花に惑う




 庭が燃えるような色をした紅葉で彩られている。心地よい秋声に耳を済ませながら、スイはお茶をすすっていた。


「どう? そのお茶、美味しいでしょう?」

「はい……渋みがあるけど……甘いっていうか」

「僕の馴染みがね、丁寧につくったお茶だから。雨瀧くんの口にあってよかった」


 スイの言葉に、冬乃が微笑んだ。

 ――今日は、冬乃に誘われて彼の部屋でお茶を嗜んでいた。冬乃の部屋は高嶺の屋敷のなかに構えてある、程よい広さの綺麗に片付いた部屋だ。畳の匂いが優しい、その部屋の真ん中に向かい合って座って、二人はゆっくりとお茶と甘いお菓子を楽しんでいた。


「お菓子も美味しいですね……見た目もとても綺麗です。秋を閉じ込めたみたい」


 添えられたお菓子は、所謂、錦玉羹という種類のお菓子だった。寒天に砂糖を溶かして固めたもの。そのなかに、金魚等を模した練りきりや餡をいれ、見た目も楽しめるという風流なお菓子である。今回スイがもらった錦玉羹には、丁度庭で揺れている真っ赤なもみじをかたどった餡が入っていた。食べるのが勿体無いほどに美しくて、でも端のほうをちょっとだけ口にいれてみれば、上品な甘さが口の中に広がってゆく。

 木々の揺れるさらさらという音がする。涼しい風が、外からやわらかく部屋に入り込んできた。冬乃のさらさらとした茶髪がゆれて、その光景が絵のように綺麗で。お菓子の甘さと相まって、心が落ち着いてゆく。


「そうだ……さっきからいい匂いがしますね。お香とも違うような……」

「ああ、それかな。これもそのお茶と一緒にもらってきたんだ」


 スイは先程から鼻を掠める仄かな香りが気になって、ふと冬乃にたずねてみた。金木犀や緑の匂いとはもちろん違う、しかしお香ともまた違う。嗅いだことのない不思議な匂いはスイの興味をそそった。

 問われれば、冬乃は立ち上がって部屋の隅においてある、陶器で作られた小さな容器を持ってくる。花のような形をしたそれは、上部に小さな穴がいくつも空いていて、どうやらそこから香りが零れてくるようだ。


「雨瀧くんは、薔薇という花を知っている?」

「薔薇……最近西洋から入って来ているお花ですよね。俺は実際お目にかかったことはないですけど……話だけきいたことがあります」

「この匂いはね、薔薇に似せてつくられたものなんだ。だから、今まで日本でつくられてきたお香とは違った香りがする」

「へえ……とてもいい匂いですね。本物も是非みてみたくなります。もう少し……近くで嗅いでみてもいいですか?」

「えっ」


 珍しいその匂いに魅せられて、スイが容器に鼻を近づけたときだ。冬乃がぎょっとしたような顔をした。しかし、その陶器の造形の美しさにも見とれていたスイはそんな冬乃の様子には気付かない。近づけば一層強まる芳しい香りに、うっとりと目を閉じた。


「……雨瀧くん。離れたほうがいいかもしれない」

「え? ……あれ? なんか身体が熱いような……」

「ああ……思ったより効果が早いな」


 突然、じわ、と身体が熱くなってきてスイはうずくまった。具合が悪いというわけではない。頭がぽわぽわとして、気持ちいいのだ。


「雨瀧くん……これ、あんまり近くで匂いを嗅いじゃうとだめなんだ」

「えっ……? だめって、身体に悪いんですか……?」

「いや……媚薬効果が……」

「……び、やく?」


 冬乃は容器をおくと、やれやれとため息をつく。

 冬乃のもっていたその薔薇のお香。実は、冬乃にそれを渡した馴染みというのは妖怪であり、彼の作った薔薇の匂いのお香には特殊な成分が入っていて、嗅ぐと媚薬を体内にいれたときと同じ効果を得てしまうという。遠くで嗅ぐくらいならば心を落ち着ける、といった程度ですむのだが、スイがうっかり近くでその匂いを思い切り吸ってしまったものだから、スイの身体は今、媚薬を吸ったときと同じ状態となってしまっているのだった。


「……ん、冬乃さん……なんか、俺……身体、変……」

「……うん、肌が紅いね」

「冬乃さん……どうしたらいいですか?」


 スイが問うと、冬乃は一瞬考えたのちに、ふっと笑った。そして、スイの側から飲みかけのお茶と端をかじられたお菓子をどけてやる。ぽーっとそんな冬乃の動作を見つめているスイの前にお香の容器を持ってきて……言う。


「身体を触ってあげればいいんじゃないかな」

「さわ、る……?」

「火照った身体を慰めてあげなきゃ。ね、雨瀧くん。ためていると、それこそ身体に悪いかもしれないよ?」


 にっこり、冬乃は微笑んだ。

 
「着物を脱いで、僕に肌をみせてみて」

「えっ……」

「ほら、雨瀧くん」

「はい……」


 体中がじんじんと熱い。まともに頭も働かず、スイは言われるがままにするりと着物を肩から落とす。はだけた肩は桃色にそまり、つややかだ。冬乃がじっくりと身体をみつめてくるものだから、スイは恥ずかしくて目をとじる。視線がまるで質量を持っているようで、勝手にぴくんぴくんと身体が小さく震えてしまう。


「覚えてる? このまえ、僕と一緒にお風呂にはいったこと」

「わすれるわけ、ないじゃないですか……」

「そのときと同じように、雨瀧くんの乳首、たってるよ」

「あっ……」

「触られたいんじゃないの? あのときみたいに、指でこりこりされてみたくない?」

「……ッ、ふゆのさん……」


 言われて、はっと以前風呂場で身体を弄られたことを思い出した。温かいお風呂の中で、乳首をたくさん可愛がってもらった。あのときのじわじわとした快楽を思い出して、乳首の先が疼いてくる。恐る恐る自分で乳首をみてみれば、そこはぷっくりとふくれていて、触って欲しいと言っているようだった。


「触って、ください……ふゆのさん……」

「じゃあ……自分でしてみてよ」

「えっ……?」

「できるよね? 雨瀧くん」


 てっきり前と同じように冬乃が乳首を触ってくれるものだと思っていたから、自分で触れと言われてスイは驚いてしまった。自分で触るなんて、なんてはしたない。……そう、思うけれど。一度触って欲しいといった乳首は欲しがりで、すーすーと冷たい空気に撫でられるたびにぞくぞくとしている。

 ……触りたい。ちくび、こりこりしたい。

 スイはゆっくりと指を胸に這わせ……軽く、乳首をつまみ上げる。


「あっ……」


 少し摘んだだけで、腰が跳ねた。いやらしい声が漏れてしまって恥ずかしい。自分で乳首を触って喘ぐなんて、ひどい淫乱に思えてしまった。でも、もっと触りたい。ちょっと摘んだだけじゃ、足りない。


「ほら……もっと触ってみて。雨瀧くん」

「そんな……はずかし、い……」

「恥ずかしくないよ。雨瀧くんは僕の言っていることを実行しているだけなんだから」

「ふゆのさん……」

「ほら、両手で強く引っ張ってみて」

「はい……」


 指示されたとおりに、スイは両方の乳首をきゅううっと引っ張り上げる。ゾクゾクっと痺れのようなものが走って、スイは思わずのけぞってしまった。


「あぁんっ……!」


 きゅ、きゅ、と乳首を何度も引っ張る。ふくらんだ乳首は引っ張られるとぐにぐにと伸びて、どんどん敏感になってくる。

 もっと欲しい……もっと、もっと……


「指先をすりあわせて。こりこりしてみて」

「はいっ……ふ、ぁあっ……あんっ、あぁっ……」


 気持ちよすぎて、たまらない。自分で触ることがこんなに気持ちいいなんて。どんどん指の力は強くなっていって、乳首への刺激は激しくなってゆく。今まで色んな人にいじめられたように、ひっぱって、こりこりして、先っぽをくりくりと撫でて。いやらしい触り方をたくさんすれば、身体の芯がじんじんと熱くなってゆく。


「腰がもじもじしているね、雨瀧くん」

「はっ……あっ……ふゆの、さん……」

「このまえ、乳首のほかに僕はどこを触ったんだっけ?」

「……っ、おれの、なか……」

「なか? もっと具体的にいってごらん」

「あぁっ……あっ、おしりの、あなです……!」

「そうだね。雨瀧くんのお尻の穴、みえるように脚を開いてみて」


 考えただけでも恥ずかしくて、く、とスイは唇を噛む。でも、お尻の穴がひくひくとして、触りたくてたまらない。もっと気持ちよくなりたくて、スイは自然と彼の指示に従っていた。脚を開き、股間を冬乃に見せつける。そうすれば冬乃は優しく微笑んだ。


「下着、ほどいて」

「はい……」


 言われた通りに、スイは下着をほどいてゆく。するすると布がそこから剥がれていけば……つうっと透明な液体が糸をひいた。自分のペニスからでたものだ、と思うとスイの体温がかあっと上昇する。


「ひくひくしているね。息をしているみたい」

「みないでぇ……」

「どうして? 綺麗だよ、雨瀧くんのお尻の穴。桃色で、つるつるしていて」

「やぁ……」

「ほら、触ってごらん。君の綺麗なお尻の穴」


 冬乃に言われて、恐る恐るスイはお尻の穴に手をのばす。指の腹で少しだけそこを撫でてみれば、ひくっ、ひくっ、と収縮していた。くるくると穴の周囲を触れば、そこはさらにひくひくっ、と動く。なかのほうがきゅんきゅんとして、早く早くとせかしてくる。耐え切れず、スイは請うように冬乃を見つめれば……冬乃はすうっと唇の端をあげて笑った。


「いいよ。挿れて」

「あぁあっ……!」


 言われた瞬間に、スイは指を差し入れた。ぬぷぬぷっ、と穴は素直に指を呑み込んでゆく。焦らされたスイの中は指がはいってくると大いに悦んで、ぎゅうぎゅうと指を締め付けた。


「掻き回してみて」

「んっ、あぁっ、あぁんっ……!」

「いいところをみつけたら、そこをごりごりしてごらん」

「はいっ……ぁあっ、あっ、ふ、ぁあ……」


 かくかくと腰が揺れる。脚がどんどん開いていって、気付けば思い切り開脚して冬乃に指をずっぷりと呑み込んだ秘部を見せつけていた。言われた通りに指をなかでぐちぐちと動かせば、ある一点でじゅわっとすさまじい快楽が生まれ出る。出るはずのない愛液が溢れ出そうな……そんな錯覚を起こすような、甘い甘い快楽の波。もっともっと欲しくて、スイはそこを指の腹で引っ掻いた。ごりごりとそこをこすり上げれば、びくんっ、びくんっ、と勝手に腰が跳ねる。


「よくなってきたら指の本数を増やすんだ。乳首をいじるのも忘れないでね」

「あぁんっ……きもちいいっ……あぁっ、あんっ……あんっ……」


 乳首をぎゅうっとつまみ上げ、本数を増やして指で中を弄る。激しく出し入れをしたほうが興奮したため、ずぼずぼと抽挿を繰り返した。奥のほうがむずむずするのに指ではなかなか届かなくて、ぐっ、ぐっ、と強く指の根元まで突っ込んで届くところまで奥を突くのに、焦らされている気持ちになる。


「あぁあっ……あぁん……ふあ、はぁん……あー……あー……」


 ペニスの先からだらだらとこぼれる液体が、穴まで伝ってくる。指を抜き差しするたびにそれがぱちゅぱちゅと音をたて、その音が耳に入ってくる。はしたないことをやっているんだ、そう意識しているのに止まらない。快楽はどんどん蓄積していって、手の動きが早くなっていく。


「いくっ……いく、いく……あーっ……あぁん……いく……ふぁ……あー……」


 頭の中が真っ白。乳首をぎりぎりと引っ張り上げ、ぎゅうぎゅうに締まるなかを指で思い切り突き上げる。スイは天井を見上げながらはくはくと息をして――


「いくっ……!」


 冬乃に見つめられながら、絶頂に達した。ぴゅくっ、とペニスから白濁が飛び出して、自らの腹にかかる。全身の力がぬけて、スイはぱたりと倒れこみ……冬乃に頭をなでられると、気持ちよくて目を閉じた。


***


「うう……みないでください」

「なんで?」

「恥ずかしいからです……」


 しばらくして、意識がはっきりしてくると、スイは慌てて乱れた着物を直し、部屋の隅で丸くなってしまった。そんなスイを、冬乃はくすくすと笑いながら見つめている。


「僕に触られたときと、どっちが気持ちよかった?」

「……ふゆのさんに触られたときのほうが……よかったです」

「そっか〜。それは嬉しいなあ」


 スイはかあっと顔を赤らめた。たしかに自分で弄ったときも気持ちよかった、けれど。冬乃に後ろから抱きしめられ、耳元で優しい言葉を囁かれながら可愛がれたときのほうが気持ちよかった。そんなことはさすがに羞恥から言えないが。


「お茶、さめちゃったね」

「あ……すみません……」

「ううん……いいよ、またここにおいで。美味しいの、淹れてあげるからね」


 さあっと葉風が立つ。入り込んできた風が冬乃の髪を揺らす。


「そのときは、僕が雨瀧くんの身体を可愛がってあげるからね」

「……っ」


 ああ、またこよう。美味しいお茶をいただきにこよう。

 スイは塞ぎ込み、そう思う。

 ――そして、また可愛がってもらいたい。

 仄かな期待を胸に抱きながら。




冬乃の章



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