華麗なる高校生

「今日もアスラン先輩かっこよかったね。お姉ちゃん」

中等部からでも見える高等部の運動場で体育の授業を受けていたアスランの姿を思い出しながら、メイリンはツインテールの先端の髪を指に絡ませ、ルナマリアに声を掛ける。

「まぁね。確かにアスランって何してもかっこいいわね」

アスランの姿を頭の中で描きながら、姉のルナマリアはショートの髪をさらりと風に靡かせて応えた。

「中等部でも大人気なんだよ。お姉ちゃんは同学年で同じクラスなんて羨ましい」
「まぁ、こればっかりは何ともならないわ。神様を恨む事ね」

メイリンは盛大に溜息を吐く。
ルナマリアは楽しそうにその様子を見ていた。
二人は他愛もない話をしながら帰路についていた。
そんな二人の目の前に今まさに話題の中心人物が通り掛かったのである。

「ちょっと、あれ、アスランじゃない」
「ホントだ!アスラン先輩だ」

ルナマリアの指差す方に濃紺の髪を揺らし、颯爽と歩く少年がいた。

「きゃあ、こんな所で会えるなんて。これって奇跡だよね。お姉ちゃん!」

メイリンは興奮気味に話す。そんなメイリンに少し呆れながらルナマリアもアスランを目で追う。
そして疑問を持つ。

「あれ、アスランの家ってこっちじゃなかったような…」
「え〜、そうなの?あっ、お姉ちゃん。アスラン先輩、お店に入っちゃうよ」

アスランが入って行ったのはチェーン展開している大型家電専門店。
追いかける様にしてルナマリアとメイリンも店に入った。
アスランの事だから、パソコン関係のフロアに向かうのかと思った二人だが、意に反してアスランはそのフロアを素通りし、アスランが辿り着いた場所は彼のイメージにはあまりにも縁遠いフロアであった。
そこはホビーフロア。
ゲームやその関連本を始め、フィギュアや玩具など明らかに趣味のフロアである。
正直、真面目で少し堅物の彼からは想像出来ない場所なのだ。

「意外ね。アスランもこういう趣味があるんだ」
「やだ〜、女の子のフィギュアとか家に飾っていたらどうしよう!」
「まぁ、アスランも男の子って事じゃないの?」
「お姉ちゃん!なんて事言うのよ!!アスラン先輩は王子様なんだからそんな訳あるはずないの!!」

自分のイメージとは違うアスランを想像出来ないメイリンは完全否定する。
そんなメイリンの姿に呆れ果てるルナマリア。
二人に見られているとはつゆ知らず、アスランはゲーム及びフィギュアのコーナーを素通りして行く。

「はぁ〜よかった。アスラン先輩にあんなオタク趣味なんて似合わないもの!」

メイリンは大きく胸を撫で下ろす。
ルナマリアも一応にほっとしていた。
一方のアスランは奥の方へと進んで行く。
そして辿り着いた先は…

「「えっ!?…」」

二人はアスランのいる場所を疑った。
正直、フィギュアコーナーの方が良かったかもと思っていた。
そこは女の子なら一度は通る着せ替え人形が陳列されている場所だった。
アスランは一つの人形を手に取り、真剣に見入っている。

「おっ、お姉ちゃん!まっ、まさかとは思うけど、アスラン先輩あの人形を買う訳ないよね」

青ざめた顔でルナマリアに尋ねるメイリン。
ルナマリアはその問いに応える事が出来ず、顔を引きつらせていた。

「ディテールがいまいちだな。もう少しこだわってもいいのに…」

アスランの言葉に二人は固まる。
ぶつぶつと文句を言いつつも人形を選んだかと思えば、着せ替え用の服を何点か手に取り選び出した。

「スカートが多いな。スラックスの方が好みなんだけどな…」

その言葉にまたしても固まる二人。
好みの物が無いとか、作ればいいのかとぼやいたと思えば、人形と服を持ちレジへと向かった。
二人は顔はますます引きつらせながらアスランの後を追い、レジで精算している姿を冷めた瞳で見詰めていた。

「こちらはプレゼント用ですか?」

店員は精算しながらアスランに尋ねた。
その言葉にメイリンとルナマリアは目を輝かす。

「そっか。妹か親戚の女の子にあげるために買ったんだよね」
「まぁ、そう…かもね」
「絶対そうよ。アスラン先輩に限って人形遊びが趣味な訳ないもん」
「…う〜ん、でも、アスランって妹もいなかったし、親戚も近くにいないはずなんだけど…」

ルナマリアの言葉に再び口を噤んでしまうメイリン。
二人の間に微妙な空気が流れる。
その空気をアスランの一言が切り裂く。

「いえ、自宅用でお願いします」

満面の笑みで店員に応えるアスラン。
石のように固まるメイリンとルナマリア。
店員は黙々と作業をこなし、アスランに紙袋を手渡す。
それを受け取り、アスランは笑顔でその場を後にする。
メイリンとルナマリアの頭の中には、着せ替え人形で遊ぶアスランの姿が浮かぶ。

「いやぁぁ〜!!!!!!」

ホビーフロア全体にメイリンの絶叫が木霊した。



店を後にしたアスランは一目散に自宅へと帰る。
普段、表情の変化が乏しい彼だが、今はそんな彼を想像出来ない程、顔が緩んでいた。
自宅に着いたアスランはドアを開け、リビングまで聞こえる程の大きさで帰宅の挨拶をする。

「ただいま〜!」

するとリビングのドアが勢いよく開いて、眩しいくらいの金色がアスランの視界に入る。

「アスおにいさま〜、おかえりなさ〜い」

金の髪に大きな琥珀色した瞳を持った少女が、小さな足で廊下を駆け抜けて走ったままの勢いでアスランに飛びつく。
アスランは何時もの事なので、膝を折り曲げ手を広げて少女を受け止める。
そのまま、片手で小さな少女を抱き上げた。

「ただいま、カガリ」

同じ目線にして改めて帰宅の挨拶をするアスラン。

「今日も良い子にしてたかい?」
「うん。カガリ、ようちえんでいいこにしてたぞ」
「じゃあ、そんなカガリにお土産だよ」
「ほんと!?わ〜い、アスおにいさまだいすき!!」

カガリはアスランの首に抱き付いて頬擦りする。
アスランはその感触を楽しみながら、リビングへ足を進めた。

「あら、お帰りなさい。アスラン」
「母上、いま帰りました」

アスランはリビングに入ると、カガリが食べたおやつの後片付けをしている母レノアと挨拶をかわす。
カガリをソファに降ろし、アスランも腰掛ける。
カガリはお土産をいまかいまかと大きな瞳をキラキラさせて待っている。
そんなカガリの姿にアスランの顔は緩む。

「はい、お土産だよ」

アスランはカガリに先ほど買ってきた物を紙袋ごと渡す。
カガリは笑顔で受け取り、がさがさと紙袋を開ける。

「あ〜!ラクスちゃんにんぎょうだ〜!!おようふくもいっぱいある〜!!」

カガリの心底嬉しそうな顔をするので、アスランも同じ様に嬉しくなる。
カガリが一心不乱に人形を箱から出している姿をアスランは微笑ましく見詰める。
そんなアスランの姿にレノアは呆れて言う。

「凄い変わり様ね。最初、カガリちゃんを預かると言った時、大反対していたのは何処の誰だったかしら?」

カガリを両親の都合で預かる事になった時、元来人付き合いが得意ではないアスランは猛反対した。
だが、アスランはカガリを見た途端、態度を変えたうえに溺愛しだし、挙句の果ては自分の小遣いからカガリにプレゼントしまくっているのだ。
ただ、プレゼントは特別な日に貰う物だと弱冠6歳のカガリに諭され、今はお土産と形を変えてカガリの手に渡っている。

「誰でしょうね。その事に何か問題でもあるのですか?母上」

不敵な笑みで返すアスランの姿にレノアは最早何も言う気になれなかった。
我が子ながらこの変わり身の速さに末恐ろしいとも思っていた。
アスランは人形を弄んでいるカガリの頭を撫でながら、こちらへと向けさせる。

「カガリ、お土産を貰った後はどうするか解ってるね」
「うん、わかってるぞ」

カガリはソファの上に膝立ちしてアスランと視線を合わせる。

「アスおにいさま。ラクスちゃんにんぎょうありがとう」

お礼を笑顔で言った後、カガリは頬を染めて恥じらいながらアスランの首に抱き付き頬に口付ける。
アスランはカガリからキスを貰うために、お土産を買ってきているのは言うまでもない。
そして、何時かは唇にしてもらおうとまで考えていたりもする。
彼の未来予想図では既にカガリと結婚し、薔薇色の生活を送っている。




全てはアスランがカガリの為に
女の子向けの人形を買うシーンを
思いついた所からこの作品が
出来ました(笑)

2007.10.15
2010.10.29移転










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