◎あるかもしれない夢のはなし。
※IFのお話です!本編とは関係ありません!
※グリフォン×ノワール(ほんのりR18)
肌を撫でる空気が冷たい。
冬の夜は暗かった。窓の外は一切の光がない。さあ寝ようと部屋の灯りを消すと、ぱし、と心のなかまで真っ暗になってしまうような。そんな夜だった。
厚着はしてみたが、手先が冷たい。はあ、と息をついて、ノワールは床につく。
「グリフォン。ちょっと、出てきて欲しいんだけど」
宙に声をかけてみれば、ふわっと光が待って白い獣が出てきた。ノワールと契約を結ぶ聖獣・グリフォン。鷲の頭に獅子の身体が特徴の、美しい獣だ。
「グリフォン。一緒に寝よう?」
「私で暖を取るつもりか」
「だって、寒いんだもん」
グリフォンは不機嫌そうにノワールをにらみつける、が。喉からごろごろと機嫌のよさそうな音が響いている。
グリフォンはタカ科なのか猫科なのか……それはわからないが、この「ごろごろ」はおそらく嫌がってはいないのだろう。
ノワールが笑ってベッドに横になると、グリフォンは渋々といった様子で布団にベッドに乗り上がった。グリフォンの巨体はベッドから少々はみ出るほど。グリフォンがベッドに乗ると、ギシッとベッドが軋む。
「グリフォンが乗ってもはみ出ないくらいの大きなベッド売ってるかな」
「そんなに大きなベッドを買って……邪魔になるだけだろう」
「だって、小さなベッドだと、グリフォンが寝心地悪いでしょ?」
「おまえと共寝するのは、今日限りだ。安心しろ」
「ええー。けち」
ノワールは布団を被りながら、ぴた、とグリフォンにすり寄った。もふもふとした毛並みが心地よい。
グリフォンからは、お日様のような匂いがする。どんな、と形容するのは難しいが、とにかく優しくて温かい匂いがするのだ。寄り添ってその匂いを嗅いでいると、心がすうっと凪いでゆく。
ノワールはしばらくそうしてまどろんでいたが、ふと、思い立ったようにグリフォンをちょいちょいとつついた。
「ねえ」
「ん?」
「グリフォンってさ、」
ノワールが身体を起こす。そして、ふ、とグリフォンのクチバシに唇を寄せた。
「クチバシの感覚ってあるの?」
「……なんだ、急に」
「こうしたら、俺が触れてるのわかる?」
再び、ちゅ、とクチバシに口づける。
グリフォンはじっとノワールを見つめた。
「感覚はある。おまえに触れられたのも、感じている」
「へえ。感覚ないのかと思っていた。俺の爪とか髪みたいなものかと」
「人間の身体とは違うのだ。それで、急に何故そんなことを」
「いや、なんとなく」
ノワールはするっとグリフォンの顔を撫でた。そして、グリフォンのクチバシの先端を、唇ではむっとついばむ。
「グリフォンともキスできるのかなって」
「……」
――ばかなことを。グリフォンはそんなことを考えた。
クチバシは、獲物を仕留めるためにある。口づけができる作りになっていない。だから、キスをしたいと言ってくるノワールを愚かだと思ったのだ。
しかし、彼とならキスをしてみたいとも思った。ずっと、彼のことを愛していたのだから。もう、ずっとずっと昔から。
グリフォンは目を細めると、ぐいっと前足でノワールを押し倒す。つん、とクチバシでノワールの唇をつつけば、ノワールがくすぐったそうに笑った。
ノワールがグリフォンの頭を抱きしめるようにして腕を伸ばす。グリフォンがノワールの唇をつついて、そして、ノワールがちゅ、ちゅと、と音を立ててグリフォンのクチバシにキスをした。
「ふふ、なんだ。もっと早くしていればよかった」
「……。楽しいのか? 人間同士の接吻とは勝手が違うだろうに」
「楽しいよ。ねえ、グリフォン。もっと」
グリフォンの喉からごろごろと大きな音がなる。ノワールは楽しそうにくすくすと笑って、キスを続けた。ときおりグリフォンはクチバシの側面でノワールの顔を撫でる。そうして、暗い夜の時間は、温かく溶けてゆく。
*
カーテンの隙間から光が漏れて、部屋が朝に包まれる。
冷たい朝だ。冬の朝は、透き通っている。
それでも、布団のなかは温かい。もう少しこのままでいたい……そんなことを思ってしまうほどに、布団のぬくもりは罪深い。
「んん……」
ノワールはごろんと寝返りをうって、布団のなかの温かいものに腕をまわす。
昨晩はグリフォンと一緒に眠った。だから、グリフォンが一緒に寝ているはず、なのだが――
「……えっ」
ノワールが抱きついたものは、あのふさふさの白い毛並みではなかった。
「な、っ――え?」
ノワールはガバッと起き上がって、臨戦態勢をとる。
そこにいたのは、人間の男だった。しかも、裸の。
銀髪がまず目を引く男は、ノワールよりも体格がよかった。目を閉じているが、相当な美丈夫であることは見て取れる。
男はすやすやと眠っていて、起きる気配がない。
ノワールは必死に記憶をたぐり寄せた。昨夜はたしかにグリフォンと寝た。……のは記憶違いか? まさか、……いや。女と寝ることはあっても、男と寝ることはまずない。ではこの男はいったい?
ノワールがぐるぐると考えていると、ようやく男はまぶたをあけた。苛立たしげに眉を寄せるその表情は、どことなく見覚えがある。
「おい、ノワール……寒いだろう。布団をめくるな」
「……? あの、貴方はいったい?」
「何を――ん?」
ノワールのことを認識している男。だが、ノワールはこの男を知らない。
ノワールが困惑しているのをよそに、男は自らの手を見て目を丸くしていた。
「……人間、……なぜ、私が人間に?」
「あの、ちょっと」
「おい、ノワール、鏡を見せろ」
「鏡……? そっちに姿見があるけど……」
男は布団を放り投げてベッドから飛び降りた。全裸の男がどしどしと姿見に向かっていく様子を、ノワールは唖然として見つめる。男は姿見の前に立つと、「なぜだ!」と大声をあげた。
「本当に人間になっている……」
「ねえ、貴方は誰? いい加減教えてもらえる?」
「グリフォンだ! 貴様の! 契約獣の!」
「へ?」
男はグリフォンだという。
グリフォンは……鷲の頭に獅子の身体。そんな獣のはずだが。目の前にいるのは、たしかに人間だ。
そんな馬鹿なことがあるかと、ノワールは疑いの眼差しで男を見つめる。
だが、言われてみれば――彼と、契約の繋がりを感じる。
「え……本当にグリフォン?」
「そうだ……私も状況がわかっていないが」
ノワールはよろよろと男――グリフォンに近づいていって、彼の身体をぺたぺたと触った。よくよく彼の身体に流れる魔力を探ってみれば、いつもとは様子が異なるようである。彼のなかの魔力が、どこかで歪んでしまったのかもしれない。
何が起こっているのかわからない。
色々と原因を考えてみたが、ひとつだけ思い当たることがある。
「き、昨日……キスをしたからかな」
「……は?」
「だって、物事にはなにかの原因があるわけで。昨日、きみと過ごしたなかで、いつもと違う行動といえば……キスだけだもん」
「なら、再び接吻をすればもとに戻るのか」
「あっ……ちょっと、待って待って!」
「なんだ」
「キスが原因かも」とノワールが言ったので、グリフォンは元に戻るためにノワールとキスをしようとした。しかし、ノワールにぐいっと胸を押されて、キスは阻まれてしまう。
「せっかくだし、ちょっと人間のままでいてよ」
「何故」
「だって面白いじゃん。いつもと違うことができるよ、グリフォンと」
「そんなことしなくても――」
そんなことを言っている場合か、とグリフォンは思ったが。
グリフォンは、たびたび「自分の身体が人間だったなら」と思うことがある。ノワールが寂しがっているときに、彼を抱きしめる腕があったなら。ノワールが寒がっているときに、彼を優しく温めることができたなら。
グリフォンにとって、人間は下等生物でしかない。だから、人間の身体になんてなりたいなど思わなかった。しかし、ノワールのことを考えたときに、たまに……人間になりたいと思ってしまう。
今まで抱いてきた、小さな願い。それがこの身体なら叶えられる。
「……いつもと違うこと、って何をするつもりだ。ノワール」
「えっ。えーと……とりあえず、服を着よう? 目のやり場に困るから」
*
ノワールに服を着せられて、グリフォンは食卓についていた。
グリフォンの前には、朝食が並んでいる。スクランブルエッグにベーコン、サラダ。人間が食べる朝食だ。
「グリフォンはいつもご飯はいらないけど……その身体だと、ご飯必要かな?」
「身体のつくりは変わっていない。食事は摂らなくとも問題ないが……食べることはできる」
「じゃあ、一緒に朝食食べよう」
ノワールがニコッと笑う。
ノワールがグリフォンの前に座って、食事を始めた。グリフォンは不思議な心地で、ノワールを見つめる。
同じ目線で見ると、いつもとは異なる彼に見えた。
「……あれ、グリフォン。やっぱり食べないの?」
「いや……」
「あ、そっか。食べれない?」
ノワールは思い立ったように立ち上がる。
グリフォンは、食事をしようにもできなかった。まだ、手の使い方がわかっていない。フォークとナイフを使いこなせなかったのである。ノワールはそれを察知したようだ。
ノワールはグリフォンの隣に座ると、フォークでベーコンをとった。そして、グリフォンの口元に持ってくる。
「はい、グリフォン」
「……」
グリフォンは言われるがままに、ベーコンを食べた。
ぱち、とノワールと目が合う。
心がなんだか落ち着かない。
ノワールはそんなグリフォンの気持ちは知らず、スクランブルエッグ、サラダ、パン、とグリフォンに食べさせ続けた。
「味は感じられる?」
「ああ……」
「美味しい?」
「……おそらく」
「そっか。よかった」
また、ノワールが笑う。
やはり、心が落ち着かない。
*
食事のあとは、歯磨きをした。ノワールはなぜだか上機嫌にグリフォンの歯を磨いていた。グリフォンが「なぜそんなに楽しそうなんだ」と尋ねれば、ノワールは「きみの世話をするのは楽しい」と答えた。たしかに、いつもノワールはグリフォンの毛づくろいを楽しそうにやっている。
歯磨きを終えると、二人でソファに座る。
今日は、休日だ。のんびりとできる。
「……人間の手は、不便だ。思うように動かせない」
「それはきみが慣れていないからだよ。慣れれば、便利だよ。人間の手」
「慣れるといっても……」
「じゃあ、手の使い方を練習してみようよ」
ノワールがグリフォンの手をとった。
グリフォンが驚いていると、ノワールがその手を自らの頬にもっていく。
「俺のこと、触ってみて」
「……、」
グリフォンはノワールの頬に触れ、ビク、と手を震わせた。
グリフォンは、手でノワールに触れたことがない。グリフォンの前足は鷲のようなかぎ爪になっているため、ノワールに触れると彼を傷つけてしまうのだ。
だから、今――初めて、彼に触れる。
想像以上に、ノワールの頬はやわらかかった。本当にこのまま触れてもいいのかと、不安になるくらい。
恐る恐る手を動かしてみれば、ノワールがふふっと笑う。本当に、人間の手は、彼を傷つけずに触れることができるようだ。
「痛く、ないのか」
「うん。ねえ、両手で触ってみてよ」
「どこを……」
「どこでもいいよ。どこに触りたい? 服、脱ごうか?」
「……、ノワール、」
「ふふ、俺の服脱がしてみる? 指先の練習」
ノワールがのそりと立ち上がる。唖然とグリフォンがノワールを見上げていると、ノワールがのしっとグリフォンの膝の上に座った。
「おまえ、」
「重い?」
「いつもおまえを背に乗せているから、この程度なんともない」
「そう」
ノワールがグリフォンの手をとって、自らのシャツのボタンに誘導する。そして、「こう」とグリフォンの指先をあやつって、ゆっくりとボタンを外していった。
グリフォンはされるがまま。自分の指が彼のシャツのボタンを外していくのを、ただ見つめることしかできない。
「ノワール……何を考えている」
「言わなくてもわかるでしょ、きみなら」
「だが、」
「グリフォン、俺ね」
ぱふ、とノワールがグリフォンに抱きついた。グリフォンは腕の行き場がわからないまま、手を宙に漂わせる。
「きみのことが好き。本当に大好き。知ってるよね?」
「……知っているとも。私も、同じ気持ちなのだから。しかし、おまえは人間で、私は獣だ」
「だから、今なら問題ないよ」
グリフォンはゆっくりと、ノワールを抱きしめる。
――ああ、彼を腕のなかにおさめると、こんな心地なのだな。
そんなことを思って、腕に力を込めた。たまらないほどの多幸感が胸のなかになだれ込む。愛おしくて、愛おしくて、彼の首元に顔を埋めた。
「ねえ、キスしてから、どのくらいで身体に変化が起こると思う?」
「……知らぬ」
「昨日は一晩かかったんだよね。だから、すぐに変化するわけじゃないと思う」
「何が言いたい?」
「いっぱいキスしたいなあって言いたい」
「……」
ノワールは身体を起こすと、するりとグリフォンの頬を撫でた。
ふ、と親指で唇を撫でて、そして――唇を重ねる。
「ん……」
柔らかくて、あたたかい。
このように唇を重ねるのは初めてだ。思っていたよりもずっと優しくて、ずっと気持ちいい。
たまらず、グリフォンはノワールの頭を抱きよせる。もう片方の手は彼の腰に。彼を全身で感じられるように抱きしめながら、その唇をむさぼった。
「あっ……、ぅ、……」
ノワールはグリフォンの肩に手を置いて、ゆっくりと身体を揺らした。吐息が零れおちて、少しずつ、温度が上がってゆく。
「ねえ、グリフォン……」
「ん……?」
「舌、出せる?」
「舌?」
「うん……俺の動きに合わせて、舌も……絡ませて」
ふとグリフォンはノワールの顔を見つめる。とろん、と瞳が蕩けていて、ひどく気持ちよさそうだ。可愛らしい……そんなことを思ってしまう。
「はぁっ……、あ、……」
「いつもと、様子が違うな。……女と交ぐわっているときのおまえは、こんな風ではないのに」
「こういうときに女性の話を持ち出すのは、マナー違反だよ……、」
「そうなのか」
「グリフォン、あのね」
ノワールがする……とグリフォンのシャツのなかに手を差し入れた。ぴく、とグリフォンが反応する。ノワールはそのままグリフォンのシャツをたくし上げていき、露出したその胸板にぴたりと身体を寄せた。
「本当に好きな人と触れあうと、本当に気持ちいいんだよ。人間の身体って、そうなってるの」
手の使い方も、慣れてきた。
グリフォンは、ノワールのシャツのなかに手をいれて、背中を撫でる。ひく、とノワールが震えると、グリフォンは彼の肩口に唇を寄せた。「あ、」とノワールの唇から声が漏れる。
「なるほど。それは、本当らしいな」
とまらない。
彼の身体にもっと触れたい。
グリフォンはノワールの首に唇を這わせながら、人間の身体というものを理解する。
*
秘めやかな息づかいと、ベッドが軋む音が響く。
グリフォンに組み敷かれているノワールの顔は、グリフォンすらも知らない彼の顔だった。こんな風に、素直に快楽を受け入れている彼など見たことがない。
「あっ、あぁっ、あ、」
ぐ、とグリフォンが突くたびに、ノワールは甘い声をあげた。グリフォンは力の加減がわからず、抑えられる限りの弱い力で腰を揺らしたが、それが彼にとっては善かったらしい。ノワールはたまらないといった表情で声をあげ、自らも腰を揺らしている。
「あっ――……! んんっ……」
ゆっくり、ゆっくり、突いて。そして、ぐぐっと奥に押し込んでやる。そのままグリフォンはノワールの上に倒れ込み、彼の身体をぎゅうっと抱きしめた。
「はぁっ……、はっ……、グリフォン……?」
「ノワール、私は、ずっとおまえをこうしたかったんだ」
「ん、……俺を、抱きたかったの……?」
「……それは、否定しないが……、そうじゃない。おまえを抱きしめたかった」
はあ、はあ、とグリフォンの息づかいがノワールの耳をくすぐる。
ぎゅっと力強く抱きしめられて、ノワールは胸がいっぱいになった。胸が締め付けられるような心地になって、ノワールもグリフォンを抱きしめかえす。
「……俺はね、グリフォン……きみに、何よりも近い存在でいてほしかった。だから、きみとこんな風に触れあってみたくて……。きみと、同じようにもどかしい気持ちを抱えていたと思う」
ぱち、と目が合う。息がかかるほどの近い距離で見つめ合う。
「ふん……私もおまえも、種族の違いなんぞに悩まされて……ばかばかしいな」
言葉もなく、唇を重ねた。お互いの全部を求めるように、深く。
くちゅ、と繋がったところから音がなる。グリフォンはノワールの身体を揺らすようにして深く、優しく突いて。キスをしたまま、彼の身体を揺さぶった。
「んっ、んん……ん、」
ノワールの唇から漏れる声が、上擦ってゆく。少し息苦しいのか、あるいは感じすぎているのか。ノワールの目尻からは涙が流れていた。
「んっ、んっ、んっ……ふ、……んん……」
次第に、速度が上がってゆく。ノワールはぎゅっとグリフォンの身体を強く抱きしめて、何度も果てそうになるのを耐えていた。呼吸が荒くなり、息苦しくなってとうとう唇が離れてしまえば、無意識にその口から甲高い声が零れてしまう。
「あっ、あッ……、あ、あっ、ああっ、」
「ノワール、」
ギシギシとベッドの軋みがうるさく鳴っている。ノワールは縋り付くように、たぐり寄せるように、グリフォンの身体を抱きしめた。
グリフォンも息づかいが荒くなっていき、どんどん昇りつめてゆく。ノワールはもうグリフォンに翻弄されるしかなくて、声をあげることしかできなかった。ずんずんと深く突かれて、突かれて、イッているのかいないのかもわからない。
「あぁっ、あっ、! あぁあっ……!」
「はぁっ、は、……ノワール……、」
グリフォンがグッとノワールの腰を掴む。そして、自らの腰を押し込むようにして――なかで、果てた。同時にどたりとノワールの上に倒れ込み、はあ、はあ、と息をつく。
ノワールはグリフォンを抱きしめたまま、ゆっくりと息を落ち着けていた。二人とも、言葉もなく、重なった身体の体温と、呼吸のたびに上下する胸の動きを感じていた。
「はあ、……はあ……ふふ、すごい、グリフォン……汗だく」
「……すまない、……なかに、」
「ん……? ふふ、いいよ。俺も、なかに出してほしかったから」
「……何を言っているんだ、おまえは……はあ、……はあ」
ノワールがちゅっとグリフォンの頭にキスを落とす。そうすればグリフォンはのそりと起き上がって、ノワールを見下ろした。そして――唇を重ねる。
「ん……んん……」
気怠い身体をほったらかしにするように、キスを楽しんだ。ときおり舌を絡めて、唇をはむっと吸って、唇で遊んで。ゆったりと、お互いの唇を愛撫する。
「まだ……身体は、元に戻らなそう?」
「ああ、そうだな……多少、魔力の揺らぎは感じるが……」
「じゃあ……もう一回しよ? ううん、戻るまでずっと、しようよ」
「……この感覚だと、一日くらいかかるぞ」
「じゃあ、一日中しよう。ずーっと、俺のこと抱いていて」
ふふっと艶っぽく笑ったノワールを見て、グリフォンはため息をついた。この魔性、と悪態をつけば、「こんな態度をとるのは、きみにだけ」とノワールがくすぐったそうに笑う。
*
「何の問題もなく、元に戻ったね」
「ふん……」
日が変わるころ、ようやくグリフォンは元に戻った。ふさふさの白い毛並みと、鷲の頭、獅子の身体。いつものグリフォンの姿を見て、ノワールはホッとしたように笑う。
一日中抱かれていたノワールは、多少、怠そうだ。へろへろとした足取りでグリフォンの傍まで寄っていき、くたりとその身体にしなだれかかる。
「うんうん、これこれ。グリフォンといえば、この身体」
「……」
グリフォンはうー、と小さく唸る。元に戻って安心したような、もっとノワールに触れていたかったような。そんな複雑な気持ちだった。
獅子の身体では、人間のように上手くノワールの身体に触れられない。試しにちょいっと前足でノワールの身体を抱いてみれば、ノワールがパッと楽しそうに笑った。
「ねえ、今日も一緒に寝よう。きみと離れたくないな」
「ふん、まあ、構わないが」
「身体が元に戻ると、口も元通りだね。さっきまで、甘い言葉たくさん言ってくれたのに」
「そんなこと言っていない」
「ふふ」
ノワールの言うとおりだった。いつもの身体に戻ると、どうにも素直になれない。先ほどまでの自分がおかしかったのだと思い直して、グリフォンはすり、とノワールに頭を擦りつける。
「ねえ、この身体のまま、セックスはできない?」
「おまえの身体が傷つくだろう……」
「……グリフォンのあれって、猫のみたいにトゲトゲしてるの? 見ていい?」
「いいわけないだろう! やめんか!」
ノワールがくすくすと笑う。なんだかいつもよりも甘えたな彼に、グリフォンも調子が狂ってしまった。
「さっきまでの時間は、夢みたいなものって思っておくよ。でも、俺がグリフォンのことを大好きなのは変わりないからね」
「……私も、おまえのことはずっと愛しているさ」
「……! うん、知ってる」
見つめ合って、笑う。ノワールがグリフォンの額にキスをすれば、グリフォンもクチバシをノワールの顔にこすりつけた。
あるかもしれない夢のはなし。
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