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▼ 追憶・桜の花23


「本当に、突然来るなんていうから、驚きました」



 真柴と向かい合って座っていた柊は、先程よりは緊張を解いた風に、肩の力が抜けていた。穏やかに笑う柊をみて、真柴はにやにやと笑い出す。



「なんか、顔つき変わったな? いい人でもできたか?」

「え……?」

「当てていい? あの、群青って妖怪。おまえ、あいつとできてるだろ」

「……っ」



 真柴に群青との関係を言い当てられた柊は、びっくりすると同時に恥ずかしくなって、顔を赤らめてしまう。そんな柊の表情に、真柴は「図星」と言いながら柊を指差した。



「な、なんでわかるんですか……」

「明らかにあいつに向ける視線が違うし。あんなにわかりやすく「好き」なんて目で見てたらすぐわかるっつーの」

「あ、あの……群青は、妖怪ですけど……悪い奴とかじゃなくて、」



 身内に恋人の存在を知られる恥ずかしさ……それが湧いてくると同時に、柊はまずいと思ったことがあった。真柴は「妖怪は敵だ」と自分に教え込んだ張本人だ。そんな彼に、自分が妖怪と恋仲にあることを知られたら。柊は一年かけて妖怪への嫌悪感を穏やかにしたものの、真柴はそうではない。……はずだが。



「ああ、いいんじゃないか。妖怪と付き合っていても。おまえが幸せならな」

「えっ……」



 随分とあっさり、真柴は二人の関係を認めてしまった。どういうことだろう、柊が不思議に思っていると、真柴がぽろりと言う。



「おまえも生きていられるのは残り少ないからなぁ、最後くらいは自分の好きなように生きればいいよ」

「……えっと、残り少ないっていうのは……」

「……ん、ああ! いやいや、ほら! おまえもう20になる歳だろ、だから……人って長くて50年くらいしか生きられないじゃん、そういうこと!」

「……はあ」



 妙に焦った真柴の様子に、柊は疑念を抱く。まだ半分ほど寿命が残っているのに「残り少ない」なんて言うだろうか。そして半分も残っていて、突然妖怪と恋仲にあることを認めるものなのだろうか。



「……兄上、何か……隠しています?」

「いやいや! 本当に俺は、おまえに幸せになって欲しいだけだから! 今日きたのも、おまえの顔がみたいって、それだけだし!」



 からからと笑う真柴を、柊はじっと見つめる。彼は一体何を考えている。彼の言いなりになって妖怪を退治していたころは全く思いもしなかったが……今までの彼の言動はどこかおかしいんじゃないか。柊はそんな風に思い始めていた。


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