Athrun's2011A
おめでとうの次はカガリとの関係を聞かれて、並べられるだけ言葉を並べて訝る両親を何とか言いくるめた。
どうやら両親に羽は見えないようだ。
その後、母がアスランの大好物であるロールキャベツを振る舞ってくれた。
ケーキをお腹一杯食べた筈のカガリは、底無しの胃袋を持っているのか戸惑う事なくロールキャベツを口に含んでいく。
とても美味しそうに。
アスランの顔は自然に綻んでいた。
久方振りの望んでいた光景があったから。
生まれきた日を両親に祝ってもらう。
そんな単純な望み。
叶えられそうで叶わない小さな願い事。
それを叶えてくれたのは紛れもなくカガリである。
両親主催の誕生会はあっという間に終わり、レノアとパトリックは仕事を持ち帰ってきたらしく仕事部屋に籠もりだす。
また、カガリと2人きりになってしまったアスランだが不思議と寂しさはなかった。
マンションの最上階に暮らすアスランの自宅には大きなテラスがついていて、今2人はそこにいる。
陽は落ち夜空に月が輝く。
都会故に星はあまり見えない。
「さて、帰るか」
「えっ…飛べないんじゃ」
「フフーン、見ろ、これ」
カガリの羽が大きく広がる。
飛べなくなっていた時に比べて白い羽はキラキラと輝いていた。
「凄い…」
「これが本来の私だ」
にこやかに笑うカガリは出会った時より光が溢れている。
「お前が幸福になった証拠だぞ」
その瞬間、悟った。
カガリとはもう二度と会えないんだと。
羽が大きく羽ばたいてカガリの足がコンクリートから浮く。
「じゃあ、またな」
「!…あっ、待って!」
咄嗟だった。
離れていくカガリの手を無意識に掴む。
その時、急激に羽がくすみ出す。
急激に輝きを失う純白の羽。
「わあ!?」
浮力を失いバランスを崩したカガリはアスランの元に倒れ込む。
「だ、大丈夫?」
「うん。大丈夫だけど…あれー?なんで飛べなくなってんだ?」
カガリは自らの羽を凝視する。
完全に鈍色へと変わっていた。
「…ん?お前、急に不幸になったのか?」
大きな目を瞬かせてアスランの顔を覗き込む。
不幸になった理由がカガリと離れたくないという思いなだけにアスランは答えに困る。
「えっ…そ、そうみたい」
「うーん、参ったな…飛べないと空に帰れない」
困った顔で夜の空を見上げる。
「…帰りたい?」
「まぁ、帰りたいけど…」
「けど?」
「お前が不幸なら幸福にしてやらないとな」
「…誕生日は今日だけで、俺を幸福にする必要性が明日にはないよ」
自ら言葉にした内容にアスランは気分が沈んでいくのが解る。
「お前、バカだろ?」
「…バカではないと思う」
「バカだよ。天使は人を幸福にする為にいるんだぞ」
「……」
「お前が誕生日だから、願いを叶えてやった訳じゃないぞ」
「じゃあ、どうして?」
「お前がいい奴だから。天使とかいう私を心配してくれたり、ケーキを分けてくれたりしてくれたからだぞ」
「…誰でもするんじゃないのかな?」
「お前〜、天使なめるなよ。空から色んな人間を見てきたんだからな」
「……」
「全ての人間の願いを叶えてやる程、天使は甘くないぞ。お前だからだ。アスランだから」
名を呼ばれてアスランは漸く胸にあった感情の意味を知った。
「……じゃあ、俺が幸福になるまで…側に…いて…」
そこに物分かりのいいアスランではなく、本来の寂しがり屋なアスランがいた。
「ああ、幸福にするが天使の仕事だからな」
その後、カガリを連れ戻す為に現れたカガリの兄で上司である天使長キラと一悶着あるが、それはもう少し未来の話。
Happy birthday Athrun!!
誕生日おめでとう、アスラン!
旧CPアンケコメントより
天使カガリに一目惚れ的な感じ
ってあったんですけど
余り一目惚れ感はなかったですね
不幸からの幸福を
意識してみました
2011.10.29