上塗り2

 波折がシャワーを浴びている間、鑓水は布団に転がってぼんやりと天井を見上げていた。

 波折が帰ってきたときの、彼の表情。平静を装っているようで、快楽の余韻に浸っている感じ。いかにも「セックスしてきました」といったあの表情にイライラとした。そして、波折から漂ってきた、知らない香水の臭い。普段、波折からあのような臭いはしないはず。「ご主人様」に抱かれてきたのは確実だ。

 ――鑓水が、波折が会ってきた相手を「ご主人様」だと断定したのには、根拠がある。

 例の「奴隷調教日記」、つい先程新しい動画がアップされていたのだ。「淫乱奴隷ちゃんがドピュドピュ潮吹いちゃいます!」といったタイトルのそれは、少年がペニスから潮を噴き出しているといった内容の動画。ペニスのアップが主だったが、背景には甲高い波折の喘ぎ声がはいっている。

 ……波折の家に鑓水がいるということは、おそらく「ご主人様」は知っているだろう。その上で、こういった動画をこのタイミングでアップしてきたのだから……


「……喧嘩売ってんのかよ、「ご主人様」」


 自分に対するあてつけか。実際に「ご主人様」はなんの気なしにアップしたのかもしれないが、鑓水はそう捉えていた。先ほどからの苛々の原因はそれだ。


「くっそ、腹立つ……」


 自分だって波折に潮を吹かせたことなどない。「ご主人様」の前でどばどばと潮を吹いている動画をみて、鑓水は胸がむかむかとするのを感じた。


「……波折ぃ……今日の「ご主人様」とのセックスなかったことにしてやるよ」


 波折と「ご主人様」の関係には直接的には関わらない。そうは決めているが、波折が「ご主人様」に傾倒していることをすんなりとは受け入れられない。余裕がなくなってきているな、と鑓水は頭を抱える。

 ……ここまで、波折に夢中になるなんて思っていなかった。
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