透明な風が、素肌を撫ぜる。

 庭の掃除をしていたスイは、心地良い風を感じていた。冷たさを感じる風が、気持ちいい。深呼吸をすると、肺の中を冷たい空気が満たして、体の熱を和らげてゆく。

 ――最近のことだ。体が火照ることが、多い。抱かれることが多くなってきてからというものの、ふとした瞬間にその時のことを思い出しては体が熱くなる。そんな体の変化は喜ばしいような、困ってしまうような。



「あれ、雨瀧くん」

「あ……冬乃さん」



 はあ、とスイが息を吐き出したところで、声をかけられた。振り向けばそこには、なにやら袋を持っている冬乃が立っている。



「今日も、お茶を頂いてね。体にいいお茶なんだって」

「へえ……冬乃さんはいつも素敵なものを頂いているんですね」

「そうだね。そうだ、雨瀧くん、これから僕の部屋にこない?」



 お茶、と聞いた所でスイはそわそわとしていた。最近体の調子がどうにも良くない。火照ってばかりで、もやもやとする。少し渋みのあるお茶でも飲んで、すっきりとしたい……そう思っていた。

 だから、冬乃からの誘いを受け、スイは素直に喜びの表情を露わにした。

 そうすれば、冬乃はすっとスイに近づいてきて、顔を近づけてくる。スイがぽかんとしていれば、冬乃はすうっと目を細めて微笑んで、耳元で囁いてきた。



「次に僕の部屋に来た時は、雨瀧くんの体を僕がかわいがってあげるって言ったよね。僕ね、雨瀧くんのこと待っていたんだよ」

「……ッ」



 カッとスイの顔が熱くなった。以前、冬乃の部屋に行った時、冬乃の目の前で自慰をさせられてしまった。次に部屋に行った時は……冬乃がスイの体を慰める、そんなことを冬乃が言っていた。

 忘れていたわけではなかったが、今の誘いは単純にお茶を飲みたいと思ってのったため、ハッとしてしまう。これではまるで……抱いてもらうために冬乃の部屋に行くみたいだ。

 意識した瞬間、恥ずかしくなってきた。しかし――抱いてもらいたい。一度そのことを考えると、体の熱が湧き上がってきて、冬乃に抱かれたくてたまらなくなってきた。

 うつむき、顔を赤くして目をそらすスイをみて、冬乃はにっこりと笑う。「掃除が終わったらおいで」と優しく言うと、冬乃は去っていってしまった。



***



 空に赤みがさした頃。風は一層冷たくなってきたが、雲間から差し込む黄金色の太陽の光が、部屋の中を温かく染める。



「このお茶……なんだか、花の香りがしますね」

「そうでしょう、彼……このお茶を作った人は、花も一緒につくっていて。今日はその花を混ぜたっていう変わったお茶をくれたんだ」



 ぽつぽつと会話をしながら、スイはお茶を嗜んでいた。しかし、なかなかお茶の味に集中できない。渋みと甘美な香りが混ざった不思議なお茶の味は、味を感じるよりも先に緊張を高めてゆく。花の匂いは心臓を打ち、少しずつ、少しずつ、スイの心を高めていった。

 冬乃も、そんなスイの表情には気づいていただろう。ちらりと目だけでスイの表情を確認して、薄く微笑んでいる。茶飲み茶碗の縁に口づけをする唇、添えられた細い指先、こくりと動く喉。微かに変化を見せるそれらの動きを、冬乃は静かに観察している。



「あ、……あの、冬乃さん」

「ん?」

「きょ、今日って……これから用事とか、ないんですか?」

「ないよ。雨瀧くんは?」

「……ない、です。先生の夕食をつくるくらい」

「そう」



 スイが茶飲み茶碗を置くと、冬乃がそれを片付ける。かちゃ、かちゃ、という茶碗の静かな音を聞きながら、スイはぎゅっと拳を握りしめていた。これから何をされるのかわかっている、その緊張はなかなかのもの。事前に「これからそういうことをする」とわかっていたことなんてほとんどなくて、スイはこの沈黙をどうしたらいいのかわからなかった。



「……あ、」



 茶碗を片付けた冬乃が、押入れから布団を敷き始める。いよいよ……するんだ、そう思うとスイの体温はカッと上昇してしまう。黙って「それ」の準備をしている冬乃を見つめながら、スイはバクバクと動く胸を押さえつけた。

 布団を敷き終えて、冬乃がその上に座る。そして、ちらりとスイを見つめて、微笑んだ。



「雨瀧くん。来てくれたってことは、そういうことでいいのかな」

「……ッ」



 優しい眼差しが、スイの手を引く。

 ほんのりと余韻を残す花の香りが、心を急かす。くらくらとして、早く、冬乃に触れられたいと、そう思ってしまった。そろそろと布団に近づいていき、冬乃の隣に腰を下ろす。そして――スイは、冬乃の胸に頭をあずけてぽそりと囁いた。



「……可愛がってください、冬乃さん」



 その言葉を、熱っぽく、吐息と共に、吐き出した。そうすれば冬乃がぎゅうっとスイを抱きしめる。とくんとくんと心臓の脈打つ音が響いて、脳みそが蕩けてゆく。



「いっぱい可愛がってあげる」



 着物を、脱がされた。ぱさりと着物が落ちて、スイは裸にされてしまう。

 はじめから「する」とわかっていたから、体はその準備ができていた。ほんの少し触れられただけでぞくぞくと震えて、感じてしまう。腕を捕まれ、冬乃の膝の上に乗せられ、秘部がぺたりと冬乃の膝にくっつくと、いやらしい気持ちが加速する。じわじわと下腹部が熱くなっていって、触れられてもいない乳首がじんじんとし始めて……スイは恥ずかしくなって黙りこんでしまった。



「んっ……」



 冬乃はそんなスイの唇を奪って、ぎゅうっとその体を抱きしめる。背中を撫で、臀部をゆっくりと揉みしだき、スイの体を優しく優しくほぐしてゆく。

 


「ふっ……ん、ぁ……う、……」




 甘く蕩けるような口付けが、理性を溶かす。徐々に体の強張りはとれていき、スイの唇からは儚い声が漏れだした。舌を絡め、お互いの熱を交わらせるような口付けはわけがわからなくなるほどに気持よくて、恥ずかしいという気持ちを壊してゆく。

 冬乃が口付けを続けながら、潤滑剤をスイの秘部に塗りこみだした。指でくぱっと尻肉を広げ、そして穴のいりぐちにくちゅくちゅと塗りこんでゆく。たっぷりと手に潤滑剤を取ると、たぷたぷと音がするくらいにスイのソコを濡らしてやって、そして指の第一間接までを穴の中に挿れた。



「んん……ぁん……ん、ぁ……」



 ちゅぷちゅぷとしつこくいりぐちの辺りを弄くられ、スイは腰が砕けてしまう。脚からだらんと力が抜けて、自らの力で体勢を維持することができない。ぺたりと冬乃の膝の上に座り込んで、冬乃に完全に身を任せていた。



「はぅ……ん、……うぅ……」



 たくさんの潤滑剤を使ったおかげか、スイの秘部はぐずぐずに柔らかくなってきた。冬乃の指がいつの間にか三本入っていて、すっかり受け入れる準備ができている。スイも感じながらももっと奥の方が欲しくなって、腰をゆらゆらと揺らし冬乃を煽った。

 

「積極的だね、雨瀧くん。心の底から、欲しがっているみたい」

「はっ……あ、……ほしい、……です……冬乃、さん……」

「はは――もっと、いやらしくなってごらん。君はもっと変われる。もっと「知る」ことができるよ。雨瀧くん」

「え、……あっ……――あ、あぁあっ……!」



 ――一瞬、冬乃の言葉に戸惑った。しかし次の瞬間、なかに冬乃の熱が入り込んできて――浮かんだ疑問は弾けて消えた。

 ズンッ、と重い熱がスイの体を突き上げる。ゾクゾクッ、と強烈な電流がスイを貫いて、まず一回、スイはイッてしまった。



「はぁッ――」

「自分でも、動いてみて。乱れてみて。もっと――」

「あっ、あっ、あっ、」



 細められた、冬乃の瞳。一瞬、ばちりと目が合った。全てを知っているような、その眼差しがスイの心を揺さぶる。

 ――もっと、乱れないと。もっと、もっと。そして――まだ知らない、何かを知るんだ。

 刹那、湧き上がった想いがスイを動かした。スイは腰を上下、前後に揺らし、自らイイところに冬乃のものを当てて自分を追い詰める。前立腺を冬乃のものにごりごりと押し当てながらずぷずぷと抜き差しを繰り返し、のけぞりながら甲高い声で鳴いた。冬乃はそんなスイを見上げながら、ふっと微笑み……思い切り、突き上げてやる。



「あぁっ! あっ! もっと……あっ……い、イク、……もっと、あぁっ……! イク、イク、……! あぁっ……」

「限界までイこうか。まだまだ、雨瀧くんは出来るよ」

「あぁッ……! あぁあ――!」



 がくがくと揺さぶられながら、スイは何度も何度も果てた。意識朦朧としながら、それでも冬乃を求めた。この先に、何かが見えるような気がしたから。壊れるくらいに求め合って、そうすれば――心の中に、何かが生まれるような、気がした。



***



「雨瀧くん。冷たい飲み物をいれたよ。気が向いたら飲んでね」



 イッて、イッて……何度もイッて。行為が終わった後、スイはぐったりと布団に寝そべっていた。腰がだるく、起き上がるのが億劫だ。そもそも脚がガクガクとして、まだ立てないかもしれない。夕食を作る時間までに回復するだろうかという不安が、少しだけスイのなかにあった。



「……冬乃さん。何か……先生に、聞きましたか」

「いや、何も」

「……そう、ですか」

「ただ、感じている。君が、高嶺くんのことを追っているんじゃないかなって」

「……」

「高嶺くんは……生きた屍みたいだ。触れればそこから腐り落ちて死んでしまいそうで、恐ろしい。でも、僕は彼の生き方を否定しない。僕にそんな権利はないからね。もちろん――君の生き方も否定しないし……手を貸してあげる」



 冬乃に何度かなかに出されたせいか、お腹の中に違和感がある。植え付けられた種は、いつまでなかに留まり続けるのだろう。何かが、芽吹いてくるのだろうか。

 スイは軽く下腹を撫で、枕に顔を埋める。そして、瞼の裏に高嶺の顔を浮かべた。



「……冬乃さん」

「なんだい」

「……また今度、可愛がってください。俺のことを、孕ませて」



 冬乃は目を細め、スイの頭を撫でる。そして、呟いた。



「いいよ。君が答えを生み出すまで。何度でも種付けしてあげる」







冬乃の章



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