Shinn's2008

待ち合わせは噴水広場。
オーブでは待ち合わせの定番である。
シンは此所で人を待っていた。
しきりに時計を気にしながら辺りを見回す。
周りでは同じように立っている人に待ち人が来て去っていく。
それを横目に見つつシンは空を見上げた。
そこへ息をきらして必死に走ってくる人物。
彼女はワンピースの裾が短い事を気にしながらも必死に走る。
揺れている髪は栗色のロングレイヤースタイルで、内巻きにカールがかかっている。
服は淡いピンクの小花柄チュニックワンピース。
総シフォンで袖と裾にはフリルとレース施されている。
裾が短いせいで陶磁器のような白い足を惜しげもなく晒している。
足元は同系色のリボンミュール。
履き慣れていないのか、少しふらふらしながら走ってくる。
周りは美しさに目を奪われた。
そんな彼女はシンの目の前で立ち止まる。

「ごめん、遅れた」
「遅い!…けど、許してやる。ちゃんと、着て来てくれたから」

シンは恍惚の表情で見詰める。
凝視されて堪らず彼女は体を隠すように抱き締める。

「何だよ!ジロジロ見るなよ!」
「なんで、すげぇ似合ってるのに」
「恥ずかしいんだよ!」

頬を紅潮させて俯く。
この彼女。
栗色の髪をしているが、紛れもなくオーブの代表首長カガリ・ユラ・アスハである。

「う〜ん、やっぱり髪の色が違うのだけ残念だな」

シンは腕組みしながら眼下にある人工的な栗色を見詰める。

「仕方ないだろ。そのままの姿で出歩いたら皆に見つかってしまうって、おまえが言ったんじゃないか」
「まぁ、そうなんだけど」



事の発端は、シンに誕生日は何が欲しいとカガリが聞いた所から始まる。
その日は休日で、カガリとシンは二人掛けのソファで寛いでいた。

「なぁ、シン」
「何?」
「もうすぐ、おまえの誕生日だろ。誕生日プレゼントは何がいい?」

シンはその言葉を待ってたと言わんばかりに、顔をにやつかせて傍にいたカガリを見詰める。

「誕生日プレゼントは要らない」

そう返されたカガリは、答えがあまりに予想外だったのか惚けてしまう。

「へっ?いらないのか?」
「うん、いらない」
「後から欲しいって言ってもやらないからな」
「うん、物はいらないから……俺の誕生日の日、カガリの一日を頂戴」
「えっ!?一日?」
「そっ!俺とデートしよ!!」

カガリは驚いてシンをまじまじと見詰める。

「…それだけでいいのか?」
「ああ!」

シンは笑顔だ。
カガリは少し拍子抜けしてしまう。

「意外だな。シンの事だから、とんでもない事言うと思ってた」
「なんだよ、それ。まぁ、ただデートするって訳じゃないんだけどね」
「へっ?」

シンの言葉にカガリは目を丸くする。

「ちょっと待ってて」

立ち上がってどこかへ行ってしまうシン。
カガリは仕方なくソファで待つ事にした。
数分で、シンは戻ってきた。



手には紙袋。
何処かのブランド物。
シンは再び、カガリの横に座る。

「はい、これ」

持ってきた紙袋を手渡す。

「なんだ、これ?」

カガリは不思議そうに紙袋を眺める。

「服だよ、俺が買って来たんだ」
「…これ、高そうじゃないか」
「まぁね、結構高かった。だから、デートの時、これを着て来て欲しいんだ」

そう言われてカガリは紙袋を開けようとするが、シンはそれを止める。

「何が入っているか、当日のお楽しみ」
「お楽しみって、サイズが違ったらどうするんだ?」
「その辺は抜かりないって、靴もあるし、後、ウイッグもね」
「ウイッグ?」
「そのままの姿で出歩いたら皆にばれちゃうだろ」
「なるほど」
「当日まで絶対に中を見ちゃ駄目だかんな」
「解ってるよ」

何故、シンが服を見せなかったのか、カガリは思い知る事になる。



「おまえの誕生日じゃなきゃ、こんな服、絶対着ないからな」

普段のカガリなら有り得ない服装だった。

「どうして?俺は毎日でも着て欲しいのに」
「やだ!嫌なものは嫌なんだ!」

子供みたいに頬を膨らまして拗ねるカガリ。
シンは苦笑を浮かべてはいるが、内心では小躍りしていた。

「そんなに拗ねんなよ、せっかくのデートなんだから」

カガリはジッと上目遣いで睨んでいた顔から、砂糖菓子の甘さを含んだ笑顔に変わる。

「そうだな、せっかくのデートだもんな」
「そういう事」

シンは自然な流れでカガリの手を握る。
互いの手を絡ませた恋人同士の繋ぎ方。
カガリは頬を紅くしつつも手を離す事はなかった。

「…デートなんて初めてだ」

はにかみながら話すカガリ。

「だから、デートがしたかったんだ」

その姿を見て嬉しそうに微笑むシンにカガリも微笑み返す。
歩幅を合わしてくっつきながら歩く。

「で、何処行くんだ?」

目を瞬かせてシンを見上げる。

「さぁ?解んねぇ」

シンの答えにカガリは目を見張って立ち止まる。

「解んないってどういう事だよ」
「デートプランはないって事」
「なんでないんだよ、デートだろ?」
「ん、俺はカガリと一緒にオーブを歩きたかっただけだからさ、何にも考えてこなかった」

シンはカガリを見詰めて柔和に笑う。
見詰められたカガリの方は、ま、頬を染める。

「…ぶらぶら歩くのもいいかもな」

再び、歩き出す。
特に目的もなく。

「なぁ、カガリ」
「ん?」
「カガリは行きたい所ないの?」
「ん〜、あっ!行きたい所あるぞ!」

透き通った瞳を輝かせてシンを見上げる。

「じゃあ、そこへ行こう」
「うん!」

シンはこの後、自らの言葉に後悔する事になる。
そう、カガリは普通の女の子とは違うのだ。



行き着いた先はオーブでも大きなスポーツショップ。
デートとして似つかわしくない場所にシンの顔は引きつる。
一方のカガリは全く気にする事なく、シンの手を引いてどんどん中へ進んで行く。
たどり着いた場所はダンベル置き場。
カガリは目をキラキラと輝かせてダンベルを手に持つ。

「わぁ!これ、欲しかったんだ!」

フェミニンな服装にダンベル。
余りにもミスマッチな光景にシンは目眩がした。
カガリは人目も気にせずダンベルを上げ下げしている。

「カッ、カガリ…」
「ん?なんだ、シン?」
「まさかとは思うけど、ダンベル買うとか言わないよな」
「へっ?買うつもりだけど」

無垢な瞳で見詰めてくるカガリ。
シンは頭を抱えた。

「あのさ、それを持って歩くの俺、やなんだけど」
「大丈夫だぞ。私が持つから」
「そういう問題じゃなくて、デートに似合わない…」

シンは完全否定すればカガリが拗ねると思いやんわりと否定した。
カガリは手に持っているダンベルを見て暫く考えた後、そっと元の置き場に戻した。

「おまえの言う通りだな。これ、持って歩く物じゃないな」

寂しげに微笑むカガリにシンは優しく声を掛ける。

「今度、一緒に買いに行こう、な!」
「うん!ありがと、シン!」



その後、二人はオーブで一番大きなショッピングモールに来て歩いて回る。
カガリ好みの服を見たり、シンの服を選んだりしてショッピングを楽しむ。
雑貨を見たり、アクセサリーを見たり、普段、行った事のない場所に二人で歩いた。
途中、お腹が減ったカガリはシンをある所へ連れて行く。

「何処行くんだ?」
「へへっ!いい所だ!」

カガリは笑ってシンを引っ張る。
着いた場所はケバブの露店だった。

「これって…」
「此所は、オーブで一番美味しいってケバブ屋なんだ!チリソース二つ頂戴!」

暫くして、カガリはチリソースを二つ受け取る。
そして、一つをシンに渡す。

「病み付きになるほどの美味しさだぞ」

カガリは大きな口を開けてかぶり付く。
シンはそんなカガリに心の中で大きく溜息を吐いた。
可愛らしい格好をさせて、自慢の彼女を見せびらかすつもりだったシン。
けれど、カガリは見た目を気にする事なくいつもの通りの振舞。
勿論、服装に合った行動は伴わない。
見事に作戦は失敗に終わったシンは項垂れる。
チラリと隣りを伺えば、カガリは心底楽しそうに笑っている。

「まっ、いっか」

シンは本来の目的を捨ててデートを楽しむ事にした。

「んにゃ、何がいいんだ?」
「なんでもない」

シンも笑顔で大きな口を開けてケバブにかぶり付いた。




ケバブを食べきった二人は、また、手を繋いで歩き出す。
正にお似合いの恋人同士。
シンは気付いてなかったが、通り過ぎる人達は可愛らしいカガリを彼女にしていると羨望の眼差しを送っていた。

「フフン♪」

カガリはご機嫌で鼻歌を歌っている。

「何?いい事あった?」
「いや、何か楽しくて//」

恥じらいながらも笑顔である。

「ん、俺も楽しい」

シンは繋いでいる手をさらに強くする。


歩き回っていつしか日は落ち涼しい風が吹き始める。

「これからどうする?」
「そうだな〜、今の時間ならナイトショーやってるかも」
「じゃあ、早く行こ!」

カガリは急かすようにシンの手を引っ張る。

「そんなに慌てる事ないって」

そう言いながらもシンも早足で歩く。



シネコンに到着した二人。
けれど、シンやカガリが見たかった映画は既に満席だった。

「ほら、早く行かないから入れなかったじゃないか」

カガリはシンの体を駄々をこねる子供のようにポカポカと叩く。

「そう言うなって。時間が勿体ないから、空いてる映画で良いだろ?」

カガリはあからさまに不服そうな態度を示すが、シンは気にせずチケットを買って連れて行く。
取った席は一番後ろ。
その映画は封切られてかなり過ぎており、客はまばら。

「こんなに空いてるなら、前の方がよかったのに〜」
「いいんだ、ここで」

シンは含み笑いをする。
カガリは疑問を持つが、それを問い質す前に辺りは暗くなり映画が始まった。
アクションをメインとした映画で、カガリはすぐに集中する。
場面が変わる度にカガリの顔は百面相して、それを横目で見詰めているシンはおかしくて仕方ない。
シンは映画そっちのけでカガリをずっと見続けた。



映画は大団円で終わりカガリは満足げだ。
暫くしてエンドロールが流れ出す。

「ねぇ、カガリ」
「ん?何だ、シン?」
「映画、楽しかった?」
「うん!あんまり期待してなかったけど楽しめた」

暗い中小声で話す二人。

「そっ、じゃあ俺も楽しませて」

薄明かりの中、シンは妖しく笑う。

「ふぇっ!?」

カガリは間の抜けた声を出す。
ボケッとしているカガリから、シンはウイッグを取り金の髪を露にする。

「こっ、こら!なんで取るんだよ!」
「暗いから解んないって。それに、カガリの髪に触れたかったから」

シンはサラサラとカガリの髪を梳く。
ウイッグからの解放感と、シンから与えられる心地好さにカガリは身を任せる。

「カガリ」
「ん?」

うっとりと身を任せていたカガリは恍惚の表情でシンを見る。

「誕生日プレゼント、やっぱ欲しい」
「えっ!?今さら、言われても何にも用意してないぞ」
「解ってる」
「じゃあ、どうするんだ?」

シンは真紅の瞳を細めて妖しく微笑む。

「カガリからのキス。それが誕生日プレゼント」
「なっ!そんな事出来る訳ない。誰が見てるか解らないのに!!」

カガリは真っ赤な顔して小声で怒鳴る。

「大丈夫だって。その為の一番後ろの席なんだし、皆、エンドロールを見て、こっちなんか誰も見てないって」
「でも!」
「早くしないとエンドロールが終わっちゃうよ」

仕方なくカガリは整った眉を下げながらも、シンの肩に手を置いた。
目を閉じて唇を近付ける。
音もたてずに触れ合う唇。
カガリはすぐに離れようとしたが、シンはそれを許さない。
後頭部を押さえて強引に深く口づける。
嫌がっていたカガリも最終的には受け入れた。
エンドロールが終わるまで情熱的なキスは続いた。
暗かった場内が明るくなればがカガリは笑顔で言う。

「シン、誕生日おめでとう!」




管理人のミスで
修正せざるえなくなりました

2008.9.1
2011.12.28修正










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