随筆…良い作家とは
この屋敷に妖怪が住んでいるということは、高嶺さまも知っておられました。いずれ知ることになるだろうと、私に黙っていたのです。
「悪さをする妖怪じゃない。みんな、優しいよ。彼らと仲良くしてやってくれ」
高嶺さまは、あっけらかんとしてそう言いました。たしかに寝室で私を囲った彼らの目は、物語に聞くような「人を食らってやる」といったものではありませんでした。それでも、初めてみたもので私の身体の震えが止まることはありません。高嶺さまはそんな私をみて、言うのです。
「ここに住んでいれば良いものが書けるようになると言っただろう。どうか怯えないで彼らとたくさんお話しをして、触れ合ってみてほしい。良いものを書ける人間というのはね、良い経験をたくさんした人間なんだ」