▼ 縛って
「ヴィク、トール……」
ベッドに横たわるヘンゼルが、潤んだ瞳でヴィクトールを見上げる。その身体は胸を強調するように縄で縛り上げられており、自由を奪われていた。
「ヘンゼルくん……僕、あんまり酷いことはできないかも……」
「……ヴィクトール……お願い、だから……ひどいこと、してくれよ……このままいっぱい虐められて、ヴィクトールからは離れられないんだって……身体に覚えさせるから」
縛り上げられただけだというのに、ヘンゼルのものはすでに勃ちあがっていた。ヴィクトールから心を離れさせたくない、だから、ヴィクトールにこうして緊縛されて、歓びを覚えたのだった。
ただ、ヘンゼルに縄をかけているときのヴィクトールの苦しみといったら。ひとつ結び目をつくり身体を締め付けるだけで、ヘンゼルはゆらゆらと腰を揺らし甘い声をだした。あまりにも、淫猥だった。
ヴィクトールは、このような破壊的なセックスを、愛するヘンゼルとはしたくないと思っているのに、その想いと反して興奮してしまう自分に鬱屈としてしまったのだ。
「ひどいことって言っても……」
いくらでも、縛り上げたヘンゼルを虐める方法は思いつく。このトロイメライの団長なのだ、腐るほど選択肢を知っている。
ただ、どこまでのものをヘンゼルが望んでいるのか予測がつかないうえに、あまりやりたくない。悩んだ末に、ヴィクトールはそっとヘンゼルの乳首に指を這わせる。
「あっ……まって、……」
ヴィクトールはヘンゼルを仰向けに寝かせ馬乗りになると、両方の乳首を指でつまみ上げた。根元から持ち上げるようにして、引っ張っては戻して、引っ張っては戻して……と繰り返すと、ヘンゼルの呼吸が乱れてゆく。
「乳首……弄りやすい形になってきたね……僕がいつも触っていたから」
「あっ……ん、んッ……俺、ヴィクトールの……モノだから……とうぜん、……あぁっ……」
「うん……触っているだけで気持ちいいよ、ヘンゼルくんのここ……僕のための身体だね、ヘンゼルくん……」
「んっ! ぁ、……ヴィクトールのための、身体……うん、俺……おまえだけの、……からだ……ぁ、ん……」
君は僕のもの。それを言ってやると、ヘンゼルは心底嬉しそうな顔をした。とろんと蕩けた目でヴィクトールを見上げ、頬を染め、そして乳首を触られて喘ぐ。
ゾクゾクした。自分の檻にこの美しすぎる青年を閉じ込めて、這いつくばらせて自分を請わせる……そんな嗜虐的な快楽。自分の内のサディズムを抑えるのは、なかなかに辛い。
ヘンゼルが身体をくねらせよがる姿を見つめるヴィクトールの瞳は、舌舐めずりをする獣のように残忍だった。それでも、ヴィクトールはゆっくりと手を動かす。必死に自分の欲望を押さえつけた。
「んっ、ん……あっ、それ……だめ……あ、」
ヘンゼルはこりこりと乳首をこねくり回されるのが好きらしい。そうしてやると、快楽を余すことなく受け止めようとぎゅっと目を閉じる。たまらない、とでも言うように艶のある甘い声を唇からこぼし、もっと、と請う。
そんなヘンゼルに、ヴィクトールは随分といやらしい身体になったもんだと感慨深くなってしまう。
初めの頃はセックス自体を拒否してきたのに、今や自分から誘ってきてあまつさえアブノーマルなプレイをよろこんで受け入れる。本人がそういうことを好きになったのかというとそういうわけではないようで、団員の何人かがヘンゼルに手を出そうとしたときは全力で拒否されたらしい。
身体が敏感になってきたのは事実だが、抱かれたいと思うのはヴィクトールだけ、そういうこと。
「あぁ……っ、いく、……つよく、ひっぱって……あっ、いく、いく……」
ああ、可愛い。
自分に抱かれることを希うヘンゼル。自分だけを見てくれるヘンゼル。絶対に離さない、誰にもやらない。たとえ、相手が弟であってもだ。
ふつふつと、ヴィクトールの胸の中にヘンゼルへの愛がこみ上げてきて溢れてしまいそうになる。ヘンゼルのなかに巣食う何かがここからヘンゼルを遠ざけようとしているなら、何かを壊してやる。それが過激なセックスだというなら……やってやろうじゃないか。
「あっ……なんで、やめる、……」
ヴィクトールはヘンゼルの乳首を弄っていた手を離し、刺激をやめてしまう。物足りないという目で見上げてくるヘンゼルに、ヴィクトールは興奮しながらも静かに言う。
「寸止め。ちょっといじわるしたくなっちゃった。ごめんね」
そんな……、小さく呟きながら、ヘンゼルの目は悦びに濡れる。「いじわる」されるというのが嬉しかったのだろう。ヴィクトールは可哀想なくらいに大きくなったヘンゼルのペニスをちらりと見て、笑う。
「がんばってね」
ヴィクトールは縄を取り出し、脚にも巻いてゆく。脚まで縛り付けるのは辛そうだ、と思ってはじめはどうにも気後れしてしまったが、火がついてしまった。
ヘンゼルの脚を折り曲げて、太腿とふくらはぎをくっつけるようにそこを縄で縛り、M字型に常に開脚させるような形に縛り上げた。
あまりにも恥ずかしい格好に、ヘンゼルは縛り上げられている最中に顔を真っ赤にしていたが、やはり縄に締め付けられる度に小さく喘いでいた。縛り終わるころには、ペニスの先から先走りを垂れ流して、瞳を潤ませ、頬を紅潮させて興奮していた。
「ヴィクトール……それ、なに……」
完全に自由を奪われたヘンゼルにヴィクトールが見せつけたものは、小さなボールが連なった、手の先から肘までくらいの長さのアナルバイブ。歪な形状をしたそれはヘンゼルもみたことがなく不安を抱いたようだ。
「全部、中に挿れるからね」
「……そんなの、はいらな……」
「大丈夫、はいるから」
ヴィクトールがローションで濡れたバイブの先端をヘンゼルの後孔に近づけてゆく。怯えているのか、そこはきゅうっと締まって、拒絶をみせた。
最近は道具を使うことなく、全てヴィクトールの体を使ってセックスをしていたから、というのも怖がっている原因かもしれない。しかし、何度もヴィクトールを受け入れたそこは柔らかく、まずは一つ目のボールをあっさりと飲み込んだ。
「あっ……」
ぴく、とヘンゼルが身動ぐ。先端の一つを挿れただけではそんなに負担にはなっていない。しばらくこの感触に慣らしてやろうと、ヴィクトールは先端のボールを一旦引き抜き、もう一度挿れる……この動作をゆっくりと繰り返してやる。
「あ……ぁん、……ん、ぅ……」
くちゅくちゅと水音をたてさせながら、入り口を虐めてやる。ボールを押し込めば閉じられた蕾は素直に開きそれを飲み込んで、ひとつボールが入るとまた閉じる。閉じたらまたひっぱってボールを取り出して……何度も何度もしつこく繰り返す。ボールが出入りするたびにヘンゼルのペニスはぴくぴくと揺れ、微弱な刺激に焦れを感じながらも確実に感じているということが見て取れる。
「も、……や、ぁ……ゆる、して……」
「足りないの?」
「おく……おく、ほしい……」
イきそうでイけない……そんな快楽にずっと苛まれ、ぐずぐずになったヘンゼルはとうとう懇願した。一つだけボールの入った後孔はなるほど、きゅんきゅんと疼いていてもっと奥まで欲しいと言っている。
ヴィクトールの瞳が眇められる。解されたそこは柔らかそうで、ローションでてらてらとぬめり、何でも悦んで呑み込んでしまいそうだった。体の内から沸き起こる興奮を抑え、ヴィクトールはゆっくりとバイブを押し込んでやる。ちゅるっ、といともたやすく二つ目、三つ目とボールを咥えてゆくそこは、卑猥で、神秘的。五つ目になった辺りで、まだまだ入りそうなソコに、人間って意外とすごいなんてしょうもない感想をもってしまう。無機質で変な形をした物体をこんなにも美味しそうに呑み込むことができるのかと。
「あっ、ふ、ぁ……あっ……あぁ……」
五つ入ったところでまた引き抜く。ポコポコと微弱な感覚が快楽に浸ったそこには大きな刺激となってしまうのか。びくんっと大きく跳ねた腰を見つめ、ヴィクトールはまた、バイブを押し込んでやる。暫くはそれを繰り返す。バイブの全長の三分の一程度の部分でこんなに感じているならこれからどうなるのだろう。変な高揚を覚えながら、少しずつ、少しずつアナルをバイブに慣らしてゆく。ずるっ、ずるっ。繰り返される抜き差しはヘンゼルの甘い声を奏で、ヴィクトール自身をも焦らしてゆく。
「あぁあ……っ、あ、んッ、……は、ぁっ」
「……っ」
もうそろそろいいだろうか。そろそろこっちの限界も近い。十分に解れ抵抗もなくバイブを咥える後孔を見ながら、ヴィクトールは言う。
「ヘンゼルくん……全部、挿れるよ」
六つ目、七つ目……持ち手に近くなっていくほどにボールのサイズは大きくなっていく。しかしヘンゼルは痛がることもなく、バイブが進む度に儚い声をあげながら身体を震わせる。
「あ……あ……」
異物感と、前立腺を擦られる快楽。様々な感覚が混ざり合って、気持ち悪いようで気持ちいい。大きく開かれた脚の間をヴィクトールに凝視されているのかと思うと、奥のほうがきゅんとする。ちらりと自分の下腹部に目を遣れば、弄られすぎて紅くなった乳首と勃ちあがり先から蜜をこぼす自らのペニスが視界に飛び込んできて恥ずかしくなった。見られていることに気付いたヴィクトールは顔をあげ、ヘンゼルと目を合わせる。紅い瞳と目があった瞬間、バチリと頭の中で白い火花が弾けて身体が大きく跳ねた。それと同時だろうか。バイブが最後まで入りきったのは。
「あッ……!」
ペニスの先からぴゅっと精液が飛び出す。それをみたヴィクトールが低い声で言う。
「……だめだよ、勝手にイっちゃ……」
ヴィクトールはバイブの持ち手を掴み、ぐいぐいと奥に押し込んでやった。持ち手の出っ張りが引っかかりそれ以上は入らないのだが、そうやって身体ごと揺さぶってやると、さらに精液が飛び出してくる。まだスイッチの挿れていないソレをヴィクトールは大雑把に震わせながら、ヘンゼルの奥、もっと奥のほうを刺激してやった。
「あぁあっ……だめっ……イッ……たすけ、……だめッ……」
大げさなくらいにヘンゼルは声をあげる。椛に抱かれたときはもう少し声がでていたかな、なんて考えてヴィクトールはさらに激しく揺すってやった。
「ひ、ぐッ……ぁああっ、あッ……!」
のけぞり、強すぎる快楽から逃げるように身体をくねらせる。しかし縛られた身体は思うように動かない。前立腺による絶頂は一度達しても快楽の波は止むことがなく、断続的にイき続ける。イッてもイッてもヴィクトールはバイブのボールを前立腺に擦りつけて、さらには長いソレでナカ全体を刺激してきて、ヘンゼルは延々と続く快楽から逃げることも出来ずにただ哭くことしかできない。
「だめ、だめッ……」
おかしくなってしまいそうだ。口からでている情けない声が自分のものなのかもわからない。身体が勝手にビクビクと震えるものだから疲れてきた。それでもまた、イッてしまう。視界がクラクラと歪み始め、もう飛んでしまいそうと、ヘンゼルがぼんやりと思った時。
「ひ、あ……!」
ヴィクトールがとうとうバイブのスイッチをいれた。中にずっぽりと入ったそれはブルブルと振動をはじめて、ぐねぐねとうねりだす。ヴィクトールがグリグリと手で刺激してきた時に比べれば刺激は薄いにしても、また微弱な快楽が下からジワジワと押し寄せてくる。
「ヘンゼルくん……何回イッたの?」
「は……、は……、わから、な……」
「次、僕のことも気持ちよくして」
ヘンゼルはぼんやりとヴィクトールを見上げる。次はどんないやらしいことをされるのだろう。身体が限界近くまでいって、もうやめて欲しいと思ったはずなのに、期待してしまう。
「舐めて」
「……!」
ヴィクトールがゆっくりとヘンゼルの首の上に跨がり、ペニスの先端を唇にあてた。縛られベッドに転がされた状態のヘンゼルは抵抗する術がない、するつもりもない。目の前に差し出されたそれに、これから咥内を犯されるのだと思うとバイブを飲み込んだアナルがきゅんとする。ヘンゼルは素直に口をひらき、震える濡れた舌を突き出す。
「……いい子」
「んっ……ん!」
ず、とそれが口の中に入ってくる。まだ完全に勃っていないためか、口の中は余裕があった。ヘンゼルは歯をたてないように唇でソレを咥え、ヴィクトールを見上げる。これからされることは想像がついた。この口を……
「んっ、んっ!」
この口を、まるで女性器のように犯されるのだろう。ヴィクトールがヘンゼルの後頭部に手のひらを添えて持ち上げ、腰を振る。
……興奮した。完全に身体の自由を奪われ、アナルにはバイブを挿れられ、そして顔に跨がられてイラマチオをされる。ヴィクトールはまだ理性を効かせて、ヘンゼルの喉にあたらないように加減をしながらやってはいるが、唾液の分泌のコントロールがきかなくて唇からだらだら零れてしまうし、呼吸もまともにできないし、ということで苦しかった。
被虐心が沸々と湧いてきて、もっと虐めて欲しいなんて、思ってしまう。
「ヘンゼルくん、頑張って……足りないよ。もっと、締め付けてよ」
「んん……ッ! ん、ん!」
もっとヴィクトールのために頑張りたい……そう思ったが、うまくいかない。ずぶずぶと遠慮無く挿入を繰り返されて、口が動かない。舌先だけを、なんとか動かすことが出来る程度。
「ヘンゼルくん……そう、いいよ……少し、激しくするからね」
涙を流しながらも懸命に舌を動かして奉仕しようとしてくれているヘンゼルを、たまらなく愛おしいと思う。それゆえにもっと激しくしてやりたい。自分にだけは淫乱になってくれる彼へ最高のプレゼント。痛む良心も今や興奮を煽るものとなり、ヴィクトールはぐいっとヘンゼルの頭を引き寄せる。
「んッ……!」
喉をついてしまったのだろう、咽そうになって苦しげな表情をしたヘンゼルに、もうひと突きおみまいしてやる。とうとうゲホゲホと喘ぎ始めたが、それでも思い切り突いてやった。愛しているのに、その苦しそうな表情に興奮する。ペニスは更に熱をもって、膨張し、ヘンゼルを苦しめる。
ちらりと振り返りヘンゼルの下腹部を見てみれば、精液で白く濡れていた。こんなに酷いことをされて感じてまた出したのか、よくここまで調教できたなとヴィクトールは自分自身に関心してしまう。初めの頃はキスをしようとしただけで拒絶されたのに……と考えると感慨深くなって更に愛おしい。
「ヘンゼルくん、僕の、美味しい?」
顔が涙と唾液に濡れ、快楽で真っ赤になったヘンゼルにたずねてみる。一旦ピストンを止めてやれば、小さくコクリと頷いて、目を閉じる。もっとして、と言っているように。
ああ、本当に可愛い。僕だけのヘンゼル。離すもんか、何が相手だって、絶対にヘンゼルを僕のもとに留めてやる。
「ん……ふ、ぁ」
ヴィクトールはヘンゼルの口からペニスを引き抜いた。すっかり唾液で濡れたペニスがぬらぬらとテカり、艶かしい。もういいの?と尋ねるようにぼんやりと見つめられ、ヴィクトールは微笑む。
「ありがとうヘンゼルくん、気持ちよかった」
「ごめ……おれ、ぜんぜん……」
「ううん」
責め苦から解放された第一声が、上手くヴィクトールに奉仕できなかったことへの謝罪。あんなことされて奉仕もなにもできるわけがないのに、まったくどこまでも可愛い。愛おしくて愛おしくて、キスをしてやると、ヘンゼルは首をぐっと伸ばして必死に求めてきた。目を開けてみれば、本当に嬉しそうな顔をしていて、キュンッと胸が締め付けられる。
「ヘンゼルくん……そろそろ気持ち良くしてあげるからね。僕とひとつになろう」
「……! ほんとに?」
「嬉しい?」
「うん……」
「いっぱいイかせてあげる」
ぐずぐずになったヘンゼルのなかに挿れられると思うと、ヴィクトールはまた興奮してしまった。感じているときのヘンゼルのなかはぎゅうぎゅうに締めつけてくれるから、本当に気持ちいい。
ヴィクトールはヘンゼルのアナルにずっぷりと挿さったバイブの持ち手に手をかける。そのままチラリとヘンゼルを見てやれば、ゆっくりぬいて、と目でうったえられる。
「じゃあ、抜くからね」
「ゆっくり……」
「やだ」
ふふ、とにっこりと笑って意地悪を言ってやる。すごいのがくる、と恐怖と期待に染まってしまったその顔も、可愛い
「いくよ?」
そして。
「あっ……ひ、ぁあぁああッ……!」
一気にズルルルルッと抜いてやると、ペニスをぴくぴくとさせ、先からぴゅっと精液を出し、身体を仰け反らせ、ヘンゼルはまたイってしまった。
「ヘンゼルくん……可愛い……」
バイブの抜いたアナルはぽっかりと穴が空いて、ひく、ひく、と生きているように小さく動いている。ヴィクトールはそこにペニスの先端をあてがい、ゆっくりと腰を進めた。
「あ……あ……」
ずぶ、と抵抗もなくそこはペニスを呑み込んでゆく。奥へ近付くたびにヘンゼルは眉をよせ、悩ましげな表情で喘いでみせた。すべてはいって、ヴィクトールが腰骨を打ち付けるようにグッと腰を押し出すと、ビクンッとヘンゼルの身体がしなる。
「んっ、ぁあッ!」
もう何度も何度もイって、ヘンゼルの身体は全身性感帯と言ってもいいくらいに敏感になっていた。ちょっとした刺激ですぐにイってしまいそうになる。強く突かれて身体を揺すられると、全身がびりびりとして頭が真っ白になる。
ヴィクトールがヘンゼルの脚を掴んでピストンをはじめると、ヘンゼルをうねるような強烈な快楽が襲う。内臓が叫んでいるような、わけのわからかい気持ちよさに、ヘンゼルはただただ声をあげることしかできない。拘束された身体では快楽から逃げるように身体をよじることすらできないのだ。
「あぁあっ、ああッ、ん、ぁアッ」
狂ってしまうんじゃないかと思った。本当に、気持ちいい。いっそ苦しさすらも感じるほどの快楽でも、ヴィクトールから与えられるものだと思うと胸がいっぱいになる。涙で濡れてぼやけた視界に、なんとかヴィクトールを映しだすと、愛おしげに見つめられていて、アソコがきゅんと疼いた。ビクンと身体が跳ねたから……ああ、またイッたのかもしれない。
もう絶頂の感覚すらわからないほどに強い快楽がヘンゼルを蝕んでいた。壊れたように嬌声をあげ続け、聴覚までおかしくなってしまいそうだった。
「ぁンッ……! あぁあッ……!」
やがて、ヴィクトールがヘンゼルを縛る縄をナイフで断ちはじめる。全ての縄をとくと、ヘンゼルの白い肌に僅か赤黒く縄の痕が残っていて痛々しい。しかしそれも、自分が縛り付けた痕なのだと思うとどこか高揚感を覚えた。
開放されたヘンゼルは、早々にヴィクトールの背に腕を伸ばし抱きついた。縛られてヴィクトールに支配されるのもイイとは思っていたが、やはりこうして抱きついて身体を密着させたかった。キスをして、ペニスを挿れられて、そしてこうして抱きついて、ほんとうにひとつになったようで幸せだ。ピストンをされて突かれると、気持よくて甘い声が零れてしまう。
「ヴィクトール……あぁ、ん……ッ、もっと……!」
「ヘンゼルくん……ヘンゼルくん……」
何度も体位を変えながら、快楽を貪る。乳首を弄られながら後ろから突かれるのは征服されているようでゾクゾクするし、座って向かい合って突き上げられるのは愛されている感じがして幸せ。全身から汗が吹き出て、もう何がなんだかわからなくなって。
たぶん恥ずかしいこともたくさん言っている。それでもヘンゼルは意識を飛ばしてしまわないように、少しでも長い間繋がっていられるように必死にヴィクトールに縋り付いた。
「あっ……あ、あぁあ……!」
「ヘンゼルくん……!」
なかで、びくびくとヴィクトールのペニスが震えるのを感じる。中に出された、その瞬間が一番好きだった。感覚としては薄いけれど、胸が満たされるような気がするから。
中に出しても、しばらく抜かないでキスをしていた。呼吸が落ち着いていないというのに夢中でキスをして余計に苦しくなる、でも止められない。
「ヴィクトール……」
「ん……」
「……幸せ」
「うん……」
ヴィクトールはヘンゼルの呟きを耳にすると、唇を離し、ヘンゼルの首元に顔をうずめた。やがて聞こえてきた嗚咽に、ヘンゼルは朧気な意識のなか、苦笑する。おまえ泣いているの似合わないよ、そんな言葉を言う体力もなくて、ヘンゼルはヴィクトールの髪を梳いて優しく撫でた。
「ヘンゼルくん……愛してるよ……愛してる……」
もしも、自分が「悪」と呼ばれるようなことをしてこなければ、ヘンゼルと幸せな未来を築けたのだろうか。ヴィクトールはそう思うと後悔の念に涙が止まらなかった。
そもそもどうしてこんなことをはじめたんだったかな……理由は知っているけれど――思い出せない。自分のことなのに、まるで他人事のように……悪事を働きはじめた理由を知っているのにその記憶は全くない。気付けばトロイメライの団長だった……まるではじめから決められていたようだ――
考えてもなんだかよくわからない。ふとヘンゼルの寝息が聞こえてきて、ヴィクトールはふっと微笑んだ。
もう少し……もう少しだけ、彼と一緒にいさせてください――
星の瞬く頃、二人は夢に堕ちる。
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