教えてノワール様(後編)



「ん……」


 ラズワードはノワールを抱きこんで、深く口付ける。

 ノワールはまだ頭がぼんやりとしていて、上手く舌を動かせなかった。されるがまま、ラズワードに唇を貪られてしまう。ラズワードが舌で唇をなぞってきたら口をゆるりと開き、舌に触れてきたら舌を伸ばして……彼の呼吸に合わせるのでいっぱいいっぱいだ。


「あっ……」


 ラズワードが堅くなったペニスで、下腹部をごりっと擦り上げてくる。ぞく、としてしまって、ノワールはついつい声を出してしまった。口が開いているので、声を抑えることができないのだ。どうにか声を堪えようと、ラズワードの背に回した手にギュッと力を込める。こうしていないと自分を失いそうだ。

 ――不思議な感覚だ。こうして、誰かに縋り付くというのは。


「今日のノワール様は……なんだか、とても可愛らしいですね」


 ノワールの行動が、ラズワードには珍しく感じることだったのだろう。彼は唇を放すと、そんなことをぼやいた。その発言はノワールにとってひどく不可解なことで、思わず「はあ?」と声に出してしまう。


「……おまえだけだよ、そんな寝惚けたことを言うのは」

「可愛いって言われることはありませんか?」

「俺にそんなこと言う人がいると思う?」

「……いなそうですね」


 ラズワードは納得したようなしないような、複雑そうな表情を浮かべる。


「でも、こうして貴方の可愛いところを見られるのが俺だけっていうのは、少しだけ優越感を感じます」

「……そんなもので優越感に浸れるなんて、おまえは随分と安いやつだな」

「ええ? 結構名誉なことだと思いますけどね。貴方を抱くことが許させるなんて」

「……」


 そんなに、今の状況は彼にとって特別なことなのだろうか。

 ノワールがそっとラズワードの頬に手を伸ばす。頬を撫で、そのまま髪を撫でて、前髪を掻き上げる。不思議そうに目をぱちくりとしているラズワードに、ノワールは目を細めた。

 ラズワードには、すべてをもらっている。彼の未来、彼の幸福、彼の人生。彼のすべて。だから、ラズワードがこんなにも些細なことで喜んでいることが、もどかしくて仕方ない。

 あげられるなら、すべてあげたい。彼が捧げてくれたものと等価のもの――けれど、そんなものを俺は持ち合わせていない。せめて彼に喜んでもらおうと、こうして彼の劣情をすべて受け止めるつもりではいるけれど。きっと、彼はまだまだ足りないのだろう。


「……ラズワード、ほら……挿れたいんだろ」

「あっ……! は、はい……!」

「……俺の感じるところも、俺の抱き方も、全部教えてやるから……おまえだけに、全部」

「――……」


 きみが望むなら、なんだって。

 ノワールは必死に羞恥心を押し殺して、彼に身を委ねる。


「……ノワール様」


 ラズワードの目が見開かれる。うわ、瞳孔が開いている、とノワールは思う。


「……あっ、ああ、えっと……ゴム、つけないと……すみません、うっかり……」


 ラズワードがハッとしたように声をあげた。ラズワード自身、自分が昂ぶりすぎている自覚があるのだろう。このままノワールに触れれば無体を働いてしまうと思ったようだ。自分を律するようにしてノワールから視線を逸らしたが、ラズワードが動く前にノワールが腕を掴む。


「つけなくていい」

「……はぇっ!? い、いや……よくないですよ、その、なっ、なかで出ちゃうと後から大変ですから、」

「いい。俺のなかで出していい」

「……っ、……、……! ……!?」


 ラズワードがあからさまに動揺した。

 ノワールは苦笑する。やっぱりまだ若いな、と。


「のっ、ノワール様にな、中出ししても、よろしいのでしょうか!?」

「ふっ……なんで、そんな……ふふっ、かしこまって……」

「い、いや、流石に不敬というか」

「今までのことは不敬じゃないのか? そもそも、俺とおまえの間に不敬もなにもあるか。いやならやらなくていいけど?」

「やります! ノワール様の中に出したい!」

「お、おまえってやつは……」


 ラズワードの忌憚ない言葉に、ノワールは思わず吹き出してしまった。

 可愛らしいやつ。

 正直、抱かれるのは未だに違和感があるが、彼のこういう反応を見ていると悪くないと思ってしまう。


「わ、笑わないでください……」


 ノワールがおかしそうに笑うので、ラズワードは顔を赤くした。ノワールがそうして笑うのも、なかなか珍しいことだ。それから、笑顔が思った以上に可愛いので、いやらしいことがなんとなくしにくい。

 ラズワードが固まっているからか、ノワールがしびれを切らして彼の手を引いた。「ほら」とノワールが囁けば、ラズワードがごくりと音を立てて生唾を飲む。ラズワードの反応の何もかもが大袈裟で、ノワールはまた笑いそうになったが、これ以上笑っていては事が進まなくなりそうなのでなんとか堪えた。


「……ノワール様、ほんとに俺……貴方のこと、抱きますよ」

「べつに初めてでもないだろ、緊張しすぎ」

「な、生は初めてですよ……こ、子どもできたらどうしよう……」

「……俺を孕ませるつもり?」

「おっ――男同士で子どもはできませんから!」

「おまえが言いだしたんだろ、ほら、ラズワード……そろそろ始めなさい」

「……は、はい……」


 ノワールが急かしたからか、ラズワードは呼吸も整わないうちにノワールの両肩を掴む。そして、ゆっくりと押し倒した。ノワールの体はいとも容易くぱふっと布団に横たわる。


「……っ」


 ラズワードはきゅっと唇を結びながら、ノワールの脚を掴む。そして、ゆっくりと開かせた。ちら、とノワールの顔を見てみれば、その頬が赤く染まっている。もう何百人と女を抱いてきた彼が、こうして脚を開かされるのはどのような気持ちなのか。それを考えれば、彼の表情にも納得だ。


「い、挿れますよ……」

「うん……」


 ラズワードがゆっくりと腰を動かす。そして、先端をぴたりとそこにあてた。

 ぴく、とノワールの指先が震える。

 ああ、これで彼に抱かれるのは何度目だろう。たぶん、まだ指で容易く数えられる程度の回数だ。抱かれるより、抱いた回数のほうが圧倒的に多い。だから、まだ少し彼に抱かれるのは違和感がある。抵抗があるというわけではなく、なんとなく面映ゆいだけなのだけれど。

 ……顔が見たい。彼が、どんな顔で自分を抱こうとしているのか。

 ノワールはじっとラズワードを見上げる。ラズワードはその視線に気付いたのか、ノワールを見つめ返してきた。


「――……」


 つ、とノワールのこめかみに汗が伝う。

 ……どきっとしてしまった。

 ラズワードのまつ毛が揺れている。興奮で顔が火照っていて、いつもよりも色っぽい表情だ。


「痛かったら……言ってくださいね」

「……ああ、」

「――ん、」

「あっ――……あ、……く、……」


 ぐぷ……とラズワードのペニスがそこに沈んでいく。


「キツ、……はぁっ、……なか、熱……」

「あッ、……は、……はぁッ……」

「痛く、ないですか……」

「……だいじょう、ぶ……」


 ようやく半分ほど入り、ラズワードは再びノワールの顔を見つめる。ノワールは額に数滴ばかりの汗をかいていた。はぁ、はぁ、と熱っぽい吐息が濡れた唇から溢れていて、美しい。


「……動いても、いい……ですか?」

「……なあ、ラズワード……」

「はっ、はい……」


 ラズワードが動こうとすると、ノワールが制止するように声をかける。ひっくり返った声で返事をしたラズワードを、ノワールがふっと笑った。

 
「教えて、欲しいんだろ……? 俺の抱き方」

「……っ、」


 あ、とラズワードが口を開く。

 たしかに、そんなことを言ったけれど……中出しのインパクトがすごすぎて、頭から吹っ飛んでいた。この状態で教えてくれるのか――とラズワードは期待と焦りと興奮がごちゃまぜになった感情に飲み込まれそうになってしまう。

 しかし、当然ながら教えてほしい。彼を気持ちよくさせてあげたいし、彼が気持ちよくなっているところが見たい。


「お、教えてください……」


 ラズワードが絞り出すように答えると、ノワールは目を細めた。汗で濡れたまつ毛が、妙に艶やかだ。


「うん……じゃあ、教えてあげるから……ちゃんと、聞いているんだぞ」


 はふ、とノワールが息をつく。いちいち色っぽくて、ラズワードは目眩すらも覚えていた。

 ノワールの手が、自らの下腹部へ向かう。ラズワードがその手を追えば……ノワールは腹の上からなかにあるペニスを撫でるように、ゆっくりと指先で下腹部を撫でた。その仕草があまりにも扇情的で、ラズワードは頭がかーっと茹だるような感覚を覚える。 


「男の体には、何箇所か……感じやすいところがある。まず、このあたり……」


 ノワールの指先が、恥骨のあたりへ。ここに何があるかは、ラズワードも知っていた。前立腺だ――というのは今のラズワードにはどうでもよく、腹越しにペニスを撫でられているという光景に、心臓が破裂しそうになっていた。


「腰はまっすぐに振るんじゃなくて、ペニスで性感帯を刺激するように振るんだ……だから、ここ……俺の手があるあたりをペニスで擦るように、腰……動かしてみろ。軽く、腰を浮かせるようにして……下から上に押し上げるようにしてに振るんだ」

「はっ、はい……」


 本当に教えてくれている……!

 興奮でどうにかなりそうになる。ぶわっと顔が熱くなるのを感じて、我を失いそうになる。しかし、せっかくのノワールの教えを無下にするわけにもいかず、言われたとおりラズワードは腰を動かした。

 下から上に、やさしく突き上げるように。ぐい、とペニスで彼のいいところを擦りあげてみる。


「あっ……!」


 そうすれば、ノワールがひくっと震えて声を漏らす。

 うわ、ノワール様が感じてる……。

 ラズワードはドキドキとしながら、もう一度腰を揺らす。


「ここ、ですよね……」


 腰をゆらし、ぐりぐりとそこを刺激してやった。ああ、これ、自分がやられたら気持ちいいだろうな……そんなことをふと思いながら。この部分をぐりぐりされると体の奥のほうがきゅんきゅんするんだ……それを知ってるから、ラズワードは的確にそこを責める。気持ちいいところに圧迫感を与えながら、ゆっくりとぐりぐりと……。


「ん、……ッ、う、……ッ、く、」

「どう、ですか……? ここ、気持ちいいですか……?」

「……、んっ……じょうず……だ、……ラズワード……あっ、……ん、ん、」
 

 ちゃんと、気持ちよくなってくれている……。

 ラズワードは感動してしまって、もっとノワールが責めたくて仕方なくなった。少しずつ、少しずつ腰を振る速度をあげていく。ノワールの体を大きく揺さぶっているからか、シーツが擦れる音が少しうるさい。


「あっ、……あ、あ――」

「ねえ、ノワール様、……ほかにも、気持ちいいところ、教えてください……ノワール様……」

「――、じゃ、じゃあ……一旦、動き……とめ、あッ――ぁあっ……」

「むり、止められません……」

「ばかっ……あぁっ――……んっ、……ふ、……んんっ……」


 ノワールがぺしっとラズワードの腹を叩く。しかし、ラズワードの動きは止まらない。仕方のないことだ。ソコを刺激するたびになかがきゅっと締まって気持ちいいのだから。

 腰を振り続けるラズワードを見上げ、ノワールが眉をぎゅっとしかめる。このまま話せば、あられもない声が零れてしまう。それはノワールにとって許しがたいことだった。でも、彼が知りたいと言うなら――教えてあげたい。

 さまざまな気持ちがせめぎ合う。


「ら、ラズワード、……あっ、あ、……は、ぁ……」

 
 だめだ、声が出せない。女のような声も一緒に出てしまう。

 体を揺さぶられながら、ノワールはなんとか手を動かす。せめて、手で教えてあげられれば……。そう思って。

指先は――今、責められているところよりも、少し奥。へそのすぐ下のあたり。ノワールはそこを撫でて、震える声で「ここ……」と囁いた。

 恥ずかしそうに、色んなものを押し殺したように、秘めやかに自分の善いところを教えてくれたノワールを見て、ラズワードの中で何かがプチンと切れる。

 ――あ、この人のこと……俺のものにしたい。

 ――俺の下で、ぐちゃぐちゃにしたい……!


「へえ……」


 ラズワードが低い声で呟く。

 知ってる、ソコ。ソコを突き上げられると、すっごく気持ちいいんだ。

 ラズワードはぐんっ、と腰を勢いよく推し進め、奥目掛けてペニスを突き上げた。そうすれば、ビクンッ、とノワールの腰が跳ね上がる。


「――ッ、!?」


 一瞬仰け反り、またかくんと腰を落とす。

 あ、今イッたのかな。なかがきゅうきゅうと動いていて、ラズワードはなんとなく悟る。しかし、ノワールは驚いただけで自分が達したことをよくわかっていないようだ。中イキに慣れていないから、仕方のないことかもしれないが。


「はぁっ……ノワール様、……可愛い」

「ら、ラズワード、……一旦、止まっ……」


 ノワールはちかちかと瞬きをしながらラズワードを見上げた。息ははあはあと上がっていて、目が不安げに濡れている。

 ……ぞくぞくする。ドスンと下腹部が熱くなるような興奮を覚える。

 ラズワードは段々と頭が冴えてゆくような、不思議な感覚に見舞われた。燃え上がるような興奮に狂いそうになってゆく。


「……奥の方が感じるのはわかるんですけど、どういう仕組みで感じるんでしょう?」

「……、それは――っ、アッ――!?」


 ラズワードは質問と同時に、もう一度彼の奥を突き上げた。質問に答えようとしたノワールは、たまらず裏返った声を上げてしまう。

 虐めたい、この人を虐めたい。もっと、縋り付くような可愛そうな目で見つめられたい。

 ノワールは今度は声をこらえようと、腕で口元を隠してしまう。しかし、そんなもの無駄だとでも言うように、ラズワードは腰を振る速度を上げていった。


「んっ――ん、ンッ――……」

「ねえ、どうしてですか……教えて、ノワール様……」

「じゃあ、……腰っ……アッ、あ……ぁ……止め……」


 ラズワードがノワールの腰を両手で掴んで、ぐぐっとペニスを奥深くに押し込んだ。ノワールはぎゅっと目を閉じて、必死に声をこらえる。まだこらえるのか……とラズワードはその状態でゆさゆさと彼の体を揺らしてみた。


「〜〜ッ!」


 ノワールはどうしても声を出したくないのか、ラズワードの手を掴んで「やめて」と言いたげに首を振っている。しかし、止められるわけがない。ガツガツと奥を集中的に責めあげていけば、ビクンッ! とノワールの体が跳ね上がる。

 また、イッてくれた……。

 ラズワードがこみ上げる征服感に目を細めれば、ノワールがじっと懇願するような目でラズワードを見上げた。「もう許して」と言いたいのだろうが――そんなことをされれば、余計に虐めたくなる。ラズワードが再び腰を揺らし始めれば、ノワールが「待って……」と切なそうに呟いた。


「ねえ、ノワール様……」

「……っ、」


 ラズワードが名前を呼べば、ノワールがようやく腕を口元からどけた。泣きそうな顔をしながらラズワードを見上げ、「せめて、速度落としてくれ……」と掠れ声で囁く。ラズワードが「どうしようかな」と笑えば、ノワールは「頼むから……」と言って、とうとう涙を流してしまった。

 ああ、もう、この人の泣き顔はなんでこんなにそそるのかな……。

 ラズワードはゾクゾクと熱いものに体の芯をかき立てられるような感覚を覚えたが、泣かれてしまっては流石に己を律するしかない。

 ただ、速度を落とせと言われただけで、止めろとは言われていない。ラズワードはゆっくりと、彼が教えてくれた「気持ちいいところ」を交互に責めてゆく。


「……これでいい?」

「うっ、……んっ、……もっと、ゆっくり……」

「だめ。これ以上は……俺も我慢できません」

「あっ……、うっ……ぁっ……」


 これ以上はラズワードも妥協してくれないと悟ったノワールは、諦めたようにくたりと体の力を抜いた。かく、かく、と体を揺すられながら、濡れた瞳でラズワードを見つめる。

 こんな状況で、男の体のことを教えるなんて無理だ。無理だけど、ラズワードはどうしても教えてほしいらしい。ノワールは震える唇を、ゆっくりと開く。



「あっ……、男の、体の……奥のほうには――ひっ、ぅ、あっ……精嚢、があって――んっ、」

「精嚢……この辺?」

「あっ――! 刺激しなくていいっ……! それで、……ペニスで奥のほう……あっ、あ、……奥、……のほうを、刺激すると……精嚢に、刺激が……伝わっ……」

「ふうん、なるほど……ここが前立腺で、」

「ひっ……」

「こっちが精嚢?」

「あぁっ……」


 ――あぁ、やばい。たまんない。

 ラズワードが爛々とした目をしながらノワールの体を奏でる。


「前立腺と精嚢ってどっちが気持ちいいんですか?」

「――知らないっ……人による、……!」

「ノワール様はどっち?」

「知るかっ!」

「え〜、じゃあ……体に聞いてみようかな」


 ラズワードが自らの唇を舐めた。その仕草を見たノワールは、ぎょっとして目を見開く。

 本当に……獣のようだ。

 もう、抵抗しても一切聞き入れてもらえないだろう。ノワールはそれを悟って、「ラズワード」と甘ったるい声でラズワードの名前を呼んだ。今はもう、自分は彼のいいなり。彼に食べられるのを待つだけのおとこ。最後に残っていたプライドも何もかもが溶けていき、ノワールはラズワードにすべてを許す。

 ラズワードもそれを理解したようで、ふっと慈悲のような微笑みを浮かべた。こうなったら、もう甘やかしてやるだけだ。虐めたあとには、ご褒美をあげなければ。とろとろに、どろどろに溶かしてあげたい。

 ラズワードはノワールにぱふっと覆い被さり、ぎゅっと抱きしめる。そうすれば、ノワールはラズワードの体に縋り付くようにして腕を回す。はあ……と熱っぽい息を吐いて、ラズワードの体温を感じるように目を閉じた。


「じゃあ……動きますね、ノワール様」

「……ああ、……ラズワード……いいよ……俺のこと、いっぱい……鳴かせてくれ」

「はい、可愛い声たくさん聞かせてくださいね」


 ノワールがラズワードの体を抱く腕に力を込める。それを合図にしたように、ラズワードが腰を動かし始めた。

 
「あっ……あ、……んっ……あぁっ――……」

「はぁっ……可愛い、ノワール様……」

「ら、ラズ……あっ……あぁ……」


 たっぷりとした吐息混じりの声が、ラズワードの耳をくすぐる。彼のどこを責めれば彼がどのような反応をするのかが、手に取るようにわかる。愉しくて仕方なくて、ラズワードは無我夢中で彼を責めた。

 ノワールも自分が彼の思うがままにされているというのを自覚しているのだろう、責められている自分に酔ってしまったのか、ラズワードが責めるたびにどんどん声に艶が増してゆく。


「あぁっ……あ……あぁ……ラズワード、そこ……」

「ん、ここですね……」

「あぁあ……そこ、……あっ、あっ……」

「気持ちよさそう……ねえ、ノワール様……気持ちいいって言って」

「きもち、……いい……」

「……可愛い」

「あっ……いきなり激しくっ……あぁっ……」


 肉と肉がぶつかる音、激しい水音。それに絡まる甘い声。顔も体も何もかもが熱くて、何も考えることができない。視界もぼやけるほどに頭の中がぼんやりとしていて、お互いの声と熱、そして快感だけが、二人をこの世に縛り付けている。まるで白昼夢に溺れているように。
 

「はぁっ……ノワール様、俺……イキそう……」

「んっ……、俺も、……」

「ほんとに、ナカに出しますよ……いいんですね……?」

「……いい、……ラズワード……俺のなかで、イッてくれ……」


 ラズワードがノワールの体を強く抱きしめる。もう、逃がさないと言わんばかりに。ノワールもラズワードを受け入れようとしているのか、目を閉じて、ラズワードの熱の感触に集中していた。


「あ――……」


 ラズワードが達すると、ノワールはなんとなく「なかに出された」と感じ取ることができた。ペニスが震える感覚と、なかがじわじわと温かくなっていく感覚。ああ、出された……そう感じた瞬間、ノワールは頭の中が真っ白になってしまった。


「はあっ……はあ……」


 ラズワードがゆっくり体を起こす。そうすれば、ノワールが目を閉じてぼんやりとしているところが視界に入った。ノワールはゆっくりと目を開けて、ラズワードを見上げる。

 髪が汗で額に張り付いていて、ひどく色っぽい。


「ん……はぁ、……はぁ……初めて……中に出された」

「……どんな感じですか?」

「ん……不思議な感覚だ……特別な刺激はないのに……絶頂したときのような、多幸感がある」


 ふっとラズワードが笑って、ノワールの下腹部を撫でる。ノワールは熱っぽい目でその手のひらを見つめていた。


「気持ちよかったですか?」

「……うん、……気持ちよかった……」

「……どうしよう、ノワール様……俺、本当に……貴方を抱くのが、クセになりそう……今、胸がいっぱいで……貴方への気持ちが、抑えられそうにないんです」

「……ラズワード」


 ラズワードがノワールを見下ろす。その表情は、少し気怠そうな表情。錯覚か何かだろうか、ノワールはいつもよりも彼が男前に感じてしまった。たぶん、今、自分は彼に抱きしめられたいのだろう……そんなことをノワールは考える。


「俺も……おまえに抱かれるのが、クセになるかもしれない」

「かもってなんですか、かもって」

「……年上の矜持」

「ふっ、あはは、……なんですかそれ……」


 ノワールが苦笑する。そうすれば、ラズワードがばふっとノワールの上に倒れ込んだ。ノワールはラズワードの背に腕を回して、目を閉じる。

 熱い、けれど、温かい。

 なんだか、ひどく無為なものに感じる。こんなにも甘ったるい時間が、この世にあってもいいのだろうか。


「……変な感じだな」

「ん……何がですか?」

「ずっと……おまえとこうしていたいって思っている自分がいるんだ」

「ノワール様……?」

「俺は、いつかおまえに殺される日を夢見て、……こうしておまえをすべてから奪って、……そうして今があるのに。それなのに、こんなしょうもない時間が永遠になってほしいと思って」



 ラズワードがノワールの目をのぞき込む。



「俺も……同じこと、考えていますよ。貴方との永遠が欲しい」

「……ラズワード」


 二人は言葉もなく、唇を重ねた。

 静かに舌を絡めて、お互いを確かめ合う。


「……けれど、ノワール様」

「ん、」

「……永遠にならないから、愛おしいものもあるんです」


 ラズワードは親指でノワールの目尻を撫でた。指先が涙で濡れる。

 ノワールは微笑んで、「そうだな」と囁いた。


「……少し休んだら、外に行きませんか。デートしましょう!」

「デート? どこか行きたいところあるのか」

「さあ。適当にぶらぶらと。外に行ったら、まだ知らない貴方のことを知ることができそうで」

「……」


 ノワールがラズワードに顔を寄せて、もう一度キスをする。そして、困ったように笑った。


「教えてください、ノワール様。貴方のことを、もっと。今だけは、俺たちも幸せになりましょう」



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