Kira's2008

5月18日。
それは僕にとって幸せな日であり、呪わしい日でもある。
白いテーブルクロスの上には持ち寄ったお菓子やジュースが所狭しと置かれている。
その中でも一番目立つのは苺がたっぷり飾られた誕生日ケーキ。
チョコレートで出来たプレートには祝われる人の名が書かれている。

キラ&カガリ。

簡略化された蝋燭は数本だけケーキの上に立てられている。
一本づつ、火は点けられ、照明が落された。
暗闇の中に浮かぶオレンジ色の火を、僕とカガリは同時に吹き消した。
大勢の拍手に包まれ、僕達の誕生日は祝われた。
真横に居るカガリを見れば、本当に嬉しそうな顔をしている。
僕の視線に気付いたのか、カガリは僕の目を見て綺麗に笑う。
だから、僕も微笑み返す。
カガリとは違う笑顔で。


切り分けられた誕生日ケーキは、一人づつ配られる。
その中で、カガリはチョコレートプレートを半分に割ろうとしていた。
どうしてそんな事をするのかと聞けば、カガリはキラの分を取ったら悪いからって笑いながら言う。
僕とカガリの名前の入ったただのチョコレートプレート。
ただ、それだけの物。
特別な物ではない。
でも、それを割られるのが、僕は嫌だった。

僕がチョコレートプレートを譲ると、カガリはすごく驚いた顔した後、満面笑みで感謝の気持ちを言葉にした。
二人の名が書かれたチョコレートプレートは、あっという間にカガリの口に放り込まれた。
僕の大好きな笑顔で美味しそうに食べるカガリ。

次にケーキを食べだす。
幸せそうに食べる姿は堪らなく可愛い。
自分の分のケーキをぺろりと平らげたカガリは、それだけじゃ物足りないらしく目の前に広がっているお菓子の山に夢中だ。
口元には食べ損ねたクリームが口の端についている。
それにも気付かず、目に止まったクッキーを頬張る。
僕は顔に付いてるクリームを取ろうとカガリの頬に手を伸ばした。
でも、その手はカガリに触れる事はなかった。
僕よりも先にカガリの口元のクリームを拭った者がいた。
僕の親友で、カガリが誰よりも愛しく思っている存在。

アスラン。

一度はカガリに対して、拒絶ともとれる発言をしたにも関わらず、アスランはカガリの元へ帰ってきた。
そして、今度は間違えないようにアスランはカガリのそばにいる事を望んだ。
だから、僕はアスランに場所を譲った。
何時でも、カガリの傍らにいられるように。
アスランは拭ったクリームを口に含む。
さも、自然に。
カガリはアスランの態度に、頬を林檎のように染めて恥ずかしがる。
そんな二人を皆が囃し立てる。

僕はその光景をただ見ている。
それは僕が望んだ未来。
僕にはそれしか出来ない。
僕の本当の願いは叶わない。
僕は………カガリを愛せないから。


先の戦いの中で知らされた真実は僕を奈落の底へと落した。
僕の中に宿っていた想いは封印せざるえなかった。
全てが終わった時、僕は区切りをつけた。
愛する事が出来ないなら、カガリを助ける存在になろうと。
でも、僕にはその場所すらなかった。
カガリのそばにはアスランがいたから。
それでも、僕はよかった。
カガリが望んだ未来なら。
けれど、世界はカガリの望んだ未来を与えてはくれなかった。

カガリは望んで苦しい未来を選んだ。
自らが犠牲になる事で世界を変えようとした。
健気なカガリ。
自分で決めた未来をカガリは、きっと後悔はしなかっただろう。
だけど、僕は耐えられなかった。
苦しむカガリを見ていられない。
だから、僕はカガリを連れ去った。
カガリに望まぬ未来など進んで欲しくない。
例え、僕のモノにならなくても。
永遠に、愛される事がなくても。


今、ある現状は僕が望んだ未来のはず。
殊勝な事を考えて自らを戒めていても、僕はアスランに嫉妬している。
もし、僕とカガリが双子では無かったなら。
そうすれば、カガリは僕を選んでくれただろうか。
そんな事ばかり、考える時がある。
特にそれは今のように、カガリとアスランが睦まじくしている姿を見ている時だ。

僕は何一つ、成長していない。
僕は結局、諦めきれていない。


僕は独り、バルコニーに出る。
見上げる空は何も変わらず蒼く、頬に当たる風は気持ちいい。
降り注ぐ太陽の光は眩しいのに、僕の心は雨が降り出しそうな曇天。
きっと、永遠に晴れる事はない。

全ての命は等しく生まれ、そして、死ぬ。
けれど、僕は特別な存在として生まれた。
それは、人が冒してはならぬ罪深き存在でもあった。
罪には必然と罰が下る。
世界中の誰よりも愛してる人を愛してはいけない。
それが僕が生まれた罰。
死すれば、僕はこの罪から解放されるだろうか。


「こんな所に居た」
「…カガリ…」
「今日の主役が何してんだよ」
「主役は僕だけじゃないでしょ」
「私達が主役だろ」
「そういうカガリは、どうして此処に来たの?」
「キラが出て行くのが見えたから、追っかけてきた」
「……どうして、追っかけてきたの」
「キラが難しい顔をしてたから」
「難しい顔?」
「そっ。キラも私と一緒で解り易いぞ。この誕生日会、楽しくないのか?」
「そんな事ないよ」
「だったら、どうして難しい顔してるんだよ」
「う〜ん、そんなつもりはなかったんだけどね。ただ、ちょっと、考え事してただけだよ」
「キラ」
「何?」
「悩みがあるなら、言ってくれ。力になれるか解らないけど、言葉にするだけでも少しは楽になるから」
「…………」
「…………」
「フフフッ!」
「なっ!何で笑うんだよ!!」
「だって、カガリが余りにも必死だからさ」
「当たり前だろ!弟の心配するのは姉として当然だ!」
「…おとうと…」
「そう。私が姉で、キラが弟だからな。これは絶対だぞ」
「……そうだね。僕達は、この世界で唯一の家族だからね」
「そうだぞ。私とキラはたった一人の血の繋がった家族なんだからな」
「うん…」
「…血は繋がっていなくても、私はお父様を家族だと思っている。ヤマト夫妻もキラにとって家族だと思う。でも、私とキラは双子で、唯一無二の存在なんだ」
「…唯一無二?」
「私はキラがいるから独りじゃないって思える。苦しくて辛くてどうにかなりそうな時、キラが助けてくれて本当に嬉しかった」
「…………」
「何も出来なくて、必要のない私。生きている意味が無いんじゃないかと思った事もある。でも、キラはいつだってこんな私を助けてくれた」
「必要ないなんて…そんなこと…」
「違うよ、キラ。この世界にカガリという存在は居ても居なくてもどっちでもいいんだ。必要なのは、カガリ・ユラ・アスハという名を持った人間なんだ」
「…………」
「たまにな、自分の価値が解らなくなる。私は私として生きてもいいのだろうかって。それとも、カガリ・ユラ・アスハとしてしか、生きてはいけないのだろうかって思う」
「…………」
「だから、キラと一緒にいる時、私は私でいられる。ただのカガリで、キラの姉でいられるんだ」
「カガリ…」
「…変な事、言っちゃったな。誕生日にこんな暗い話もないよな」
「ううん、カガリの本音が聞けて嬉しいよ」
「そっか……なら、次はキラの番だ。ほら、お姉ちゃんに何でも言ってみろ!」
「……そうだね。僕は……」
「僕は……」
「忘れちゃった」
「……はぁ!?」
「悩み、無くなっちゃった」
「そんな訳ないだろ!!」
「だって、無くなっちゃったんだもん」
「キ〜ラ〜!!」
「そんなに怒らないでよ。無くなったって事は僕の悩みは大した事なかったんだよ」
「…………」
「あ〜あ、そんな顔をしたら、可愛い顔が台無しだよ」
「いいんだよ!別に、可愛くないんだから!!」
「カガリは可愛いよ。あの堅物のアスランをメロメロにしたんだから」
「なっ//そっ、そんな訳あるか!?」
「フフ、照れちゃって、可愛いね。カガリは」
「う〜//、キラ、おまえ、そんな事言って恥ずかしくないのかよ」
「だって、本当の事だもん」
「…バカ//…」
「フフフ♪」



どんな苦しみ、どんな悲しみも、それが永遠に続くものではない。
明けない夜が無いように。
それをカガリが教えてくれた。

僕がカガリを愛せなくても、僕という存在がカガリの助けになるのなら、僕は生きている意味を持つ。
唯一無二の存在。
カガリにとっての僕。
僕にとってのカガリ。

僕は生きていいと。
僕は存在していいと。
僕は既に、許されていたんだ。

初めて、心から祝おう。
生まれてきて、ありがとう。
僕と僕の唯一の家族で、最愛の人。




誕生日話が
まさかこんな暗い話なるなんて
思ってもみなかったです(汗)

管理人としてはキラカガは…
キラ→カガリの構図が好きです
黒いキラ様も好きですが
今回は比較的灰色ですね

2008.5.18
2010.11.26移転










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