平生@
「ザラせんせい、ここが解りません〜」
「…君は、少しでも自分の頭で考えているのか?ホーク姉」
「ホーク姉じゃありません。ルナマリアです」
「それぐらい知っている」
「ザラせんせぇ、私もここが解りません〜」
「…君もそれぐらい自分で考えろ。ホーク妹」
「メイリンですぅ。それに解らない所を教えてくれるのが先生じゃないんですかぁ」
「同じ問題を何度も聞いてくる向上心のない生徒に対して、俺は懇切丁寧に教えるつもりはない」
「「えぇ〜!!」」
ザラ先生は冷たく言い放つと、自らの机に向かって仕事をし始めた。
担任のフラガ先生に用事があって職員室来ていたカガリは、友達のミリアリアと離れた所からいつもの光景を眺めていた。
「それにしても飽きないわね。あの姉妹は」
「そうだな。毎日だもんな」
「でも、ザラ先生なら言い寄るのも解る気がするけどね」
「そうなのか?」
「そうよ!カガリぐらいなものよ。ザラ先生に興味持たないのは!?」
「えっ、でも、ミリィにはディアッカがいるじゃないか」
「あれはただの腐れ縁よ。もし、もしもよ!私がザラ先生に告白されたら、ディアッカなんてそこらへんに捨てるわよ!」
「…ディアッカが可哀想じゃないか…」
「カガリ…突っ込むとこ、そこじゃないって」
「そうか?」
「はぁ、これだからカガリは…」
ミリアリアはそう言うと盛大な溜息を吐く。
ふと、カガリは顔をあげると時計が見えた。
「あっ、そろそろじゃないか」
カガリが時計を指すとミリィも時間を見る。
「確かにそろそろね」
カガリ達はこれから起こるであろう光景を目に浮かべあっていた。
「ア〜スラン、この書類の書き方が解らないんだけどぉ〜」
体のラインがよく出ている服装でさらに胸を強調し、ザラ先生に近付くのは音楽担当のキャンベル先生だ。
そう、これもいつもの光景。
「キャンベル先生、名前で呼ぶのは止めて頂けませんか」
ザラ先生は目を細めて、不機嫌そうに注意する。
「え〜、私とぉアスランの関係じゃな〜い」
態と胸の谷間を見せるようにしてザラ先生に話し掛ける。
けれど、ザラ先生は全く見る事もなく黙々と仕事をこなす。
「俺と君の関係はただの同僚でしかない。生徒が誤解するような発言は止めて頂きたい」
ザラ先生は姿も見ず注意すると、再び、仕事に没頭する。
「そうですよ。ザラせんせいとまあったく関係ないんですから、引っ込んでてくれませんか?」
「そうですぅ」
ホーク姉妹は二人でキャンベル先生を攻撃する。
「ガキの分際で色気づいてんじゃないわよ!」
キャンベル先生はザラ先生に見せない顔でホーク姉妹を睨み付ける。
「胸が大きければ良いってものじゃないですよ。キャンベル先生」
「お姉ちゃんの言う通りですぅ。そのうち、きっと垂れますよ」
負け時とホーク姉妹も睨み返す。
「なぁんですって!!教師に楯突くなんていい度胸じゃない。このちんちくりんの赤毛ども!!」
「失礼な事言わないで下さい。ちんちくりんのペチャパイはメイリンだけです。私はそれなりにあります」
「ひどいよ、お姉ちゃん!!ペチャパイなんて言ってないじゃない!それに、私は成長期だからこれからなの〜」
「今の段階でそれじゃ、未来はないわね」
「キャンベル先生の言う通りだわ」
うんうんと頷くキャンベル先生とホーク姉。
「ひど〜い!!今は、胸が大きくない方がモテるのよ!ほどほどがいいんだから」
ぷんぷんと怒るホーク妹。
「僻みね」
「姉妹でも違うからね」
「お姉ちゃんはどっちの味方なの!?」
くだらないいい争いに発展していくキャンベル先生とホーク姉妹。
「おおっ、いつものバトルが始まってるな」
後ろから声がすると思えば、カガリは後ろから首を抱き締められた。
カガリが首だけ振り返ると、そこには担任のフラガ先生がいた。
フラガ先生はカガリの肩口に顔を置いて、いい争っている光景を見ている。
「フラガ先生」
「よっ、嬢ちゃん、今日も可愛いなぁ。お肌もすべすべだ」
フラガ先生はカガリに頬を擦り寄せている。
カガリはされるがままだ。
「……フラガ先生、セクハラです」
ミリアリアは心底軽蔑した目でフラガ先生を見る。
「セクハラなんてひどいな。もしかしたら、教師と生徒の禁断の恋に発展するかもしれないだろ。なぁ、嬢ちゃん」
ニヤリと笑い、ギュッとカガリに抱き付く。
カガリは意味が解らないのか首を傾けている。
「フラガ先生とだけは絶対ないです」
ミリアリアはカガリの為に断言した。
「え〜!!嬢ちゃんはすげぇ俺好みなのにぃ〜」
フラガ先生は不服そうに口を尖らせる。
「いい加減にカガリから、離れて下さい。校長先生に言いつけますよ」
ミリアリアはフラガ先生の腕を掴んで外そうとするが、フラガ先生は嫌がる。
「スキンシップなんだから、いいじゃないか」
「度が過ぎれば、セクハラだって言ってるじゃないですか!?」
ミリアリアとフラガ先生は互いに譲らず、押し問答を繰り返す。
「嬢ちゃんは嫌がってない!」
「教師を無下には出来ないだけです!」
「あっ!!」
突然、カガリが素頓狂な声を上げる。
「やっぱり、フラガ先生に抱き付かれるのが嫌なのね」
「そんな事ないよな、嬢ちゃん」
それぞれ、別の言い分でカガリに詰め寄る。
「キレる!!」
「「えっ!?」」
フラガ先生とミリアリアの声が重なった。
「いい加減しろ!!」
バァンと机を叩いて、ザラ先生は立ち上がった。
怒鳴り声は職員室に響き渡る。
あまりの声の大きさにキャンベル先生とホーク姉妹は完全に固まる。
「キャンベル先生、君は曲がりなりにも教師だろ!生徒の挑発に乗ってどうする!?」
「ごっ、ごめんなさい…」
ザラ先生の説教にキャンベル先生は小さくなった。
「君達も君達だ!」
今度はホーク姉妹に向き直るザラ先生。
「「はっ、はいっ!?」」
「自習という言葉を知らないのか!?生徒は君達だけではないんだ!それぐらいわきまえろ!!」
「「すっ、すいません…」」
同じく縮こまるホーク姉妹。
互いの顔を見合わせると、キャンベル先生とホーク姉妹はすごすごとその場を後にした。
「珍しいわね、ザラ先生が怒鳴るなんて」
「ん〜、そうだな。いつもは理論的に追い返すのにな」
ミリアリアとフラガ先生はザラ先生の態度に少し驚いていた。
とはいえ、フラガ先生は相変わらずカガリを後ろから抱き締めている。
「……フラガ先生」
ミリアリアは絶対零度の微笑みで話し掛ける。
「ん〜、どうした?ハウ?」
「その手をいい加減に離さないと、私もキレますよ」
普段の声よりもワントーン低い声色で喋る。
「そう怒るなよ、スキンシップなんだから」
ミリアリアの本気の怒りモードに流石のフラガ先生も、笑顔でかわしながらそぅっとカガリから離れる。
やっと、自由になったカガリはくるりと振り返って手に持っていたクラス全員のプリントを渡す。
「はい、ちゃんとフラガ先生に渡したからな」
カガリはクラス委員としての仕事を果たした事に満足そうに微笑む。
「さてと、用事は終わったし、いつもの光景も見れた事だし教室に戻りましょ」
「そうだな」
フラガ先生をほっぽらかして、カガリとミリアリアは満足げに職員室を後にした。
空は茜色に染まりグラウンドも紅く染める。
クラブ活動を終えたカガリは独り廊下を歩いていた。
ミリアリアとは部活が違う為、一緒に帰る事はない。
校舎の廊下から渡り廊下に出て、旧校舎に向かって行く。
旧校舎は現在使われておらず、余った机やイス、普段使わない物が置かれて倉庫のような状態である。
故に、鍵がかかっている。
けれど、カガリは気にする事なくノブに手をかけた。
容易く扉は開き、カガリは旧校舎へと入っていく。
校内単純な造りで、道に迷う事なくカガリは歩く。
たどり着いたのは入口から最も離れた旧化学室。
ゆっくりとその扉を開け中へと入ろうとした刹那、カガリは物凄い勢いで引っ張られた。
化学室に入れられた途端、扉はしまりその閉められた扉にカガリは押し付けられた。
「わぁ!」
押し付けられたまま抱き竦められるカガリ。
耳元に甘い声が響く。
「遅かったな、カガリ」
そこには魅惑の笑みを浮かべたザラ先生がいた。
「ザラ先生…」
「違うだろ、カガリ。二人きりの時はアスランだろ」
実は、カガリとザラ先生は秘密の恋人なのである。
担当教科化学のザラ先生と化学を履修してないカガリの二人が、恋人になったのはこれとはまた別の話。
「はぁ…カガリ不足で死にそうだったよ」
強くカガリを抱き締め、片手で髪を弄ぶ。
「そんな大袈裟な…」
「大袈裟な事だよ」
そう言うとカガリの髪に軽く口付ける。
「ちょっ、ちょっと待てよ、そういう事は学校ではしない約束じゃないか」
カガリは睨みを利かせて見上げる。
「だから、口にはしてないじゃないか」
不敵に笑って、今度は頬に口付ける。
「止めろって…誰かに見られたら…」
「解ってるから、旧校舎で会ってるんだろ。まぁ、見つかったら俺はクビだな」
「だったら!?」
「…今日は無理」
ザラ先生の言葉にカガリは驚く。
大抵、こう言えばザラ先生は折れるのである。
いつもと違うザラ先生にカガリは戸惑う。
その間もザラ先生はカガリを攻めて、白い首に口付ける。
「ひゃあっ!!」
「相変わらず、いい声だな」
「どうしたんだよ…いつもと違う……」
カガリは瞳を潤ませて見詰める。
そんな目に弱いザラ先生は大きく溜息を吐く。
「カガリが悪い…」
「私、何かしたのか?」
泣きそうな瞳で見続ける。
「…フラガ先生に抱き付かれてた」
ザラ先生は外方向きながら、ぼそっと言った。
一方のカガリは言われた意味が理解出来ておらず、首を傾げている。
「あれって、スキンシップだろ」
「なっ!?」
ザラ先生は驚愕した。
フラガ先生なりのスキンシップとはいえ、教師が首に抱き付くなんて有り得ない。
前から、フラガ先生がカガリを可愛いと漏らしていたのを知っているザラ先生としては気が気でない。
「?、あれ、違うのか?」
カガリは本当に解らないのか、表情から疑問符が出ている。
ザラ先生はもう一度大きく溜息を吐いてから、カガリの好きな優しい目で見詰める。
「…スキンシップでも、カガリが他の男に触られるのは嫌だ」
「何だよ、それ」
「嫌なものは、嫌なんだ」
カガリはへの字に口をいがませて、納得出来ない素振りだ。
「じゃあ、カガリは俺がキャンベル先生やホーク姉妹にベタベタ触られてもいいのか?」
自分の嫉妬心をまるで理解してないカガリにザラ先生は昼間の光景を思い出し、カガリに問う。
「えっ……」
カガリは驚いたまま固まってしまう。
頭の中では、ベタベタとザラ先生に触るキャンベル先生とホーク姉妹。
カガリは堪らず、ザラ先生の服を掴んだ。
「そんなの…やだ……」
漸く嫉妬心を理解してくれたカガリにザラ先生は笑みが溢れる。
「大丈夫、俺は触らせたりしない」
「ほんと?」
「ああ」
ほっと胸を撫で下ろすカガリ。
しかし、ザラ先生の一言でカガリの心は騒がされる。
Aへ続く