輪廻




※茜柿の章―発情した犬は止まらない、の後







「やっ、やめっ、もう、俺、……だめっ……!」



 何度イッたのか、わからない。何度も中出しされて、意識も朦朧とし始めたというのに……茜柿は、まだがっついてくる。

 茜柿が発情期にはいったらしい、それを知らされてからスイはほぼ毎日のように茜柿に抱かれていた。元々それなりにスイに盛っていた茜柿、発情期にはいってからの盛りっぷりといえばそれはもうすごいものであった。



「もう、雨瀧さんのココ、俺のものの形になってますね、すごい、吸い付いてくる」

「やり、すぎ、……! あぁっ……、されがき、こんな、まいにち、……はげしいの、……むり、ぃ……!」

「だって、雨瀧さんに番になって欲しい。他の妖怪なんかに渡さない、雨瀧さん、早く俺の子孕んでよ」

「あッ――! あっ、あっ、あっ!」



 ズン、ズン、と最奥を激しく突き上げられる。なかにたくさん出された精液が溢れでて、結合部をびしょびしょに濡らしていた。激しすぎる交わりはもう、数時間に及んでいて、スイの体力の現界も近づいている。



「もっと、入るよね、雨瀧さん」

「なか、だしちゃ、だめっ……もう、はいらない、……!」

「出すよ、雨瀧さん……孕んで、雨瀧さん、お願い、孕んで」

「あっ……だめェ……!」



***



「……は、……う、」



 満月の昇る、静かな夜。月明かりを浴びながら、スイは壁伝いにずるずると足を引きずるようにして歩いていた。

 脚が、がくがくと震える。後孔から、どろりと精液が伝ってくる。あまりにも激しく抱かれたものだから、体が悲鳴をあげている。



「なにやってんの、おまえ」

「……橡?」



 不意に、外から声が聞こえてきた。ふと顔を上げれば、いつものように庭の大木に橡が座ってこちらを見下ろしている。

 スイは橡を見た瞬間、何故か体の力が抜けてその場に崩れ落ちてしまった。橡も驚いたのか、黒い翼を使ってすぐにスイの元へやってくる。



「体調でも崩したか?」

「……橡、……今日、橡の部屋、行っていい?」

「なんでだよ、おまえらしくねえな」

「……もう、今日は俺、無理……これ以上されたら、壊れちゃう、」



 スイは、茜柿から逃げてきたのだった。茜柿に抱かれて、茜柿が満足して眠った後。スイはこっそり布団を抜けだして、逃げてきた。逃げてきたというのは、茜柿は目を覚ませばまた襲われるだろうと予想がついたからである。発情期真っ盛りの彼には、疲れも気遣いも存在していない。目の前に「雌」がいれば、なりふり構わず襲い掛かってくる。

 目を覚まして、スイが逃げたと気づいた茜柿は、またスイの匂いを辿って追ってくるだろう。だから、スイは橡にかくまってもらうように頼んだのだ。茜柿の事情も理解している橡なら、もしかしたら頼みを受け入れてくれるかもしれない……そんな希望を抱いて。



「俺のところに来たら俺に抱かれるかもって思わないわけ?」

「……っ、えっ……う、うん……でも……いいよ、橡なら、優しく抱いてくれるでしょ……」

「茜柿に抱かれるくらいなら俺のほうがマシみたいな言い方すんなよな。嘘だよ、襲ったりしねえよ。俺の所で休みな」



 相変わらずの憎まれ口は健在だが、スイの予想どおり、橡はため息をつきながらも承諾してくれた。スイは感謝の気持ちを抱きながら、ほっとしてふにゃりと笑う。



 
「……ありがと。橡」



***



「犬くせぇ。湯浴みくらいしてこいよ」

「ご、ごめん……」

「ちっ、やっぱりおまえは苛々するな……」



 一つの布団の中に、二人で入る。すっかり疲れきってしまったスイは、橡の部屋にくるなりすぐに横になりたがった。橡としてはもう少し外でのんびりと夜風にあたっていたかったのだが、スイの様子を見てはそうしてもいられない。一応は側にいてやらないと、そう思った橡は、スイと共に就寝することにしたのだった。

 橡は、ぶつぶつと文句を言いながらもスイのことを労ってくれていた。腕枕をしてやって、そして抱きしめるようにしてスイの体を優しく撫でてやる。それがあまりにも気持ちよくて、スイの瞼はとろんと落ちてゆく。本当にただ寝るのか、と少しだけ残念に思った橡は、舌打ちをしながらもスイの頭をなでてやった。



「……一回だけ、口吸いさせろよ」

「ん……いいよ」

「おまえからしろ。俺の休憩を邪魔したお詫びに」

「……わかった、……ごめん、橡、……突然、こんなことして」

「御託はいいから早くしろ」



 たしかに、急に橡のところに転がり込んだのは申し訳ない。そう思ってスイは、橡の言葉に反論もせずに、素直に要求に応じようとした。

 橡の瞳を、じっと見つめる。漆黒の瞳は、わずかに揺れていて光が揺蕩っている。まるで、黒曜石のよう。闇と言うには優しい瞳の引力に魅入られながら、スイはそっと橡との距離を狭めていった。吐息が交わる。布団で篭った熱気がまとわりつく。ああ、すごく今、橡と口付けがしたいかも……そんなことを思いながら、スイは目を閉じた――そのとき。



「――いた、雨瀧さん!」

「!?」



 ぱん、と襖が開いて茜柿が飛び込んできた。スイはぎょっとして飛び上がったが、橡は至極不愉快そうな顔をして、ゆらりと起き上がる。



「こんな時間に人の部屋に飛び込んでくるなんていい度胸してるなあ、茜柿」

「橡さんこそ人の番に手をださないでください! 雨瀧さんは俺のものですよ!」

「は、発情期の犬が。こいつは誰のものでもねえよ。でも、今は俺のものだ。出ていきな、駄犬」



 橡はスイを自分の体で隠すようにして茜柿の前に出る。流石に今日はもう茜柿に抱かれたくなかったスイは、素直に橡の背中に隠れた。しかし茜柿は、そんな二人の様子などもろともせずに、じりじりと近づいてくる。



「知らない、橡さん、どいて! 雨瀧さんは俺の番なんです!」

「……ちっ、ガキが……聞く耳を持たねえ……」



 瞳孔が開き、息を荒くし、そんな茜柿は興奮状態に入っていることが明らかだった。あまり刺激すると暴れるかもしれない、と橡は冷静に茜柿の様子を伺う。発情期に入っている妖怪が暴れるとなかなかに面倒なことになる。どうすれば茜柿の興奮を抑えられるか、と橡は悩み……そして、仕方なしの苦肉の策を打ち出した。



「やるならスイの体のことも考えてやれ。俺が見ててやる、がっつくんじゃねえぞ」



***



「ちょっと、……さすがに、二人に見られてするのは、恥ずかしいんだけど……」

「あ? 今の茜柿とふたりきりにしてほしいか?」

「ちょっ……ま、待って、いっちゃだめ、橡」



 あっさりと全裸にされたスイは、茜柿と橡、二人から視姦される羽目となった。この屋敷にきて様々な男たちに抱かれてきたスイであったが、こうして二人の前で裸になるのは初めてである。流石に恥じらいを覚えた。

 恥ずかしがるスイを、橡が後ろから抱き上げる。正面からそんなスイを見た茜柿は、すぐに興奮してスイの太ももを鷲掴みした。しかし、橡がそこで茜柿の手を叩く。



「すぐ挿れんな。ゆっくりやってやれ。あんまり無理やりやるとおまえの大好きなスイが死ぬぞ」

「で、でも……はやくひとつになりたい、雨瀧さんを孕ませたい」

「「待て」を覚えろ、バカ」



 茜柿はぶすっとしながらも、橡も言い分には納得したようだった。スイが怯えているのに気づいたようだ。またガツガツと突かれるのだろうかと恐怖に満ちた目で見つめられて、流石の茜柿も「まずい」と思ったのだ。今すぐにでもスイの中に入りたい衝動を抑えて、晒された秘部にすっと唇を寄せてゆく。



「ぁんっ……!」

「そう、優しくほぐしてやれ。スイの気持ちも高めてやれよ、バカ犬」


 茜柿がスイの孔を、ぺろぺろと舐める。スイの孔はヒクつくたびに中にたっぷりと注がれていた茜柿の精液をこぽりとこぼして、それはまるで愛液のようだった。茜柿としては自分の精液を舐めることになるのだからあまり気分のいいものではなかったが、これがスイに注いだ自分の種だと思うと不思議な征服感も同時に覚える。

 茜柿は、夢中になってスイの秘部をなめていた。ぴちゅぴちゅと音を立てながら舐めてくるものだから、スイも恥ずかしくなって顔を真赤に染める。橡はそんなスイを後ろから覗きこみながら、にやにやと笑っていた。


「ほら、もっととろとろにしてやる」

「やぁっ……だめっ……」


 橡は、スイの乳首をきゅうっとつまみ上げた。そして、くにくにと指の腹で優しく意地悪にこねくり回す。さらに耳に吐息を吐きかけながら舌で責めてくるものだから……スイはすっかり蕩けだしていた。二人から同時に責められるなんて初めてで、未知の快感で、おかしくなってしまいそうだ。


「あっ……あんっ、あぁっ……」



 スイの体からぐったりと力が抜けてゆく。すっかり橡に体を預け、そして腰を茜柿につきだした、抱かれる格好をとっていた。もう抵抗なんてする気もなくて、快楽に全てを委ねている。



「もう、だめ、雨瀧さん……挿れていい? 子作り、しよ、雨瀧さん……ね?」

「おいおい、なんだよ、おまえばっかり。じゃあ俺は、こっち」


 茜柿も興奮が最高潮に達してしまったようだ。体を起こすと、堅くなったものをぐっとスイのとろとろの孔に押し付ける。もう挿れられたくてたまらなくなっていたスイは、自分の孔にぴとりとあてられたソレを凝視していたが、橡はそんなスイを後ろからつまらなそうな目で見つめていた。舌打ちをして、スイの顎を掴むとそのまま唇を奪ってしまう。


「んんーっ……!」


 茜柿が挿入すると同時に、橡はスイの口の中に舌を突っ込んだ。上も下も、両方から侵入されたスイは、どうしたらいいのかわからなくて、ただひたすらに悶えることしかできない。

 茜柿は、やはり激しくスイのことを突き上げていた。ただ、橡と口づけをしているのを見てか、舌を噛まないように速度自体は落として突いてくれている。ゆっくりさしこんで、奥をぐぐっと強く押し込み、そしてずるっと勢い良く抜き前立腺をこする。それを、繰り返す。絶妙な力加減と、奥に到達したときの鋭く重い熱に、スイは頭が真っ白になるくらいに感じていた。

 しかし、橡からの口づけも、スイの意識を捕らえて離さない。瞼をあけて、視線を交えながらの口付け。茜柿に突き上げられて感じているスイが面白く無いのか、橡の目つきはどこか怖い。しかし、そんな独占欲に満ちたどろりとした瞳は、スイの心臓を穿った。どきどきとしてしまって、スイは涙をながす。咥内を舌で掻き回されて、すごく、幸せな気分になった。



「はあ、雨瀧さん、出ちゃう、こんどこそ、孕んで、雨瀧さん……!」



 少しながらも「待て」をしていた茜柿の射精は、いつもよりも長かった。どくん、どくん、としばらくの間なかに注ぎ込まれた。その間、橡はスイの後頭部を鷲掴みして噛みつくような激しい口づけをしていたから、スイは上からも下からも注ぎ込まれるような感覚を覚えていた。



「あ……」



 茜柿の射精が終わり、橡から解放され……疲れが一気にこみ上げてきたスイは、ふっと意識を失うように眠ってしまった。



***



「ねえ、橡さん。聞きたいことがあるんです」



 スイの体を拭いて、布団に寝かせてやった。部屋の中に再び静寂が訪れれば、茜柿は満足したように部屋を出ていこうとする。しかし、部屋を出る瞬間、茜柿はふりかって橡に問いかけた。



「橡さん、雨瀧さんと番になりたいわけじゃないんでしょう。子を成したいわけでもないんでしょう。なぜ、雨瀧さんに執着するんですか?」

「執着? してねえよ、何言ってんだバカ犬」



 指先でスイの髪の毛を梳ながら、橡は茜柿を睨みつける。茜柿は静かに橡を見つめながら、襖の取っ手に手をかけた。



「嘘。だって俺の本能が、貴方を敵だと言っている」

「……敵?」

「橡さんも雨瀧さんのこと、好きなんでしょう? 自分の雌に興味を持っている雄に敵意を持ってしまうのは、俺の動物としての本能なんです」

「……は、バカなこと言ってんじゃねえよ。別に俺はスイのことなんて、」

「じゃあ、俺が雨瀧さんをとってもいいですね?」



 橡が、黙りこむ。その沈黙に、茜柿はふっと笑った。

 茜柿が部屋を出て行く。襖が、閉められる。



「……恐ろしい嗅覚だ」



 
対の雄…終


断章



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