Athrun's2011@

本日10月29日はアスランの誕生日であった。
とはいえ、朝起きても誰に言われる事なく1人静かに学校へ行く準備をする。
携帯を見れば友達から数通のハピバメールがきており、手早く返信しながら朝食を食べる。
寂しいと言えばそうなのだが、両親は研究者でラボに籠もりきりで殆ど家にはいない。
小学生の頃は誕生日を祝って欲しいと駄々こねた事もあったが、今は物わかりのよい高校生へとアスランは成長している。
新聞と共に持ってきた郵便物の中にバースデーカードが届いていた。
手書きで書かれた両親からのお祝い。

“アスラン、16才の誕生日おめでとう
 今年も祝えなくて御免なさい
 バースデーケーキはいつもの時間に
 届くので受け取って下さい”

年齢以外は去年と寸分変わらないメッセージに、たとえ手書きとはいえ寂しさを覚えない訳がない。
それでも、アスランは両親を恨む事なく、清廉潔白な少年として毎日を送っている。
ふと、テレビを見れば占いをやっていた。
ランキング形式で発表され1位から下がっていき、12位にランクされたのは蠍座だった。
女性アナウンサーがサラリと内容を言い切る。

“今日は何をやってもダメな日です。
 1年で最悪な日です。
 気をつけて下さい”

占いとはいえ、碌でもない結果にアスランの顔は引きつる。

“ラッキーアイテムは羽です”

羽って羽毛布団の羽でもいいのかと、テレビに向かって突っ込みそうになったのを何とか押さえ込み、家を出る支度する。
アスランは特に占い結果を気にする事なく自宅のマンションを後にする。
マンションの敷地を一歩出た瞬間、足に違和感を感じた。
見れば先程したばかりであろう踏み潰された犬のフンがあった。
慌てて足を上げるがベットリとフンが靴についてしまっていた。
いきなりの占いの洗礼にアスランは大きく溜息を吐く。
靴を履き替える為に一度自宅に戻ろうかと考えたが頭の隅に女子アナの声が蘇る。

“今日は何をやってもダメな日です”

もしかしたら、また犬のフンを踏むかもしれないとよぎって、アスランは踏んでしまった靴を歩道に擦りつけながら登校していく。
いつものように角を曲がれば、トラックが猛スピードで走り抜け、前日の雨で出来た水溜まりの飛沫が派手に巻き上がる。
それをアスランは諸に被った。
余りの事でアスランは暫し放心していた。
流石にずぶ濡れで登校するのはアレなので自宅マンションへダッシュで戻った。
制服を脱ぎ捨て、学校指定のジャージに着替える。
時計に目をやればあれだけ余裕のあった時間はなくなっていた。
靴も別のモノに履き替え慌ててマンションを飛び出し、敷地前にあった犬のフンは飛び越え全速力で学校へ向かった。
が、やはりというか見事間に合わずアスランは遅刻してしまった。
不幸はこれだけではなかった。
授業が返ってきた小テストが、名前を書き忘れるという凡ミスで0点になっていたし、体育の授業では偶然にも拘わらずボールが何回も頭に飛んできて頭痛を起こす程衝撃を受けた。
昼休みに食堂に行けば、凄まじい購買戦争が始まっており(通常、こんな事はない)何故かと言えば、昨日テレビで紹介されたモノが入荷されたらしく流行りモノが大好きな高校生は下らない争いを繰り広げていた。
そんな訳で昼食にありつけなかったアスランは仕方なく自販で烏龍茶を空腹を紛らわした。
偶々見た占いがこんなにも当たるとは思わなかったアスランは、誕生日なのに早く終わる事をただ願った。
全授業を終えたアスランは大人しく、そして足早に自宅を目指す。
もう少しで自宅という所でアスランは頭上に物凄い衝撃を受けた。

「いったあぁっ!!」

一目も憚らず大声をあげる。
何かが頭にぶつかったのだ。
生きてる事を考えて危ないモノではないみたいだが。
周りみれば白い羽が散らばっていた。
アスランは慌てて立ち上がる。
目の前にあったのは、鳥の死体というグロテスクなモノではなく金髪と白い服を着た少女がいた。
そして、見間違いでなければ彼女の背には純白の羽が2つある。
現実離れをした状況にアスランの頭は上手く働かない。

「あー、うっかり落っこっちゃった。後でキラに怒られるな…やだな」

彼女は普通に愚痴を零している。
アスランは訝しい目で見ていればふわりと立ち上がる。
間違いなく羽の力を借りて彼女は立ち上がった。

「はっ、羽が動いた!!」

素っ頓狂なアスランの声に彼女は漸くアスランの姿を目に止める。

「お前…羽が見えるのか?」
「えっ!」

目の前にいる金髪の少女の名はカガリ。
天使で雲の上から地上を眺めていたら落っこちて、偶々下にいたアスランにぶつかったと説明してくれた。
天使という部分は正直信じがたいのだが、動く羽が真実を現している。
因みに普通の人には羽は見えないらしく、アスランは心が綺麗なんだなと可愛らしい顔で言われて少なからずドキドキした。

「じゃあな」

と言って大きく羽を広げて飛び立とうとするカガリをアスランは見守るが…
10cm程、浮いただけでその場に留まっている。

「あれー?飛べなくなってる」
「…どこかぶつけてたからじゃないか?」

アスランは心配そうに声を掛けた。

「ん、ぶつかったぐらいで飛べなくなる事はないぞ」
「じゃあ…」
「すんごい不幸な奴がいたら別だけど」
「えっ!?」

聞けば飛べなくなった原因は完全にアスランのせいだった。
天使は不幸の奴のエネルギーを吸い取って自らが不幸を背負い浄化するという。
ただ、浄化中は飛べなくなる。
朝から起きていた不幸な出来事を話すと、カガリはケタケタと笑い始めた。

「アハハ、朝から不幸山盛りだな。こんな不幸な奴を見たの初めてだぞ」
「ハハ…」
「でも、もう安心しろ。私に出会えたお前にもう不幸は起こらないぞ。何たって私は天使だからな」
「だといいけど…」
「なんだよ。天使の力を信じてないな〜」
「…羽は凄いけど、ね……あっ!」
「どうした?」
「届け物がくるから早く家に戻らないと」

アスランはカガリを放って走り出す。

「あっ、待てよ!」

追っかけてくるカガリを気にしながらも、マンション内へと入って行く。
すると丁度宅配業者が来ており、アスランはそこで届け物を受け取る。

「何それ?」
「…ケーキだよ。誕生日の」
「お前、今日誕生日だったのか?」
「えっ…あっ、うん…」
「誕生日おめでとう」

今日あったばかりのしかも天使のカガリに祝われてアスランは驚きや複雑と色々な感情が湧いたが、最終的に残ったのは素直に嬉しいだった。



飛べないカガリを連れて自宅内に入って行く。
先程から目を輝かせて興味津々ですと、カガリがアスランの持っているケーキの箱を見つめている。
苦笑しながらアスランは何より一番先にケーキの箱を開けた。

「おおーっ!!」

感嘆の声を上げるカガリ。

「ケーキ見るのは初めてなのか?」
「うん?いや、見た事あるぞ」
「じゃ、どうしてあんなに見たそうにしていたんだ?」
「だって、幸せが溢れてるから」
「えっ!?」
「このケーキを作った奴も、ケーキを送った奴も、心からお前を祝う心がキラキラと輝いているんだ」

勿論、アスランにはケーキが輝いて見える事はない。
毎年、恒例として贈られるケーキに対して特段と思う事は今までなかった。
カガリに言われて初めて自分の為に作られた特別なケーキの意味を知る。
急に気恥ずかしさを覚えたアスランは誤魔化すように台所へと向かった。

「…//ケーキ、食べるよね」
「いいのか?お前のケーキだろ?」
「構わないよ。食べるの俺1人だから」

ケーキをカガリの為に切り分けたのだが与えた分をペロリと平らげても尚、カガリは物欲しそうにしているのでどんどんとケーキを渡していけばいつの間にやらアスランが食べた分以外の全てを食べきっていた。

「…ゴメン、殆ど食べちゃって…」
「いや、いいよ。いつも、食べきれなくて困っていたから」
「でも…」
「ケーキも喜んでるよ。あんなに美味しく食べて貰って」
「そうか?」
「うん、間違いない」
「お前がそういうならそれでいいか?」

深く考えないタイプなのかカガリは出されたジュースを飲みだした。
それを横目に見ながらアスランは後片付けをしていく。
一通り終えればカガリが傍に来ていた。

「どうした?」
「今日、お前の誕生日だろ?」
「そうだけど」
「これ、やる。プレゼントだ。ケーキのお礼も兼ねてるぞ」

渡されたの純白の羽。

「これは?」
「私の羽だ」
「……」
「なんだ、その目は?」
「いや…その…ありがとう」
「この羽は私が念を入れた特別な羽だぞ」
「そ、そうなの?」
「この羽に願いをかけてみろ。お前の願いが叶うぞ」
「…ホントに?」
「ああ、ただし!」
「ただし?」
「金持ちになりたいとか、頭が良くなりたいとかそんな願い事は叶わない」
「…じゃあ、何が叶うんだ?」
「お前が心の底で望んでいる事」

綺麗な瞳で言い切られて、アスランはじっと羽を見詰める。
深く心の奥に眠る思いを頭に浮かべた。
すると、白い羽は音もなく消えた。

「えっ!?」
「フフ、お前の願いが叶ったぞ」

笑うカガリの背後でドタドタと騒がしい音が聞こえだす。

「アスラン!ただいまっ!!それから誕生日おめでとう!!」

ドアを開けてハイテンションで話し掛けてきたのはアスランの母であるレノア。
後ろには大きなプレゼントを持っている父パトリックが見えた。
どんな時でも研究優先で帰ってこない2人が目の前にいる。
アスランは驚愕の目でカガリを見る。
ふわりと笑っているカガリはやはり天使なんだと改めて実感した。



Aへ続く










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