パラライズドリーズン
「やっほう、スイ」
スイが外で洗濯物を干していたときだ。ひょこっとどこからともなく現れた梓が声をかけてくる。猫のように突然現れ、そしてついっと寄ってきた梓に、スイは苦笑。自分よりも大人びている彼をついついなでたくなってしまうのは、猫を可愛いと思ってしまう人間の本能だろうか。
「梓……久しぶり」
「久しぶりー! 何日ぶりかな」
「うーん、二週間くらい?」
「ほうほう。結構間が空いたねえ。色々あったでしょ?」
「えー……別に」
梓はじっと大きな瞳でスイの顔を覗き込んでくる。スイは身体をそらしながら梓の視線から逃れようとしたが、彼の慧眼からは逃れられない。いつだって、梓は聡い。全てを知っているような目をしている。
実際のところ、たしかにスイは「色々」あった。高嶺に、抱かれるようになった。たくさん、この身体が男を覚えた。一度奥に快楽を植えつけられてからというものの、まるで世界が変わったように見えるものが変化している。常に熱感を帯びる感性は敏感で、葉っぱ一枚の色が変わるだけでも気づいてしまうほど。
梓は、そんなスイの変化に気づいてるような目をしていた。にいっと唇の端をあげて、笑う。
「なるほどねえ、近くなってきたね」
「? 何が?」
「俺の知っているスイに。「アレ」を書いたスイに近づいている」
「アレ?」
「君が将来つくる本だよ。前までのスイがどうしてあんなものを書けるんだろうって思っていたけれど……なるほど、今の君ならば納得」
くて、と首をかしげながら、梓は言った。スイは彼の言っている言葉の意味がわからなくて、黙りこくってしまう。そんなスイの顔を、梓が身体を屈め下から覗くようにして梓は見つめてきた。
「ふふ、もっと近づけてあげよう。おいで。君をもっと育ててあげる」
***
悪い笑顔を浮かべて誘ってきたとき――梓が何をしてくるのか、スイはあらかた検討がついていた。梓の部屋に近づくと、未知の道具を使われてすごいコトをされたことを思い出し、体が熱くなる。文句も言わずについてきたのは……それを、期待しているから。
梓の部屋につくと、いつものように彼は何か道具を探し始めていた。今日は、何をされるのだろう。たくさん、この体はいやらしいことを覚えなくちゃいけないから……とびっきり、キモチイイことをしてほしい。
「なかなかに、興味深いよね。人ってセックスでここまで変われるんだ」
「……セック……って、性交のことだよね。俺のこと言ってる?」
「そうに決まってるじゃん。君はすごい作家になるよ。読んだだけで気が狂うような話を書ける、すごい作家に」
未来へ行けるらしい梓は、未来のスイを知っている。もっと将来の自分のことを知りたいとスイは思ったが、具体的なことは彼は教えてくれないだろう。どこまで彼は教えてくれるだろうか、と期待に胸を膨らませるが、梓はもう「準備」を終えてしまったようで。
「どうぞ。これ、呑んで」
「……これは?」
「媚薬っていうの。今日はこれ使ったエッチしよう」
「……媚薬? えっち? 道具は、使わない、んだ?」
「あれ、バイブとかやってほしかった? スイはエッチだねえ。ま、これもすっごくキモチイイから」
はい、と梓が薬のようなものを差し出してくる。それと、水筒のような透明な筒に入った、水。毒ではないだろうとスイは何の疑いもなく、その水を使って薬を飲み込んだ。
「薬が効くのに10分くらいかかるかなあ。その間、お尻にもクリームの媚薬塗りこもうね。ほら、スイ。俺にお尻みせて」
「……ねえ、媚薬って何?」
「キモチイイ薬。大丈夫、すぐにわかるよ心配しないで」
体内にいれて、さらに臀部に塗りこむのか。媚薬とは一体なんだろうと疑問に思いながらも、スイは素直に下着を外し始めた。そして、布団の上でおずおずと四つん這いになる。
自分からこんなことをできるようになったのに、驚いた。抱かれることに、慣れてきてしまっている。相手に穴を差し出すことが、当たり前になってきた。もちろん、恥ずかしさはあるが……シたいという気持ちが溢れ出てきて、恥じらっている暇なんてなかった。
スイが臀部を向けると、梓がそこにかかっている着物をめくりあげる。そうすれば、ひくひくとしている穴が顕になった。梓はふっと微笑むと、クリームを指にとって、それをぬりゅっとそこに塗りこんでいく。
「んっ……」
ぬち、ぬち、と指を抜き差ししながら、いりぐちへ内側へとクリームが塗りこまれていく。指が動くたびにスイは腰を揺らし、くぐもった声を漏らした。すっかり高嶺と妖怪たちに調教された穴は感じやすくなっていて弄られるとじんじんとしてきてしまう。そして……今日はいつもよりも、気持ちよく感じた。ゾクゾクと内側が震えて、奥のほうがきゅんきゅんとしてくる。内臓がヒクヒクと激しく痙攣してきて、……いつもとは違う感覚に、スイは戸惑った。
「あっ……ふ、……ん、」
「こっちのクリームは即効性があるんだ。気持ちよくなってきたでしょ?」
「そ、っこうせいって……だから、その薬、なに……」
「こういうく・す・り」
「あぁんっ!」
ぐりんっ、と梓が指の腹でスイの中を引っ掻いた。びくんっ、と腰が大きく跳ねて、頭が真っ白になる。そしてすぐにガクンと力が抜けて、スイの上半身は布団の上にぺったりとくっついてしまった。高くあげた腰だけがヒクンヒクンと痙攣を続けていて、上半身はもう動かない。
「ふふ、イったね」
「あ、……あ……」
「ほら、何回でもいけるよ。こんな、ふうに」
「ひあっ!?」
梓がスイのなかの前立腺をぐっと押し込む。そして、ぐっ、ぐっ、と何度も何度も刺激してきた。そのたびにスイは腰をビクンッ、ビクンッ、と震わせながらイってしまう。しかし……梓は、やめない。
「あっ、あひっ、なに、これえっ、あぁっ、また、いくっ、あんっ」
「飲み薬のほうも効いてきたかな? 今のスイの身体は、超絶敏感な超エッチな身体だよ〜」
「あぅっ、んっ、んっ、いやっ、すごい、だめっ、あっ、もっと、あっ」
「ほら、指増えるよ」
「あぁっ、ふと、んんっ、きもち、いいっ、あんっ」
びゅっ、びゅっ、とスイのペニスから精液が飛び出す。梓が空いた片方の手で飛び散った精液ごとスイの下腹部をなでているから、スイの下半身はびしょびしょだ。何度も何度も射精して、もう精液がでなくなってしまっても、また精液とは違う透明な液体がでてくる。こんなに感じてしまうことが初めてでスイは強烈すぎる快楽に恐怖すらも覚えたが……頭は、もっと欲しいと訴えている。
「あずさっ、もっと、あ、あぁっ」
「ん? どうして欲しいか言ってみて」
「あずさの、ふといので、奥、いっぱい、ついてぇっ……!」
「はは、ついに挿れて欲しくなったんだ。わかった、スイ、君……高嶺に抱かれたな。男の味を覚えたんでしょう?」
「せんせいに、だかれ、た……だかれ、ました……だから、あついの、欲しい、あぁっ、ふといの、いれてくれないと、足りない、よぉ……!」
「んー、最高の淫乱。イイね」
スイが自らの尻肉を引っ張って、穴を広げる。そして、腰を振って梓を誘惑した。「いれて、いれて、」としきりに呟きながら、ひたすらに梓を煽る。頭のなかが真っ白で、自分が何を言って何をしているのかもわからないまま、ただただ快楽を求めていた。
梓はそんなスイをみて、満足そうに目を細める。それこそ、猫のように。さっと服を脱ぐと、猛りをスイのヒクつく穴に押し当て……一気に奥に突っ込んだ。
「んあぁあっ」
ビクッ! とスイの身体が反る。は、は、とスイの口から吐息がもれ、そしてたらりと唾液が一筋こぼれていった。
あんまりにも気持ちよすぎて、何も考えられない。そして凄まじい絶頂に身体がついていかない。奥をぐりぐりとされると全身の毛穴から汗が吹き出て、かあっと身体が熱くなって、そして激しくなかが痙攣する。
「突くよ」
「は、ぁ……つい、てぇ……いっぱい、おく、ついて、きもちいー……!」
梓が、腰を振りはじめる。ぱんっ、ぱんっ、と肉のぶつかる音を激しく立てながら、一突き一突きを深く深くやっていく。
「はぁっ……あっ、……あぁー……はぁっ」
スイのペニスからは、じょぼぼぼと潮が吹いていた。とろとろになってしまっているスイは自分に何がおこっているのかも理解しておらず、顔を蕩けさせて甘い声を上げ続ける。梓もぎちぎちに締め付けてくるスイのなかが気持ちよくて、次第に理性が効かなくなってきてしまった。どんどん抽挿の速度をあげていき、スイの腰をがしりと掴んでその身体をがくがくと揺さぶりながら、激しく奥を突き始める。
「うぁっ、あずさ、のっ、きもち、いっ、あん、あぁっ、おく、っ、いくっ、あっ」
「すっご、スイ……」
「あぁっ、あーっ、あーっ、もっとぉ、もっと、あずさ、あぁあー……!」
パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、と激しい音をたてて何度も何度も梓はスイを突き上げた。スイは大量の潮を吹いて、布団に水たまりをつくってしまう。
スイは断続的に、何度もイった。途中からはイクのが辛くて泣いていたが、それでも自ら腰を振った。止められなかった。身体が熱くて熱くてたまらなくて、もっともっと梓に奥を突き上げて欲しかった。
梓もそれに応えるようにして、激しくスイを抱く。そして、スイの絶頂の回数が百に近づいた頃、梓も達した。梓がなかに精を吐き出したとき、スイに最大の絶頂が訪れる。スイは涙を流しながら笑顔を浮かべて、そして、ふ、と意識を飛ばしてしまった。
***
「いやあ、すごかったなあ。スイの淫語百連発」
「……わすれてください」
「潮吹きまでしちゃった。あれは正直興奮するかもねえ」
「……穴にあったら入りたい……」
梓に激しく抱かれ、数え切れないほどの絶頂を体験してしまったスイが目を覚ましたのは、すっかり日が落ちた頃。新しい着物を着せられて、綺麗な布団の上に乗せられている自分に気付いたスイは、かあっと顔を赤らめた。
「いいじゃん。可愛かったよ、スイ」
「……でも、」
「これで未来へ一歩前進だ。これからもっと激しいことしようね。俺はこの時空で、君の書いた作品を読めることを待っている」
異常な、発情。思い返すと恥ずかしい。でも……梓は、それすらも歓迎している。
彼が未来でみてきたものとはなんなのだろう。未来の自分はどうなっているのだろう。それを、自らの目でみることができるのはいつなのか――期待と、それからわずかな恐怖が、スイのなかで渦巻いていた。