シンカガ編

「シン!受け取ってくれ!」

そう言って手渡されたのは、可愛らしいラッピングされたハート型のプレゼント。

「これって…」

シンはまじまじとプレゼントを見詰める。

「バレンタインチョコレートだ♪」

ラッピングを外して、現れたのは歪でハート型のようなチョコ。

「これって手作り?」
「まっ、まあな//シンの為に作ったんだ!」

カガリは恥ずかしいのか、頬を染めてもじもじとしている。
その姿があまりに可愛らしく抱き締めたい衝動にかられるが、それが出来ないのがシンだったりする。
しかも、照れ隠しに減らず口を叩いてしまうのである。

「これ、形悪いよな。味も期待出来ないんじゃないのか?」

余計な一言にカガリは頬を膨らまし、不機嫌な顔をする。

「む〜、そんな事言うなら食べるなよ!!」

シンからチョコを取り上げようとするカガリ。
カガリの手を軽くかわし、シンは意地悪く笑う。

「ヘン!一度もらった物は返さない主義なんだよ、オレは!」

そう言うと豪快な音をならしチョコを笑顔で食べた。
例え形がおかしくても、味は意外に美味しいのが通例。
が、現実は甘くなかった。



『!!!!何だっこれっ!!どうしてこんなにマズいんだ!!チョコレートって溶かして形を変えるだけじゃないのかよ!マズい、マズくて、マズすぎる。どうやったらこんなにマズいものを作れるんだ!ハッ!?自分流をだす為に何か入れたんだ!!絶対、そうだ!間違いねぇ〜!!!!』

カガリの手作りチョコはそれは驚くほどのマズさだった。
呆然としているシンの顔に影が差し込む。
そこにあったのは太陽の女神のごとく微笑むカガリだった。

「シン、おいしいか?」

大きな瞳を輝かせて見詰めてくる。

「ああ……おいしいよ……形は……最悪だけどな」

カガリの顔にシンは嫌味をいいながら、つい嘘を吐いてしまった。
しかし、顔は完全に引きつっている。

「本当か?嬉しいよ。昨日、丸一日使って作ったんだ。頑張ったんだぞ!」

嬉しそうに笑って、昨日を思い出しているカガリ。
シンは何とか相槌を打ちながら、残ったチョコをどうしようか考えていた。

『これは食べるべきだよな…おいしいって言っちまったし…後、3分の2ぐらいだし…ちょっと我慢すればいいんだ。そうさ、あれぐらい耐えられる!ガンバレ!オレ!!』

自ら叱咤激励し、シンは思いきって、残りのチョコをバリバリと音を立てて食べ尽くした。

「かっ、形ぐらいまともに作れよな…」

味には一切触れず、シンは脂汗をかいているが悟られないように大袈裟に振舞う。

『やったよ、オレ!頑張ったよ、オレ!!正に、自分で自分を褒めてあげたい!!』

心の中で独り感動に震えているシン。
そんなシンの顔を下から覗き込みふわりと笑うカガリ。

「全部食べてくれて、嬉しいよ!実は、料理とかした事なくて本見ながら作ったんだけど、それだけじゃ私らしさがでないと思って…チリソースを入れてみたんだ♪」

『やっぱりか!!そんなもの入れるなよ!バカ!アスハのバカ!!……そういうバカな所も好きだけど//……だぁっ!!そうじゃねぇ!…普通に作ってくれよ〜(泣)』

シンは泣いた、心の中で。
そんなシンを尻目にカガリは笑顔で話を続ける。

「でな、ちょっとチリソース入れすぎたから甘くしようとプリンも入れたんだ!」

『どうして固形物を入れたんだ!?そこは生クリームにしてくれ!!いや、生クリームとチョコを裸の体につけて「バレンタインのチョコだぞ!食べて♪」ってそういうのがよかったんだよ!!』

自らの願望をあくまで心の中で叫ぶシン。
そんな邪な考えを抱いているとは知らないカガリは話を続ける。

「それからな、ママレードとかイチゴジャムとかブルーベリーとか入れたんだ」

もはやシンは何が入っていても驚かなくなっていた。

「で、甘い物ばかりだとダメだと思って、体にいいもの入れてみたんだ」
「…体にいいもの?」

嫌な予感がしたシンは恐る恐る聞いてみた。

「うん、テレビで見たんだ。センブリっていうお茶。すっごく体にいいらしいぞ!」

『それだ!!何を入れても、結局センブリしか残ってねえよ…(泣)』

マズさの原因を知ったシンは項垂れていた。
そんなシンの顔に再び影がかかる。

「それで……いっぱい作ったんだ♪」

手渡された紙袋に入っているのはラッピングもされていない歪なチョコの山。

「食べてくれるだろ!」

シンの大好きな顔でねだるカガリ。
もはや、拒否権などなかった。

『ああ、オレ……死ぬかもしれない……でも、オレ、今、幸せ……』

その後、シンが一週間以上寝込んだのは言うまでもない。










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