アリスドラッグ | ナノ


▼ 罪と罰


「ごめんね、ヘンゼルくん。君に恨みはないんだけど」


 異臭のする部屋の中心まで引きずられると、ヘンゼルは床に押さえつけられた。どこか感情が壊れたような、そんな表情をしている彼らに本能的な恐怖を覚えたヘンゼルは、叫び声すらあげられなかった。にたにたと笑う少年たちは非常に不気味である。


「俺たちはこれから復讐を始めようと思う」

「復讐……?」

「俺たちを虐げ辱めたトロイメライへ! 予定としてはまあ、ぐちゃぐちゃに虐殺してやろうとは思っているんだけど……あの憎たらしいヴィクトール……あいつは肉体的な苦痛だけじゃ俺たちの気がすまない。そこで!」


 朗々と語る少年が、つうっとヘンゼルのもとまで歩み寄り、しゃがみ込む。そして、顎を掴み、息のかかるほどに顔の距離をつめると、まるで憐れむようかのような声で言った。


「ここにいる全員で君を陵辱しようと思いま〜す!」

「……!?」


 一瞬何を言われたのかわからなかった。りょうじょく……陵辱ってなんだっけ。恐怖とショックで思考が上手く働かない。


「あの男……こんな悪事をはたらけるんだから、随分と太い神経してそうでしょう? ちょっとやそっとじゃダメージ受けなそうだけどさ。大切な君を傷つければね、流石にショックをうけると思うんだ」

「……な」

「ねえ、ヘンゼルくん……確認のために聞くけどさァ……君、ヴィクトールに愛されているよね?」

「え……」


 少年の瞳は深い闇を孕んでいた。復讐の念に駆られ、完全に道徳が壊れている。ヘンゼルの答えを待つ様子は酷く愉しそうだ。


「……ッ」


 ヘンゼルは黙りこんでしまう。ここで「愛されていない」と答えれば、被害をうけない可能性があるのだ。しかし、その言葉は口から出てこない。ヴィクトールから受けたたくさんの愛を、一緒に過ごした時間を、すべて無に返すようなそんな呪いの言葉を……言えるわけがなかった。初めて人を愛したと言った、彼の泣きそうな笑顔が頭から焼き付いて離れなかったのだ。


「……されてる」

「……え? なんだって?」

「俺は……俺は、ヴィクトールに愛されているよ」

「……決まり」


 嬉しそうに笑った少年の声は耳に入ってこない。ぽろぽろとあふれる涙がなぜ、流れているのかわからない。ただ、ヴィクトールへの想いで胸がいっぱいだった。いつの間にこんなに彼を好きになっていたのかと、自分でもびっくりしてしまった。


「抵抗はしないでね。一回抵抗する度にアイツに付ける傷増やすから」


 ……そんなこと言われなくたって。ヘンゼルは疲れたように笑う。

 ヴィクトールから愛されているのだと、宣言した瞬間に、ヘンゼルの中で陵辱されることへの諦めがついてしまった。だらりと体から力が抜けて、抵抗する気が沸いてこない。そもそもこの人数を相手にしたなら、無理に抵抗すれば余計に痛い目にあうだけ。逃げることなど絶対に不可能だ。

 服を無理に引っ張られ、破かれる。ブチブチと繊維が千切れてゆく音は耳障りだった。無抵抗になりただ涙を声をあげることもなく流すヘンゼルを、少年はにやにやと見つめている。あっという間に服は剥がれ、肌は汚らしいこの部屋の空気にさらされる。


「はい、動かないで。危ないから」


 一人の少年が注射器を取り出した。数人がかりで腕を捕まれ、二の腕に針を近づけられる。


「それは……一体、」

「僕たちがショーに出る前に打たれる媚薬。一個盗んできちゃった」


 そういえば。ドクターがショーにでるドールに特製の媚薬を仕込むと言っていたような。あのときのステージに出演していたドールのように、自分もなってしまうのか……ヘンゼルは恐怖を覚えたが、やはり逃れようという気は起きない。ぼんやりとしているうちに針が刺され、液体が体内に注入されてしまう。


「結構その薬まわるの早いからさ」


 媚薬の注射が終わると、一斉に少年たちがヘンゼルの身体を弄りだした。手、手、手。合わせて十は超える手がヘンゼルの体のあちこちを触る。

 あまりの不快感に、ヘンゼルは顔をしかめる。性感帯だったはずの場所も、初めて見るような奴に触られたところで感じやしない。ましてやこんな状況で。ヴィクトールに触れられれば心と身体は歓びに燃え上がるというのに、今はただただ気持ち悪いだけだった。……しかし。


「……ッ」


 即効性の薬なんて、そんなもの存在するものか。そう思っていたのに、この薬はまさにソレだった。身体の内側が、ゾワゾワと熱くなってくる。これを作ったのは自分だとふてぶてしく言っているドクターの顔が浮かんで、ヘンゼルは舌打ちをしたくなった。……もしも次に会うことがあったら殴り飛ばしてやろう。


「ひっ……」


 ぎゅっと乳首を引っ張られたとき、唇から吐息に混じって声が漏れてしまう。それを聞いた少年たちたちが気を良くしたのか、さらに激しく身体を刺激してくる。

 しかし、ヘンゼルは再び声を出してたまるかと唇を噛み締めた。羞恥心からでもプライドからでもない――ただヴィクトールのことを想うから。

 恥ずかしい声をだすと、ヴィクトールは喜んだ。喜んでくれると知ったから、できるだけ耐えないで、恥ずかしいのを堪えて、最近は声をだすようにしていた。

 声は、ヴィクトールの前でしか出したくない、ヴィクトールのために出すもの。こんな奴らに聞かせたくない……


「ちょっとヘンゼルくん? そんなに声我慢しないでよ……だした方が楽だよ?」


 強く噛みすぎて唇から血を流したヘンゼルを嘲笑うように少年は言う。しかし、ヘンゼルは少年と目も合わせることなく、俯いて快楽に耐える。


「そーやって我慢されるとやる気になるよね」

「すっごいエロい顔」


 ヘンゼルの顔が紅潮し、身体には汗が伝い、息遣いが荒くなり、その身体のなかで蠢く快楽は顕著にかたちとして現れる。その煽情的な姿にそそられてか、激しくなるばかりの愛撫。すべやかな肌の感触を楽しむように手のひらは全身を撫で、つんとたった乳首を根本から持ち上げてこりこりと刺激し、後孔には二本の指が挿入され前立腺をぐりぐりと擦られる。

 「C」まで追いやられた少年たちは相手の快楽を煽る術を知り尽くしており、彼らから与えられる刺激はヘンゼルを苦しめた。


「んッ……う、」


 どくどくと鼓動が早まってゆく。絶対にこんな奴らに屈しない、声はあげない。その決心が余計に苦しい。血の滲んだ唇はビリビリと痛み、声をあげないために呼吸も抑制しているせいか酸欠で頭がくらくらとしてくる。

 そうやっている間にも、下腹部から熱っぽい痺れが這い上がってきて、身体は勝手にビクビクと跳ねてしまう。


「く、……ぅ、」

「ねぇ〜、勃ってるよ? 気持ちいいんでしょ? 声だしなよ、いつもヴィクトールに聞かせている、カワイイ声」

「……ッ」


 ヘンゼルが睨み上げれば少年は揶揄するように笑う。クスクスと周囲からも聞こえてくる笑い声に頭が掻き毟られるような苛立ちを覚えた。それでも、媚薬に侵された身体は絶頂まで昇りつめてゆく。アナルにはいった指が激しいピストンをし、かくかくと身体は揺れ。ぎりぎりと乳首を摘まみあげられた胸は仰け反り。


「あッ――……!」


 身体は、あっさりと少年たちの蔑みに下され、達してしまった。


「……は、……」


 絶頂に襲われ身体の熱を逃がすように肩で息をするヘンゼルを、少年たちは舐めるようにみつめていた。濡れ、とろりと熱を汲んだ瞳を虚ろげに開き、血の滴る唇から吐息を吐くその姿は酷く艶かしい。ヘンゼルを囲む少年たちのペニスもその絶景に興奮し、勃ちあがっている。


「随分と可愛いイきかたするんだね。もっと酷くしたくなる」

「……」

「まあ、君ばっかり気持ちよくても、ねェ? ほら、次は君が僕たちを気持ちよくする番だよ」

「う……っ、」


 少年たちに、身体を無理矢理四つん這いにされる。髪を乱暴に掴まれ、そして後ろからは臀部を鷲掴みされ。目の前にペニスを差し出され、そして後孔に熱いものがはいってくるのを感じたとき、ヘンゼルはこれからされることを悟る。


「ここにいる全員分のチンコ、上の口と下の口でお世話して。全員の精液ケツにブチ込むまで終わるつもりないから」


 全員……そう言われてちらりと目だけで部屋を見渡し、絶望する。20人近くいる。自分を拘束する数人、司令塔の少年、そして周りでヘンゼルの痴態をみて自慰をしている者――その全て。


「口あけろ」

「……」

「はやく、抵抗するの?」

「――ッあ!?」


 目の前のペニスを咥えろと、そう命じられても嫌に決まっている。ヘンゼルが黙って渋っていると、後ろから別の少年が後孔にペニスを挿入してきた。突然のことに思わずヘンゼルは声をあげてしまい……その瞬間、口にペニスを突っ込まれる。


「んっ……!」


 あまりの不快感に目を閉じる。口の中に広がる不慣れな味。舌先に腫れ上がったペニスの熱と感触を感じると、吐き気がこみ上げてくる。


「ほら……得意でしょ? フェラ。ヴィクトールのいつもしゃぶってるんじゃないの? 俺にも同じことやってよ」


 やれよ、そう言いつつ少年は自ら腰を降り始めた。遠慮もなく喉を突かれ、咽せそうになるがもちろん少年はやめるつもりはない。頭を掴まれているから逃げることもできない。

 そして、身体もやりたい放題触られる。ぎっちりと腕を掴まれ抵抗は許されない。ヘンゼルの肌を舐める者、ヘンゼルの身体に自らのペニスを擦り付け自慰をし始める者……エスカレートしてゆく行為に敏感な身体は哀しくも反応してしまう。ビクビクと身体が震え、ペニスを咥える口から僅かに声が漏れてしまう。アナルにペニスを挿入している少年もピストンを始め、ヘンゼルは完全に「C」たちの慰み者となっていた。


「あ、……ぅ、ッ」


 身体がガクガクと揺さぶられる。息苦しさにまた溢れてくる涙、口からこぼれゆく唾液。擦り付けられるペニスの先端に滲む先走りがヘンゼルの身体にこびりついてゆく。見るも無残に液体塗れになってゆくヘンゼルの姿は悲哀に満ちていた。そんな風に汚れていっても強制的に与えられる快楽に頬を染めているのがまた痛々しい。


「ちょっと、まじでコイツ、名器」

「なに? 毎日ヴィクトールに抱かれているんならガバガバなんじゃないの?」

「すっごい締まりがいい……しかも感じるたびにめっちゃぎゅって締め付けてくるし……ねえ、もっとみんなコイツの身体触ってやってよ……羨ましいなあ、ヴィクトール……こんな奴と毎日ヤれたなんて」


 パン、と肉と肉のぶつかる音が弾ける。ヘンゼルに挿入している少年の興奮が昂まり、ピストンの速度と勢いが増してゆく。ずん、と鈍い衝撃が次々と襲いくる、それと同時にうねるような快楽の波が迫り来る。ペニスを咥えたヘンゼルの口からはくぐもった声が漏れ、それに煽られるようにヘンゼルの咥内を犯す少年の腰の動きも乱暴になってゆく。


「あっ、あっ、イクッ、あ〜、イク!」

「んっ、んんっ……、!」


 アナルのなかのペニスが震える感覚に、心の中にぽっかりと喪失感が生まれる。ああ、中に出された。きっと大した量でもないのに、それはとてつもない質量をもっているかのように、ヘンゼルのなかで存在感を放つ。ただ、好きでもない人に中でも出されたという事実がその錯覚を生む。


「んっ……う、」


 ペニスを引き抜かれたと思えば、また違う少年が挿入してくる。口の中のペニスもそろそろ限界まできたようで、ぶるぶると震え、咥内に精液を吐き出した。生臭い味が舌に広がって、あまりの気持ち悪さにヘンゼルは顔を伏せてしまう。それでも、こみ上げる胃液を寸のところで堪え、難は逃れた。ここで吐いたりでもすれば何をされるかわからない。吐気と気持ち悪さで凄まじい量の唾液が分泌される。それを何とか全て飲み込もうとするが、そうしている間にもまたピストンは再開される。ガクガクと身体が揺すられて、唇の端からだらりと唾液が流れ落ちる。


「あっ、あ、あッ……」

「すごい、コイツのアナル、トロトロ……気持ちいい……」


 恍惚とした表情で腰を震る少年には、ヘンゼルが今どれほど苦しんでいるのか理解できないだろう。ペニスを引き抜かれ声がでるようになったヘンゼルの儚い声を聞いて、少年は更に興奮して、ペニスを挿入した腰をヘンゼルの臀部にぐりぐりと押し付けた。ヘンゼルの肉壁の感触を堪能するように、挿入した状態で体を揺する。微弱な振動が前立腺をじわじわと責め、ヘンゼルはたまらず身体をよじる。


「あぁあっ……」


 いくら媚薬の効果とはいえ、こんな声をあげてしまう自分が憎たらしかった。しかし、一度ペニスでこじ開けられた口は閉じようと思っても次から次へと声が溢れてきてどうしようもない。


「ああ、みて、トコロテンしてる……気持ち良さそうだね、ヘンゼルくん」

「ド淫乱じゃん、輪姦まわ されて感じてるとか」

「にしてもエッロ……はやく僕も挿れたいなぁ」

「順番だって、ちょっと待てよ」

「とりあえず次だれかしゃぶらせてやれって! ほら、めっちゃ欲しそうじゃんこいつ」


 20人。いつこの地獄は終わるのだろう。延々とこれが繰り返されるのか、気の遠くなるような人数に、ヘンゼルはもはや何も感じなくなっていた。


「あぁっ……ぁ、んッ……」


 意思に反してよがる身体、それを貪る少年たち。5人目あたりから、嫌悪感すらも覚えなくなってきて、10人目からは頭のなかがぼんやりとしてなにも考えられなくなった。意識が飛びそうになれば顔をぶたれて無理やり起こされる。

 たすけて、もうそれすらも考えられない。


「ぁん……あッ、ぁあっ……」





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