滲む
「なおりー! 波折波折!」
帰りのホームルームが終わって波折が生徒会室へ行く準備をしているとき。教室に勢い良く、鑓水が飛び込んでくる。
「課題わかんないとこあるから! 教えて!」
「……課題って……これ、今日のだろ。家に帰ってやれよ」
「さっきちらっと見たらわからないところがあって! もうこれ解けないと今日の活動集中できない! お願い!」
「……先生にきけ」
「めんどくさい!」
「……」
ぐいぐいと迫ってくる鑓水に、波折は辟易したようにため息をついた。鑓水からプリントを受け取ると、しばらく問題をみつめる。そして自分のノートをとりだして、そこに問題を解いてみせた。さらさらと答えを導いた波折をみて、鑓水はぱちぱちと拍手をする。
「すげー、やっぱりすげえ波折!」
「……慧太なら落ち着いて考えれば解けるだろ」
「いやいや、波折ほどは早く解けないし」
鑓水は波折のノートをまじまじと見つめ、解き方に納得したように頷いている。そして、はあ、と溜息をつくと、ぼそりと言う。
「……やっぱ波折は俺と違って天才だな」
「……え? なんだって?」
「いやいや! なんでもない。ありがとう、これで課題なんとかなりそう。生徒会室いこうぜ!」
鑓水が憂いげな顔をして言った言葉が気になったのか怪訝な顔つきをした波折に、鑓水は何事もなかったように笑ってみせる。鑓水はノートを返すと、さあ、と波折を急かしたのだった。