きみとの時間3

「波折くんも気をつけないとな。もしかしたらJSの生徒が魔女に狙われているかもしれないってテレビでも言ってたし」

「……そうですね」


 波折を交えて4人で食卓を囲み、夕食をとった。これくらいの人数でご飯を食べることが久々であるからか、夕紀は元気を取り戻したように楽しそうに笑っている。


「波折さんは、裁判官になるんですよね! 悪い魔女を退治して、みんなを助けてくれるんですよね!」

「……そうだね、俺は裁判官になるから……魔女を退治する」

「波折さんみたいな裁判官いたら、あっという間にみんなのヒーローになっちゃいますよ! かっこいいしすごく強いんでしょう!」


 夕紀はにこにこと笑って波折に話しかけていた。一緒に御飯を食べることができるのが、相当嬉しいらしい。波折もそんな夕紀の笑顔を眩しそうにみて、微笑んでいる。


「うん……みんなのヒーローになるよ。俺は」


 おもてむきはね。

 そんな言葉はまさか口からでてくることもなく、波折のなかで消えてゆく。

 ずっと、正義のヒーローの仮面をかぶっていれば、こうして明るい世界に溶け込んでいられるだろう。ごまかそうと思えば、いくらだって隠す手立てを持っている。でも、沙良にだけはきっとごまかしは効かない。淺羽が沙良を巻き込もうとしているし、何より罪悪感が襲ってくる。沙良と一緒にいると、彼の眩しさがちくちくと心臓に刺さって苦しい。一緒にいたいし彼のことは好きだけど、自分は彼の最も嫌う存在だ。


「先輩、裁判官って大体は希望した地区の事務所にはいれるんですよね。先輩はこの地区選びますか?」

「……そうだね。都会だし」

「ですよね〜先輩はやっぱ日本の中心地の事務所選びますよね」

「沙良は?」

「俺もここですかね。自分の住んでいるところは自分で守りたいかな」


 ひゅーかっこいいぞ沙良、と洋之がはやしたてる。沙良は「うるせえ」と洋之をあしらいながらも、どこか嬉しそうな顔だ。


「じゃあ、高校卒業しても一緒にいられるかもしれませんね」

「……うん」


 沙良の、言うとおり。高確率で、波折と沙良は同じ事務所に配属されるだろう。「一緒にいる」ことはできる。

 ただ――本当の意味で一緒にいられるのかといえば、それはきっと。生きる世界が変わったら、同じ空間にいたとしても一緒にはいられない。そもそも――沙良は、本当に裁判官になれるのだろうか。沙良は……裁判官になれるまでに、生きていられるのだろうか。

 淺羽にとって沙良はどう映っている。真実を知りながらも自分の邪魔者となったなら、篠崎と同じように殺すか、それとも……どうする。

 波折だって淺羽の考えを全て読めるわけではない。いやな予感だけが心の中に浮かんできて、でも何もできなくて。

 沙良はきらきらとした世界を生きる人。だから、ずっとそちらにいて欲しいと思う。波折は家族とじゃれあう沙良を見つめ、祈った。

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