あくまで幼なじみです
「たつみんはね、とにかくすごいんだよ」
「うん、僕も憧れていたなあ」
それは日曜日のこと。たまたまロビーで出くわしたteam鳳とteam柊のメンバーで、どこかにお昼でも食べに行こうという話になった。予定があるというメンバーもいたため全員で行くというわけではないが、とりあえず誘うだけ誘ってみようということになり、那雪と卯川がまだ部屋から出てきていない辰己と申渡を呼びに行くことになったのである。
二人の部屋までの話のタネといえば、もっぱら辰己の話であった。卯川がとりわけ辰己へ憧れを抱いているため、同じ中学校出身の那雪に色々と過去の辰己について聞いてくるのである。四六時中辰己の側にいる申渡には聞けないこともあるのだろう、ここぞとばかりに卯川な那雪に話しかけてくるのであった。
辛辣な言葉を吐くという印象もあった卯川と意外と話が弾んでホッとする那雪。気づけば辰己と申渡の部屋にたどり着いていた。
「この時間ならもしかしたら申渡くんはお出かけしちゃっているかもな〜。たつみんはいるかもしれないけど」
「二人で一緒には過ごさないんだね?」
「さすがにあの二人も休みの日までずっと一緒ってわけじゃないんじゃない? たつみんはインドア派だけど申渡くんは結構色んな所にいくのが好きみたいだし」
「ふうん、そっかあ」
こんこん、と軽くノックしてみる。辰己あたりはもしかしたら寝ていたりするかもしれない。あまり音を立てないようにそっとドアノブを回してみれば……扉は、開いた。
「あ……寝てる?」
恐る恐る中に入って行くと、片方の布団がこんもりと盛り上がっている。もう片方のベッドは、空っぽ。ああ、やっぱり申渡は出て行ったのか……と残念に思いながらも、二人は盛り上がっている方のベッドに近づいてゆく。
「たつみんー……起きてー、たつみ――」
ベッドを覗き込んだ卯川は、そこで言葉をぐっと呑み込んだ。どうしたのだろうと同じようにベッドに視線を移した那雪も、「えっ」と声をあげてしまう。
――ベッドには……辰己と、それから申渡が一緒に寝ていた。申渡の腕枕で、すうすうと気持ちよさそうに眠っている辰己。申渡は申渡で、辰己を愛おしげに抱きしめて目を閉じている。
「……お、幼なじみってここまで仲いいものなの……?」
「いや空閑くんと虎石くんが一緒に寝ているのとか見たことないけど……」
いくら仲がいいからって一緒に寝たりするものなのだろうか。驚きの光景に二人が固まっていると、辰己がむず、と眉を寄せる。起こしてしまっただろうか、と那雪と卯川は気まずそうに顔を見合わせた、そのときだ。
「ん、……えーご……」
辰己が、甘ったるい声で申渡の名前を呼ぶ。そして、もぞもぞと動くと申渡にぎゅうっと抱きついた。
まるで恋人みたいだな……と二人が唖然としていると、申渡がちらりと目を開ける。
「あ……お、おはよう申渡くん……」
「……」
申渡は黙って那雪と卯川を見つめる。そして、動いた拍子に布団が剥がれてしまった辰己の肩に、もう一度布団をかけてやる。
そして。
困ったように笑って、唇に人差し指を当てた。「しー」と小さな声で言って、辰己の頭を撫でてやる。
「……っ、お、おじゃましました……!」
見たことのない申渡の表情に、二人はかっと顔を赤らめた。そして、慌てて部屋から出て行く。
「な、なにあの申渡くんの顔……! あんなの歌っているときくらいしかみたことないんだけど!」
「ぼ、僕も……! それから辰己くんがあんなに甘えているのも……!」
「な、なんなのあの二人!」
不覚にも辰己を可愛いと思ってしまって、申渡にドキッとしてしまった二人。見てはいけないものを見てしまったような、はたまた見たことのない辰己と申渡の姿を見れて得したような。とりあえず今日は二人の邪魔をしてはいけないと、ランチへのお誘いは断念したのだった。