「ご、ごめんなさい、そういえばうち、客人用の布団ないんですよ」

「いや……大丈夫」


　結局、沙良が強く引き止めたこともあって、波折は沙良の家に泊まることになった。問題は波折の寝る場所だったが……沙良の家に誰かが泊まりにくるということはなく、客人用の布団は用意していない。結局、沙良の部屋のベッドで一緒に寝ることになった。


「波折先輩……あの魔女のことですけど……」

「……あの魔女は……特殊な魔術を使う。裁判官がやってこなかっただろ……自分の魔力の気配を隠す魔術を使えるんだよ。だから、未だに裁判官に捕まらないで逃走していると思う」

「じゃあ、えっと……俺達が被害うけたって誰も知らないんですか」

「うん。俺達が自分で申告しなければ」

「……どうしますか」


　一緒のベッドに入ってはいるものの自分に背を向けている波折に、沙良がぽそぽそと話しかける。魔女のことを尋ねてみれば、なんとなくわかってはいたが波折は怯えるように、声を震わせた。


「……あんまり、言いたくない」

「……で、すよね」


　魔女に被害を受けた場合、JSの生徒ならば学校へ申告するようになっているが……そのとき、どのような被害を受けたのかも問われる。性的被害をうけました、とは言いづらいのだろう。


「……先輩……ごめんなさい……あんな助け方しかできなくて」

「……まだ裁判官じゃない俺達は、いくら魔術の知識をもっていようと、無力なんだ……沙良は、なにも悪くない」

「……」


　波折の言葉に、沙良はなにも言い返せなかった。まったくのそのとおりだったから。

　目の前の華奢な背中を、守る力が欲しい。なんとなく、彼を抱きしめることができなくて――沙良も、波折に背を向ける。


　背中合わせで、二人は眠りの海へ、沈んでいった。