ…せっかく会いに来たのに!イザークのバカガッパ!!」

涙目のカガリはイザークが一番傷付く言葉を怒鳴りつけると、脱兎の勢いで走り去った。
イザークはあまりの展開に呆然としていた。

「何なんだ!アイツは…」
「あ〜あ、姫さん可哀想〜」

ディアッカがカガリの肩を持った事に、イザークはちょっとした嫉妬心を覚える。

「何故、貴様がアイツの肩を持つ?」

本人としては嫉妬心を隠して喋っているつもりだが、ディアッカにはバレバレで苦笑いしかでない。

「ん〜、今日が何の日か解れば、姫さんの気持ちが解るかもよ」

ディアッカは敢えて何の日か言わなかった。
自分で気付かなければ意味がないから。
言われてイザークは今日が何の日か考える。
一生懸命考えたが、イザークにはカガリがわざわざプラントに来る理由が思い当たらなかった。

「今日、何かあるのか」

イザークは真剣な顔でディアッカに問う。

「イザーク、マジで言ってんの!?」

あまりの鈍さにディアッカは目を見張る。

「俺が冗談嫌いな事、貴様も知っているだろ!」
「はぁ〜、マジかよ!」

ディアッカは頭を抱えて大袈裟に溜息を吐く。
まさかの展開に驚くが、ここで放置したらカガリが可哀想という事だけ頭に浮かんだ。

「いいか、よぉく聞けよ」
「ああ、聞いてる」
「今日は8月8日です。この日はイザークにとって重要な日です。それはどうしてでしょうか?」

ディアッカに問われてイザークは真面目に考える。
8月8日。
そこまで考えてはっとする。
今日が自らの誕生日だという事を。

「!まさかアイツ、俺の為にプラントへ来たのか!?」

イザークは驚いてディアッカを見る。

「ちょっと考えりゃ解る事じゃん」

ディアッカは笑って言う。
それとは対照的にイザークの顔は曇っていく。

「俺…アイツに酷い事を…」
「悪い事したと思ったら謝ればいいんじゃねぇの」

ディアッカは的確な意見を述べる。
その言葉にイザークは目から鱗が落ちたようだった。

「…癪だが、貴様の言う通りだな」
「俺なんかとだべってないで、早く追っかけた方がよくねぇ?」
「そうだな、すまない。恩に着る」

イザークはカガリが走っていった方向を追いかける。
ディアッカは走っていく後ろ姿を温かく見守った。



イザークがいたのはプラント軍の中枢部で、そこは外の景色が一望出来る場所である。
そこから離れてホールのような場所に出る。
辺りを見渡すがカガリはいない。
カガリが走り去ってから少し時間が経ってしまっているので、何処へ行ったのか解らない。
イザークは頭を抱えた。
そんな彼に近付く人間がいる。
オーブの軍服を纏い背が高い男。

「追いかけて来たのか?」

声を掛けられイザークは驚いて振り向くと、目の前には灰色より黒いの髪の男がいた。
今やカガリの父のような存在であり、兄のような存在でもあるレドニル・キサカ一佐だ。

「あっ……その…」

相手が相手なだけにイザークは動揺して即座に喋れなかった。

「申し訳ない」

いきなり謝られ、イザークは驚く。

「えっ…あの…」
「君の言い分は尤もだ」
「えっ!?」
「カガリから聞いた。君の言っている事は正しい。国家元首という立場であるにも拘らず、不注意な行動だ」
「…………」
「私が止められればよかったのだが…故に私も同罪だ。だから、申し訳ない」

深々と謝られ、イザークはたじろぐ。

「あっ、いや、その…わざわざ、俺の為に来てくれたのに俺は…」
「カガリが言ったのだ。誕生日は一年に一回ではない。その歳になるのは生涯に一度。だから、直接会って祝いたいと…」

カガリがそんな風に思ってくれているとは知らなかったイザークは、頭ごなしに怒った事を後悔した。

「出来るならカガリに祝わせてやって欲しい」
「……いいのでしょうか、俺はアイツの言い分も聞いてやらなかったのに…」

項垂れて俯くイザークに、キサカは優しく声を掛ける。

「ああ、構わない。破天荒なカガリには君みたいな聖人君子がちょうどいい。それに、君はカガリが選んだ男なのだから」

正直、コーディネーターである自分は認められてないのではないかと勘繰っていたイザークは目を丸くする。

「カガリならこの上の展望室にいるはずだ。姫の機嫌を直してやってはくれないか」

普段から真面目と聞いていた彼が冗談を言った事にさらに驚く。
だが、それが彼なりの気遣いだと解ったので、イザークは頷き愛しい姫の元へ行く為その場を後にした。



造られた夕陽は既に沈み、空は漆黒へと変わり幾千の人工星が瞬く。
辺りを暗闇が包む中、太陽ような黄金は何よりも美しく輝く。
イザークはその姿を目に止めて、ゆっくり歩いて近付く。
けれど、どう声をかけていいのか解らず、ある程度近付いたところで足が竦む。
暫くの間、静寂と沈黙が時を支配する。
先に声を発したのはカガリだった。

「勝手に来てごめん……おまえに連絡してから来るべきだったな」

振り返り笑って喋るカガリ。
その目元は紅く腫れ、涙の後があった。
イザークは自らの浅はかな行動を恥じつつ、謝る為にカガリに近付く。

「俺の方こそ悪かった……俺の為に来てくれたのに、気付いてやれなくて…」

カガリはふるふると首を振って、イザークの目を見詰める。

「ううん、おまえは悪くない。おまえが怒るのは当然なんだ。立場も考えず、勝手な行動した私が悪いんだ…」

小さな溜息を吐いたカガリは、再び口を開いた。

「バカだよな、キサカに止められたのにさ…モニターでお祝いすればよかったな…」

そっと視線を外し、寂しそうに頭を掻く。
悲しい顔をして微かに笑うカガリに、イザークは堪らず抱き締めた。
それは力強く。
カガリは吃驚してイザークを見るが、銀の髪に隠れて顔色は伺えない。

「違う……違うんだ…」
「イザーク?」
「本当は会いたかった…会いたくて仕方なかった」

思わぬ本音にカガリは目を見張る。
イザークは顔をあげて、愛しい人を見詰める。
普段は冷たい氷のような瞳だが、今は穏やかな海の色のよう。

「でも、貴様はオーブの代表で…俺は一軍人……容易く会う訳にはいかない。貴様の足手纏いになりたくなかったんだ…」
「足手纏いだなんて……」
「俺が勝手に思っていた事だ。貴様に相応しい存在にならなければいけないって、そればかり考えていた…」
「イザーク…」

イザークは再び、カガリを強く抱き締める。

「結局、俺は自分の事ばかり考えていただけなんだ。挙句に貴様を傷付けた。俺の方こそバカだ」

言葉を発した後、イザークはカガリと視線を合わせ笑いかけた。
漸く笑ったイザークにカガリも笑みで返す。

「イザーク」
「ん?」
「誕生日、おめでとう!」

極上の微笑みでお祝いの言葉を述べるカガリ。

「有り難う」

勿論、イザークも最上の微笑みで返した。
二人は互いしか見えず、ただ見詰め合う。
そのまま、時が止まっているような錯覚を感じる。
今、この場所は二人だけの物のはずだった。



ガタンッ!
離れた場所から、鈍い音が響いた。
二人は慌てて離れ音の方を見ると、そこには覗き見していてうっかりこけしまったディアッカがいた。

「何をしとるんだ!貴様は!!」
「いや〜、仲直り出来るか心配で〜」

ディアッカはばつが悪そうに頭を掻きながら立ち上がる。

「貴様に心配される筋合いはない!!」
「確かに杞憂に終わったみたいだけど…」
「だけど、なんだ!?」
「仲直りのチューぐらいするかな〜と思って」
「貴様〜!!そんな破廉恥な事を人前でするか!!」

イザークは瞬間湯沸かし器のように沸騰し、ディアッカの元へ走り出す。
身の危険を感じたディアッカは脱兎を超えるマッハの勢いでその場から逃走した。
あまりの速さにイザークは追い掛けられず立ち止まりしかめっ面でいると、後ろから引っ張られた。
よろけたイザークの頬に柔らかな感触がした。
それが、カガリからのキスだと解ったイザークは、また瞬間湯沸かし器のように沸騰した。

「きっ、貴様!なっ、何をする!?」

驚きすぎてイザークの声は裏返る。

「//……プレゼント//」

カガリを見やれば、耳まで真っ赤に染まっている。

「プッ、プレゼント!?」
「うん、慌てて来たからおまえのプレゼントを買ってないんだ。だから……誕生日プレゼントの代わり…//」

カガリはイザークを上目遣いで見ながらはにかむ。
その姿に照れたイザークは素気ない態度をとってしまう。

「だからと言って、こんな誰が見ているかわからん場所で…」
「ごめん……」

怒られた子猫のように小さくなり、涙ぐんでしまうカガリ。
またしても、傷付けてしまったと思ったイザークは行動で態度を示す。
カガリを力一杯掻き抱き、腕の中に納める。
軽く咳払いをしてから口を開いた。

「ゴホンッ……人前でキスするのは………………結婚式の時だけだ、解ったな」

イザークは優しく微笑んで言った。
カガリも笑顔でそれに応える。

「……うん//」

堅く抱き合った二人を人工の月だけが祝福していた。




甘ーーーい!!byスピードワゴン
一応、甘い話にしたつもりです(笑)
イザカガだとやたら
カガたんが積極的ですね
ちょっと、新鮮です
いつもは受け要素高い
カガたんですから
イザカガ話を書き上げられて
管理人は満足しております♪

2008.8.8
2010.11.26移転










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