骸に咲く花
夕暮れ、紅い光が部屋に差す刻。布団の上に寝転がるスイを、冬乃が見下ろしている。
スイは裸にされ、そして痺れ薬と媚薬を投入されている。体が火照ってしょうがないのに、まったく動けない状態だ。
「こうしていると……スイくんが、死んでいるみたいだ。本当に、綺麗」
「冬乃……さん……」
「おっと……話しちゃだめだよ……今の君は、死んでいるんだから」
スイの周囲には、花。溢れんばかりの花が、敷き詰められている。スイは花の絨毯の上で、こうして体を火照らせているのだった。
「ふふ……美しいね。君には棺がよく似合う」
「あっ……」
冬乃がスイの体をすうっ……と撫で上げる。スイはひくん……と体を震わせて、甘い声をあげた。
蒸せ返るほどの花の香りが、スイを包み込む。自分の意思では動くことができないが、冬乃に触られて感じてしまうと、体が勝手に跳ね上がる。そう……感じるたびに、花の香りが舞い上がる。花の香りが、強くなる。
冬乃はくすっと笑うと、スイの両胸でぷっくりと膨らむ乳首を摘み上げた。花のなかにある、白いスイの体。その胸に桃色に浮かぶ、艶やかな乳首。可愛らしいそれを冬乃は遠慮なく摘み上げ、こりっ、こりっ、と優しく刺激を始める。
「ぁんっ、あ、はぁっ、」
「花の芽みたいだ。ここを摘むと、君の体は甘い匂いがするようになる」
「んっ、ぁっ、」
こりこり、こりこり。冬乃は綺麗な指先で、スイの乳首を弄り続けた。ぷくぷくとした感触を楽しむように、ぷに、ぷに、と潰してみたり。きゅうーっと引っ張って、くいくいっとしてみたり。そのたびにスイは顔を赤らめて腰をもじもじとさせるものだから、花の匂いが強まっていく。たくさんいじったからだろうか、スイの乳首はすっかり花の花弁のように可愛らしい桃色に充血してしまって、ぽってりと大きくなってしまった。
「本当に、美しいね……ずっと、飾っておきたいくらい」
乳首をいじられたスイは、すっかり、雄を欲しがる体になってしまっていた。媚薬の効果も強いのだろう、はぁー、はぁー、と発情しきったような呼吸を繰り返し、全身をしっとりと汗ばませる。
そんな、艶やかなスイの姿は、冬乃を煽った。冬乃は乳首から手を離すと、両手をスイの脇腹に添えて、ゆっくりと胸まで撫で上げゆく。それを、繰り返し、何度も。
「はぁーっ……あぁ、……あぁあー……ぁ、はぁ……」
「花の似合う、綺麗な肌だ……死んでいるみたいに白いところも、綺麗だよ……」
冬乃はずっと、スイに「美しい」と言った。「死んでいるようで美しい」と。
始めの頃、冬乃はそんなことをスイに言わなかった。しかし最近は――体を交えるたびに、「血の気が引いたように肌が白くて綺麗」、「硝子玉のような虚ろな瞳に吸い込まれそう」、そんなことばかりを言ってくる。そして――そうしたことを言うようになってから、狂ったようにスイを求めてきた。以前では考えられないくらいに、スイを抱く頻度があがってきた。
冬乃は――生と死を、愛する。生命が生まれ、死ぬまで――その、すべての姿を、愛するのだという。そして、最も好きなものが、死の直前に瀕した命。生命の終わりに逆らえず、ただ消えてゆく運命しかたどれなくなってしまった命が、愛おしい。
そんな冬乃が、スイに異常に欲情するようになったのは――なぜなのか。
「ああ……たまらなく、綺麗だ……」
冬乃はじっくり、じっくり、真白な肌を愛撫し堪能すると、その太ももを掴んで脚を開脚させる。とろりとした蜜に濡れたスイの秘部は、ひくひくといやらしく疼いていて……冬乃はそれを見るとにたりと笑う。
「熟れた、柘榴ザクロみたいだ……腐る寸前まで熟れた、柘榴」
秘部をてらてらと濡らす蜜を指ですくい取り、ぺろりと舐める。そんな冬乃の仕草に、スイはゾクッとしてしまって、性器をびぃんっ! と勢いよく勃たせた。なんとも蠱惑的な仕草である。彼は相当、スイの姿に欲情しているのだろう。
以前までの、余裕のある姿とは違う、冬乃。本気でスイに欲情し、スイの体の全てを喰らわんとする姿。どん、とスイの両脇に手をついてスイを見下ろし……腐敗した熱を孕んだ瞳で、じっとりと見下ろす。スイは花に埋もれながら、その視線に肌を焼き尽くされていき、言いようのない興奮でがくがくと体を震わせ始めた。
「は、……あ、ァ……あッ――、」
じゅぶぶ……と冬乃の熱がスイの中に入ってゆく。身動きの取れないスイは、何かに縋り付くこともできず、もちろん逃げることもできず、ただ、されるがままに快楽を受け入れることしかできない。瞳に星を散らしながら全身を硬直させ、ガクガクッ、と痙攣して――挿入されながら、イった。
「熱い――……すごく、熟れてるね、……昔とは違う……」
「あ、ぁあ……ぁ……」
スイの肉壁は冬乃のものに絡みつき、吸い付き、冬乃を激しく求めた。その灼熱は、生きている人間にしかありえないものではあるが、冬乃の瞳に映ったものは、違う。死期が迫り、必死に種を求める人間という生き物の性。熟れた柘榴の如くの噎せ返るほどに甘い匂いとやわらかさ。
生を全うする人間にはありえない、淫らさ。
「はぁッ――あぁ、ああっ、あぁあっ――……!」
ぐちゅんぐちゅんと激しく抜き差ししてやれば、スイは顔を蕩けさせてイキ続ける。ぷしゅっ、ぷしゅー……と大きく噴水のように潮を吹いたあと、体を揺さぶられるままにびたんびたんと弱々しく性器を暴れさせる。激しくなかをヒクヒクと痙攣させ、冬乃のものを締め付け、そして締め付けると同時に自らの前立腺を責めあげて、また――イク。
「そんなに、僕の、種が欲しい……? スイくんっ……」
「ほしっ……ほしいっ……」
「だから、死体は話しちゃだめって、言ったでしょ……!」
「アひぃっ――! そっ、そん、なぁっ……あぁっ、あぁあっ――!」
「拒否権なんて、ないよ……僕の、種を、飲み込むんだ……! そして……芽吹かせるんだよ、……死んだあと、腹を破って、また、花を咲かせるんだ……」
「ンァッ……! あ! ア! 奥っ……おくっ……あぁあぁあっ……!」
スイの脚を担ぎ、思い切り奥に自身をねじ込むと――冬乃は思い切り、奥に、射精した。はあ、はあ、と息を切らしながら。
スイは半ば意識を失うようにして、小さく痙攣しながら精液を受け止めていた。どこを見ているのかわからない瞳――スイの瞳を見下ろし、冬乃が微笑んだ。
***
花びらが敷き詰められた、布団の上。そこに横たわるのは……イキ狂わされ、意識を失ったスイ。散らされた花のようにくったりと、可憐に眠っている。
冬乃はそんなスイの傍らに座ると、ゆっくりと体を撫で上げた。そして、優しく微笑む。
「このままここで……息耐えればいいのに。僕の目の前で、死んでもいいのに……」
どこか名残惜しそうに、スイの頬を撫でた。そして、そっと唇を重ねると、次にスイの臍に唇を寄せる。
自分の精を注ぎ込んだ場所。この腹に、夢を見る。
スイが死んで、腐って。そうしたら、植え付けた種が芽をだす。その芽はスイの腹を破って伸びていき、美しい花を咲かせる。そして、枯れて、死ぬ。死ぬ前に、腐敗した肉塊に種を撒き散らし、今度はそのたくさんの花を咲かせる。
ああ――美しい。生と死の流れは、なんて美しい。
「スイくん……君は、美しかった」
しかし、それは夢と散る。
スイの終わりを、知っていた。花など咲かせられないと、知っていた。
輪廻の仲間には、入れない。スイの魂は――深い、水の底へ消えるのだと、知っていた。
冬乃の章―了