White day2011@

「アスラン♪これバレンタインチョコ!!」
「有り難う」
「私のも受け取って下さい」
「ああ、有り難う」

本日は2月14日。
何人もの女の子に囲まれながらチョコを受け取っているのはアスラン。
カガリはそれを離れた場所から見ていた。

「ねぇ、カガリはあげなくていいの?」

親友ミリアリアが聞いてくる。

「あれだけ貰ってるんだ。私から貰わなくても構わないだろ」
「でも、カガリは婚約者でしょ」
「……親が決めた…婚約者だよ」

言って空しくなったカガリは教室の窓から空を見上げる。
一方のミリアリアは納得いかない様子。
そんな2人の元に近付く男。

「ミリィ〜!!俺にチョコないの〜?」

大声を出しているのは、ミリアリアの恋人トール。
あっという間に2人の机までやってきた。

「大声で叫ぶの止めてよ。恥ずかしい…」
「いいじゃんか。ミリィと俺の仲だろ」
「はぁー、もう…」
「それよか、俺のチョコは?」
「えー、今、渡すの?」
「今じゃなきゃダメだって、学校帰ってからじゃ見せつけられないだろ」
「見せつけるって誰に?」
「カズイとか」
「……」

チョコを貰えなさそうな友人の名をあげる彼氏に呆れるミリアリア。

「バカみたい」
「バカって言うなよ。バレンタインチョコの数は、プライドの戦いでもあるんだからな」
「プライドって…」
「あれ、見てみろよ」

トールが指差すのは未だチョコを貰っているアスランの姿。

「俺もあんだけモテたらさ、チョコなんか見せびらかさないって」

心底羨ましそうに見る。
逆にミリアリアの顔は不機嫌そのもの。

「私はイヤ」
「へっ!?」
「特定の相手がいるにも拘らず、他の人からチョコ貰うなんて…絶対イヤ!!」

ミリアリアはトールを見た後、黙っているカガリをじっと見る。
そんな視線にもカガリは意に返さず空を見ていた。
思い出していたから。
いつから、アスランにチョコを渡さなくなったのか。



現在、高校1年で共に16才のカガリとアスラン。
婚約したのは、実は生まれる前から。
両家共に上流階級でとても仲が良く、親同士が勝手に決めた婚約の話。
でも、生まれてからずっと言われきたカガリとアスランは何も気にする事なく、互いを生涯の相手だと接してきた。
バレンタインデーとホワイトデーだけに拘らず、クリスマス、お正月、雛祭りや七夕など全ての行事をカガリとアスランは一緒に祝っていた。
けれど、ある日他愛ない悪意がカガリを傷付ける。
今から6年前、10才の頃。
たまたま1人でいたカガリの耳に入ってきた同級生の言葉。

「カッコイイザラ君に、可愛くないアスハさんは不釣り合い」

単なる僻みの言葉。
けれど、カガリの心は酷く抉られた。
その日を境にカガリは、アスランに対して余所余所しくしだし無視し始める。
アスランと一緒にいると、どうしても自分自身を卑下してしまうから。
行事関連も無視するようになり、カガリとアスランの関係はどんどんと悪化し傍目から本当に形だけの婚約者同士に見られるようになっていった。
それをカガリは気にする素振りもなく、さもこれが自然と振る舞っていた。
けれど、アスランは特に変わる事なくカガリの送り迎えをする。
カガリがどれだけ邪険に扱っても。
その事に対してアスランの評価は上がるが、カガリは下がる一方。
最初の方こそ気にしていたが、皆が不釣り合いという顔をするのでカガリの心は凍っていった。
それから、バレンタインデーどころか誕生日プレゼントも渡していない。
反対にアスランは自分が貰えなくても、ホワイトデー、誕生日プレゼント等を絶対に欠かさなかった。
そんな状態が6年も続いている。



下校時間になっても、アスランのチョコ行列は絶えなかった。
同じクラスのカガリは無視して下駄箱へ向かう。
上履を履き替えている途中に、走って来たアスランが追い付く。

「カガリ、一緒に帰ろう」

いつもの笑顔で言う。
断った所でアスランはついて来るので、カガリは適当に返事をする。
並んで校舎を出ようとした時、不意に呼び止められる。

「アスハさん!!」

振り返れば見知らぬ顔が二つ。
カガリは首を傾げる。

「ミーア、メイリン…」

知っていたのはアスランの方だった。

「どうして貴方みたいな人がアスランの婚約者なの?」

ミーアと呼ばれた女が吠えるように聞いてくる。

「そうです。貴方はアスランさんの事、好きじゃないんでしょ」

赤い髪のメイリンという女が畳み掛けてくる。
好きじゃないとは勝手な事を言われたものだ。
あんな態度をとってはいるがアスランの事は誰よりも好き。
そもそも、好きになるように仕向けられて育ったのだから。
家柄的に相応しい存在にも拘らず、見た目で不釣り合いと言われた事が未だにカガリの心に深く伸し掛かる。
とはいえ、自分のスタイルを変える事も出来ず、現状を無意味に過ごしてきた。

「婚約破棄しなさいよ!!」

キャンキャンと喚くミーアがカガリには鬱陶しくて仕方ない。

「バカか?おまえ。親が決めた婚約を簡単に破棄出来ると思ってるのか?」
「好きじゃないなら断るべきです」

メイリンが負けじと言い返してくる。

「フン…例え、婚約破棄したところでおまえらがアスランの恋人になる事は一生有り得ない。ただの一般庶民のくせに身分を弁えろ!!」

有りっ丈の嫌味を見下した感じで言い放つ。
変えようがない身分の事を言われてミーアとメイリンは押し黙る。
反論しなくなった2人を無視してカガリは校舎を出ていく。
その後をアスランが慌てて追ってくる。

「カガリ…あれは、言い過ぎじゃ…」
「向こうが喧嘩を仕掛けてきたから買ったまでだ」
「けど…」
「それに社交界での嫌味の方がもっとえげつないだろ」
「…確かに」

社交界というのは見栄の張合いの場所で、幼少の頃から慣れ親しんだカガリ嫌味等には耐性があった。
唯一なかったのは容姿に対する事だけ。
社交界は身に付けている物の価値で勝負が決まるので言われる事がなかった。
そこがカガリの弱点。
そして未だに克服出来てない。
その後、チョコを催促される事なく、淡々と2月14日は終わった。



あっという間に一ヶ月が過ぎると3月14日が訪れた。
アスランは律儀にチョコレートをくれた相手にお礼のプレゼントを渡していく。
但し、皆同じもの。
誰一人特別なモノは貰ってない。
忙しなくしているアスランを横目に見ながらカガリはいつも通りの日常を送っていた。
昼休み、ミリアリアと喋っているとトールが走ってくる。

「ミリィ〜!!」
「また…大声で呼ぶ…止めてよ。恥ずかしいから…」
「あ〜、そんな事言っていいのかな?今日は何の日か知ってる?」
「知ってるわよ。と〜っても楽しみにしてたから♪」

満面の笑みでトールを見上げるミリアリア。

「いやあ、そんなに期待されちゃ期待に応えないとね」

トールは後ろ手に隠していたプレゼントをミリアリアに渡す。
包装紙を外して出てきたのは紫の石のピアス。

「これ、綺麗ね」
「ああ、超高かったんだ、このアメシスト。ミリィの誕生石だろ」
「へぇ、トールが誕生石を理解してるなんて」
「当り前だろ、彼氏なんだし」

トールは自慢気だ。
驚きつつも嬉しそうなミリアリアはピアスを持って席を立ち上がる。

「これ付けてくるね」

スキップする勢いで教室を後にするミリアリア。
見送ったカガリはトールに声を掛ける。

「なあ」
「ん、何?」
「あれ、セール品だろ」
「ッ!!…どうして解ったんだよ」
「売ってんのお父様の店だから」
「うへえ、アスハって手広い〜」
「しかも、決算在庫一掃セール品で、叩き売ってたはず…」
「うぎゃあ!そこまで知ってんの?」
「何も知らないと思ってたのか?甘かったな、内情をよく知ってるんだよ」

トールはカガリの耳元に口を寄せる。

「ミリィには内緒にしてくれ。頼む」
「……お金無かったのか?」
「うん、実は新作ゲーム買っちゃってさ」
「自業自得だな」
「そこを何とか」

トールがカガリの腕にしがみつく。
そこへミリアリアが戻ってくる。

「どう、似合う?」
「すっげ〜、似合う似合う、な、アスハ」
「ああ、似合ってるよ、ミリィ」

愛想笑いを浮かべながら、今度はカガリからトールの耳に囁く。

「この貸しは高いからな」
「ハハ、肝に銘じます」



滞りなく授業は進んで下校時間になる。
カガリが帰り支度をしているとそこへアスランがやってきた。

「一緒に帰ろ」

いつもの笑顔で言われる。
カガリは驚いていた。
放課後もお返しを配ると思っていたから。
明らかに戸惑っていると手を掴まれ引っ張られる。
無理にアスランはカガリを教室から連れ出す。
カガリは強引な態度にムカッときて掴まれている手を離そうとするが、手は離れず歩いていたアスランが立ち止まって振り返る。
その時、気付いた。
アスランが怒っている事を。
長年の付き合いから些細な変化もすぐ解る。
とはいえ怒っている理由も解らないのでカガリはアスランを凝視する。
すると、急に笑顔になった。

「これ」

そう言って手渡されたのは細長い箱。
中身はネームタグペンダント。

「カガリはキラキラした物よりシンプルな物が好きだろ」
「うん…」

スマートな動きでカガリの首につける。

「よく似合ってる」
「あ、有り難う…」

チョコを渡してもいないのにホワイトデーのプレゼントをくれるアスランに申し訳ないなと思いつつ、取敢えずお礼を言った。
再び、手を握られ下駄箱へ向かう2人。
そこへ、バレンタインデーの時のようにミーアとメイリンが現れる。

「チョコを渡してもいない貴方が何故プレゼントを貰ってるわけ?」
「そうです、私達なんか皆同じ物なのに!」

アスランからのプレゼントに高揚していた気分は急に冷めた。
握られた手を強引に外し、ミーアとメイリンの横を完全に無視してズカズカと通っていく。

「ちょっと、待ちなさいよ!」

ミーアがカガリの腕を掴み引っ張る。
その事で、カガリはバランスを崩し尻餅をつく。

「いったぁ…何するんだ!!」
「貴方が勝手にこけただけじゃない!」
「なにぃ!!」

カガリが飛び掛かろうとした瞬間、乾いた音が響く。
アスランがミーアの頬を叩いたから。
叩かれたミーアも見ていたメイリンも、そして、カガリも驚いていた。

「悪口ぐらいなら見逃すけど、カガリを傷付ける者は誰であろうと許さない!!」

アスランの怒鳴る姿をカガリですら見た事がない。
カガリの手を掴んで何事も無かったようにアスランは進んで行く。
歩いて歩いて学校から少し離れた所でカガリはアスランを引っ張って立ち止まらせる。



Aへ続く










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