随筆…出会い



 実家から大きな荷物を抱えてはるばる上京した私は、まずは東京の都会っぷりに驚きました。赤レンガ造りのモダンな街並み、行き交う人々の華やかな服装。憧れの高嶺さまに会うのだから精一杯のお洒落をしてきたつもりなのに、自分の格好がひどく見窄( みずぼ )らしくみえてしまいます。きょろきょろと阿呆のように辺りを見渡しながら劣等感に苛まれ続けてようやく高嶺さまのお宅に辿り着いたときには、私の精神はすでに疲労の頂点に達しておりました。

 高嶺さまのお宅はこの都会の建物の中でも一際目立つほどに大きくて、私は門の前でしばらく呆然と立ち尽くしていました。高嶺さまがとても高名な作家さまであることは重々承知していましたが、まさかここまで大きなお屋敷を所有できるまでに金持ちであることは予想していなかったのです。

 勇気をだしてベルを鳴らすと、一人の男性が門まで出てきてくれました。痩せ型で背が高く、髪の毛がぼさぼさとしているそのお方。どこか草臥れたその風貌のせいで中年のような雰囲気を醸し出していますが、よくよくみてみればお若い。高嶺さまの門下の方だろうか、彼をみたときに私はそう思いました。ですから、彼の発した言葉には大変驚いたものです。



「やあやあ、もしかして君が雨瀧スイ(あまたき すい)君かな。はるばるよく来てくれたね。僕が高嶺だ。これからよろしくね」


雨瀧 スイ 著「恋綴り」から引用



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