約束D

急にカガリとイザークの雲行きが怪しくなってくる。

「はいはい。ヒートアップしない」

ディアッカが2人の間に割って入って宥められると、途端大人しくなる。
手のかかる大きな弟と妹みたいな感じだなと、密かに思っていた。

「折角、会えたんだから。怒ってる顔より、笑顔、え・が・お!」

カガリとイザークは互いを見詰め合うと、元の笑顔に戻る。

「怒鳴ったりして、悪かったな。ディアッカ」
「うん、別にそれくらいで俺は目くじらたてないぜ」
「そうだな。貴様はいつも飄々としてる」
「それ、褒めてる?」
「ああ、貴様らしい、という事だ」
「じゃ、褒めてるって事で♪」

イザークとディアッカは真の友達だと、横で見ているカガリにもよく解る会話だった。

「そんじゃ、本当に俺、帰るわ」
「ああ、今日はすまなかったな。仕事も大変だったのに」
「あ〜、クレーム?俺、口から生まれてきた男だから、そういうの得意なんで大丈夫!」
「ええっ!!そうなのか!?」

ディアッカの軽いジョークを真に受けたカガリは心底驚く。

「カガリ、信じるな!ちょっとした冗談だ」
「えっ、そうなの?」
「はは、姫さんって、ホント純粋」
「全くだな」

イザークとディアッカが楽しく笑う。
笑われた事でカガリは拗ねるが、笑い声につられてすぐに同じ笑顔になる。

「じゃあね、姫さん」
「うん、またな。ディアッカ」

改めて帰る挨拶をして手を振るディアッカにカガリも手を振る。
暗い夜道を帰っていくディアッカ。
イザークとカガリは並んで見送る。
すると、急に振り返ったディアッカが口を開く。

「そうだ、姫さん。イザークが嫌になったら俺の所においで♪」

最後の最後でとんでもない爆弾を落とすディアッカ。

「なっ!!何、言っとるんだ貴様は〜!!」

激昂するイザークを尻目にカガリは笑顔で答えた。

「うん、解った〜!覚えておくな〜!!」



漸く2人きりになったイザークとカガリ。
イザークはカガリの手を引き、懐かしい公園の中に戻る。
何も言わず進んだ先には、ブランコがあった。

「此所には大切な想い出があったのに、嫌な思いさせてしまったな」

申し訳なさそうにカガリを見るイザーク。
カガリは違うという意味を込めて首を振る。

「ううん、全然、嫌な思いなんてしてない」
「…カガリ」
「だって、イザークは迎えに来てくれた」

嬉しそうに笑うカガリ。
愛らしい笑顔にイザークは救われる。

「そうか…」
「うん」

ふと、イザークはカガリと繋いでいる手を見た。
離すのも憚れるが、恥ずかしさもあって握り締めるほど力を入れれなかった。
イザークにとって脆い繋がりは、正に今の2人の状態のような気がした。
じっと手を見て固まっているイザークにカガリは不思議がる。

「どうした?イザーク?」
「あっ…いや、何でもない」

不思議と同時に不安な目でカガリはイザークを見ていた。

「ホントにか?」
「ああ、本当に何でもない…それより、どうしてカガリがこの町にいるんだ?ディアッカから引っ越したと聞いていたが…」
「うん…6年前、お父様の仕事で此所プラントからオーブに行く事になったんだ」
「オーブ…遠いな…」

プラントとオーブは飛行機なしでは行けない距離がある。

「本当は行きたくなかったくど、お父様がどうしてもって言うから」
「…置いてはいけないだろう。大切な娘なら尚更だ」
「イザーク…」
「…どうして…」
「?」
「どうしてあの時、引っ越しするならすると、言ってくれなかったんだ?」

それはイザークが一番に思っていた疑問。
引っ越しすると言ってくれれば、カガリを失った時の喪失感はそれほど大きくなかったかもしれない。

「それは…」

カガリは俯いて黙り込んでしまう。

「カガリ…」

優しく声を掛けるが、完全に下を向いてしまっている。

「……」
「カガリ?」
「…ひくっ…だって、イザークにさよなら言うのが嫌だったんだ!!」

顔を上げたカガリは大粒の涙を流しながら叫んだ。
6年前の当時を思い出したのか、カガリの瞳は涙が溢れだす。
堪らず、イザークの胸に飛び込む。
イザークは泣いているカガリをしっかりと抱きとめた。
泣き崩れているカガリをイザークは優しく頭を撫でる。
カガリは胸に顔を埋めてしがみつく。
暫く、その状態が続いたが、泣き終えたカガリは漸く大人しくなる。

「ゴメン、泣いちゃって…」
「いや、気にするな。思い出させて悪かった。カガリも辛かったんだな」

また優しく、そして愛しく頭を撫でる。

「…でも、イザークとの約束があったからオーブに行っても頑張れた」

潤んだ瞳のまま微笑むカガリは、驚くほど綺麗だった。
そこには小学生のカガリなどいなく、まだ幼げだが艶やかな1人の女性がいた。

「…そうか…それで、どうして今、ここにいるんだ?」
「えっ…それは…」

問われると急にしどろもどろになるカガリ。
そんな仕草は子供っぽい。

「カガリ?」
「…その…昨日、5月18日だっただろ?」
「ああ、カガリの誕生日だったな」
「覚えててくれたのか」
「…すまない。ディアッカに言われるまで忘れてた」

イザークは嘘をつかずに素直に謝った。

「…そっか……仕方ないな…」

寂しげに笑うカガリにイザークは必死に謝る。

「本当にすまないっ」
「いいよ……それでな、16歳になったから、イザークのお嫁さんになる為…」
「なる為?」
「家を飛び出して来た!!」
「えっ…ええっーーー!!」

イザークは絶叫していた。

「とっ、飛び出して来たって!!」
「うん!1人で飛行機に乗って帰ってきたんだ!!」

カガリは笑顔だが、イザークの顔は青くなる。

「だから、早くお嫁さんにしてくれ!約束しただろ!!」

しがみついて頼み込むカガリにイザークは即答出来ない。
イザークが思案を巡らしていると、カガリは急に大人しくなる。
すっとイザークから離れた。

「…カガリ?」
「……やっぱり、無理だよな…本当は解ってたんだ。学校の皆にも言われたから。子供の時の約束なんて意味がないって…」

飴色の瞳を再び潤ませて、イザークを見上げた。
カガリの顔は笑っていた。
けれど、引っ越す直前に会ったあの時のよう。

「ちょっと待て、カガリ。何を言ってる!!」
「ゴメンな、イザーク。本当にゴメン」

後退りしていくカガリを、逃がさない様にイザークは腕を掴む。

「謝るな!俺は…俺は…」
「…イザーク?…」
「俺はっ!……嘘も吐かないし、約束も破らない!!」

真剣な瞳でイザークはカガリを見詰める。

「…でも、お嫁さんにしてくれるって、一度も言ってない!!」
「それはカガリが高校生だからだ!」

イザークの発言にカガリはきょとんとする。

「…高校生……だから、駄目なのか?」
「そうだ。16歳になったばかりなら、高校も入ったばかりだろ」
「うん…」
「そんな中途半端な状態では駄目だ」
「だったら、高校を辞める!」
「…もし、本当に高校を辞めたら、俺は貴様に失望する」

はっきりと言い切られて、カガリは動揺する。

「えっ…私のこと嫌いになるのか…」
「高校を辞めたらの話だ」

涙も勢いもなくなり意気消沈してしまうカガリ。

「そんな顔をするな。高校を卒業すればいいだけの話だ」
「……卒業したら…お嫁さんにしてくれるのか?」
「ああ//約束通り、カガリを俺の……お嫁さんにしてやる//」

カガリは何度も瞬きする。
手で顔を叩いたり、抓ったりして今の状況を確かめた。

「何してるんだ?」
「ゆめ…夢じゃないよなって、思って…」

イザークはカガリの体を力一杯抱き締める。
抱き締められたのは、初めて会った時以来だった。

「これでも夢か?」

イザークの問い掛けにカガリは堪らず抱き締め返す。

「ううん。夢じゃない。私、頑張って高校卒業してイザークのお嫁さんになる!」

飴色は三度潤うが、歓喜の表情が溢れていた。
暫く抱き合って余韻に浸っていたが、カガリは急にイザークから離れた手を掴む。

「今度こそ、お嫁さんにしてくれるっていう約束。3度目の正直だ!」

そう言うと指切りをしようとする。

「まっ、待て!」

イザークはカガリの手を掴んで指切りをさせないようにした。
カガリは驚き、イザークを凝視する。
その表情は明らかに不安を表していた。
口では約束してくれたにも拘らず、指切りをしない事にカガリはどうしようもない程の寂しさに襲われる。

「…どうして…指切りはしてくれないんだ?」
「いや、そういう訳じゃない…」

やや俯き加減であるイザークの状態では顔色を窺えない。
イザークの動きも止まったままでカガリはどんどんと苦しくなる。
すると、イザークは大きく深呼吸した後、カガリの顔を熱い視線で見据えた。

「カガリ…」
「ん…なんだ、イザーク」

カガリの声は少し震えていた。
先程は幸せだったのに、今は胸がざわめく。

「約束は違う形にする」
「違う形?」
「そうだ。カガリももうすぐ大人だ」
「うん」
「だから//…大人の約束の仕方を教えてやる。だから…目を瞑れ//」

イザークの顔は火照っていて顔が赤く染まっていた。
カガリは状況にいまいちついていけてなかったが、イザークに言われたので大人しく瞼を下ろす。
目を閉じているカガリを前にして、イザークは心情を遠慮なく吐露出来た。

「カガリ…本来なら俺が迎えに行かなければならなかったのに、まさか、貴様の方から俺の元に来るとは思わなかった…けれど、今度は俺がカガリを迎えに行くから…それまで、大人しく待ってろ……好きだぞ//カガリ//」

柔らかな唇に寄せてイザークは誓いを立てた。
カガリはキスに驚きはしたものの、従順に受け入れた。
イザークとカガリは初めて出会った公園のブランコで約束のキスを交わした。



Eへ続く










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