問題児の心境

俺の名はシン・アスカ。
中学の頃から目つきが悪いだの態度がでかいなど、勝手に因縁つけられ喧嘩をふっかけられていた。
正直、自分で言うのもなんだが我慢強い性格じゃない。
むしろ、売られた喧嘩は買うタイプだ。
この間もどこかの奴に絡まれて、頭にきて喧嘩をした。
弱い奴ほどよく吠えるタイプであっという間に終わった。
奴は病院送りで俺は停学だった。
漸く、停学が解かれて久々に学校へ来た。

「かったるい」

校内でも人気のない芝生に寝転びながらぼうっと空を見上げ、煙草を吹かしぽつりと言う。
学校に行くのも本当はめんどくさいが、家にいてもうざがられる。
早い話、行き場所がない。
目を閉じて静寂の中に聞こえる学校の雑音を聞いていた。

「おまえ!何してるんだ!!」

いきなり破られた静寂。
目の前には女がいた。
俺に近付いてくる女はかなり珍しい。

「アンタ、誰?」
「そんな事はどうでもいい!未成年が煙草を吸うな!!」

そう言うと女は俺から煙草を取り上げてると、地面に落とし火を消し拾い上げて校舎に戻った。
俺は何が起きたのかいまいち理解出来ず、風変わりの女の後ろ姿をぽかんと見ていた。
煙草を捨てて来たのか、その女はまた俺の前にやって来た。
金色の髪に山吹色の勝ち気な瞳。
顔は中性的で体形は細身というより、筋肉質で均等のとれたまさに理想的な姿だ。
黙ってれば綺麗な女だと思う。
なのに、俺に対して物怖じもせず睨みつけてくる。

「もう、二度と吸うなよ!」
「やだね。見ず知らずの女に言われる筋合いはない」
「なにっ!!」
「俺がどうしようとアンタには関係ないだろ」
「確かに関係ないが、未成年が煙草を吸うな!」
「ハッ!知ったこっちゃないね」

俺はな勝ち気な女の目の前で煙草を取り出し火をつけ、更に一服吸うと煙を顔にかけてやった。
忽ち、女の顔が歪んだのを俺は見下し笑いながら眺めていた。
すると、女はまたしても俺から煙草を取り上げ火を消したかと思えば、俺の胸ポケットに入れていた煙草の箱とライターまで取り上げた。

「何すんだ!俺の煙草を返せ!」
「おまえの煙草!?」
「どう考えても、俺の煙草だろ!」
「何言ってるんだ!親の金で買ったくせに!!そんなに煙草を吸いたければ自分で稼げるようになってからにしろ!!」
「っ!?」

正論すぎてこの俺がぐうの音も出なかった。

「これは責任持って捨てといてやる」

相変わらず強気な瞳に俺は何も出来なかった。
丁度、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。

「金輪際、煙草を吸うなよ!早くおまえも教室に戻れ!!」

言うだけ言うと、女は走って校舎に戻って行った。
喧嘩でも、口喧嘩でも負けた事のない俺が初めて完膚無きまでに負けた。

「フッ、ハハハッ!面白れえ女!」

自分でも驚くぐらい笑っていた。



学校に来ても楽しいと思う事は一度もなかった。
だが、昨日の今日だからか、初めて何かに期待している俺がいた。
授業に出る気は無かったが何となく出席していた。
周りは迷惑そうに蔑んだ目で俺を見る。
そこで気付いた。
あの変わった女はこんな目で俺を見ていなかった事を。
馬鹿がつくぐらい真っ直ぐで汚れていない強気な瞳。
喧嘩で絡む視線は鬱陶しい事この上ないけど、あの目で睨まれるのは悪い気はしない。
ああ、そうか。
あの女に会いたいんだ、俺は。
答えは出ていた。
あのくそ真面目っぷりの性格からして、授業をサボるなんて有り得ない。
だったら、昼休みまで暇を潰すだけ。



そして、待ちに待った時間が訪れた。
俺は教室を後にして昨日と同じ場所に行く。
よく考えたら、こんな人気の少ない場所にあの女が再び現れるのかと疑問が湧いたが、名前も知らなければ学年すら知らない。
でも、どこかできっと来るという甘い期待を抱いている俺に俺自身が驚く。

「ハハ、どうかしてるな。俺は…」

自嘲気味に笑い、胸ポケットから煙草を取り出し一服する。
昨日と同じように寝転んでぼうっと空を見上げいた。

「おまえ〜!!」

聞こえてきたのは女にしては低く、男にしては高い声。
まさに昨日聞いた声。
起き上がると昨日と全く同じ状態だった。
俺が望んだ展開に思わず笑みがもれた。
が、女はそんな事気にも止めず、俺から煙草を取り上げて火を消す。
その姿に俺はますます笑いそうになり、堪えるのに必死だ。

「っ!?、おまえ何がおかしい!!」
「いや、昨日と同じだなと思ってさ」
「なら、わかってて吸ってるのか!おまえは!!」

俺の言葉が気に入らないのか、睨んでた瞳はさらにきつくなる。
他の人間ならムカつく事間違いないが、この女だとそんな気ならないから不思議だ。
昨日と同じ展開にするべく俺は胸ポケットに手を入れる。
女は目聡くそれに気付き、俺から煙草を取り上げるために俺に手を伸ばす。
待ってたと言わんばかりに俺はその手を掴み、女を自分の方へ引き寄せた。
そのまま覆い被さるように芝生へ押し倒した。

「わぁ!何するんだ、おまえは!!」
「何って押し倒しただけ」
「退けよ!」
「やだ」
「はぁ!?」

じたばたと暴れるがそこは男の俺と女のコイツとの差。
どうにもならない。
それでも必死にもがいている姿はいじらしいと思う。
そんな事を考えている自分にまた笑ってしまう。

「っ!!また、笑いやがって!何が可笑しいんだよ!」
「ん?いや、可愛いなと思っただけさ」
「はぁ!?おまえ、頭おかしいんじゃないのか?」
「そう?俺、嘘は言わないんだけど」

俺は覆い被さっていた体をそのまま抱き締める。
目の前にある健康的な首筋に唇を寄せた。

「ひゃあ!!」
「へぇ、そんな声も出るんだ。意外」
「うっうるさい!早く退けって!!」

女の言葉を無視して俺は女の柔らかな感触を堪能する。
諦める事を知らず、俺の下で抵抗する女の姿に俺はほくそえんでいた。
自分で硬派を気取っている訳ではないが、正直、女は鬱陶しい生き物だと思っていた。
少し怒鳴った程度で泣くし、都合が悪くなると女だという事を全面に押し出して非難してくる。
だけど、この女は怒鳴っても怯まないし、まして泣くなんて事もしない。
それに女だという事を持ち出したりもしない。
悪くないと思う。
俺は抱き締めていた手を離して、体を起こし芝生に手をつき女の顔を覗き込む。
金の髪は芝生に散らばり、山吹の瞳は俺を睨む。
俺は怯えを知らず睨み続ける綺麗な顔を上から見下ろし眺めていた。

「おい!そこで何をしている!?」

見詰め合っていた空気を一人の男の怒鳴り声が切り裂いた。
そちらを見ると紺色の髪と緑色の瞳をした男が立っていた。

「ザラ!?」

女は体を起こし、その男に向かって声を掛ける。

「アスハ!そいつは札付きの悪だ。すぐにそいつから離れろ!」

ザラと呼ばれた男は、汚い物を見るように俺を見下げている。
教師や警察とか権力を持つタイプの人間だと瞬時に悟った。
一方、女のほうはいまいち理解してないようで疑問の目で俺を見ていた。
女の表情に苦笑しながら俺は後ろから女を抱き締めた。

「なっ、はっ、放せ!」

女は少し振り返って睨みながら怒鳴る。
俺は女の耳元に口を寄せてそっと囁く。

「俺はシン・アスカ。1年。アンタは?」

自己紹介をすると女は限界まで目を見開く。

「おっ、おまえ!!年下だったのか!?」

意外だったが女は俺より年上らしい。
いつもの自分なら絶対に自分から名乗らないが、女の自尊心を突けばきっと名乗ると思っていたから。
だから、自分から名乗った。

「普通さ、名乗ったら名乗り返すのが常識じゃねぇの?」
「えっ、あっ、すまない。私はカガリ・ユラ・アスハ。2年だ」

女もとい、アスハはわざわざ謝って自己紹介をしてくれた。
俺はその姿に自然と笑みが零れた。

「そっ、アスハね。覚えたぜ。俺、いつもここにいるから。会いに来て」
「はぁ!?どうして会いに来なきゃいけないんだよ」
「あれ〜、俺が煙草吸っててもいいんだ」
「なにぃ〜!おまえっ!!」

アスハは本当に予想通りの反応をしてくれる。
睨みつける瞳はザラと呼ばれた男と違い、本当に真っ直ぐで透き通っている。
汚れを知らぬ山吹の…いや黄金の瞳。

「だから、毎日、俺から煙草を取り上げに来いよ」

これからの未来を頭に描きつつ、俺は後ろから抱き締めたままアスハの頬に唇を落とす。

「ななっ!何するんだよ!おまえ!!」
「ん?挨拶代わりかな」

俺は含み笑いをしてアスハの体を放した。
その時、感じたのは冷たく嫉妬を含んだ視線。
そちらを見やれば、ザラと呼ばれたいた男が俺を不機嫌そうに睨んでいた。
瞬時に男が何を考えているのかわかった。
あの男もアスハに気があるという事。
蔑んで睨む瞳に俺も冷笑を浮かべて返す。
昼休みの終わりを告げるチャイムが沈黙を破る。

「アスハ、昼休みは終わりだ。戻るぞ」
「えっ、ああ、そうだな」

男が声を掛け、アスハは立ち上がり、男の元に駆け寄って行く。
その途中にアスハは振り返る。

「おい、おまえ!…アスカだっけ。ちゃんと教室に戻れよ!」

やはり、昨日と同じ事を言ってアスハは男と校舎に消えた。
その光景に俺はまた独り笑っていた。
ただ、一つ違うのはアスハが俺の名を呼んだ事。

「楽しくなりそうだな」

独りになった俺は空を見ながら呟く。
空には黄金に輝く太陽がある。
俺は手を伸ばし太陽を掴むように手を握りしめる。
こんな風に手に入れてみせるよ、俺だけの太陽をさ。




この作品は『生徒会長の心境』と
対となってます
書いたイラストから
ネタにしました
ちなみにイラストは
完成してません(笑)

2007.9.1

下書きのイラストは
没になりました(泣)

2010.10.29移転










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