とある狂人の育成記12

 波折が中二になると、いよいよ波折の容姿は周りよりも飛び秀でているのだと、顕著にわかるようになった。思わずぎょっとするくらいに、波折は綺麗だ。

 容姿もさることながら、波折は成績もかなりよかった。俺が内面でも人を惹きつけられるように勉強も教えこんでいたから、というのもあるが、元々の素質のようだ。性格については、俺が誰からも受けの良さそうな振る舞いを教えてやっていたから、もう、何も知らない人からみたら波折は完璧な人間だった。

 そして。最近になって、ようやくジャッジメントスクールの制度ができあがったらしい。裁判官となるものを育てる学校だ。裁判官といえば今の時代でかなりの地位を持つ職業。波折に多くの人を引きつける存在となってほしい俺としては、是非入学してほしいものだ。だから、魔術も今から教えてやった。裁判官や特定敷地内におけるジャッジメントスクールの生徒以外が魔術を使うことは違法ではあるが、そんなことどうでもいい。今から教えこんで、ジャッジメントスクールに入った暁には校内トップの成績を収めてもらう。

 ただ、ひとつ問題があった。

 魔術は、知識をいくらつけたところで完璧に扱えるようになるわけではない。それは、俺が今まで調べてきてわかったこと。人の本質が魔術に影響するから、意識的に魔術を完全に使いことなすことなどできないのだ。ただ波折の場合、何かの魔術が得意で何かの魔術が苦手、といった風に偏りがあるわけではない。波折という人間の本質はなんだろう、と把握しなければ、ジャッジメントスクールでトップをとれるほどの人間には、なれない。

 波折ってどんな人間だ?

 いろいろと、考えてみる。人格が形成されるであろう幼少期。もうそのころには、俺が彼の両親を殺した。そしてそれからまもなく俺が調教を開始した。好きなものは、特に無し。嫌いなものも、特に無し。波折は、空っぽの人間だ。空っぽ? 本当にそんな人間が存在するか?


「ご主人様、ご主人様。えっち、したいです」

「……」


 いや、波折は空っぽではない。波折のなかは、俺が占めている。波折が、俺の全てじゃないか。


「波折」

「はい」

「波折は、俺のためになんでもできるよね」

「もちろんです、ご主人さま」


 できる。俺が全ての頂点に立てと言ったのなら、波折はそれを遂行できる。全ての魔術を完璧に扱える。

 波折は、完璧な人間に、なれる。

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