君に優しい言葉を送ろう


 その日の生徒会活動が終了する。波折は篠崎に生徒会室に残っていろと命令されていたため、他のメンバーとは一緒に校舎を出なかった。鑓水は事情を知っているためなんとも言えない顔で波折と別れたが、沙良はやたらと波折の行動を怪しんでいた。しきりに「篠崎さんと会うんじゃないですか」と言ってきては、波折は「違う、大丈夫」という一点張りをする……というのをしばらく繰り返して、ようやく波折は一人になる。鑓水のいる自宅に帰るのはダメでも、沙良の家ならいいんじゃないだろうか……とも思ったが、できるだけリスクは避けたかった。篠崎に沙良が波折と関係のある人物だと映っていないにしても、余計な接触をしていては彼の気に触ってしまうかもしれない。


(一週間は、耐えなくちゃ……)


 これから篠崎の家に行って、昨日と同じようなことをするのだと思うと、ため息しか出てこない。机に突っ伏して波折が待っていれば……ガラリと扉が開く。


「冬廣会長。帰ろうか」

「……篠崎くん。うん……帰ろうか……」


 辛い。もう、隣に立っているだけでも、苦しい。波折はうんざりしながら篠崎のあとを着いて行き、玄関まで向かう。


「――お、やあ、今帰るんだ?」


 一階に差し掛かったときだ。二人は声をかけられた。はっとして振り向けば――そこには、淺羽がいた。淺羽は珍しい組み合わせの二人を見比べて、ふ、と笑う。


「……二人とも仲良くなったんだ。よかった」

「はい、淺羽先生」


 淺羽はにこやかに微笑む。篠崎は教師として尊敬する淺羽と話すことが嬉しいのか、顔を輝かせている。


「……篠崎くん。そういえば学園祭、もうすぐだね。君のクラスは何をするの?」

「あ、はい……僕のクラスはカフェを……」

「おー、そうかそうか、それは楽しそうでなにより」


 淺羽はふふ、と笑って二人にちかづいてゆく。そして、とん、と篠崎の肩を叩いた。


「存分に楽しむといい。最後の学園祭なんだ」

「……はい!」


 それだけを言って、淺羽は去って行ってしまった。淺羽の背が消えたあたりで、こっそりと篠崎が波折に言う。


「……淺羽先生、僕の学年間違えて覚えてる?」

「……どうして?」

「だって僕、最後の学園祭じゃないですし……」

「……来年は裁判官の資格とるのに忙しくてちゃんと学園祭楽しめないってことじゃない」

「そっかー……」


 篠崎に話しかけられて、波折は無表情。ただ淺羽の背中の消えた廊下をぼんやりとみて……小さく、ため息をついた。

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