貴方の教え



 高嶺の闇を、少しだけ知った。

 彼の想いを、知った。

 この屋敷で、俺は満たされるのだ。彼の言ったように。――スイは、廊下を歩きながらあの日の記憶に想いを馳せる。



「……先生。入ってもいいですか」



 もっと、もっと、妖怪たちを触れ合えば心は満たされていくだろう。もっと、もっと……淫らに。今までよりも深く。

 でも、スイはそれにどこか抵抗を覚えていた。女のように妖怪たちを受け入れる覚悟ができていなかった。いいや、それは言葉が違うかもしれない。彼らと交わることが嫌だなんて、思っていない。ただ――はじめての人は、高嶺がよかったのだ。



「――どうぞ」



 なぜか。それは自分でもわからない。でも、口付けをされたときにたまらない歓びを感じた、あの感覚。それがこの想いと少し似ている。きっと、触れ合ったときにあのような歓びを感じるのは、高嶺だけだろう。はじめては、あの歓びを感じながらがいい。なんとなくそう思ったのだ。

 中から返事が聞こえて襖を開けると、机に向かっている高嶺の背中があった。すっと伸びたその背筋に、熱を覚える。



「……せんせい」

「スイ。どうしたの」

「……あの」



 外から虫の鳴き声が聞こえてくる。これから言うことを考えると、かあっと顔が熱くなる。スイは静かに畳の上に正座をして、そっと手を膝の前に添える。手が、かたかたと震える。

 スイがなかなか言い出せず、黙っていたからだろうか。高嶺はすっと振り返って、スイを見つめた。



「……ッ」



 全身から汗が吹き出して、眩暈がした。しかし、高嶺の瞳の引力はすさまじい。目をそらすこともできず、そして……そのまま黙っていることもできず、スイはついにその言葉を言う。



「……抱いて……抱いてください。先生」



 はあ、と唇から吐息が勝手にこぼれた。心臓がバクバクといって、胸が苦しい。

 その言葉を言った後、スイは懇願するように頭を下げた。高嶺の言葉を待った。

 時計の針がコチコチと動く音がやけに大きく聞こえる。無言の時間が苦痛だった。期待にだんだんと熱くなってくる身体と、それと裏腹に断られる恐怖に震える心。どうか、彼に初めての人になってほしい――その想いは届くのだろうか。



「……スイ、顔をあげなさい」

「はい……、あ」



 声をかけられて、恐る恐る顔をあげれば――世界が反転した。背中には、やわらかな感触。後ろに敷いてあった布団に押し倒されたのだと、気付く。



「……いい、作家になりなさい」

「……はい」

「……僕が、ひらいてあげる。君が、いい作家になるための入り口を」

「――ッ」



 ゾクッ、と電流のものが身体を貫いた。触られている。高嶺が、スイの秘部を指で触っていたのだ。下着の上から、後孔をつうっと指でなぞるようにして触っている。



「あっ……」



 眩暈がした。高嶺に触られた瞬間に、ゾクゾクとして腰がくだけてしまった。緊張して固まっていた筋肉が一気にほぐれて、脚が勝手に開いてゆく。

高峰は……わからない人だ。底のしれない人。普段は飄々としているくせに、その瞳の奥には闇を飼っていて、仄かに滲み出すそれにスイは惹かれてしまっている。見つめられると、触れられると、全身が熱くなって敏感になってしまう。



「あっ、……あっ……」

「下着の上からでもわかるくらいに……ここは僕を求めているね」
 
「せ、……せんせ……」



 下着の上から、穴をこりこりといじくられた。そうされるとヒクッ、ヒクッ、とはしたなくそこはひくついて、それを感じ取った高峰は目を細めている。

 思えば……この体を淫らにしたのも、高峰だ。スイの体は高峰に淫らにされた。高峰に触れられて感じてしまうのは、あたりまえのこと。高峰はスイを最高の作家にするために、スイの全身を淫らに開発していくだろう。スイの体は、それに応えてゆくのだ。

 淫らに、淫らに。穴をたくさん弄られて、スイはとろとろになっていく。ただいりぐちを触られただけだというのに、全身から汗が吹き出して顔が蕩けてしまっている。感じるたびに体をくねらせ身じろいでいたからか、着物ははだけてぷくりと勃った乳首が露出してしまった。



「どう、ここで感じられるようになってきた?」

「……は、い……」

「そう……それはよかった。全身の感覚を鋭敏にするんだ。多感な人ほど作家に向いている……それはわかるね?」

「はい、せんせい……」

「いい子。たくさん感じなさい、スイ」

「あっ……あぁっ……!」



 高嶺は乳首を唇で覆って、そして吸い上げた。するとスイはぐぐっとのけぞって、甘い声をあげる。高嶺に乳首を吸われるたびにぎゅうっと秘部の奥の方が締まって、渦に突き落とされるような感覚にさいなまれる。

胸を責められて感じるようになってしまったのは、高嶺のせい。こうして快楽を覚えるのは、高嶺が。今、乳首で感じてしまっているのが高嶺に教えてもらったからだと思うと、スイはこうして悶えている自分に酔ってしまいそうになった。乱れている自分は、先生の弟子としてふさわしい……そう思って。



「スイ……ここも、柔らかくなったね」

「んぁ……せんせ……」



 乳首を吸われながら、下着の中に手を挿れられた。秘部を指の腹でとんとんと叩かれて、そしてつぷんと挿入される。

 高嶺の指がなかにはいってきたと思うと、ないはずの子宮から歓びが沸き上がってくるようだった。下腹部が熱くなって、頭が真っ白になって。あまりの気持ちよさにスイは甘く蕩けた声を出し続けた。自分の声だとは信じられないくらいにいやらしいその声も、高嶺によって教えこまれたものだと思うと……出し惜しみなんて、できない。



「あー……あぁっ……あー……」



 勃ちあがったスイのペニスからは、蜜がとろとろとこぼれ落ちている。潤滑油もなにも垂らしていないというのに、スイの下腹部は自らの出した蜜で濡れてしまっていた。そんなとろとろとした液体に濡れたせいで、高嶺の指が挿れられた秘部が溶けてしまうのではないかと錯覚すらしてしまう。熱くて熱くて、内臓も何もかもが溶けてでてきてしまっているのではないかと。

 なかをくちゅくちゅとかき混ぜられて、スイの腰がゆらゆらと揺れる。スイは身体をくねらせ、悶えに悶えた。高嶺にこの痴態をすべて見られていると思うと恥ずかしかったが、彼の前ではこの淫らな姿を隠す必要がないと感じた。



「スイ……綺麗だ。もっと雄を誘うように、艶やかに乱れてみなさい」

「せんせー……あっ……あぁっ……」

「さあ、脚を開いて。僕を誘ってごらん」

「せんせい……」



 たくさん秘部をほぐしてもらって、スイの身体はとろとろになっていた。もっと欲しい。先生が欲しい。スイの蕩けた脳みそは、ただひたすらに高嶺を求める。

 ――そう、たくさんのものを受け入れる。そのためにこの身体は雌になる。雄に求められるような、優秀な雌に。

 ただ、今は――高嶺が欲しい。はじめてこの身体を開くのは、高嶺であってほしい。ただ一人の人間を求めるのはきっと高嶺の教えに反することだが、それでもスイは高嶺を欲していた。先生の教えを守れない悪い子でごめんなさい、この心臓は、貴方ただ一人を欲している。

 ……今だけは、貴方に恋をさせてください。



「スイ――」

「あっ……せんせい……!」



 脚を開けば、高嶺が覆いかぶさってきた。そして……柔らかくなった雌の穴に、猛りをあてがわれる。それだけで、体中から歓びが湧き上がる。高嶺に抱かれるのだということが――こんなにも、嬉しい。

 このときになって、スイは初めて気付いてしまった。自分は、高嶺に恋をしていたのではないかと。だからこんなにも彼のことが気になって、抱かれることが嬉しくて。



「あっ、あぁ……」



 はいってきた瞬間に、イッてしまった。ぴゅくぴゅくとペニスから蜜を飛ばして、スイはイッてしまった。



「――スイ。僕の、愛しい弟子」

「せ、せんせっ……あっ……あ……っ」

「もっと乱れて」

「あーっ……あ……あぁあ……」



 ゆっくりと、高嶺の抽挿が始まった。ゆるやかなのに、高嶺への恋慕に満たされたスイの身体は異常なくらいに敏感で、すぎるくらいに感じていた。一突きするたびにびくんと大きく腰が跳ね、そしてきゅうきゅうと高嶺のものを締め付ける。もっともっと奥へください、そうおねだりするように。
 
 ペニスでスイの前立腺をこするように腰を抜き、そしてずぷっと挿しこんでぐっと奥を押す。スイの感じるところを的確に高嶺は責めてきて、スイはもう蕩けてしまっていた。ふにゃりと全身から力を抜き、高嶺にされるがままに感じて甘い声をあげる。ペニスからはたくさんの蜜が溢れ出ていて、スイの腹にたまっている。



「あんっ……あっ……あっ……」

「たくさんイッているね。いい子だ、スイ。ほら、もっとイッてごらん」

「あーっ……」



 ぐりぐりと奥にねじこまれ、スイはのけぞりながら、髪を振り乱しながらイッた。ちかちかと視界に星が弾け、意識が飛んでしまいそうだ。

 何度も何度もそうして絶頂に追い込まれ、スイはそのたびに気を失いそうになった。しかし、少しでも長く高嶺との「はじめて」の歓びに溺れていたいと、高嶺にしがみついてなんとかこらえていた。

 しかし――



「スイ……僕の精液を、中にだしていい?」

「……っ、だして、ください……俺のなかに、先生の……残していってください……」

「……そうか、スイ。……可愛いね」



 高嶺が目を優しく細めた。そして……口付けてきた。

 その瞬間に、スイは今までで一番の絶頂を感じた。さらになかで出されているのを感じて、一気に限界まで追い詰められる。

 口づけをされること、高嶺の精を植え付けられること。スイにとってのなによりの歓びが――スイの最高の絶頂を誘う。



「んっ……んー……」



 薄れゆく意識の中で、スイは高嶺を抱きしめた。

 ――先生。好きになってごめんなさい。

 唇が離れていき――高嶺の微笑みが視界に入った刹那、スイの意識はとうとう飛んでしまった。



***



 日が昇り、部屋の中に陽の光が差し込む。時計を見れば、いつもよりも遅い起床になってしまった。スイは重い体を起こして、歩きながら覚醒していく。



「――先生……おはようございます」

「おはよう、スイ」



 朝、いつも高嶺がいる部屋にいけば、すでに高嶺が自分で茶を淹れて飲んでいた。ああ、それは自分の仕事だったのに……とスイは申し訳ない気持ちになる。

 静かに茶を啜る高嶺。昨日――はじめて体を重ねた人。



「先生。今日はどんなことを教えてくださるんですか?」

「……そうだね。それじゃあ……文学の流派でも教えてあげようか。そろそろ勉強をしよう」

「……はい。お願いします、先生」



 憧れの先生。この人の弟子になれた幸福を、いつまでも掴んでいるために。いい弟子であるために。この、自覚したばかりの恋心は捨てるのだ。

 

 私はどこまでも淫らになりましょう。貴方の教えならば、全ての淫らな行為が私にとっての悦びとなるでしょう。




貴方の教え…終


高嶺嗣郎の章



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