本当の気持ち
夕焼けでぼんやりと赤くなりはじめた生徒会室。誰もいなくなったそこから、波折もでていこうとした。鞄を背負い、扉へ向かう――そのとき。
「あ……」
波折が出る前に、ある人物が生徒会室に入ってくる。波折は彼をみると一瞬肩を強張らせ、それから微笑んだ。
「……どうされたんです、こんな時間に」
「いいや、波折の様子が気になって」
入ってきたのは、淺羽だった。淺羽は波折の顔をみるなり困ったように笑い出す。
「……また、神藤君」
「えっ」
「さっき学校から飛び出して行くのみたよ。また喧嘩でもしたの?」
淺羽に問われ、波折はうつむいた。瞳は揺れ、唇はきゅ、と閉ざされる。やがて、ふるふると首を振って、淺羽を見上げる。捨てられた犬のような眼差しに、淺羽は目を細めた。
「……喧嘩、してないです。今日は少し……仲良く、ってほどでもないけど話してしまいました」
「いいじゃん。その調子で仲良くなりなよ。ね、波折」
「いやです……それは、いやです。俺と仲良くなったところで……彼を悲しませるだけだし」
「またそれ?」
淺羽が呆れたようにため息をつくと、波折はびくりと震える。しかし消え入りそうな声で、訴えるように……言う。
「……俺、神藤君、好きです。まっすぐに俺にぶつかってきてくれて……あんまりいないタイプだったから、嬉しくて。神藤君だけじゃないですよ、生徒会の皆もクラスメートも、みんな好き。だから、傷つけたくないから……あんまり、関わりたくない」
「……関わりたくないっていうわりには……実際、拒絶しきれてないでしょ?」
「……だって……」
「本当は仲良くしたいんじゃないの。だからついつい素をみせちゃうんでしょ? いいじゃんそれで、波折」
波折は今にも泣き出しそうに、眉を寄せた。そんな波折の頭を、淺羽はくしゃりと撫でる。
「……波折、大丈夫だから。ね」
ぽろ、と一雫の涙を流した波折を、淺羽は抱きしめた。よしよしと頭を撫でてやれば、波折は縋り付くように淺羽の背に腕をまわす。
声を殺し、波折はしばらく泣いていた。夕闇に、二人の影は飲み込まれていった。