プリン

「あれ、ザラ。まだ、いたんだ」

扉を開けて自らの教室に入るカガリ。
既に、空は綺麗な橙色に染まっている。

「…いたんだって……君を呼び出したのは俺だろ」

やや不機嫌気味な感じで答えるのは、カガリと同じクラスで弟キラの親友アスラン・ザラ。

「やっ、その……ほら、約束の時間からかなり遅れちゃったし…もう、帰ったかと思って……」

カガリがアスランから呼び出されたのは放課後。
けれど、カガリはそれを忘れてシン達とグラウンドでバスケを楽しんでいた。
途中で約束を思い出し、一応教室に戻ってきたのだ。

「……君がこの場所に来ない事があっても、俺が君より先に帰る事はないよ」

アスランが真っ直ぐな目で見て言うので、カガリは堪らず視線を逸らす。

「そっ、そう…………で、何の用なんだ?」

漂う空気がカガリにとってあまり居心地がよくない為、何とか話を切り上げて帰ろうと考えた。
虚空を見詰めてアスランの話を待つ。
が、アスランは黙ったまま一向に喋らない。
沈黙が続く中、カガリは耐えきれず逸らしていた視線をそっとアスランに戻す。
アスランは困ったような顔して何か言い淀んでいる様子だった。
カガリは不思議そうに見詰めるが、相変わらずアスランは一言も発しない。
このまま放って置けば帰れない気がしてきたカガリは、思い切って声を掛けようとした。
しかし、沈黙を破ったのはカガリでもアスランでもなかった。
それはカガリの携帯だった。
驚くカガリとアスラン。
慌てて携帯に出る。

「あっ、もしもし?」
「あ〜、カガリ?」

声の主はキラだった。

「キラ!?」
「ねぇ、カガリ。今、何処に居るの?」
「今?……学校」
「ええ!!まだ、学校に居るの?」
「うん……」

カガリの声は急に小さくなった。
横にアスランがいる事を思い出したからだ。

「それより、何か用があって、携帯掛けてきたんだろ?」
「あっ…そうなんだけど…カガリが帰ってくるの遅いから心配しているのと…………カガリのとろけるプリン、食べちゃった♪」
「何だって!!」

今出せる限りの声を張ってカガリは叫んでいた。

「どうして、食べちゃうんだよ!帰ったら食べようと思ったのに!!」
「ゴメンって…何かで埋め合わせするから〜」
「何言ってるんだよ!あれはラクスから貰った超高級とろけるプリンなんだぞ!!コンビニのプリンなんかと訳が違うんだよ!!」
「だから、ゴメンって言ってるじゃない。ていうか、もう、食べちゃったからないモノはないの」
「う〜……キラのバカ!バカバカバカッ!!」

携帯越しのキラに対して、カガリは怒鳴る事に集中していた。
此処が何処で、どんな状況だったかなんて、カガリの頭から完全に抜け落ちていた。
突如、肩に触れられた手に気付けば、その後は一瞬の出来事だった。
伝わる感触にカガリはただ呆然とする。
現状はアスランがカガリにキスしているというもの。
力の抜けたカガリの手から携帯が滑り落ちる。
静かな教室に大きな音が響く。
その音に我を取り戻したカガリはアスランを突き飛ばして逃げ出した。

「うわぁ!!凄い音!ねぇ、カガリ、何があったの?」

落ちた携帯からキラの声が聞こえる。
アスランは喚く携帯をそっと拾い上げて電話を切る。

「ハァ……」

教室にはアスランの深い溜息だけが残された。



無我夢中で帰宅したカガリを呑気な様子のキラが出迎えた。

「おかえり〜……ねぇ、カガリ、さっきに何があったの?」
「えっ……いや……その……何もないぞ」
「え〜、だって凄い音が携帯から聞こえたよ」
「携帯を落としちゃったんだ……」
「ふ〜ん……あれ、カガリ。その携帯と鞄は?」
「あっ!!」

指摘されて学校に忘れてきた事を漸くカガリは思い出す。
とはいえ、アスランが居ると思えば鞄を取りに学校へ戻る気など到底なれない。

「あ〜……どうしよう……」
「どうしようって、まだ、時間もそんなに遅くないし学校へ取りに戻ったら?」

何があったかなんて全く把握してないキラは単純に答える。

「それは……そうなんだけど……」

渋るカガリ。
理解出来ないキラ。
玄関でもたもたしているとチャイムが鳴る。
仕方なくカガリは扉を開けた。
そこにいたのは先程まで一緒にアスランだった。

「わぁっ!!」

一言発したまま固まるカガリ。

「鞄と携帯、忘れて帰っただろ。だから、持って来た」

平然とした感じで鞄と携帯を手渡すアスランにカガリは呆気にとられる。
それを見ていたキラが声を掛ける。

「よかったね、カガリ〜。学校に戻る必要がなくなったじゃない」
「えっ……あっ……うん……」

鞄と携帯を抱き締めながらカガリの口からはそれしか出なかった。

「あっ、そうだ。アスラン、折角だから夕飯食べていかない?」

真横で驚くカガリを尻目にキラはいつもの感じで親友に話し掛ける。

「ん……でも、邪魔じゃないのか?」
「そんな事ないって、僕の親友なんだから。母さんも喜ぶよ」

キラはアスランの手を引っ張ってやや無理矢理に上がらせる。

「それじゃ、お言葉に甘えて……」
「じゃあさ、夕飯まで僕の部屋で遊ぼうよ。新しい格闘ゲームがあるんだ。カガリが相手じゃ弱くてね。強い相手が欲しかったんだ♪」

軽く馬鹿にしたキラの言葉にカガリはカチンとくる。

「キラなんかゲームしか出来ないじゃないか!!」
「カガリ、それを負け惜しみって言うんだよ〜」
「キラァァ!!」

カガリの絶叫から逃げるように自室へ戻るキラ。
二階へ上る足音が遠ざかった後、玄関にはカガリとアスランが残された。
二人きりになってしまった事で、いやでも学校での出来事を思い出してしまう。
カガリは自ら動くか、アスランが動くのを待つか、頭の中で必死に考えを巡らせていた。
視界の隅でアスランが動きを捉えたので、カガリはアスランがこの場を去ってくれる方を選んだ。
階段に足を掛けたアスランだったが、止まって振り返る。

「…意識してくれてるみたいだから、ある意味成功したと思う。本当はかなり予想外の展開だったんだけど……」

アスランは至って真面目な顔で話す。

「よっ、予想外って!おまえ、何したのか解ってるのかよ!」

沸々とわき上がる怒りに身を任せたカガリは、思いをそのまま口にした。

「余り、大きな声は出さない方がいい。キラに聞こえる」

あくまでも冷静なアスランにカガリは怒りは収まらない。

「煩い、おまえなんかに命令される筋合いはない」

と言いながら声のトーンは押さえられていた。

「命令じゃない、注意だ」
「…おまえなんかともう喋らない」

一緒にいる事が耐えきれなくなったカガリはリビングへ歩き出す。
扉を開ける為ドアノブに手を掛けると、その手に一回り大きな手が重なる。
飛び跳ねるように振り返るカガリ。

「仕方ないだろ。俺はプリンより扱いが下かと思うと……耐えられなくなったんだ」
「プリンよりって…おまえが何も言わないから、携帯が鳴って出ただけじゃないか!」
「…覚悟を決めてきた筈なのに、何も言えなかったんだ」

アスランは慎重な面持ちになる。

「?何を言うつもりだったんだよ?」

全くもって何も気付かないカガリは何度も瞬きしてアスランを見上げる。

「//……そんな風に見詰めるから、言えなくなるんだよ//」

頬を染めて照れた感じで言う。
見詰め合う状態になるが、結局、アスランは何も語れず再び沈黙が訪れる。

「……もう!用がないんだったら、私に近付くな!!」

カガリは鞄を振り上げて、アスランを払い除ける。
軽く当てるつもりだったが、意外にも鞄はアスランの頭にクリーンヒットした。
衝撃を受けたアスランは床に跪く。
思わぬ展開にカガリが一番慌てる。

「わぁぁ!……ゴメン……そんなに強く当てるつもりはなかったんだ」

カガリはぶつけた紺色の頭を心配げに触れる。
顔を上げたアスランと視線がぶつかる。
アスランは触れていたカガリの手を掴むと目の前に引く。
力の働く通りにカガリはアスランの元へ倒れこむと、再び、あの時と同じ感触を味わう。
ただ、違うのは片手はアスランに握られ、もう一方は鞄を持っていた。
カガリはすぐに反応出来ず、凍りついてしまう。
たった数秒の事だけれど、カガリには永遠に続くかのように感じた。
ゆっくりとアスランの唇は離れ、真摯な眼差しで見上げる。

「……俺の思い伝わった?」
「……伝わるか!!」

今度は容赦なく鞄を眼前にある紺色の頭に振り下ろした。
家中にヒットした音が響き渡る。
カガリは逃げるように自室のある二階へ走った。
痛みのある頭を擦りながら廊下に座り込むアスラン。

「はぁ……まさか、ここまで鈍いとは……まぁ、いいか。好きなモノは解ったし、今度はモノで攻撃してみるかな」

溜息を吐きながら呟くアスランの顔は笑みが溢れていた。



アスラン
プリンに負ける…
みたいな感じのお話です★

2009.7.1
2010.10.29移転










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