生徒会長の心境

俺の名はアスラン・ザラ。
デステニィー学園高等部の2年で生徒会長だ。
無駄な事が嫌いな合理主義者。
自己本位な性格だと自分でも理解している。
それが悪いと思った事もないし、誰だって自分を優先するものである。
だからこそ、この世で一番嫌いなのはお人好しな人間だ。そして、今まさにそんな人間が目の前にいる。

「ねぇ、カガリ、今日の掃除当番代わってくれない?」
「ええ!?またかよ、フレイ」
「だって、昨日ね…」

紅い髪の女は金髪の女の耳に口元を寄せて何やら囁いている。

「はぁ、仕方ないな。わかったよ」
「きゃあ、カガリ大好き」

紅い髪の女は金髪の女を抱き締めたと思えば、あっという間に教室を後にした。
どう見ても、金髪の女は紅い髪の女に言い様に使われているのは明白だ。



金髪の女の名はカガリ・ユラ・アスハ。
2年の一学期にこのデステニィー学園に編入してきた。
中性的な見た目と快活な性格で一気にクラスへ溶けこんだ。
人見知りする俺に比べて、誰とでも仲良くなれる才能は認める。
だが、都合のいい時だけ寄ってくる友達は必要だろうか。
俺はそんなものいらないと考えている。
だから、俺はその事について一度、この女に言いたい事があった。

「アスハ」

押し付けられた掃除を終え、帰ろうとしているアスハに俺は声を掛けた。
俺がアスハと話をするのは学校を案内した時以来だ。

「ん、何だ?ザラ」
「俺は回りくどい事は好きじゃない。だから、単刀直入に言わせてもらう」
「私も回りくどい事が嫌いだ。で、なんだ?」
「お人好しも大概にするべきだ」
「なっ!?」
「君はフレイ・アルスターにただ言い様に使われている」
「フレイは友達だ!」
「違うな。都合が良い時だけ友達のフリをするんだ」
「そんな事ない!」
「はたから見て、そんな関係にしか見えない」
「それはおまえが勝手に思っているだけだろ!!」
「俺が見ているかぎり、君はただ利用されているだけだ。この間もアルスターに掃除を押し付けられていただろ」
「そっそれは…フレイが困ってたからだ。困ってる奴を助けて何が悪い!?」
「へぇ、アスハは博愛主義者なんだな。例えば、困っている奴が命をくれと言ったら君は命を差し出すんだな?」
「っ!!…もういい!おまえなんかと話しても埒があかない!!」

アスハは烈火のごとく怒り、勢いよくドアを開けて豪快な音と共に教室を出て行った。
俺はその姿に少し驚いていた。
今みたいに怒る姿を初めて見たからだ。
アスハはいつも笑みを絶やさないし、それを崩す事は今までなかった。
アスハの事を博愛主義者の天使様と思っていたが、違ったようだ。
わかりやすいぐらいの普通の人間で、簡単に言えば俺とは全く正反対のタイプという事。
はっきり言って、あまり関わりたくないタイプでもある。
言いたい事も言ったし、もう二度と関わる事はないと俺は思っていた。



次の日もやはりアルスターはアスハを頼っていた。

「カガリ〜、あのね、実は先生に用事を頼まれたんだけど変わってくれない?」
「悪いけど、今日は用事があるんだ。ごめんな」
「えっ、そうなの、残念。クルーゼ先生苦手だから代わって欲しかったんだけど…仕方ないわね。ねぇ、用事って何?デート?」
「まぁ、そんなものかな」
「えっ、カガリってば彼氏いたの!?なんで紹介してくれないのよ!」
「彼氏じゃないけど…デートなんだ」
「な〜に〜、その含んだ言い方は?」
「とにかく早く行かないと待ち合わせに間に合わないから。今日はごめんな…あっ、そうだ、それよりフレイの方こそどうなんだよ。昨日、掃除代わってやったんだぞ。彼氏と仲直りはきちんとしたんだろうな」
「あの後ね、学校まで乗り込んで帰られる前にアイツを掴まえたの。カガリの言った通り素直に謝ったら許してくれたわ」

アルスターは満面の笑みでアスハにVサインを送る。
それを確認したアスハは、急いで教室を後にした。
遠目でそれを眺めていた俺は二人の会話の内容に驚いていた。
言い様に利用されていると思っていたのは俺だけで、二人はちゃんとした友達関係だった。
アスハがかなりのお人好しには変わらないが…
二人の関係についてとりあえず納得はした。
そんな事より自分の心の中で疑問が浮かんだ。
アスハがデートするという事。
俺にとってそれはどうでもいい事のはずなのに心騒ぐ。



俺はお人好しも嫌いだが、それと同じくらいに女という存在が嫌いだ。
女は見た目やステータスで簡単に左右されるからだ。
父が社長業をしているうえに、母と死別しておりその後釜を狙ってそういう輩が、よく父と俺の周りに集まってきていた。
そいつらは大概、本質など全く見ようとせず、上辺だけを見て俺に取り入ろうとしていた。
煩わしいことこの上なかった。
そんな俺がどうしてこんなにも心ざわつくのか、俺には理解出来ずにいた。



帰り道、大きな交差点を渡ろうとした俺は向かい側にアスハが立っているのが見えた。
交差点を渡りきり、様子を伺っているとアスハの前に黒塗りの車が止まった。
車のドアが開いて一人の紳士が降りてきた。
アスハは学校では見た事のない微笑みをしてその紳士に思いっきり抱きついた。
そして微かに聞こえた声。

「お父様」

アスハの父と思われる威厳のありそうな男は、大きな手でアスハの癖のある金の髪を優しく撫でる。
少し頬を染めたアスハは、はにかみながらも心底嬉しそうな顔で父を見詰めている。
運転席から出て来た体格のいい男に促され二人の姿は車に消えた。
俺は去って行く車を見ながら、心の中で沸き上がる感情に少し戸惑っていた。
学校でいつも笑顔の絶えないアスハだが今の顔は見た事がない。
そして、何処かでお人好しのアスハに特別なんてないと思っている自分がいた。
だからこそ、それを覆された衝撃は大きかった。
先ほどアスハが見せたあの表情が頭から離れない。



そして次の日。
放課後、俺は再びアスハに話し掛けた。

「昨日はアルスターの頼みを断ったんだな」
「おまえ…私をどんな人間だと思っているんだ?」
「ただのお人好しで馬鹿な女」
「なんだと!!」
「それから、いつでも意味なく笑ってる」
「…笑っていて何が悪い。おまえみたいな無表情よりましだろ!?」
「まぁ、そうかもな」
「えっ!?」
「どうして驚く」
「いや、認めるとは思わなかったから…」
「事実を認める事ぐらい出来る」
「そう…だったらさ、笑うようにしたらどうだ?無表情よりいいぞ。気分もいいしさ。おまえの笑った顔を見てみたいな」

そう言ってアスハは俺に笑いかける。
その笑顔は昨日のものとは違うが、それでも俺の心を揺さぶるのに充分だった。

「…それは遠回しに告白してるのか?」

俺だけがそんな思いをするのが嫌で、アスハを少しからかってみた。

「はぁ?告白なんて誰がしたって言うんだよ」

俺がからかった事すら理解出来ず、目を丸くするアスハに呆れながらも、片手でアスハの腰を掴み一気に体を抱き寄せる。

「きゃあ!」

甲高い悲鳴をあげて俺の腕の中にすっぽりと収まるアスハ。
いつもの少し低めの声とは違う声色に俺はどきりとする。
掴んだ腰は細いが筋肉質で引き締まっており、胸にあたるのは女特有の柔らかな感触。
全てが俺の心を惑わす。
アスハはこの状況でも全く俺の心理を理解出来ておらず、無垢な瞳を丸くしてこちらを見詰めてくる。
そんなアスハの心を揺さぶるため、俺はアスハの滑らかな頬に口付けた。

「おっ、おまえ!なっ、何するんだよ!?」

アスハは俺の腕の中で顔を真っ赤に染め上げ、こちらを上目使いで睨みつけてくる。
その姿を可愛らしいと思う俺自身に、俺は心底驚く。
今まで、こんな感情を抱いたことは一度もないし、俺は一生こんな感情に無縁だと思っていたからだ。
結局、俺もアスハと同じ普通の人間だったと言う事だ。
しかも、俺はアスハにかなり溺れているようだ。

「フッ、今はこれで我慢してやる。俺だけの特別な存在になったらいつでも笑ってやるよ」
「はぁ!?おまえの言っている意味が解らん。それより早く放せよ!!」
「嫌だね」
「何なんだよ!おまえ!!」

アスハの声が教室中に木霊する。
片思いなんて、俺には似合わない。
だから、今は何も言わない。
いずれ、俺を見る君の顔を昨日見たあの顔にしてみせる、絶対に。




初作品です
かなり照れます(笑)
表現が拙いと思いますが
温かい目で見てあげて下さい

2007.9.1
2010.10.29移転










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