黄金の獅子

「シン…おまえは戻れ」
「嫌です。こればっかりはアスハ将軍の命令でも聞けません」
「……」
「オーブの底力をプラントの奴等に見せてやりましょう!!」
「フッ……バカだな…おまえは」
「将軍には言われたくありませんね」
「減らず口が…もう二度とオーブに戻る事はないぞ。解ってるのか?」
「そんな事の俺を含めた全兵士が覚悟していますよ」
「解った……もう何も言わない。物共!我に続け!!」
「はい!!」



「戦況はどうなっている」
「オーブ軍はほぼ壊滅させました。残っているのはアスハ将軍率いる黄金の獅子の一団だけです」
「そうか」
「後、数時間もあれば片付きます」
「いや、獅子の首は俺が狩る」
「皇子自らが赴かなくとも…」
「レイ…俺の楽しみをとる気か?」
「いえ、その様な事は…」
「なら、黙ってついて来い!!」
「御意」



黄金の獅子。
それはカガリ・ユラ・アスハ将軍の異名。
輝く黄金の甲冑を身に纏い、華麗な槍さばきで戦場を白馬で駆け抜ける姿から自然と呼ばれるようになった。
それを迎え撃つのは、赤の甲冑を纏い無敵の強さを誇る青馬に跨がるプラントの皇太子アスラン・ザラ。
緋太子と呼ばれ恐れられている。
緋色は鎧の色と返り血の両方の意を表していた。



オーブ軍は戦力の差から圧倒的に不利な状況であった。
が、団結力の硬いアスハ将軍の一団はなかなか潰せない。
常勝軍団のプラント軍も手を焼く。
そこへ、緋太子ことアスラン皇子が現れる。
波が引くように、アスラン皇子とアスハ将軍の2人の間に兵がいなくなる。

「そなたが黄金の獅子、カガリ・ユラ・アスハ将軍か?」
「いかにも。貴殿はプラントの皇太子とお見受けする」
「ああ、アスラン・ザラだ」
「無敗の緋太子に会えて光栄の極みです」
「俺も黄金の獅子に会えて嬉しいよ」
「……貴殿の命、オーブの平和の為、貰い受ける!!」
「それは出来ん話だな…何故なら、俺が負ける事は有り得ない!!」
「やってみなければ解らぬ!!」

黄金の槍が高く振り上げられた。
剣がそれを受け止める。
ぶつかりあう槍と剣、何度も金属音が鳴り響く。
繰り広げられる戦いは何人も入れぬ緊迫感が支配する。
一太刀、一太刀に魂が込められていた。
一瞬の気の緩みが命取りになるから。
槍が鋭く突けば、剣は流れるように切り上げる。
長く続くと思われた一騎打ちは、アスラン皇子が黄金の獅子唯一の弱点を見抜いた事で終わりを告げる。
距離を縮めて接近戦に持ち込み、アスラン皇子はアスハ将軍の利き手を攻め槍を弾き飛ばす。
空に舞った槍を見事に受け取ると、アスハ将軍の愛馬に目掛けて打ち込む。
痛みに嘶く白馬は主を落とし倒れる。

「ルッ、ルージュ!!」

愛馬に駆け寄るアスハ将軍に剣が迫る。

「馬より自身の心配した方がいい」

切っ先が黄金の兜を捕らえると軽く弾いて落とす。
通り名と同じ金色の髪が現れる。

「ほう。異名に相応しい見目の持ち主とはな…」
「……」

剣の刃が白い首に当てられ、アスハ将軍は死を覚悟し目を瞑る。

「アスハ将軍!!」

蹄を強く慣らしてシンが助けに向かう。
それを狙って鋭く矢が放たれた。
身を捩って避けるシンの頬を鏃が掠って緋色の雫が滴る。
アスラン皇子の右腕レイがシンを威嚇した。

「動かない方がいい。レイは弓の名人だから……次は外さない」

不敵に笑うアスラン皇子と無表情のレイ。
シンは悔しそうな顔でアスハ将軍の身を案じる。

「さて、アスハ将軍。二択をさせてやる。ここでオーブ軍諸共朽ちるか、身も心もこの俺に捧げるか、そなたはどちらを選ぶ?」
「ふざけるな!私が忠誠など誓うものか!!さぁ早く殺せ!!私はここで死を選ぶ!!」
「フッ、先程二択と言ったが、そなたの選択肢は最初から一つしかない。軍門に降らぬと言うなら、降らすまで…レイ!……そこの小僧の…首を取れ」

冷酷に言い放つ。
目線の先はシン。
弓が引かれ鏃が狙う。

「そう簡単にやられてたまるか!!」

シンは手綱を操って弓で狙ってくるレイに馬ごと飛び掛かる。
矢は外れ、シンは剣をレイに目掛けて振り降ろした。
しかし、鉄の弓で受け止められる。

「残念だが、俺は両利きだ」

弓を持った右手で剣を防いだまま、左手で腰に添えられた剣を抜きシンを弾き飛ばす。
衝撃にシンは馬上から振り落とされる。
レイの剣がシンの首を狙う。

「止めろ!!」

アスハ将軍は悲痛な声を上げる。

「そんな言葉でレイは止められない…答えは一つだ」
「クッ……」
「可愛い部下を見殺しにするのか。黄金の獅子よ」
「…………忠誠を……貴殿に忠誠を誓う!!だからっ!!」

アスハ将軍の返答にアスラン皇子は満足気に笑う。

「レイ…そこまでだ」
「…心得ております」

シンの首に刃を当てたまま動きを止めるレイ。
どこまでも上をいく強さにシンは悔しさの余り唇を噛む。

「忠誠の誓いは知ってるな」

アスラン皇子が上から見下ろしたまま問う。
アスハ将軍は小さく頷く。
アスラン皇子の前にアスハ将軍は跪く。
そこへアスラン皇子の剣が差し出される。
剣の刃に両手を添える。
口付けを捧げる事が忠誠の証。
アスハ将軍の唇が触れる直前にシンが声を荒げる。

「そんな事する必要はありません。アスハ将軍!!俺は死なんて恐れてはいません!オーブの魂を!誇りを捨てないで下さい!!」

必死の訴えにアスハ将軍の動きが止まる。
明らかに動揺し思い悩む姿にアスラン皇子は舌打ちする。

「チッ……あのバカの言い分を聞いてそなたは死を選ぶのか?」
「……」
「確かにあの程度の譲歩では心揺れるか……ならば、そなた1人の命でオーブを助けてやると言ったら…どうする?」
「!!!!」
「お待ち下さい!皇子!!軽々しくその様な事をおっしゃられては!?」
「黙れレイ!俺に指図する気か?」

鋭い視線で威圧するアスラン皇子。
レイは押し黙る。
例え、誰であろう容赦しない。
それが緋太子。

「さあ…どうする。この俺がこんなにも譲歩してやったのだ。出す答えはたった一つだよな…黄金の獅子よ」
「…先刻の言葉に偽りはないな」
「そなたの態度次第だ」

交差する金と翠。
アスハ将軍は大きく呼吸して目の前にある剣に口付けを落とす。

「これでそなたは俺のモノだ」
「……」
「黄金の獅子として最後の仕事を与えてやる…オーブ軍を撤退させろ」

言われてアスハ将軍は徐に立ち上がる。
白いマントを翻して、レイから解放されたシンに向き直る。

「シン…」
「アスハ将軍…」
「全軍を率いて撤退せよ」
「嫌です!!この命尽きるまで俺は、俺達は戦います!!」
「これは命令だ」
「聞けません!!」
「命令だって言ってるだろ!!」
「オーブの誇りがある限り俺はっ!!」
「最後の命令だ…オーブの将軍として…頼むから全軍率いて撤退してくれ…この通りだ」

頭を垂れるアスハ将軍にシンは何も言えなくなる。
長い沈黙後、シンが重たい口を開く。

「解りました…」

一言述べた後、シンは愛馬に跨がりオーブ全軍に向き直る。

「全軍!撤退する!!」

後ろ髪引かれる思いでオーブ軍は撤退を開始する。
それを見ながらシンもゆっくりと馬を進める。

「シン…」

後ろから呼び止められる。

「…アスハ将軍、俺は貴方を尊敬してます。ここで別れる事がとても悲しいです…」
「私もだよ……シン……オーブはおまえが守ってくれ」
「…………この命ある限り、必ず」

最後の言葉を交わして、一瞥くれるとシンは撤退していく。
アスハ将軍はただそれを悲しげに見送った。
姿が完全に見えなくなるとアスラン皇子も動く。

「レイ…此方も撤退せよ」
「仰せのままに」

レイはプラント全軍を引き連れて戻っていく。
その場に残ったのは2人。
黄金の獅子と緋太子のみ。
互いを視線に捕らえて向かい合う。

「なぜ、そなたが負けたか解るか?」
「……」
「それは……女だからだ」
「ッ!!!!」
「俺が見抜けぬと思ったか?」
「……」
「そなたは強かった…が、どんなに努力したところで、男と女の力の差は歴然。絶対に……勝てない」

揺るがない自信の元に言い放つアスラン皇子。
反論の言葉もでない。

「さて、その黄金の甲冑を捨てていっつもらおうか?」
「……」
「勿論、拒否権など最初から存在しない」

言われるがままアスハ将軍は、身に纏っていた黄金の甲冑を一つ一つ外していく。
残ったのは白一色の服だけ。

「ククッ…色気のない格好だな…まあいい、これからは俺が美しく着飾って可愛がってやる」
「……私は身を捧げても、心を捧げるつもりはない」
「身も心も捧げろと言った筈だが…」
「……」
「フフッ…でもまあ、黄金の獅子を飼い馴らしていくのも一興だよな。カガリ」




CPアンケからネタを頂きました
敵国皇子アス×将軍カガです
設定条件から
かなりシリアスな話になりました

因みにアスラン皇子の異名
緋太子はかの有名な
エドワード黒太子から頂きました
アスハ将軍の異名は
そのまんまの黄金の獅子で★

2011.3.3










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