鏡に映るケダモノ








 しとしとと、音がする。雨粒が、地面を叩く音。この音が嫌いではないけれど――と、スイは苦い顔をしていた。外出から帰ってくる途中、急に雨に降られてしまったのだ。傘などは持っていなかったため、全身びしょ濡れ。小走りしながら屋敷に向かってはいるが、ここまで濡れてしまったらもうどうしようもない。



「――雨瀧さん!?」



 ようやく屋敷までたどり着くと、びっくりしたような顔をして茜柿が登場する。彼は外出しようとしていたのかちょうど玄関から出てきたところで、鉢合わせたびしょ濡れのスイにひどく驚いた様子だった。



「こんなに濡れて……大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫」

「すぐに身体をあっためましょう! 風邪ひいちゃいますよ!」



 茜柿はスイの身体を抱くように、屋敷の中へ引き返す。スイは「外に出るんじゃなかったのか」と訪ねてみれば「大した用じゃなかったので」と茜柿は微笑んだ。



***



「あの……」



 なぜ、自分は脱がされているのだろう。茜柿の部屋に付いた瞬間に全裸にされたスイは、戸惑いを隠せなかった。茜柿は部屋に着くなりスイの着物を剥ぎ、そして水滴を拭き取って、こうして――スイを抱きしめている。



「これは、何をして……」

「人肌を温めるには人肌で!」

「……それよりも火鉢のある部屋に行きたいんだけど……」

「こっちのほうがいいですよ」

「そうかなあ……」



 人肌で温める、その言葉のとおり茜柿も半裸になっていた。こうして後ろ抱きにされると、自分と茜柿には随分と体格差があるなあ、とスイはなんとなく思った。大きな茜柿に包まれるようにして抱きしめられていると、たしかに暖かいし心地よい。



「雨瀧さん」



 茜柿はしきりにスイにすりすりと頬ずりをしている。状況が状況のため恥ずかしいとも感じたが、やっぱり茜柿は犬に思えてきて可愛い。大型犬が懐いてきている、そんな感じだ。スイは無意識に茜柿のふわふわとした髪の毛に手を伸ばして、なでてしまう。そうすると茜柿は嬉しそうに笑ったから、なんだか癒された。



「ん……」



 しばらくそうして茜柿を撫でていると、茜柿はスイのこめかみや頬にちゅ、ちゅ、と口付けてきた。穏やかな雰囲気だったため、まさか茜柿が発情しているとも思わずにスイはそれをはねのけることはない。むしろ、その口づけが気持ちよくて、身をゆだねていた。

 次第に、茜柿の戯れは変化していく。耳の中に舌をいれてきたり、手のひらで身体を撫で回してきたり。さすがにスイも「あれ?」と思ったが、気持ちいいことには変わりない。そのままくたりと茜柿に背を預けて、彼の可愛がりを受け止める。



「からだ、温まってきましたか?」

「うん……」

「よかった。うん、肌の色もさっきまで少し蒼かったのにまた戻ってきている。ほら、雨瀧さん。前、みてみてください」

「ん……?」



 前をみろ、そう言われてスイは視線をあげる。そうすると……そこには、鏡台があって。茜柿に抱かれた自分が映っていた。

 思わず、視線を背けたくなる。だって、全裸の自分がこうして半裸の茜柿に抱かれている光景……こうしてみると、ひどくいやらしかった。



「綺麗ですよね、雨瀧さん。裸の雨瀧さん、とても綺麗。やっぱりいつもみたいにほんのり桃色の肌が、綺麗です」

「……待って、あまりそういうこと……」

「そうだ、雨瀧さん。自分のここ、みたことあります? ここもとても……綺麗ですよ」

「へっ……!? あっ、……!」



 茜柿はにこにこと笑って――スイの脚を掴んでぐっと開かせた。ぱかっと開かれたそこ。尻肉のあいだにぽつんとある、穴。桃色でつやつやとしていて、綺麗なそこは……以前、茜柿にたくさん舐められたところ。意識するとヒクンッ、とそこが疼いて……あまりの淫猥さにスイはぎゅっと目を閉じた。



「目を、あけて。雨瀧さん。もっともっと、自分の綺麗な身体、みつめてください」

「や、やめろ……! 変態……!」

「あけて、雨瀧さん」

「んあぁっ……」



 脚は、茜柿の脚にひっかけられて開いたまま固定されてしまう。そして、茜柿はスイの穴に指をそえて、くぱっと開いていった。ぐぐぐっとどんどんひっぱって、ヒクヒクと疼くいやらしい穴を刺激する。開かれると空気が内部をこすって、されにヒクンとしてしまう。

 茜柿は……「目を開けて」と言った。このまま逆らっていたら、もしかしたらさらにいやらしいことをされるんじゃないか、そう思ってスイは渋々目をあける。そして……かあっと顔を赤らめた。

 大きく開かれた脚、そのあいだにある穴。自分のものとは思いたくないくらいに、いやらしい。思わずスイは手のひらで穴を塞ぐようにそこを隠したが……それがさらに、はしたない格好を演出してしまう。



「ほーら、雨瀧さん……綺麗。すごく綺麗」

「あんっ……」



 茜柿はさりげなくスイの手を払って、左手の指を使って穴を広げたり狭めたりを始めた。くにっ、くにっ、と穴をいじめられて、スイはたまらず喘いでしまう。ひどい辱めを受けている、それを自覚しているが……なぜか、抵抗できない。いじめられている、鏡に映る自分に目が釘付けになってしまっていた。



「知ってる? 雨瀧さん。ここ、いじらなくてもヒクヒクしますよ」

「あぁん……」



 茜柿は穴から手を離すと、スイの両方の乳首をつまみあげる。みてみればいつもよりもぷくっと膨らんだ乳首。風呂で身体を洗うときくらいしかみたことのない自分の乳首は、こうしていじめられているとき……こうも、いやらしい。ぷくぷくに膨らんで、桜色になって。びんびんに勃ったそこをきゅううーっとひっぱられると、



「あーっ……」



 気持ちよくて、のけぞってしまう。

 それと同時にかくかくと揺れる腰。鏡に映る穴は、ヒクンヒクンと一人で疼いていて、男を誘っているようだ。



「あー……雨瀧さんの乳首可愛い……可愛いなあ……」

「だめ……あっ……だめっ……いくっ……いく、やめろ……されが、……あーっ……」



 耳をぴちゃぴちゃと舐めながら「可愛い可愛い」と茜柿は囁いて、乳首を責め続ける。穴のヒクヒクはどんどん激しくなっていって、そして、ギューッと締まって、それと同時にスイはイった。のけぞり、腰を浮かせ、がくがくっと震えながら達してしまう。




「どう? 可愛いでしょ、雨瀧さんのお尻の穴と乳首」

「う……」

「もっと可愛いところみせてあげますね」

「へっ……? あっ、やぁあ……!」



 にこにこと純粋な笑顔を浮かべ、茜柿はスイのペニスからだらだらとこぼれ落ちしていたとろみのある液体を手に取ると、そのまま指を二本、穴に挿入していった。ずぷぷっ……と抵抗なく指は穴のなかにはいっていく。



「初めてみるでしょう……? お尻の穴にこうして挿れられているところ」

「や、……あぅ……」



 ずぷ、ずぷ、と茜柿が指の抜き差しを始める。

 この穴は……こんなに柔らかいのか、そうスイは驚いた。男の指をいともたやすく飲み込んで、美味しそうにしている。鏡の中の穴に茜柿の指がずっぷん、と深く差し込まれるとずくんっと快楽が下から這い上がってくる。そしてずるるっと引く抜かれればぞぞぞっとしびれるような快楽が。



「はあっ……はぁっ……」

「可愛い、可愛い、雨瀧さん……みて、自分の顔……ほら、とろっとろ」

「あっ……ふあぁ……」



 乳首もくにくにと刺激される。

 何度も何度も抜き差しをされる、

 ずぶっ、ずぶっ、ずぶっ、ずぶっ、何度も何度も。

 

「あーっ……いくっ……いくっ……」

「ちゃんと見ててください、雨瀧さん。自分のイキ顔……すっごくすっごく可愛いから」

「あぁーっ……! いくーっ……!」



 ビクビクビクン、と激しく腰が震えた。それと同時に、ペニスからどぴゅっと白濁が飛び出す。茜柿がしつこくずぼずぼとすれば、白濁はしばらくぴゅっ、ぴゅっ、と飛び出した。

 自分の精液で身体がべとべとに汚れる。まるで男に精液をぶっかけられたあとのような悲惨な自分の姿。これが、茜柿に愛撫された末に感じてしまってイった自分の末路……そう思うとひどく浅ましい姿に見える。しかし――スイはそんな鏡に映る自分の姿から目を離せなかった。



***



「お風呂一緒にはいりましょう! 雨瀧さん!」

「――断る!」



 身体に付着した精液は、茜柿がすべて舐め取ってしまった。しばらくぼーっと熱にうかされれていたスイだったが、ハッと我に返り、着物をかき集めるようにして着て、茜柿の部屋を飛び出す。

 汚れた身体を、洗わねば。はしたない記憶と一緒に!

 あんなに浅ましい姿が、自分だとは思いたくない。スイは早足で風呂場へ向かっていった。



「……あの、変態……!」



 茜柿が変態だなんてこと、知っていたのに。それなのに、あの大型犬が可愛くてつい心をゆるしてしまう自分が、スイは許せなかった。




鏡に映るケダモノ…終


茜柿の章



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