予感

「沙良ちゃん……ねえ、さーらちゃん!」


 二限目の授業のあとの休み時間。太陽も昇ってきていい感じに教室の中が明るくなりはじめるころ。いつの間にか前に立っていた結月にじっと顔を覗きこまれていた。


「どうしたの、最近変じゃない?」

「変?」


 結月はオレンジジュースを飲みながら、訝しげに眉を潜める。結月の言っていることにまったく心当たりのない沙良は、わけがわからずオウム返しするばかり。


「ぼーっとしちゃってさ」

「はあ……ぼーっと、」


 そんなに自分はぼーっとしていただろうか、沙良は最近の自分を振り返る。何も考えていないなんてことはなくて、ちゃんと考え事をしている。自販機コーナーで波折先輩に会ったら今度はなんの飲み物を飲ませてやろうかなとか、波折先輩ってどんな本が好きなのかなとか、波折先輩にこの前パンは栄養偏るとか言われたから今度はお弁当持って行ってみようかなとか、今日の生徒会活動楽しみだなとか、あと……まあエロい波折先輩のことを諸々と。


「なんかアイツのことずーっと考えてたらさあ」

「アイツ?」

「いや、まあ……うん、なんか他のことに手がつかないっていうか……」

「へえ……」


 結月がじろじろと沙良をみつめる。そして、うーん、としばらく考えたかと思うと、にこっと笑って言った。


「沙良ちゃん、それ恋だよ!」

「……鯉?」


 こい? ぴちぴち……


「恋!?」


 ガタン、と沙良が勢い良く立ち上がると、クラス中の生徒に注目された。けらけらと笑っている結月を、沙良は口元を引き攣らせながらみつめたのだった。
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