お見合い@

「ふぇえ〜ん……」

カガリは親友の胸に飛び込む。

「ああ、もう。鬱陶しい。何なのよ」

手厳しい言葉を投げ付けるのは親友のフレイ。

「フレイ〜…私はもう、駄目だ〜…うぇ〜ん……」
「抱き付いて、いじけられても、意味解んないのよ!」

全く持って容赦はない。
ちっとも優しく慰めてくれない親友にカガリは顔を上げる。

「実は……私……」

哀しげな顔でフレイの顔を見詰めてくる。
正直、フレイはこの顔に弱いのである。

「何?はっきり、言いなさい」
「私……」
「わたし?」
「お見合いさせられるんだ!!」

大きな声で叫べば、クラス中の注目を浴びる。
全ての視線を一身に浴びるフレイは羞恥にかられる。

「ちょっと、落ち着きなさいよ!恥ずかしいじゃない、バカガリ!!」
「うぅっ、バカガリって言うな!!」
「何よ!アンタにピッタリなあだ名じゃない!!」
「うわ〜ん、フレイのバカ〜」

ぽかぽかとフレイの体を叩く。

「ああ、本当に鬱陶しい。それより、お見合いって、マジなの?」
「マジに決まってるだろ。じゃなきゃ、おまえに言わない」

確かに冗談でもこんな話をカガリが思いつく事はない。

「ふ〜ん…」

一通り驚いた後、フレイは至って平静な態度をとる。

「ふ〜んって、何かないのかよ。可哀相だねとか、私が何とかしてあげるとか…」
「あのね、私に一体、何が出来るのよ!」
「それは、そうなんだけど…」
「お見合いすれば。アンタみたいなお転婆、もらってくれるなんて有り難いじゃない」
「フレイ!!私はっ!!」
「それが嫌なら告っちゃえば」
「ふえっ!!」
「フラれるの覚悟で告っちゃえばいいじゃない」
「そっ、それは//」
「どうせ、お見合いさせられるんだから。いいタイミングじゃない」
「……そんな簡単に言うなよ……」
「カガリは告白もせず、のこのことお見合いするんだ」
「のこのこって…」
「のろのろの間違いだったかしら…」
「うっ……」
「アンタの家は私の家よりも超おハイソなんだから、お見合いから逃げられる訳ないでしょ」
「………」
「だったら、告白が上手くいって、彼に助けてもらうしかないじゃない」
「……フラれたら、どうするんだよ……」
「そんなの決まってるじゃない。諦めて、お見合い相手と結婚しちゃいなさい」
「うぅっ……望み、薄すぎる……」
「仕方ないじゃない。でも、告白するのと、しないのとじゃ、気持ち的には大違いよ」

言い切ったフレイから、カガリは少なからず勇気を貰った。



超お嬢様学園の高等部に進んだカガリはその日に一目惚れをした。
それは担任のアスラン・ザラ。
整った顔つき、優しげな物腰、全てが完璧な男性だった。
一目惚れしたのはカガリだけではない。
大人の男性に免疫のないお嬢様方は皆、彼に恋をした。
が、結果は散々であった。
傷付けないようにしながらも、丁重なお断り。
誰も、彼の心を捉える事が出来ない。
教師と生徒である以上、当然の結果と言えばそれまでである。
そんな話を耳にすれば、カガリも彼への思いを封印せざるえなかった。
そこへ舞い込んだのが、お見合い話。
持ってきた父にカガリは猛烈に反対したが、意見など通る訳がない。
泣き付ける相手が親友のフレイしかおらず、愚痴を零せば思い切って告白しろと返された。
とはいえ、カガリには迷っている暇などない。
お見合いが今日、その日なのだ。
授業前にフレイから言われた事がカガリの頭の中を支配していた。



そして……
放課後が訪れた。
職員室の前でカガリは立ち止まっていた。
カガリにとって特別でも、今日という日は全く普通の日なのできっかけを見出だせない。
考え倦んでいると、他の教師が怪訝な顔して職員室に入っていく。
白い目で見られてもカガリは悩みまくっていた。
このまま、家に帰れば有無を言わせずお見合いさせられるのだから。

「……ひとこと……一言、だけ言えばいいんだ…それだけ言えば……」

ぶつぶつと下を向いて呟くカガリ。
後ろから来る人物の顔など見えてない。

「アスハさん……何をしているのですか?」
「わきゃっ!!」

よく聞いた声にカガリは、驚きのあまり素頓狂な声が飛び出す。

「クスッ、そんなに驚かなくても…」

彼は美しく笑いながらカガリに声をかける。
恥ずかしい場面を見られてカガリの頬は熱くなる。

「あっ//…ザラ先生……」
「はい、何ですか」
「はっ//話がっ……あります//…ちょっとだけ、聞いてもらえますか?」
「ええ、構いませんよ」

カガリが目眩を起こしそうな笑顔で彼は頷いた。
行き着いた場所はいつもの教室。
窓から夕日が差し込み、教室全体を赤く染める。
カガリはその赤に染められながらも、自身の中から色付く赤にも染まっていく。
夕焼けを見ながらカガリは、なかなか切り出せずにいた。
簡単に言える言葉ではない。
もじもじして言い淀んでいると、彼は優しく声をかける。

「どうしました?アスハさん…」
「あう、ザラ…先生//…」
「用があったんじゃないんですか?」
「そっ、そうなんです……けど……」
「けど?……」
「//……」

やっぱり言えず、カガリは真っ赤になって黙り込んでしまう。
やれやれと彼は困ってしまうが、決して急かしたりせずカガリの言葉を待つ。
彼の優しさこそ、好かれる要因である。
ぐるぐると頭の中で言葉は回っていた。
ちょっとの勇気があれば、音となって口から零れるだろう。
言葉の波を塞き止めているのは勿論、他ならぬカガリ自身。
最悪の結果を考えてしまえば、思いを溢れさせる事など容易ではない。
けれど、今日という日しかチャンスはない。
悩みに悩んだ挙句、カガリは勇気を出す。
顔を上げて、誰よりも大好きな彼を見詰める。

「ザラ先生!……私っ!!」

カガリの思いは届く事がなかった。
何故なら…

「カガリ!!こんな所にいたのか!!」
「キッ、キサカ!!どうして、おまえが此所にいるんだ!?」

言葉を遮ったのはカガリのボディガード兼御付きの仕事をしているレドニル・キサカ。
いきなり、教室に現われたのだ。

「どうしてって、カガリを探していたに決まっているだろ」
「さっ、探したって……」
「ちっとも、帰ってこないからGPSを使って居場所を探したら、まだ、学校に居る事が解ったから迎えにきたんだ」
「迎えにって……まさか……」
「ウズミ様が、お待ちかねだ。さっ、早く家に戻るぞ」
「まっ、待ってくれ!私には言わなきゃならない事が!!」
「着替えもしなければならないんだ。ここで、時間を食ってる訳にはいかない」

カガリよりも、彼よりも、大きなキサカは片手でカガリを抱えるとそのまま教室を出て行く。

「放せよ!!放せってば!!私はっ!!」

じたばたと暴れるがキサカから逃れる術はなくどんどんと彼から離れていく。

「ザラ先生!!私は先生の事がっ!!」
「アスハさん、またね」

彼はカガリの思いなど知る由もなく笑顔で見送った。



美しい着物はこの時の為に用意された。
それに似つかわしくない顔をしているのはアスハ家の令嬢カガリ。

「なんて顔をしとるんだ、カガリ」

父であるウズミに叱られてもカガリの機嫌は直らない。

「私はお見合いなんてしたくないんだ!!」
「何度言ったら解るんだ。そなたに拒否権などない!!」

意地っ張りな親子は周りも気にせず睨み合う。
超一流ホテルのロビーの視線を一気に浴びる。

「ウズミ様、場所をお考え下さい」

一番、冷静だったキサカに窘められる。

「う、うむ」

キサカに促されて目的地へと向かう。

「カガリ、そなたが何と言おうとこの見合いは必ず成功させる!!」

ウズミは意気込んでいた。
ホテルの別館にある庭付きの和室に入り、ウズミとカガリは相手方を待っていた。
慣れない正座でカガリの顔は引きつる。
離れた場所からししおどしの音が聞こえてくる。
カガリ達も予定の時間から送れてきたが、先方も送れているようだった。

「なんだよ!全然、来ないじゃないか!!」

痺れを切らしたカガリは正座を解く。

「これ、カガリ!!はしたない事をするでない!!」
「遅れてくる奴にどうして私が痛いを思いしてまで正座しなきゃいけないんだよ!!」

完全に足を伸ばして寛ぐ。
言っても聞かないカガリにウズミは頭を抱えていた。
そこへ、二つの足音が近付く。
襖が開かれると一人の男性が入ってくる。

「すまない、ウズミ。遅れてしまったな」
「おお、来てくれたか。よかった、待ちくたびれたではないか」

ウズミは立ち上がって、先方へ赴く。

「いやぁ、本当に申し訳ない。息子の仕事で約束の時間に間に合わなかった」
「いやいや、仕事ならば仕方あるまい。ささ、入ってくれたまえ」

ウズミはいそいそと和室へ促す。
カガリは全く興味が涌かず、相手方を見ないようにしていた。
正座をするのは嫌だが、足を伸ばしっ放しにするのもはしたないので横座りをする。

「ほほう、彼がおぬしの息子か。予想以上の好男子ではないか」
「ウズミ、そんなに褒めるな。息子が図に乗りよるわ。はははっ」

いつの間にか団欒し始めた両家の親達。
カガリは苦々しい思いで聞いていた。
俯いている為、相手の顔は全く見えてない。
相手方も黙っているので、どのような人物かさえ思い描く事も出来ない。

「しかし、ウズミ。そなたの娘も器量良しではないか」
「自慢する訳ではないが、男手一人で育てた割には綺麗に育ったと思っておる」
「かなりの親馬鹿発言ではないか?」
「はは、おぬしもであろう?」
「言えておる……」
「「ハハハッ!!」」

どこまでも親は子供の事で盛り上がる。

「おおっと、すまない。つい、盛り上がってしまったな」

漸く状況を理解したウズミ。

「さっ、カガリ。ご挨拶しなさい」
「……カガリ・ユラ・アスハです……」

父に促されて仕方なく挨拶をする。

「ほう、お転婆と聞いていたが、なかなかどうして淑やかな令嬢ではないか」

その言葉にウズミの顔はやや引きつる。
カガリは淑やかなのではなく、ただ、不機嫌なだけなのだ。

「そなたも、挨拶をしなさい」
「はい、父上」

初めて聞いたお見合い相手の声は、どこかで聞いた事のある声だった。
カガリが思い出していると、答えは簡単に出た。

「アスラン・ザラと申します。宜しく、カガリさん」

名を呼ばれて思わず顔を上げると、先程、学校で別れた彼その者であった。

「えぇっーーー!!ザラ先生っ!!」

つい、声を上げて指差すカガリ。

「これ!指差すでない。カガリッ!!」
「あっ、ごっ、ごめんなさい……」

怒られて慌てて大人しくなる。

「ほう、カガリ嬢と我が息子は既に知り合いだったか。なぜ、言わなかった、アスラン?」
「それほど、重要だと思わなかったので…」
「しかしだな、知り合いとなればこのような形ではなく他の手段もあったはず…」
「それより、ここは若い者だけにしてくださるのが定番なのでは?」

彼は笑顔で父に言い切る。

「うっ、うむ。では、ここはアスランに任せて我々は出ようではないか。ウズミ」
「それもそうだな。では出ようかパトリック」

親2人は揃って部屋を退室する。

「カガリ」
「はいっ!?」

父から去り際に声を掛けられ、咄嗟に出た声が裏返る。

「粗相をするでないぞ」

どうしても見合いを成功させたいウズミはカガリに念を押す。

「そんな事する訳ないだろ」

父との会話に地が出るカガリ。
その姿にウズミは頭を抱える。

「大丈夫です。お見合いは成功しますから」

彼は笑顔でウズミを見送る。
そして、部屋にはカガリと彼の2人きりになった。



Aへ続く










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