アンノウンセクシャル




「あれ、スイ」



 日が下がり始める、夕時よりも少し前、そんな時間。食器を洗っていたスイのもとに、梓が訪れる。スイの肩から流しを覗きこむようにすれば、不思議な甘ったるい匂いが彼から漂ってきた。また、どこかへ行っていたのだろう。この時代ではなかなかみない、独特な匂いだ。



「最近あんまり会ってなかったね。元気だった?」

「うん……梓は……また、未来? に行っていたの?」

「そうだよ〜」



 梓はへらへらと笑いながら、作業を邪魔するようにスイの手を撫でたりしている。すらりとした指先は猫のようにしなやかで、つう、となでられると妙な気分になってしまう。彼の仕草、そして匂い。どことなく艶かしいそれらは、「あのとき」のことを思い出させる。未来の道具だという変なもので気持ちいいことをされた、あのとき。ぞく、と下腹部が熱くなって、そんな不埒な気分を振り払うように、スイは梓の手を軽くはねのける。



「ねえ、スイ」

「……何」

「……また、新しいオモチャ持ってきたんだけど……興味ない?」

「え……」



 ぱ、とスイが振り返ると、梓がにっこりと笑っている。邪気のないようでいて……悪いことを考えているような、そんな微笑み。スイはぐ、と息を呑んで黙りこむ。断りの言葉を吐けないのは、期待してしまっているからだろうか。梓の纏う扇情的な雰囲気が、心を引っ張ってくる。

 スイが何も言えないでいると、梓はクス、と笑った。そしてクッと顎を掴んで、耳元で囁く。



「……洗い物終わったら俺の部屋に来て。待ってるから」



 いつもよりも低い声。ゾクゾクッとして腰が砕けそうになってしまった。ふらりとふらついたスイを一瞥すると、梓は満足そうに目を細める。そして、またふらふらと歩いて去って行ってしまった。

 あのとき探究心だ、とからしいことを梓は言っていたがいやらしいことをやっていたという事実は変わらない。これから自分が梓の部屋にいけば、「いやらしいことしてください」と言っているのと同じだ。そんな、はしたないこと……。

 スイはだめだだめだ……何度も心の中で唱えていたが、食器を洗う手の動きは勝手に早くなってゆく。どんどん下腹部の疼きが激しくなっていって、ひくんひくんとお腹の下のあたりが小さく痙攣を始める。行きたい。梓の部屋に行きたい。そして……あの、スゴイ道具でこの身体を慰めて欲しい……。アソコから蜜が溢れ出てくるような。そんな錯覚を覚えた。気づけば食器はすべて洗い終えていて、スイは達成感と共にハアと溜息をいた。



***



「――いらっしゃい、スイ」



 いつの間にか、スイは梓の部屋に来てしまっていた。梓はわかっていたよ、といった顔をしてスイを出迎える。



「スイ。そこの椅子に座って」

「う、うん……」



 相変わらずのごちゃごちゃとした部屋。梓はすっと部屋の隅にある椅子を指さしてスイに座るように促した。スイが言われた通りに座れば、梓は近くにあった箱をあさりだす。



「それ……何?」

「さあ……なんだと思う?」



 梓はいくつかの道具を手に持って、スイに近づいてきた。じゃら、と堅い音がして思わずスイはびくりと身体を震わせる。梓の手に持たれていたのは、あのときも使っていたバイブと呼ばれているモノと、それから鉄でできた腕輪が連なっているもの、そしておわん型をした不思議な物体。全く使用用途が予想できずにスイが目を白黒させていると、梓はぱっとスイの着物の帯をほどいて着物を剥いでしまう。



「下着も、脱いで」

「えっと、……」

「裸になるんだ」

「……はい」



 今更、抵抗をしてどうになるのか。「こういうこと」をするためにここにきたのに。スイはかあっと顔を赤らめながら、下着を脱いでいった。じっと脱いでいるところを梓に見られて恥ずかしい。ぱさりと下着が床に落ちて、スイの身体は一糸纏わずの裸の状態になった。恐る恐る梓を見上げれば……梓とぱちりと目が合う。ふるふると震えるその瞳を見たからだろうか、梓の瞳孔が開かられる。ゾワッとした。これからこの猫に、すごいことをされるんだ、と。



「じゃあまず、ひとつひとつ道具の説明をしてあげよう」



 梓は持っていた道具から腕輪のようなものだけをとって、他の道具を床に置く。そして腕輪をカチ、と開いてスイの腕や足首に取り付けていった。



「これ、手錠っていうんだ。拘束するときに使うんだよ」

「手錠……」



 手錠、と呼ばれるそれで、梓はスイの身体を椅子に拘束していく。腕を背もたれにまわし、後ろで手首をまとめあげる。そして脚は開脚させ、足首を肘掛けに固定。梓に向かってぱかりと秘部を見せつけるような、いやらしい格好の出来上がりだ。



「あ、梓……」

「さて、次はこれ。乳首責め用のローター」

「ち、乳首……」

「好きでしょ? 乳首弄られるの」



 梓が次に、おわん型の物体を手に取る。よくよくみるとそれはおわんの中に舌のようなものが取り付けられていた。梓はそのおわんを、かぽっとスイの胸に取り付ける。



「んっ……」



 おわんの中の舌のようなものが、乳首に触れた。見た目よりもそれは柔らかいらしく、妙な感覚が乳首にはしる。眉をひそめていやらしい顔をみせたスイをみて、梓はほくそ笑んでいる。



「さ、これが最後。これは前も使ったよね?」



 最後に、梓はバイブを手に持った。手際よくバイブに潤滑剤をつけると、ぐっとスイのお尻の穴に押し込んでゆく。ずぶぶ……とゆっくり、それはなかにはいってゆく。あまり痛みもなくそれが入ってきて……スイは少しばかり驚いてしまった。お尻の穴にものを挿れる、ということに慣れてしまったということだろうか。身体が、いやらしい身体になってきてしまっている……そう思ってゾクゾクとした。妖怪たちに身体をいじられまくって、この身体が変わってきている。愛されるための身体に。もっともっと、これから変わっていくのだろうか……もっともっといやらしく、はしたない身体に……



「あんっ……!」



 どぷん、と奥までバイブが突っ込まれる。いいところにゴリッとあたって、スイは思わず声をあげてしまった。

 すべての道具を装着し終えて、梓はるんるんとしながらスイの前に座り込む。手にはなにか小さな箱型の物体が。



「さて、スイ。これからまずは乳首のローターのスイッチをいれるからね。珍しい道具を使えるんだ……ちゃんと、感想を言うんだよ」

「うん……あっ……!?」



 梓が手に持ってる物体を動かすと……スイの胸に取り付けているものがぶるぶると震えだした。正確には、おわん型のものの中にある舌の形をしたそれが。ぶるんぶるんと激しくそれが動いて、スイの乳首を細かく嬲る。次第にそれは回転も初めて、スイの乳首はぴんぴんと弾かれてぶぶぶぶぶと振動を与えられて、とにかく色んな刺激を与えられ始めた。



「ひゃあぁあっ……!」

「おっ、気持ちよさそうだね。どんな感じ?」

「ち、っ……ちくびがっ……あぁあっ……」

「腰も揺れてるね〜。乳首責めされて腰砕けちゃった?」



 がしゃんがしゃんとスイを拘束する手錠がうるさく鳴る。どんなに藻掻いても、ローターは外れない。刺激を与えられて乳首はどんどんぷくぷくと膨れ上がっていき、敏感になってゆく。舌型のローターがそんなぷっくりとした乳首をべしべしと叩いてはぬるりと撫で上げて、あんまりにも気持ちよくてスイは腰をがくがくと震わせた。

 梓はそんなスイを見て、ただ笑っている。まるで観察するように。じっとスイの言動を眺め、口元に微笑みを浮かべているのみ。



「どんなふうに感じているの? 詳しく説明してみてよ」

「あっ……! ちくびっ、が……! はぁっ……んぁあ……ぶるぶる、して……あぁん……」

「へえ、乳首をぶるぶるされて感じまくってる、と」

「あぁあっ……ふ、ぁあ……」

「お尻に挿れたバイブのスイッチもいれてあげる」

「へっ……!? あっ……! ひゃああ……!」



 ブゥン、と音をたてて今度はバイブも動き始める。スイのお尻の真ん中で、バイブの持ち手がうねうねと蠢いている。スイは激しく悶えて快楽から逃げようとするが、手錠がそれを許さない。ぐぐっとのけぞってはがくんと腰を落とす、そんな動きをスイは繰り返した。お腹がひくんひくんと動いていて、なかがうねっていることがはたからみてもわかる。



「だめぇっ……! とめてっ……! いくっ……いっちゃうっ……」

「いいよ〜、イッて。止めないけど」

「そんなっ……あぁあっ……!」


 ビクンッ! と激しくスイの身体が跳ね上がった。その瞬間、ペニスからはぴゅくっと白濁が飛び出す。しかしそれでもローターやバイブは止まらない。イッたばかりで敏感なスイの身体を、虐め続ける。スイは快楽のあまりぼろぼろと涙を流しながらいやいやと首を振ったが……梓はオモチャの動きを止めようとしない。立ち上がって、スイに近づいていくと上から快楽でぐずぐずのスイを見下ろした。



「やーっ……あぁー……あっ……! いくっ……!」

「人ってさー……何回イケるんだろうね」

「……! とめっ……て……! あぁっ……あっ……! また、……イッちゃ……あぁんっ……!」

「とりあえず、お尻でイクと何回もイケるっていうのはホントみたいだね。ふうーん……」



 梓がバイブの持ち手を握る。はっと目を見開いたスイをみて……梓はいたずらっぽく笑った。そして……バイブをずぼずぼと激しく抜き差しし始める。



「やぁああっ……! いくっ……! いく!」

「まだイケる? よーし、ほら……イッてみて」

「あぁあああっ……! いくっ……!」



 スイのペニスから大量に溢れだす蜜が、下腹部全体を濡らしている。それはまるで愛液のように。アソコまで伝ったそれはスイのお尻のなかの粘度をあげて、抜き差しのたびにぬちゃぬちゃと激しい音をたてた。梓がくすくすと笑いながらずっぽずっぽとバイブをスイの奥に突っ込めば、スイのペニスからはさらに液体がだらだらとこぼれ落ちてくる。



「やぁあ……あぁあっ……あーっ……あっ……」

「お尻でイクの、俗にメスイキって言うらしいじゃん? 女の子がイクのと一緒。何回も、何回も、深い絶頂を味わえる。スイ……もっとお尻のなか開発してみよ? 普通の男の子じゃ味わえないすっごい快楽を知ることができるかもしれないよ」

「やー……だめぇ……おかしく、なっちゃ……ああー……」

「ほら……もう一回。イッて。ほら」

「あぁんっ……!」

「もう一回……」

「やぁんっ!」



 梓の瞳孔が、どんどん開いてゆく。それは好奇心を煽られたことによる興奮か、それとも別の興奮か。何れにせよスイがイク度に梓の興奮は増していって、口数も減ってゆく。最後には梓は無言でスイをイかせまくって、ひたすらに嬌声をあげるスイを無表情で見下ろしていた。



***


 散々イかされたせいか、身体がずっしりと重い。しかし、これから高嶺の夕食をつくらねばならない。スイは少しだけ休んだあと、着物を来て梓の部屋を出ようとした。しかし、扉に手をかけたところで……ぐ、とその手を梓に掴まれる。



「……また、来るよね? スイ」

「……っ、あ、あんなこと……もう……」

「どうして? 悦んでいたでしょ? スイ……ねえ、」



 後ろから、梓がスイの顎をつかむ。その被虐心を煽られる梓の行動に、スイはひくっと震えて目を閉じた。身体が熱くなってくる。スイが動けないでいると、梓がかすれ声で、囁いた。



「俺ね、スイ自身に興味でてきちゃった」

「……っ」

「もっと、スイのこと知りたいな。スイ、お願い……俺の部屋、これからも来てよ」



 ゾクゾクッ。いつもよりも低い声色に、腰が砕けそうになった。散々身体を虐められたのに、またして欲しい……そんなことを思ってしまう。アソコが、じわ、と熱くなる。

 危ない、そう思った。猫に、心を喰われると。スイは慌てて梓の手を払って、部屋を飛び出した。そして一目散に部屋から離れてゆく。

 梓は開け放たれた扉を見つめ、ふ、と笑った。そして、舌なめずり。



「……探究心、だよ。スイ」


梓の章



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