メイド様のご奉仕1


 沙良と波折と翼の三人は、玄関をでたところにあるイートインのスペースまでやってきた。ここには、屋台などがあって、たこやきやフランクフルトなども売っている。校舎の中と寸分違わず賑わう生徒たちを眺めながら、波折はぐったりと椅子にもたれかかっていた。メイド服をまだ脱いでいないため、思い切り周囲の視線を集めている。


「生徒会長って意外と話しやすい感じなんですね」

「……そう?」


 はじめて波折と一緒に行動する翼は、嬉しくてたまらないみたいだ。積極的に波折に話しかけている。


「もっとこう……王子様っぽいっていうか、庶民を寄せ付けない雰囲気だと思っていたので」

「庶民って……俺も庶民だよ」

「いやー、生徒会長は王子様ですよー! さっきはお姫様みたいでしたけど」

「……」


 波折はもはや気取る余裕もないらしい。いつもの王子様スマイルを翼に向けることはなかった。しかし翼はそれがいいと思っているのか、終始にこにことしている。


「……」


 二人の会話をただ聞いていた沙良は、翼から「かわいい」「かわいい〜」と心の声が聞こえてくるという錯覚を覚える。先ほどの、沙良にすがりついてくる波折をみてから、翼はずっとこの調子だ。あれはたしかに可愛かったが……ここまで露骨に「かわいい〜」なんて思われるとさすがに沙良も不安だ。


「あっ」


 そのとき、翼がポケットの中をあさりだす。スマートフォンを取り出して、「あー」と小さな声をあげた。


「西高の友達から連絡が来ちゃったから迎えにいかないと……二人はまだ休んでます?」

「あー、うん、行ってきていいよ」

「はーい、じゃあいってきます。じゃあまた、生徒会長! 神藤もあとで教室で!」


 翼は席を立つと、名残惜しそうに笑って、去って行ってしまった。沙良と波折はそんな彼にひらひらと手を振ってその背中を見送ってやる。

 翼が去ると、波折は本当に気取るつもりがなくなったのか、テーブルに体を突っ伏してだらけはじめた。沙良はそんな波折の顔を覗き込むようにして話しかけてみる。


「波折先輩、女装似合うんですね」

「……褒めてるの?」

「褒めてますよ。さすが波折先輩、みんなからモテモテですね」

「……あそこまで触られると困る」

「ホントに?」

「……耐えないとだし」


 微かに顔を赤らめる波折をみて、嫌だったわけじゃないんだ、と沙良は安心する。まあ、あそこでセクハラをしていた男子生徒たちに悪意とかはなかったし、常識はずれなことはしていなかったし、あれはあくまで戯れ程度の触り方だったし……と思い返しながら。


「先輩、あれ、気持よかった?」

「……」

「エッチな気分になってない?」

「……」


 黙りこむ波折に、沙良がつーっとにじり寄っていく。テーブルに体を伏せるようにしながら、息のかかる距離でその目を覗きこめば、波折の瞳が微かに震えていた。


「……助けてあげよっか、先輩」

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